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2024年8月18日

キャメロン英外相はウクライナ防衛のためアメリカを動かすという、チャーチルの役割をどこまで果たせたか?

Cameron-churcill

 

今年の4月初旬にイギリスのデービッド・キャメロン外相はウクライナへの追加支援をめぐり、アントニー・ブリンケン国務長官との会談のために訪米した。しかし共和党の親トランプ派はそうした計画に反対した。キャメロン氏にはウクライナ援助法案の米下院通過の障害を取り除く必要があったが、それはロシアがウクライナの反転攻勢を押し返し、市民の死傷者数が増大していたからである。そこでキャメロン氏は共和党のドナルド・トランプ大統領選候補とマイク・ジョンソン下院議長に、緊急の会談を申し込んだ。キャメロン氏の訪米は、ジョー・バイデン大統領を相手に国賓として臨んだ日本の岸田文雄首相の首脳会談とも重なった。後者の方が世界各国のメディアやシンクタンクから注目されているが、私はキャメロン氏とトランプ氏の直接会談の方が「超大国として動かぬアメリカを動かす」うえで重要だったと見做している。それについては以下に述べたい。

 

日英両国の外交努力には、アメリカをより世界に関与させるという共通の目的があった。トランプ2.0の恐怖もさることながら、左翼では反イスラエルの「ハマス・レフト」も台頭するようではアメリカのポピュリスト孤立主義の懸念は深刻である。外国の指導者に、そうした動向を覆せる者はいるのだろうか? 歴史を見れば、ウィンストン・チャーチルが気乗りしない超大国に、ナチス・ドイツの阻止に積極的に関与せよと訴えた。また米国民が戦後の平和という白日夢に浸っていた時、鉄のカーテン演説によって彼らを国際政治の現実を直視するよう目覚めさせた。それからほどなく、アメリカはトルーマン・ドクトリンを宣言した。議会が国際主義者と土着主義者で分断されている時期に、アメリカは大西洋と太平洋の重要同盟国を迎え入れた。両国を比較すると、キャメロン氏が持ち込んだウクライナ支援には緊急性があり、トランプ氏との対峙では外交官僚組織が事前に用意したシナリオもなかった。そうした中で岸田氏は国賓としてバイデン大統領からも上下両院議長からも温かく迎えられ、当地では難題を突き付けられることもなかった。さらに重要なことに、イギリスはウクライナへの軍事援助に直接関与してロシアを撃退しようとしている。

 

他方で日本は今なお平和憲法に制約され、この国はジェームズ・マティス元米国防長官がイラクとアフガニスタンでの自身の戦闘経験について「悪い奴らを撃ち殺すという、世にも楽しき仕事」と語ったような任務には参加できない。(General: It's 'fun to shoot some people'; CNN; February 4, 2005)。ともかく軍事的な側面には関われないというなら、それは日本がグローバルな安全保障で重要なステークホルダーとなるには障害になる。岸田氏の米議会演説での穏やかな話しぶりは、世界の隅々まで存在感を示してきた超大国への癒しのようで、世界秩序のために必要不可欠な国であるアメリカの役割の再確認とまではならなかったようだ(“Japanese PM Fumio Kishida addresses U.S. 'self-doubt' about world role in remarks to Congress”; NBC News; April 11, 2024)。それは必ずしも挑発的な言動を避ける岸田氏のパーソナリティーに由来するものではない。もっと威勢がよく、ブッシュ政権のイラク戦争を強く支持した当時の小泉純一郎首相(“Press Conference by Prime Minister Junichiro Koizumi on the Issue of Iraq”; Prime Minister’s Office, Japan; March 20, 2003)でさえ、実際には戦闘部隊を派遣していない。日本の関与は余りに小さく、アメリカの戦争に巻き込まれるという心配など取るに足らぬものだ。「癒し」の岸田氏であろうが、「威勢の良い」小泉氏であろうが、歴代日本の指導者の行為はチャーチルの役割を果たすにはほど遠い。

 

