2019年8月 2日

アメリカ民主主義の劣化と世界の無秩序

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ロバート・ケーガン

 

リベラル世界秩序への最も重大な脅威は、専制諸国の挑戦が強まる一方で西側民主主義諸国が自分達の体制や価値観を信用しなくなっていることである。特にアメリカ民主主義の衰退は世界に大変な悪影響をもたらす。我々は民主主義が現在どのように衰退しているのかを理解し、この動向を覆す手段を考えてゆく必要がある。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は本年3月に刊行された“The strongmen strike back”と題する政策レポートで、専制諸国が突き付ける挑戦の根本的な問題を分析している。西側の専門家は従来からの専制国家を社会主義のような普遍的で一貫性のある理念がないとして過小評価するきらいがあるが、ケーガン氏はリベラル民主主義諸国にとってイデオロギーからも地政学からも脅威となっているのは権威主義そのものだと主張する。そうした状況下で西側は目下、ポピュリストという内なる課題に直面している。

 

ケーガン氏は歴史を通じて続くリベラル民主主義と権威的専制政治のイデオロギー戦争について語っている。彼の歴史的考察は今日の民主主義衰退を理解するうえでの鍵となる。古典的自由主義以前の世界では、人民は封建社会の強固なヒエラルヒーに支配されていた。 小作人は何世代にもわたって地主に隷属し、思想および宗教の自由は存在しなかった。啓蒙自由主義こそが個人を伝統的なヒエラルヒーと部族主義から解放した。フランス革命に対しては、ロシア、プロシア、オーストリアといった専制君主諸国は自由主義への反動で検閲と投獄を強化したので、建国したばかりのアメリカにとっては国家存亡にかかわる脅威となった。自由主義と権威主義のイデオロギー戦争は地政学戦争でもあった。そうした外部からの圧力とともに、自由民主主義が合理性に基づくにもかかわらず当時は非合理性という内部からの挑戦を経験していたことに私は言及したい。フランスでは革命後もボナパルティズムとブルボン王政が興亡を繰り返した。きわめて矛盾したことに、ナポレオン3世はメキシコに介入して権威主義の象徴そのものであるハプスブルグ家出身のマクシミリアン皇帝を擁立したが、最終的には失敗に終わった。また、アメリカは奴隷制度をめぐって国内の抗争があった。孤立主義外交は普遍的な価値観とは相容れないものだった。この矛盾が解決されたのは、ウィルソン的国際主義が台頭した時である。

 

初期の混乱はあったがリベラル民主主義は内外双方の難題を切り抜けた。ケーガン氏は専制諸国がどのように自壊したかを述べている。19世紀から20世紀初頭にかけて両世界大戦における枢軸国に代表される権威主義諸国は現実の戦争に敗れたのであってイデオロギー戦争に敗れたわけではない。従来からの権威主義が敗れ去った後、新たな強敵としてソ連共産主義が登場した。自由主義と同様に共産主義も普遍性と理性に基盤を置いている。ソ連の国力に恐怖と抑圧の効果的な活用もあって、共産主義は盤石に見えた。よってケーガン氏はジーン・カークパトリック氏による古典的論文“Dictatorships and Double Standards” (Commentary; November 1, 1979)を取り上げ、西側は従来からの専制国家を支援して全体主義的な共産主義勢力を封じ込めるべきで、それは前者の体制ならリベラル民主主義に移行可能だが後者の体制では不可能だと当時は考えられていたことに触れている。しかし実際にはケーガン氏が主張するように、共産主義はソ連指者層が西側を超越する物質的繁栄を達成できなかったために正当性を失った。しかし従来からの専制主義がポスト共産主義の時代には再び台頭してきた。ケーガン氏によれば、ロシアと中国は2000年代末までに以下の道筋で権威主義的な体制の強化を成し遂げている。ロシアではウラジーミル・プーチン大統領が自国の欧米とは違う「アジア的」な性格を訴えかけようと、ロシア正教会との帝政時代の伝統を復活させ、LGBTQおよびジェンダー平等をめぐる進歩主義の考え方を否定している一方で、中国は毛沢東思想から国家資本主義の国に変わった。それによって第三世界の専制諸国は人権および透明性ある統治をめぐって、西側の圧力に対する立場を強めた。権威主義への世界的な揺れ戻しは人類の相反する性質に由来する。ケーガン氏は我々が自由を希求する一方で、自分達の家族や国の安全が脅かされていると感じると独裁者に頼りかねないと述べている。外部からの挑戦がそれほど手強いなら、リベラル民主主義諸国は優位を維持できるだろうか?

 

 

