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2026年5月13日

イラン現代史に関する報道バランスへの疑問

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私はトランプ政権とネタニヤフ政権によるイランでの戦争には否定的である。だからと言って今戦争とも関りが深いこの国の現代史に関してパーレビ王政と「欧米+イスラエル」の利権による格差社会ばかりが非難され、宗教保守派が歴史を通じて保ち続けた既得権益への批判的検証がなされぬようでは偏向した世論を醸成しかねない。またイラン石油国有化紛争についても、冷戦力学を踏まえなかった時のモサデグ政権をもっと厳しく見る必要があろう。日本とも関りが深い当件では何かと日昇丸が英雄視されがちだが、大東亜共栄圏の夢が頓挫したばかりの敗戦国には本気で米英に抗う気はなかったはずだ。

 

まずパーレビ王朝の成立に宗教保守派が関わっていることは、イラン現代史の初歩的な事項である。まずアラブ人イスラム教徒の征服を経て17世紀のサファビー朝成立に至って10世紀ぶりに民族自決権を回復したイランでは、アラブ世界で主流のスンニ派に対し、シーア派のアヤトラとシャーの二重権力体制となった。そのように保守的な体制に対してコサック旅団のレザ・ハーン准将がクーデターを起こして、日本の明治維新やトルコのケマル革命に倣った富国強兵を目指した。この時、ハーン准将はトルコと同様な共和政を行なう所存だったが、急激な改革による既得権益喪失を恐れた宗教保守派の意向でパーレビ王朝が成立した。

 

問題は彼らのような封建的地主という特権階級がもたらす格差には目を瞑って、パーレビ王政と資本家による格差拡大ばかりが批判的に報道されることである。NHKをはじめ日本の諸メディアが国際的にはリベラルな方針で情勢分析するなら、それはそれで一向に構わない。しかし宗教右派やその他の封建的地主による格差には言及せず、王政派やグローバル経済による格差拡大を厳しく問い詰めるような態度はフェアではない。本当のリベラルなら封建的地主による格差も厳しく問う一貫性があるはずだ。

 

そしてパーレビ体制下で米ケネディ政権の推奨で進められた白色革命についても、あまりに宗教保守勢力が強い湾岸アラブ諸国にはアメリカもゴリ押しはしなかった。冷戦期のイランは対ソ戦略の最前線で、世俗化も進んだ体制下でさらなる近代化による富国強兵も望まれた。他方、サウジアラビアにはソ連よりもエジプト、シリア、イラクの汎アラブ主義の方が脅威であり、政治的多元性も欠いていた。この国は白色革命のような、世俗化と脱封建化を進められるだけの政治社会的成熟度に達していなかった。確かに急速な資本主義の発展には格差拡大という負の側面はあるが、宗教保守派が既得権益を保持していた時代のイランも格差社会であったということを忘れてはならない。

 

また上記のような地政学的観点からすれば、1951年石油国有化紛争時のモサデグ政権が冷戦のパワー・ポリティックスを顧みずにソ連に接近した軽挙はもっと批判されるべきである。この紛争では石油利権に目が向きがちだが、アメリカが介入した理由は共産主義の拡大阻止であった。そもそも第一回国連安保理では、第二次世界大戦後もイラン北部に駐留し続けたソ連軍の撤退が議題になったことを忘れてはならない。ちなみにパーレビ王朝初代のレザ・シャーもナチス・ドイツに接近したがために、英ソ両国の介入で廃位されるという地政学的な失敗を犯した。モハンマド・モサデグ首相は、なぜこれらの地政学的教訓に従わなかったのだろうか?

 

最後にイラン石油国有化紛争での日本の関りについてだが、日昇丸はエルトゥールル号ではないことをしっかりと認識すべきだ。すなわち出光興産が日昇丸を派遣した理由は、サンフランシスコ講和条約にも調印してやっと乗り出した日本経済の戦後復興を鈍化させないためであった。間違っても、それはイランの反植民地主義ナショナリズムへの人道的な共感が主要な動機ではない。エルトゥールル号遭難事件で日本人がオスマン・トルコ海軍将兵を救った博愛主義を、日昇丸派遣に見出そうとすれば、日・イラン関係史を見誤ってしまいかねない。

 

私は先稿にも記した通り徹頭徹尾の反トランプ派であり、今回の対イラン戦争にも賛同しない。そうした立場だからこそ、アメリカとイスラエルの現政権を批判するあまり、イランの宗教保守派がサファビー朝以来数世紀にもわたって保ってきた封建地主としての既得権益に目を瞑るような歴史認識には強い疑問を投げかけざるを得ない。我々は比叡山焼き討ちによって天下一統を果たした国民である。よってイランの宗教保守派に関しても冷静で批判的な視点が必要であり、石油国有化紛争ではレザ・シャーと同じ地政学的な過ちを冒したモサデグ政権に過度に同調してこの国の現代史を語るべきではない。トランプ、ネタニヤフ両政権への批判の傍らで、イラン現代史の認識でバランスを欠いてはならない。

 

 

 

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