そうは言いながら現在の政治家には一人でチャーチルに匹敵するカリスマ性のある者はいないので、日英両国の非直接的な外交協調には米議会で両党の合意を促すには何らかの効果があった。岸田日本はイギリスの良きサイドキックであった。今回の援助法案は議会通過したが、将来はどうなるかわからない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナの再征服に異様に執着しているので、今回の戦争は長く続きそうである。キャメロン外相とブリンケン長官の公式会談と違い、トランプ氏との密室会談の詳細は公表されていない。キャメロン氏のツイッターでもイスラエル・ハマス戦争に関してかなり多くのツイートがある一方で、当件については語られていない。トランプ氏はキャメロン氏の言い分に耳を傾けることなど気が進まなかったであろうが、自身の大統領選挙に鑑みればウクライナ援助法案の議会通過を遅らせたというネガティブな評判は回避せねばならなかった。さらに軍事的援助へのイギリスの加担もあって、キャメロン氏の主張は国防支出でのバードン・シェアリングへの拘りが強いトランプ氏も耳を傾けざるを得なかった。そのことはブリンケン氏との会談で、英米両国による対ウクライナ支援の拡大にもつながった。国際政治は本質的に猛獣の鬩ぎ合いという性質があり(leontomorphic )、強力な国防と深い軍事的関与は世界秩序のための法強制執行には必要不可欠である。

 

そこでキャメロン・ブリンケン外相会談の障害となったトランプ氏の世界観について述べたい。アメリカン・エンタープライズ研究所のハル・ブランド氏はトランプ氏のアメリカ・ファーストを世界への関与への完全な拒否との解釈は単純すぎると評している。むしろ、それは損益に非常に敏感な考え方である。よってトランプ氏はウクライナ支援には懐疑的で、ヨーロッパであれアジアであれ、小国の防衛のためにアメリカが大きな戦争に巻き込まれる謂れはないと信じ切っている。そしてトランプ氏にはインド太平洋地域が例外だという考え方はないので、彼の取り巻きのチャイナ・ホークの言い分は当てにならない。孤立主義の側面も見られる一方で、トランプ氏は必要と思えるなら海外に介入して彼が理解するアメリカの国益を他国に押し付けようとする。他方でアメリカがリベラル世界秩序の守護者であるとの考え方を侮蔑している。そうした姿勢が彼の前政権期に中国との貿易戦争、そしてイランおよび北朝鮮に対する瀬戸際外交をもたらした。そのためトランプ氏の取り巻きは軍拡を追求するものの、同盟国や被侵略国を防衛する気はさらさらない。むしろ彼らの主要な関心は本土防衛で、サイバー・セキュリティやミサイル防衛への支出を増額させようとしている。彼らは国際政治を自国第一主義の国民国家の競合だと見做し、民主主義の拡大のような課題は彼らにとって無益なものである (“An “America First” World: What Trump’s Return Might Mean for Global Order”; Foreign Affairs; May 27, 2024)。

 

当然ながらそうした見方は欠陥だらけで、トランプ氏の同盟についての理解が乏しく成る一因となっている。イボ・ダールダー元米駐NATO大使は、トランプ氏は大西洋同盟を不良債権と見做し、東方前線諸国が侵略されるようならアメリカがロシアとの核戦争に巻き込まれかねないと思い込んでいると批判する。実際に同盟は敵の攻撃を抑止する。さらにパートナーと共通の安全保障目的を追求するよりも、国防費のバードン・シェアリングの方に囚われるという過ちを犯している(“NATO is about security — not dollars and cents”; Politico; April 10, 2024)。トランプ氏が共和党内で自身への忠誠派を通じて6ヶ月にもわたってウクライナ援助法案成立を遅延させたことはロシアに多いに利をもたらし、欧米間の相互信頼を損なった(The US aid package to Ukraine will help. But a better strategy is urgently needed”; Chatham House; 26 April, 2024)。アメリカの右翼が「ヒルビリー・エレジー」的な被害者意識、すなわち同盟国は安全保障の傘にただ乗りしているという観念に囚われている限り、議会で再び党派対立が激化し、必要なウクライナ支援が止まることも有り得る。

 

次にイギリスの環大西洋外交の概観は以下に述べる通りである。トランプ氏再選可能性の如何に関わらず、米国民の間でリンドバーグ的孤立主義が強まるならイギリスの外交には制約が課される。王立防衛安全保障研究所(RUSI)のウィン・リース氏はイギリスとNATOおよびアメリカとの関係について、以下のように概括している。イギリスは長年にわたり、アメリカの軍事および諜報作戦では真っ先に挙げられるパートナーであり、そのことはNATOでも全世界でも自国の政治的存在感を高めるうえで有利になる。しかしトランプ氏の反NATO かつ反ウクライナの姿勢では、こうした前提が成り立たなくなる。よってキャメロン氏はヨーロッパがバードン・シェアリングに取り組んでいることをトランプ氏に示す必要があったので、それが国防費の増額、ヨーロッパ域内での防衛協力、バルト海地域での兵力配備などの形で表れた(“Trump, NATO and Anglo-American Relations”; RUSI; 9 May, 2024)。ウクライナ援助法案が米議会を通過する前の本年2月29日時点では、EU諸機関の合計援助額はアメリカよりも多かった。さらにヨーロッパ各国も援助に寄与していた。すなわちウクライナ援助法案が通過しないようでは、ヨーロッパでなくアメリカが同盟にただ乗りしているという状況だった。以下リンク先の図表を参照。