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外部からの挑戦とともに、ケーガン氏は今日の西側民主主義諸国が直面している内部からの挑戦にも言及している。イデオロギー戦争においては、この側面はハードパワーによる地政学競争よりも重要である。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は反リベラル主義の名の下に、白人キリスト教徒の伝統が非白人、非キリスト教徒で都市部コスモポリタンの価値観より優位にあるべきだと主張している。極右ポピュリズムはヨーロッパと北アメリカ一帯で台頭し、2018年にはイスラエルの有力知識人ヨラム・ハゾニー氏が自著“The Virtue of Nationalism”を理論的な基盤として普遍的な自由主義に対して諸国民が連携して抵抗するように呼び掛けている。アメリカでのトランプ現象は、そのような部族主義から来ている。保守派の中には普遍的な自然権に対してさえ異を唱え、アメリカはアングロ・サクソンでプロテスタントの伝統にのみ基づいた国であるべきだと主張している者もいる。非常に重要なことに、ケーガン氏は欧米のナショナリストの波及効果は非キリスト教諸国にもおよび、インドのヒンズー・ナショナリズムやトルコのイスラム主義の台頭につながっていると論評している。この点から見れば、トランプ大統領が今上天皇と安倍晋三首相との会談のため訪日した際に麻生太郎副首相がトランプ政権下のアメリカと緊密な関係にある日本は諸外国がやっかむほどの地位だと自慢した(「麻生氏、日本の地位は『諸外国やっかむほど』向上」;産経新聞;2019年5月26日)ことについて、私は嘆かわしく思っている。それが傲慢に聞こえるのは、民主主義の衰退に関する世界的な懸念への麻生氏の問題意識が低いうえに、こうした発言は他の自由主義諸国とアメリカでの超党派の外交政策エスタブリッシュメントへの侮辱になるからである。トランプ氏は2016年の選挙運動での日本はアメリカとの同盟関係にたかっているとの主張を蒸し返してきたが、それで麻生氏が自らの傲慢な発言を後悔したかどうかは私にはわからない (「日米安保、初対面から不満=安倍首相、トランプ氏との会話明かす」; 時事通信; 2019年7月3日)。

 

ケーガン氏は現在のアメリカ民主主義についてもさらに分析を進めている。アメリカの外交政策に関する議論はアメリカのアイデンティティとも関わり合っている。孤立主義への揺れ戻しが吹き荒れたのは、ウィルソン時代の後である。白人ナショナリズム、反移民運動、そして保護主義が強まった背景には、国民の間でアングロ・サクソンとプロテスタントの文化的伝統に固執する傾向が強まり、アメリカの建国基盤にあるリベラルな啓蒙思想の要素への反感が高まったことが挙げられる。今日ではそのようなナショナリスト保守派は反米的な指導者、特にウラジーミル・プーチン氏による欧州大西洋諸国はキリスト教的価値観や道徳的伝統といった西洋文明の基盤を取り戻して自由主義という普遍的な価値観を捨て去るべきだという主張に共鳴している。非常に興味深いことにケーガン氏は保守派の思想家、クリストファー・コールドウェル氏がアメリカ主導のリベラルな世界秩序に屈服しないロシアの独裁者を「全世界のポピュリスト保守派のヒーロー」だと主張していることに言及している。この点から言えば、アメリカ・ファーストはあまりに逆説的である。さらに問題となることに、全米民主主義基金のマーク・プラットナー氏が論ずるように主流派の中道右派政党が反リベラル民主主義の過激派に乗っ取られている。主流派の保守系議員が次々にオルタナ右翼に屈服するのも無理からぬことだ。ケーガン氏が2016年の選挙でクリントン陣営に加わる以前には、共和党と深くかかわっていたことを忘れてはならない。よって保守主義の変遷についての彼の分析は我々にとって重大な警鐘だと言える。さらに私はキリスト教のアイデンティティに固執する保守派の誤謬も指摘したい。アメリカの歴史には中世がないうえに、自国を旧世界の封建主義から解き放たれた存在と見なしている。しかしキリスト教国という考えは近代以前のものである。そのように退化的なイデオロギーで偉大な国など作り上げることは不可能で、ただ文明が後退して後発国になるだけである。

 

退化的な保守とともに、ケーガン氏は自由主義が今日では左翼からも激しい攻勢にさらされていると指摘する。現在の保守の多くが民主主義はナショナリズムに由来するもので自由主義ではないというハーゾニー氏の主張を信奉していることは、昨年12月にマイク・ポンペオ国務長官がブリュッセルのドイツ・マーシャル基金で行なった演説にも表れている("Tilting at Straw Men: Secretary Pompeo's Ridiculous Brussels Speech)。トランプ政権が任命したリチャード・グレネル駐独大使は、プーチン氏と共鳴してヨーロッパのナショナリストを支援しているほどだ。そうした中で進歩派はリベラル資本主義とアメリカ帝国主義を攻撃するばかりで、反米的な独裁者への抵抗には意欲的でなかった。冷戦中には保守と反共リベラルが手を携え、そうした極左を押し退けた。しかし今日では権威主義に対する諸派連合はなく、他方で専制諸国の方はかつての共産主義同盟のように一枚岩ではない。しかしケーガン氏はリベラルな国と非リベラルな国の違いは一般に思われているよりも顕著で、前者では自然権が尊重されるが後者では尊重されないと論じている。そうした中で、私にはリベラル諸国は地政学に目が向くあまり、専制諸国に対する戦略では上手く足並みがそろっていないように思える。ヨーロッパはロシアに、日本は中国に目が向き、アメリカは要塞化した孤立主義に陥りつつある。リベラル民主主義諸国間の国内政治と同盟の内部分裂によって、世界はさらに不安定化しかねない。

 

