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2023年2月28日

昨年末の日中対話「日中50年の関係から読み解く次の50年」に参加して

Japan-china

 

 

昨年1222日に開催された日本国際フォーラムの日中対話「日中50年の関係から読み解く次の50年」の公開ウェビナーでは中国に関して意外な事柄を知るとともに、発表内容を通じて様々な疑問も浮かんできた。そうした事柄について述べてみたい。

 

まず質疑応答にて日中関係の深化にはやはり中国の人権問題での必要ではないかと私は質問したが、これには中国側のパネリストより世界には様々な価値観があるので中国にも独自の完治感があるとの返答だった。まるでイスラエルの右翼系歴史学者ヨラム・ハゾニー氏のナショナリスト民主主義、あるいはロシアのウラジスラフ・スルコフ元大統領補佐官の主権民主主義を思い起こさせる返答には、どうやら一般的な抽象論では双方の見解の相違を容易に埋められないように思われた。

 

人権に関してはむしろ日中間でのより具体的な問題を質問すべきだっただろう。それは日中交流を学界や実業界など民間で進めようにも、まず日本人およびその他外国人が中国で身の安全が確保できるかということである。実際に中国との政治的関係が悪化した国の国民は、しばしば罪状不明で身柄を拘束されてしまう。尖閣領土紛争での日本企業の駐在員や、フアウェイ・スパイ事件でのカナダ人人権活動家らの逮捕がそれに当たる。このような環境で、日中の安全な人的交流促進が望めるとは思えない。やはり人身の安全 となると、これはアメリカの価値観だとか中国の価値観だとかいった問題を超越した重要な問題と思われる。

 

彼らのように中国当局から突然身柄を拘束された者の多くは日本政府やアメリカ政府、あるいはその他の国の政府のために働いているわけではない。ただ民間の立場で企業活動や国際交流に従事している者ばかりである。そして本来なら日本国内で日中親善の世論形成に関わり、靖国右翼をはじめとするチャイナ・ホーク達に対抗できたかも知れない人々である。あろうことか中国当局は彼らに必要もなく辛い目に遭わせ、わざわざ反中感情を醸成しているのだ。この件に関してはアメリカの影響はほとんど関係なく、純粋に日中二国間の問題である。「人権」という抽象概念でなく、こうした具体的な問題で私が質問をしていれば中国側パネリストの反応も違っていたかも知れない。

 

このウェビナーで私が驚いたことは、中国側からの安倍政権礼賛である。故安倍晋三首相と言えば国際社会に対して対中防衛の必要性を強く訴え、日本国内のチャイナ・ホークから絶大な人気を誇る存在である。だが中国側の議論を聴くと安倍外交には別の一面があったことを思い知らされる。確かに安倍氏には祖父の岸信介首相の影響を受けて「日本を取り戻す」と叫ぶナショナリストの側面と、西側民主主義諸国との戦略的パートナーシップを重視する国際協調派の二面性があった。そして安倍氏の「戦前懐古志向」は対中強硬一点張りではなく、アジアとの友好関係重視でもあった。そう考えると中国側の安倍氏礼賛も納得できる。

 

その一方で中国の識者達が日本の政治や外交を論ずる際に、どうも無意識に属人的な観点に立っていないかという疑問が浮かび上がってきた。先のウェビナーでは安倍政権下での日中関係進展に対し、菅および岸田政権下では両国の関係で緊張が高まったというコメントが中国側より相次いだ。しかしこれは時の首相個人の性向ではなく、国際環境の変化によるものではないか?そもそも菅義偉前首相も岸田文雄現首相も安倍レガシーの継承者である。さらに言えば岸田氏は安倍氏よりリベラルな世界観の持ち主で、「日本を取り戻す」などという「戦前懐古志向」、さらに言えば戦後レジーム・チェンジに対して若干の「プーチン的怨念」を匂わせるような発言はほとんどしていない。本来なら岸田政権の方が安倍政権よりも日中関係を発展させられる可能性がある。それが実際には両国の関係は悪化している。そうなると習近平政権下の中国外交が国際環境にどのような影響を与えているか、再検討する必要があると思われる。

 

何よりも日本は人治国家ではない。歴史的に見ても、日本では天皇に代わって国家統治に当たった関白や将軍さえ「君臨すれども統治せず」となってしまった。これは中華皇帝が絶大な権力を揮った国とは全く違うのだ。然るに中国人が一般的に日本の政治および外交を属人的に考える傾向があるのではないかと思われる言動は、今回のウェビナーに限らず見られる。その典型的な例は田中角栄および福田赳夫両首相(当時)による日中国交正常化および日中平和友好条約締結に対し、多くの中国人がしばしば示す感謝の意である。こうした例は他の国々ではほとんど見られない。アメリカ人がサンフランシスコ平和条約によって吉田茂首相(当時)に大々的な謝意を示すことはほとんどない。ロシア人も日ソ共同宣言に基づく国交回復によって鳩山一郎首相(当時)に謝意を示したりしない。アジアでも韓国人が日韓基本条約による国交正常化で佐藤栄作首相(当時)に謝意を表明したりしない。これらに鑑みれば、中国人が日本の指導者達から受けた恩と功績に対して示す仰々しくも映る謝意は、中華文明の伝統に基づく美しき礼節なのかも知れない。もしそうであるなら、日本側としてもそうした文化的伝統には敬意を払うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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