 

Chart

https://www.cfr.org/article/how-much-us-aid-going-ukraine#chapter-title-0-5

 

アメリカの孤立主義を転覆してチャーチル的な外交に乗り出すには、イギリスはロシアに対抗すべくヨーロッパ側独自の政治的および軍事的なレジリエンスを強化する必要がある。現在、ウクライナはフランス、ドイツ、オランダ、そしてイギリスと二国間安全保障合意に調印済みである。こうした取り決め各々を効果的に整合させるために、イギリスはEU非加盟の立場でウクライナ支援に向けたヨーロッパの枠組みでどれほどの主導権を発揮できるだろうか?NATOがウクライナへの兵器調達円滑化のために設立したウクライナ防衛コンタクト・グループでは、イギリスはドローン供給で主導的役割を果たした。また英国王立国際問題研究所のサミール・プリ氏はEUが提唱するEU・ウクライナ防衛産業フォーラム(European Commission; 6 May, 2024)やヨーロッパ防衛産業戦略(EDIS)(European Commission; 5 March, 2024)などの軍事用品調達の取り組みをイギリスが支持し、ヨーロッパの防衛準備態勢の向上とウクライナの防衛産業への支援をすべきだと訴えている(“The UK should help coordinate support for Ukraine by backing EU defence initiatives”; Chatham House; 19 March, 2024)。イギリスが支持したウクライナ戦争でのロシアの凍結資産の活用という案は、今年のG7イタリアで承認された(“G7 agrees $50bn loan for Ukraine from Russian assets”; BBC News; 14 June, 2024)。現在、イギリスは「悪い奴らを撃ち殺すという、世にも楽しき仕事」を為すうえでの能力ギャップ問題に取り組む必要に迫られている。この国は自国本土と世界各地での国益を守るために、限られた予算や資材の中で自軍の兵器や装備を強化する必要に迫られている。現時点で重大な脅威と言えば、短期的にはロシア、長期的には中国となる。国防費の増額とともに、王立国際問題研究所『インターナショナル・アフェアーズ』誌のアンドリュー・ドーマン編集長は、イギリスの軍事力最強化計画に当たって国防支出のフォーカスをしっかり定めておくべきだと論評している。例えば対露抑止であれば、現行の核兵器の漸次削減政策を覆して独自の核の傘を強化するか、統合遠征軍(JEF)による北極、スカンジナビア、バルト海地域での緊急即応配備を強化するかの選択が迫られる(“Britain must rearm to strengthen NATO and meet threats beyond Russia and terrorism”; Chatham House; 25 March, 2024)。

 

トランプ氏説得という骨の折れる会談を経て、キャメロン氏はブリンケン氏との正規外相会談でウクライナへの支援拡大を話し合った。記者会見の場ではマール・ア・ラーゴ会談についての質問もあり、キャメロン氏は会談自体は選挙を控えての通常通りの野党指導者との外交会談であると答えた(“Secretary Antony J. Blinken and United Kingdom Foreign Secretary David Cameron at a Joint Press Availability”; US Department of State Press Release; April 9, 2024)。しかしウクライナへの追加援助を拒絶するトランプ氏は明らかに、依然として大西洋同盟の足を引っ張る存在である。外交における党派を超えた一貫性など気にも留めない。驚くべきことに、トランプ氏は就任直後に戦争を終結させると宣った。これはロシアでさえまともに受け取らなかった(“Russia says 'let's be realistic' about Trump plan to end Ukraine war”; July 18, 2024)。マール・ア・ラーゴ会談は通常通りとはほど遠いものであったろう。

 