リベラルな世界秩序ではアメリカの圧力への恐れから、独裁政権が挑発的な行動を躊躇するようになる。アメリカにはオフショア・バランサー以上の行動が求められている。アメリカのリーダーシップが不在の今、私はヨーロッパや日本のような民主主義同盟諸国が直面する問題に言及したい。現在、ブレグジットがヨーロッパを揺るがせている。独仏枢軸はヨーロッパ統合の中心ではあるが、IFRI(フランス国際問題研究所)が昨年4月に刊行した“Macron Diplomat: A New French Foreign Policy?”によれば、ヨーロッパ防衛に関してフランスは平和主義のドイツを必ずしも信用していない。自主独立のヨーロッパの実現にはそれほど困難を伴う。他方で日本はトランプ政権下のアメリカとの関係が比較的良好と見られているのは、地元インディアナ州が日系企業を数多く受け入れているマイク・ペンス副大統領を通じたチャンネルがあるためである。しかしペンス氏は本年3月にアメリカン・エンタープライズ研究所が主催したディック・チェイニー元副大統領との会談で、トランプ政権のアメリカ・ファーストという方針を擁護した(“Former vice president Cheney challenges Pence at private retreat, compares Trump’s foreign policy to Obama’s approach”; Washington Post; March 1, 2019)。象徴的なことに、トランプ氏が貿易(“Trump takes dig at Japan for ‘substantial’ trade advantage and calls for more investment in US”; CNBC News; May 25, 2019)と防衛負担(“Trump muses privately about ending 'unfair' postwar U.S.-Japan defense pact”; Japan Times; June 25, 2019)をめぐって日本を批判した際に、ペンス氏はそれを止めなかった。ヨーロッパと違い、日本は特に中国をめぐってアジア近隣諸国と安全保障上の優先案件を必ずしも共有しているわけではない。アメリカでの政治的混乱で世界は不安定度を増している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2019年5月20日

トランプ政権によるアメリカ民主主義の危機

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今年のはじめにフリーダム・ハウスが発刊した“Freedom in the World 2019”では全世界で民主主義の勢いは弱まり、特にアメリカでの民主主義の衰退は危機的な状況であると述べられている。フリーダム・ハウスの100点満点の指標による総スコアはドナルド・トランプ大統領の就任によって急落している。ウェンデル・ウィルキーとエレノア・ルーズベルト大統領夫人(当時)によって1941年に設立されたフリーダム・ハウスは、アメリカの価値観外交の一翼を担ってきた。ウィルキーは1940年の大統領選挙で共和党候補として民主党のフランクリン・ルーズベルトと争ったが、彼自身の党の予備選挙では孤立主義の候補者達を破って躍り出た。現在、世界の民主化促進を担ってきた超党派のNGOは国内戦線に重点を移している。国内での民主主義の衰退は5Gをめぐる中国との競争以上に、アメリカの覇権の行方を左右する問題である。歴史的に、イギリスはビスマルク時代からカイゼル時代のドイツとテクノ・ヘゲモニーの分野で激しく競合しながらも、世界における議会制民主主義の模範として抜きん出た存在であった。アメリカ民主主義の劣化はそれほど破滅的なものである。

 

フリーダム・ハウスのレポートでは全体的な動向を以下のように記している。冷戦での西側民主主義諸国の勝利を経て、中国とロシアに代表される専制諸国がリベラルな世界秩序に反発した。第三世界にもこうした動向に追従する国もあり、そうした国々のフリーダム・ハウス指標は急落している。さらにグローバル化によって欧米社会での格差が拡大した。それは先進国の富裕層と新興国の労働者に利益をもたらした一方で、先進国の非熟練労働者は経済的に苦しくなっている。これによってアメリカとヨーロッパで反自由主義運動が高まり、権威主義的ナショナリズムの容認とともに多国間ルール、移民、立件民主主義が否定されるようになった。このレポートでは2005年から2018年にかけてのリベラル民主主義への信頼喪失を「世界の自由後退の13年」と呼んでいる。嘆かわしいことに今のアメリカは世界の自由を推進するリーダーではなく、民主主義と専制主義の対立の場となっている。

 

私がアメリカにおける民主主義の衰退を重大なものと考える理由は、これが超大国の内部崩壊になっているからである。専門家達が今世紀における大国間の競合を語る時には、グローバルなパワー・シフト、中国の台頭、ロシアの再大国化志向といった外部要因が注視される傾向がある。しかしリベラル民主主義諸国が優位を保てるかどうかは、専制諸国からの挑戦よりも内部的な強さ、安定、自国の体制への信頼にかかっている。アメリカの民主主義はトランプ政権登場以前からすでに危機にあった。党派分裂の拡大、経済的流動性の低下、特殊利益団体の強大化、そして事実に基づくジャーナリズムへの国民の敬意の欠如が見られるようになっていた。トランプ時代になって事態はさらに悪化している。フリーダム・ハウスのレポートではアメリカ民主主義の現状が以下のように記されている。トランプ氏は民主主義の基本的な規範を馬鹿にしきっていることもあり、G7+オーストラリアの中ではアメリカのフリーダム・ハウス指標は最悪になっている。この国はフリーダム・ハウスの評価で「自由」というカテゴリーに踏みとどまり、「部分的に自由」あるいは「自由でない」に落ちてはいないものの、建国の父が築き上げたアメリカの政治システムも健全な民主主義の維持を保証するものではない。このレポートではハンガリー、ベネズエラ、トルコといった例に触れて、民主的な制度が独裁者の前にはどれほど脆弱かが述べられている。

 

このレポートではトランプ政権の統治について以下5点から診断を下している。第一に、トランプ氏は法の支配をあまりにも軽んじている。移民問題をめぐって司法が彼に不利な判決を下すと、担当判事を「オバマの判事」や「いわゆる判事」呼ばわりして彼らの資格や中立性を責めたてた。司法省に対しては彼自身と政治的に対立したジェームズ・コミー氏とヒラリー・クリントン氏の起訴まで要求した。トランプ氏による司法に対する政治的な工作はさらに進み、自らに与えられた恩赦権限を利用して政治的に味方になる者に適用しようとまでしている。これらは司法の独立を多いに脅かす。第二にトランプ氏は報道の自由を抑圧している。彼は自分に不利なメディアにはすぐに「フェイクニュース」や「国民の敵」といったレッテルを貼り、事実に基づくジャーナリズムに対する国民の不信感を煽り立てている。またジャーナリストに対する法的そして社会的な保護も軽視するようでは、プーチン政権下のロシアなど専制諸国で見られるように報道記者の安全が脅かされるようになりかねない。フリーダム・ハウスが挙げたこれら2点は、トランプ氏が権力分立を侵害していることを示す。私にはトランプ氏が大衆の怒りを彼自身のためだけに利用し、民主的な統治を犠牲にしているように思われる。そうした所業がどれほど多くの国民の意志に反しようとも、トランプ氏は自らの目標の達成のためには気にも留めない。彼は自分の選挙基盤を満足させるためだけに職務を行なっている。

 

そうしたエゴイズムがもたらす腐敗は、フリーダム・ハウスが国別で民主主義のレベルを評価するうえで重要になっている。このレポートが挙げる第三の点は、透明性と公務の規範である。トランプ氏は近代民主主義の倫理的基準を頻繁に破っている。中でも彼の関連企業は問題のある国々からの資金流入がある。トランプ・オーガニゼーションはマンハッタンでの建設プロジェクトのために、中国の国営企業である上海城投資集団からの投資誘致の交渉を行なっていた(“As tariffs near, Trump’s business empire retains ties to China”; Washington Post; July 5, 2018)。また大統領選挙の直後にはサウジアラビアのロビイストがトランプ氏のホテルの部屋を借りきっている。これら外国からの介入の他にも、ジャレド・クシュナー氏とイバンカ・トランプ氏の登用は第三世界並みのネポティズムである。こうした利益相反は非常に多い。第四の点は、トランプ氏は結果が思わしくないと選挙の正当性を叩くことである。2018年の中間選挙ではトランプ氏は自分の支持者に対して、民主党が投票で不正行為を行なったと証拠もなしに言い立てた。他方で彼の政権はゲリマンダーやロシアなど外国勢力の介入にはほとんど関心を示さない。

 

これら4点の国内問題に加えて、第五の点はトランプ氏が民主化促進と集団防衛を軽視しているので、同盟国と国際社会からアメリカへの信頼は低下する一方である。他方でロシア、サウジアラビアからカンボジアまで、専制諸国はトランプ政権がアメリカの価値観を掲げなくなったことを歓迎している。アメリカとの熾烈な貿易戦争に直面している中国でさえ、この調子なら自国の権威主義的な開発モデルを第三世界に輸出できるとして歓迎している。フリーダム・ハウスはこのことがリベラル世界秩序の崩壊を刺激すると懸念している。ここでフリーダム・ハウスが挙げた5つの点はロシア捜査とも深く絡み合っている。トランプ氏が任命したウイリアム・バー司法長官については、ロバート・モラー氏と彼の同僚検察官達がトランプ氏は訴追可能だと述べているにもかかわらず、モラー報告書の提言を歪曲したとの疑念も生じている。現政権の非行は特に法の支配と選挙の正当性を損なっている。

 

問題は共和党がトランプ氏に対して宥和姿勢なことである。これはアメリカン・エンタープライズ研究所が非公開で設定したディック・チェイニー元副大統領とマイク・ペンス副大統領の会談に典型的に表れている。チェイニー氏は同盟国との摩擦の増加と「オバマ式」の非介入主義に対する懸念を述べる一方で、ペンス氏はトランプ大統領を選んだのは有権者であり、政権としてはそうした期待に沿うようにしていると言って正当化した(“Former vice president Cheney challenges Pence at private retreat, compares Trump’s foreign policy to Obama’s approach”; Washington Post; March 11, 2019)。さらにマックス・ブート氏は、マルコ・ルビオ上院議員とリンゼイ・グラム上院議員のような共和党の重鎮は過去に民主党の不正行為を糾弾しながらロシア捜査でのトランプ氏の違法勝つ非倫理的な所業を容認している(“Republicans are hall-of-fame hypocrites”; Washington Post: May 9, 2019)。民主主義の普及はアメリカの覇権の中核となる価値観である。現在進行中の中国との貿易戦争は大いに注目されているが、その勝敗の行方は世界秩序から見れば局地戦に過ぎない。これはロシアのセルゲイ・ラブロフ外相による、西側のリベラルな社会モデルは死滅しつつあり世界はもはやアメリカを信用していないという演説に典型的に表れている。 (“The New New World Order and the Russian Care Bear”; New American; April 15, 2019)。多くの同盟国が依然として対米関係を最重視しているとはいえ、トランプ政権によってアメリカへの信頼はますます損なわれている。そのことで世界の不安定化は進む一方である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2019年1月 9日

トランプ共和党の危険な極右化

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専門家やメディアの間で噂されたように、トランプ政権は中間選挙後に「政権内の大人」とされたジョン・ケリー大統領首席補佐官とジェームズ・マティス国防長官の更迭によって閣内を再編し、選挙公約の実現への障害を取り払おうとしている。ドナルド・トランプ大統領はシリアとアフガニスタンからの米軍撤退を宣言したが、テロリストは依然として現地軍の手に余り、撤退後の地政学的な力の真空も非常に懸念される(“Mattis resigns after clash with Trump over troop withdrawal from Syria and Afghanistan”; Washington Post; December 20, 2018)。この他にもトランプ氏はメキシコ国境の壁への予算に頑迷に固執するあまり、議会との衝突とそれに続く政府機関の閉鎖が避けられないものとなった(“The Latest: Democrats refuse to fund Trump’s “immoral” wall”; AP News; December 9, 2018)。明らかに現政権は極右化の方向に向かっている。事態はウィリアム・クリストル氏が述べたようにトランプ氏は共和党を自分への忠誠派で占めることだけを考え、中間選挙で落選した穏健派のことなど気にもかけないという方向に動いている (@BillKristol; Twitter; November 7, 2018および@BillKristol; Twitter; November 12, 2018)。