この会談がかなり荒れた対話であったことを示唆するかのように、トランプ氏の取り巻き達はキャメロン氏のチャーチル的外交努力に激しく反駁した。トランプ氏がロシアにNATO諸国への侵攻をせよと発言してからというもの、キャメロン氏は大西洋同盟に関する彼の見方には批判的であった(“David Cameron Rebukes Donald Trump's Divisive Remarks About Nato And Russia”; HuffPost; 12 February, 2024)。そうした見解の不一致をたった一度の秘密会談で埋めることは容易ではない。予期された通り、トランプ氏の外交政策顧問であるエルブリッジ・コルビー元国防副次官補はウクライナ援助法案の通過を目指したキャメロン氏のロビー活動を、アメリカ政治への介入だと非難した。さらにキャメロン氏がウクライナ支援を道徳的に語り、トランプ氏にそれを解説講義したとして怒りをぶちまけた(“Trump ally hits out at David Cameron for ‘lecturing’ US”; Politico; May 2, 2024)。しかし歴史的にはウィルソン流道徳主義は党派を問わずアメリカ外交の中核であった。また道徳主義はレーガン・サッチャー保守同盟を強固にし、究極的には冷戦終結にもつながった。嘆かわしいことに、コルビー氏の発言は今のアメリカの保守主義がどれほど酷く劣化したかを示している。

 

コルビー氏はロシアを中国のジュニア・パートナーだと(“China’s Russia Support Strategy”; Politico; February 22, 2024)矮小化するものの、クレムリンが仕掛けるヨーロッパでの攻撃や中東およびアフリカへの勢力浸透に鑑みれば、それは必ずしも妥当ではない。『ワシントン・ポスト』紙への投稿では、コルビー氏はそんな矛盾など一向に意に介さずに中国への戦略的フォーカスを主張している(“To avert war with China, the U.S. must prioritize Taiwan over Ukraine”; Washington Post; May 18, 2023)。皮肉にも台湾はコルビー氏が提唱するアジアへの戦略的シフトを支持していない(“Taiwan is urging the U.S. not to abandon Ukraine”; Washington Post; May 10, 2023)。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏のに代表されるネバー・トランプの論客達がコルビー氏のような偏向したチャイナ・ホークを否定し、アメリカの外交を正常な方向に導こうとしている(“A Republican ‘civil war’ on Ukraine erupts as Reagan’s example fades”; Washington Post; March 15, 2023)。ともかくコルビー氏は新任のデービッド・ラミー英外相については、トランプ氏への配慮のある態度をとっていると称賛した。しかし共和党のJ・D・バンス副大統領候補はイギリスは核兵器を保有するイスラム主義国家だと罵倒して、トランプ氏と現労働党政権との間のそのような生温い友好関係も打ち壊してしまった(“Rayner dismisses Trump running mate 'Islamist UK' claim”; BBC News; 17 July, 2024)。キャメロン氏がウクライナでのロビー活動に成功したとはいえ、MAGAリパブリカンによる負の影響力は来る大統領選挙の結果如何に関わらず依然として無視できない。トランプ氏支持者の例に漏れず、バンス氏もコルビー氏も悪意に満ちた語句と対決的な姿勢が特徴的である。トランプ2.0が登場するようなら、アメリカの同盟国にとっては大変な外交上の障害となりかねない。

 

第二次世界大戦時にはパールハーバー攻撃によってリンドバーグ流孤立主義者達は沈黙せざるを得なくなり、それによってフランクリン・ローズベルト大統領はウィンストン・チャーチル首相の求めに応じて全世界で自由のための戦いを行なえるようになった。しかし現在、MAGAリパブリカンはバイデン現政権下においてさえアメリカの外交政策の足を引っ張っている。そうした事情からNATOはトランプ影響排除(Trump proofing)を真剣に検討し、アメリカ大統領選挙での最悪のシナリオに備えている。最も重要な点はヨーロッパ側の防衛能力の強化である。NATO加盟国はGDP2%の支出目標の達成に向けて国防費の増額を図っているが、それさえもアメリカをヨーロッパにつなぎ止めるには充分でないかも知れない。実際にコルビー氏はスナク政権によるイギリスの国防費2.5%計画を無意味だと否定した。NATO加盟国のほとんどは2%目標に達していないが、冷戦期に3%の支出であった。真の問題は金額ではなく防衛支出の重点項目である。そうした対露抑止および接近拒否の能力への支出が効果的に使われ、ヨーロッパへのアメリカの出兵コストを低く抑えるべきである。ヨーロッパ、特に英仏独の間での共同兵器調達に向けて調整を薦めれば、こうした目的に役立つだろう(Trump-Proofing NATO: 2% Won’t Cut It”; RUSI; 7 March, 2024)。

 