問題は政権と議会だけではない。極右化によって共和党の支持基盤が変わり、それによって排外的ポピュリズムがさらに加速しかねない。そうした懸念を示す兆候は昨年11月にCNBCが半年ごとに行なうミリオネア調査に表れている。この調査によると富裕層は共和党支持者も含めて、トランプ氏への信頼を失いつつある。人口は多くはない彼らだが、選挙での投票にも政治献金にも積極的である(“Wealthy Republicans lose faith in Trump, as nearly 40% say they wouldn’t vote to re-elect him: CNBC survey”; CNBC News; December 23, 2018)。富裕層の懸念は政府の機能不全である(“The biggest risk to millionaire wealth is Washington: Survey”; NBC News; December 17, 2018)。政治と安全保障のリスクは市場のリスクでもあるので、それは理解できる。トランプ氏の国内政治および国際政治での不手際によって富裕層が共和党を見限れば、党内での極右の力はさらに強まる。

そうした「保守主義の劣化」(The Corrosion of Conservatism:マックス・ブート氏近著の題名)は、トランプ極右が民主党左派よりも苛烈であることを意味している。私はこれについて以下の理由を挙げたい。第一にエリザベス・ウォーレン氏やナンシー・ペロシ氏のような民主党左派でさえトランプ氏よりも超党派での外交政策の常識を遵守しているのは、議会で長年にわたって責任ある立場にあったからである。第二にトランプ氏は非現実的な選挙公約に頑迷に固執することは、最近のメキシコ国境沿いの壁をめぐる政府閉鎖に見られる通りである。また貿易戦争や同盟破壊のように、トランプ氏は政策形成に関する大学の教科書にことごとく反発する有様である。第三にトランプ氏のリーダーシップのスタイルが第三世界の独裁者さながらに腐敗したもので、自分のスタッフにはマフィアさながらに個人的な忠誠を要求するほどである。それはアメリカ民主主義を破壊しかねない。ともかく党派やイデオロギーがどうあれ、彼のように奇妙な気質の政治家はいない。

第4の理由が最も重要でグローバルな意味合いがある。それはウラジーミル・プーチン大統領によるヨーロッパの極右への支援で、トランプ現象はその波及効果である。彼の台頭をもたらした国内での側面が注目されがちだが、全世界的な民主主義の危機を見過ごすことはできない。周知の通りロシアはソ連時代の地政学的な影響力を取り戻すため、東ヨーロッパに介入し続けている。プーチン政権下のロシアはさらに西ヨーロッパの主要国にも手を伸ばしている。最も破滅的なものはブレグジット国民投票へのロシアの介入で、この件はトランプ氏に絡んだ捜査とも深く関わっている。昨年末にはイギリス国家犯罪対策庁が反EU派実業家のアーロン・バンクス氏について、リーブ・EUがEU帰属国民投票で繰り広げる反対運動に資金援助を行ない、ロシアのインターネット活動を幇助したという容疑で捜査を開始した(“UK National Crime Agency Starts Investigation Into Eurosceptic Businessman Aaron Banks”; EU Today; November 1, 2018)。さらに重要なことにイングランドおよびウェールズ高等法院は、該当事件が有罪ならブレグジットは違法で無効になるとメディアを相手に表明した(“Brexit: High Court to rule if referendum vote ‘void’ as early as Christmas after Arron Banks investigation”: Independent; 24 November, 2018)。クリスマス直前には、ロシアとトランプ選挙対策陣営との関係で悪評を呼んでいるケンブリッジ・アナリティカの関係者とバンクス氏がリーブ・EUによるイギリス有権者へのマイクロ・ターゲティングへの支援をめぐって会談したことが判明した (“Revealed: Arron Banks Brexit campaign's 'secret' meetings with Cambridge Analytica”; 19 December, 2018; openDemocracy UK)。イギリスのみならず、プーチン氏は2017年のフランス大統領選挙ではマリーヌ・ルペン氏への支持を見せつけた。また親露派のフランス人ナショナリスト、ファブリス・ソブラン氏とザビエ・モルロー氏も最近のジレ・ジョーヌ暴動に加わっている(“"Russian World" supporters fly "DPR" flag at yellow vest protest in Paris”; UNIAN News; 8 December, 2018)。

注目すべきは、ロシアの政治家とメディアはシリアとアフガニスタンをめぐってトランプ氏がマティス長官を更迭したことを喝采している。ロシア議会上院のコンスタンチン・コサチェフ外交委員長は「ジェームズ・マティス長官の退任はロシアにとっては良い兆候で、何と言ってもマティス氏はドナルド・トランプ氏よりもロシアと中国に強硬だった」と述べた (“Russia Gloats: ‘Trump Is Ours Again’”; Daily Beast; December 21, 2018)。しかしそのような地政学はプーチン氏と欧米の右翼ポピュリストが互いに友好的になる究極的な理由ではない。西側の極右はプーチン氏の人格とリーダーシップに強さ、伝統主義、ナショナリズムを見出している。さらに重要なことに両者はイスラム過激派との戦い、グローバルな経済統合への抵抗、政教分離が進む社会への反抗といった価値観を共有している。2012年に大統領に再選されてからのプーチン氏は反LGBTキャンペーンを立ち上げ、西側の社会保守派からの敬意を得るようになった(“Putin and the Populists”; Atlantic; January 6, 2017)。この地政学と極右の価値観が織り成すシナジーによって、ロシアがリベラル民主主義の道義的基盤を破壊することも有り得る。野望に満ちた一帯一路構想と恐るべきほどの経済成長を振りかざす中国でさえ、こうした企ては手に余る。

プーチン大統領のように敵対的な独裁者を盟主と仰ぐ極右連合は非常に破滅的なので、我々はウィンストン・チャーチルがヨシフ・スターリンでなくアドルフ・ヒトラーを相手に戦うという意志を固めたように、左翼よりも極右を警戒すべきである。識者の中には超大国といえども万能ではなく、グローバル経済と国民の分断の中で大衆が抱く不安、苦悩、絶望感がトランプ氏を大統領に押し上げたことを受け入れてやるべきだとの声もある。確かに我々は彼が予期せぬ当選を果たした原因を分析し、あのようなデマゴーグをのさばらせた諸問題の解決にあらゆる努力をしてゆくべきである。しかし世界を日に日に不安定化させているトランプ現象に対しては、我々は絶対に受容すべきでも同情すべきでもない。それでも共和党にも希望は残っている。先の選挙で当選したミット・ロムニー上院議員には共和党反トランプ派を勢いづけ、先頭に立ってゆくことが期待される。また、マルコ・ルビオ上院議員は超党派の政治を推進している(“Rubio Encourages Bipartisanship in Policymaking”; Hoya; October 5, 2018)。そうした中で民主党左派はトランプ共和党よりも有害でないことは確かだが、彼らの内政および外交政策には問題がある。マックス・ブート氏はエリザベス・ウォーレン氏とバーニー・サンダース氏の外交政策を以下のように論評している。両氏ともトランプ氏よりも多国間協調を尊重してはいるが、アメリカによるリベラルな世界秩序についての超党派の見解を外交政策のエスタブリッシュメントとは共有していない。ウォーレン氏は自由貿易がアメリカの労働者を犠牲にしてグローバルな大企業が得をしていると主張し、サンダース氏は世界の警察官の役割を全うするよりもシリアとアフガニスタンから米軍を撤退させよと言い張るほどなので、ブート氏は両人を「左のトランプ」と呼んでいる。さらに両人とも中国やロシアといった専制的な大国の脅威に対してどのように対処するかも述べていないという(“The Democrats need a new foreign policy — one that doesn’t sound like Trumpism of the left”; December 26, 2018)。

両党で孤立主義者の存在がそのように強力なら、共和党国際派と民主党穏健派は互いに手を結ぶべきである。我々の真の敵はドナルド・トランプという名の太った狂人よりもはるかに巨大である。究極の脅威はオルタナ右翼のイデオロギーで、それはトランプ氏が弾劾か何らかのスキャンダルで辞任を余儀なくされても存在し続ける。この怪物は不死身で、ナイフで突き刺しても銃で撃っても根絶できるものではない。また我々はアメリカで起こっていることの観測と分析を超えて、何か行動を起こさねばならない。我々はプーチン政権のロシアが行なったハッキングのような、アメリカ政治への非合法の介入をする立場ではない。しかしアメリカの同盟国でも特にヨーロッパと日本の識者はアメリカの有権者と直接語り合い、同盟国によるアメリカの安全保障への貢献とアメリカ第一主義の誤りについての理解を広めるべきである。その時には敢えてトランプ氏を特定して批判する必要はない。そうした運動は超党派の国際派と穏健派との緊密な協調に基づいて行われるべきだ。この役割は政府高官よりも民間の識者が担う方が相応しい。これはアメリカ政治への正当な介入だと私は信じている。我々はだた座視するだけでなく、行動するべきである!

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2018年11月21日

中間選挙後の鍵はロシアと極右

先のアメリカ中間選挙の結果についての評価は十人十色である。トランプ氏の共和党は上院では勝利したが下院では敗北した。全てを考慮しても、どちらが実際に勝ったかを明言することは難しい。また、今回の選挙結果だけに基づいて2020年大統領選挙時の政治的動向を語るには時期尚早である。メディアでは両院での女性とマイノリティーの議席増加が称賛されている。しかし火急の問題はアメリカ国内および海外で無数の人々を恐怖に陥れているトランプ路線に対して、議会が歯止めをかけられるかどうかである。そこで選挙後のアメリカ政治の希望と絶望に関して、以下のキーワードから語ってみたい。それは政策的プロフェッショナリズム、人権、ロシア、そして極右である。この目的のために党派間の勢力の数的な分析ではなく、今回の選挙での注目すべき当選者と落選者に絞って語ることとする。

希望的な側面を代表するのがニュージャージー州7区から選出された民主党のトム・マリノウスキー下院議員で、元民主主義・人権・労働担当の国務次官補である。国務省入省以前にはローズ奨学生としてオックスフォード大学で学び、ダニエル・パトリック・モイニハン上院議員のスタッフやフォード財団などシンクタンクの研究員を務めた。外交官としてはクリントン政権とオバマ政権に奉職した。ブッシュ政権期にはヒューマンライツ・ウォッチのワシントン事務所所長を務め、ミャンマーの民主化改革、タリバン支配下のアフガニスタンでの女性の権利、シリアでの文民保護に向けた運動を進めてきた。こうした輝かし経歴が示すように、マリノウスキー氏は人権を専門とする政策形成のプロとして名高い。民主党寄りの色彩が濃い経歴ではあるものの、当選の折にはブッシュ政権期のニコラス・バーンズ国務次官にオバマ政権期のサマンサ・パワーズ国連大使といった超党派の元国務省高官から祝福された。