現在、火急の問題はウクライナである。ブリュッセルで開催されたNATO75周年式典では、イェンス・ストルテンベルグ事務総長がウクライナでのNATOの役割をアメリカ政治から切り離すための提案を行なった。すなわちウクライナ防衛コンタクト・グループではアメリカからNATOにより大きな影響力を与え、5年間で総合1千億ドルという軍事援助の実施を円滑化するということだ。しかしバイデン政権は件の計画には関心を示さなかったOn NATO’s 75th birthday, fear of Trump overshadows celebrations; Washington Post; April 4, 2024)。皮肉にもネバー・トランプの米現政権が、ヨーロッパ主導によるトランプ影響排除を積極的に支持していない。そうした事態にも関わらず、王立防衛安全保障研究所のマイケル・クラーク元所長によると、今年はウクライナの戦争の行方を左右する年になるという。ロシアには2025年春以降まで大規模攻勢を仕掛けるだけの装備も訓練された兵員も揃わず、ウクライナも欧米の軍事援助なしに戦闘能力を再建して占領地域の奪還などはとても覚束ない(“Ukraine war: Three ways the conflict could go in 2024”; BBC; 29 December, 2023)。

 

国際社会はトランプ2.0に戦々恐々としているが、真の問題はトランプ氏自身を超えたものである。左右を問わず反主流派の外交政策識者の中には、いわゆる「抑制された」外交を主張してウィルソン流グローバリズムを否定しようという動きがある。彼らの中でも右翼ナショナリスト達はトランプ氏を利用して自分達の政策提言活動へのテコ入れを図っている。トランプ氏は高圧的な振る舞いで悪名を博しているが、オーストラリアのマルコム・ターンブル元首相は世界各国指導者達に、彼の怒りを買わぬようにと媚び諂わぬようにと助言している。トランプ氏は手強い交渉相手を不快に感じるであろうが、後で気分が落ち付くと相手に敬意を抱くようになる(“How the World Can Deal With Trump?”; Foreign Affairs; May 31, 2024)。キャメロン氏がウクライナ支援の緊急的必要性を率直に説いたことは、コルビー氏の悪意に満ちた反応を見ての通りである。日本の安倍晋三首相(当時)も予期せぬトランプ氏の当選からほどなくしてトランプ・タワーを訪問した際に、日米同盟の互恵性を説いた。他方で麻生太郎元首相の訪問は、野党候補に対する不要な叩頭に見えてしまう。安倍氏の回顧録には、トランプ氏は公式の二国間首脳会談の場ですら延々とゴルフの話をしていたと記されている。麻生氏はトランプ氏との会談を楽しむために、二人で何を話したのだろうか?

 

トランプ氏が有罪判決を受けようと、王立国際問題研究所のレスリー・ビンジャムリ米州プログラム長が述べる通り、西側民主主義諸国にはアメリカとの同盟以外に選択肢はない。さもなければロシアや中国をパートナーに選ぶのか(The Global Implications of Trump’s Conviction”; Council on Foreign Relations; June 4, 2024)?民主党のカマラ・ハリス候補はトランプ氏を押しのけんばかりの勢いだが、「抑制された」外交を主張するグループはハリス政権が誕生しても世界の中でのアメリカの指導力発揮の足を引っ張るだろう。そうしたグループにはアメリカ・ファースト政策研究所(AFPI)やマラソン・イニシアチブといった右翼系シンクタンクとともに、リバタリアンのチャールズ・コーク氏とリベラルのジョージ・ソロス氏が共同スポンサーとなっている超党派のクインシー研究所もある( “George Soros and Charles Koch take on the ‘endless wars’”; Politico; December 2, 2019)。

 

動かぬアメリカを動かすためには、現代の政治家達はイギリスのキャメロン外相であれ、日本の岸田首相であれ、他の誰であれ、第二次世界大戦の英雄チャーチルのカリスマなくしてチャーチル的外交の努力の必要性に迫られてくる。アメリカの同盟国はキャメロン氏がやったように、超党派の国際派と手を組んで頑迷な孤立主義者を説得する必要がある。また「悪い奴らを撃ち殺すという、世にも楽しき仕事」なら直接の軍事行動であれ、敵の侵略に抵抗する国への軍事援助の供与であれ、積極的に関わる姿勢を見せるべきである。すなわち世界秩序のための法強制執行で、バードン・シェアリングの一翼を担うということだ。アメリカ側ではすでにハリス氏はミネソタ州のティム・ウォルツ知事を副大統領に選んだので、安全保障の閣僚には重量級の人物を当てる意志を示唆すれば、DEI(多様性・公平性・包括性)非難で失言を繰り返すトランプ・バンス陣営との差別化を図れて面白いとも思われる。

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