人権はアメリカ外交の核心的アジェンダであったが、ドナルド・トランプ現大統領がこの問題にあまり真剣でないことは、サウジアラビアによるカショギ事件に対する中途半端な態度に典型的に表れている。当初から、レックス・ティラーソン国務長官の任命では物議を醸した。ティラーソン氏はトランプ氏のアメリカ・ファーストを緩和できる「政権内の大人」の一人とは見なされていたが、上院公聴会ではサウジアラビアでの女性の権利やシリアでのR2Pといった重要な人権問題への関心も薄く知識も不充分だということから、彼の資質は疑問視されていた。

注目すべきことに、マリノウスキー氏はポーランドからの移民である。アメリカにやって来たのは、母親がリベラル派ジャーナリストのブレア・クラーク氏と結婚した6歳の頃である。彼のバックグラウンドのあらゆる事柄は、トランプ氏の野蛮な反主知主義、視野の狭いナショナリズム、冷血な酷薄性、そして腐敗臭漂う低俗性に対するアンチテーゼである。マリノウスキー氏にはベト・オルーク氏のような光り輝くスター性はないかも知れないが、彼の知識、経験、そして国務省同僚たちからの信頼によって、トランプ政権発足からの人権をめぐるアメリカ外交の立て直しに一役買うであろう。

もう一つの希望的な出来事は、カリフォルニア州48区での共和党のダナ・ローラバッカー下院議員の落選である。これがただの一議席ではないのは、この人物がプーチン政権下のロシアばかりか英国独立党のナイジェル・ファラージ元党首、ポーランドのアントニ・マシェレウィチ元国防相、ハンガリーのビクトル・オルバン大統領といった極右と緊密な関係で悪名高いからである。その中でもファラージ氏とオルバン氏は、ヨーロッパをナショナリズムで伝統主義が支配する地域にしようとウラジーミル・プーチン氏が掲げる反グローバル主義および反リベラル民主主義の主張に共鳴しているが、それはEUおよびNATOの理念とは完全に相容れない。ローラバッカー氏は早い段階から親露路線を歩み、アメリカの国益を損なってでもオルタナ右翼の主張を通そうとしてきた。露・ジョージア戦争の最中にはジョージアがロシアを挑発したと非難もした。さらに重要なことはプーチン大統領の法律顧問ナタリア・ベセルニツカヤ氏がドナルド・トランプ・ジュニア氏とジャレド・クシュナー氏とトランプ・タワーでFBI捜査の対象になっている共謀のために会談していた最中に、彼は下院公聴会でマグニツキー法を非正当化しようとしたのである。ロシア捜査に関しては、ジェフ・セッションズ司法長官がロバート・ミュラー特別捜査官による捜査を中止しなかったと非難した。


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極右の枢軸:ローラバッカー下院議員(落選)とプーチン大統領


ロシア以外でもローラバッカー氏にはテロと人権の問題で、アメリカの下院議員としての資質を疑わせるような発言もあった。2017年にISISがイラン国会を襲撃して民間人17人の死者を出した際にはテロ行為を称賛している。そうした行為はヒューマンライツ・ウォッチと全米イラン系アメリカ人協会から厳しく批判された。さらにローラバッカー氏は、極右の問題児でホロコーストを公然と否定するチャールズ・ジョンソン氏から寄せられた支持に謝意を述べた。30年にわたる下院議員としての経歴を通じて、ローラバッカー氏は徹頭徹尾の反共主義者で、中国やイランなどアメリカの敵国に対してはタカ派であった。しかしプーチン大統領やヨーロッパの極右との緊密な関係のみならず、人権問題を軽視するような態度では、自らの政治理念をレーガン保守だと言ったところでアメリカの価値観とは相容れない。実際にローラバッカー氏は典型的なトランプ共和党員であり、だからこそカリフォルニア48区での彼の落選が反トランプ陣営にとって非常に重要になるのだ。

他方で何もかもが希望的だったわけではない。絶望的な結果は、アイオワ州4区で白人ナショナリストのスティーブ・キング下院議員が再選されたことである。ローラバッカー氏と同様にキング氏もオルタナ右翼の問題児である。今年の10月にはポール・ライアン議長ら下院共和党議員有志から、トロント市長選挙で極右のフェイス・ゴールディー候補を支持したことで厳しく非難されている。ゴールディー氏はカナダ版ミニ・トランプで、白人至上主義者のリチャード・スペンサー氏を称賛しているうえにネオナチ系の『デイリー・ストーマー』誌の特集記事にも登場している。キング氏はヨーロッパの極右と緊密なばかりか、プーチン氏についても元チェス世界チャンピオンのゲーリー・カスパロフ氏がアメリカへの亡命を余儀なくさせられたにもかかわらず、彼を殺害しなかっただけ寛容だと称賛するほどである。

いずれにせよ民主党が下院を制したとはいえ、オルタナ右翼の影響力は共和党と議会には残る。こうした観点からウィリアム・クリストル氏はトランプ氏が中間選挙後にはさらに過激で分断的になり、政権再編によってより忠誠度の高い閣僚を登用するようになるとの警告を繰り返している。ジョナサン・ラスト氏が『ウィークリー・スタンダード』誌11月9日号に寄稿した論文に言及したクリストル氏は、トランプ共和党にとって毛沢東思想の発想で自分達の党の支配が優先で、中国やロシアを相手にした戦略的競合などは二の次だと論評している。彼らは上院での過半数こそ維持したものの下院では敗れている。これでは立法能力の向上にはつながらない。しかしラスト氏によれば、トランプ共和党政治家はリベラル派ではなく従来の共和党政治家に戦いを挑んでいるということだ。トランプ氏の言動を顧みれば、こうした分析はあながち的外れとは言えない。トランプ氏は自らのスタッフには彼自身への個人的忠誠を要求している。また、中間選挙は自分達の勝利だとも言っている。これが党内抗争についてなら、意味が通じる。こうした見方に立てば、トランプ共和党政治家は反トランプ共和党候補が民主党候補に敗れても気にも留めないということになる。

ラスト氏は今選挙の結果について、共和党が過激化した一方で民主党は中道志向となったとの評価を下している。極右ポピュリスト達はプーチン政権下のロシアと深くつながっている。彼らは人権と法の支配を軽視している。こうした観点から、注目すべきはロシア捜査、そして民主党議員と「正気」の共和党議員がどのようにミュラー氏をトランプ氏の権力濫用から守り抜くかである。実際に、トランプ共和党勢は権力の掌握への執念が凄まじいので、捜査妨害ばかりかプーチン大統領さながらの国民への情報攪乱のためにはあらゆる手段を講じてきかねない。ポピュリスト過激派に見られる反主知主義がこうした傾向に拍車を駆けかねない。それが議会の政策的プロフェッショナリズムを低下させかねない。民主党が下院を制したとあっては、もはやオバマ・ケアは最重要問題ではなくなった。ロシア捜査こそが非常に重要になってくるので、反トランプ陣営はあらゆる手段を尽くして適正な捜査が行なわれるよう取り計らわねばならない。

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2018年10月 8日

書評:デービッド・フラム著“Trumpocracy”

トランプ政権はあまりに多くのスキャンダルと情報漏洩に見られるように、混乱しきっている。暴露本も数点が出版されて国民の関心を大いに寄せている。多くの人々の間ではトランプ氏のゴシップと特異な性格が話題になっているが、それはアメリカ政治の現状を理解するうえではそれほど役立たない。ドナルド・トランプ氏は毎日のように、悪臭が漂うかのように低俗な言動でアメリカ国内および全世界の人々に不快感を与えている。きわめて多くの有権者が、なぜ10代の反抗期の子のようにトランプ氏の反グローバル主義および反主知主義に惹きつけられたのかを理解することは難しい。正統派の政治経済学への反抗など破滅的な結末となることは明らかである。にもかかわらず、トランプ氏には彼に賭けてみようという強固な支持基盤がある。トランプ氏を支持するアメリカ国外のオピニオン・リーダー達は、トランプ氏に大きな期待をかけて激動の時代にある自分達の国の運営を委ねた無数のアメリカの有権者に対してもっと敬意を払う必要があると主張する。しかし我々はトランプ氏の無礼、無知、腐敗、そしてリーダーシップのスタイルがもたらす政治的な影響を批判的に見つめねばならない。

本書著者のデービッド・フラム氏はジョージ・W・ブッシュ元大統領の政権下でスピーチ・ライターを務め、現在は『アトランチック』誌の上級編集員である。フラム氏は保守派の論客として名高く、よって本書でのトランプ政権批判はリベラル派のプロパガンダではない。我々は多くの保守派知識人が「トランプの党」から去っていったことを銘記する必要がある。だからこそ彼の分析には非常に価値がある。『Trumpocracy』ではトランプ氏の政治における力の議論が中心で彼の性格は主要な問題ではない。すなわち、どのようにして力を獲得し、それがどのように使われたか、そしてそうした力の濫用がなぜ効果的に抑制されなかったのかということである。また本書ではトランプ氏自身についてよりも、彼の台頭をもたらして支持をしている有権者の方に重点を置いている。こうしたアプローチは政治学の基本に立ち返るものである。


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まずトランプ氏の台頭をもたらした前提条件を理解することが必要である。冷戦終結直後には敵対勢力も消滅したので、重要な政策課題は国家安全保障から当時の低成長や2008年の金融危機といった国内経済に移っていった。その結果、国内でのイデオロギー、文化、階級による対立が激化した。グラスルーツの心理がこのようになると、オバマ氏の出生疑惑のようなフェイク・ニュースの影響力が増してきた。トランプ氏はこの機を捉えた。フラム氏はトランプ氏が2016年に急浮上したわけではないと指摘する。2012年の共和党大統領候補指名争奪戦では、トランプ氏は4月には首位に躍り出た。彼はオバマ氏の出生疑惑にまつわる陰謀を訴えてグラスルーツの怒りを利用した。これは2016年の選挙運動でトランプ氏が行なったえげつない情報歪曲による対立候補への激しい誹謗中傷の原型であった。こうした観点からすれば、専門家達はトランプ氏が全世界の自由民主主義に与えた脅威を過小評価していた。

議論の前提を示したフラム氏は、トランプ氏がどのようにして力を獲得し、誰が彼を支援したかについて議論を進めている。まずトランプ氏の共和党予備選挙での台頭をもたらした人々、すなわちコア支持層がいる。彼らの怒りと苦悩こそトランプ氏を共和党予備選で最前線に押し上げた。グラスルーツ保守はトランプ氏に多大に魅了されるあまりイデオロギー的な一貫性など気にしていないが、グローバル化による文化的および経済的な不安定感に不満を募らせていた。そうした敗者意識に加えて、彼らは「情報ゲットー」にいるためにトランプ氏のプロパガンダに容易に乗せられてしまう。きわめて対照的なことに、こうした共和党支持層はテッド・クルーズ候補やマルコ・ルビオ候補が唱える「新しきアメリカの世紀」などに全く共感しなかった。トランプ氏の勢いが強まると、共和党でもそれまで彼への支持を躊躇してきた者も、ヒラリー・クリントン氏に対抗するにはトランプ氏しかいないと自らに言い聞かせるようになった。そうした宥和勢力は、ISISの台頭はクリントン氏の責任だなどのようにトランプ氏の対立候補に関するフェイク・ニュースの拡散に積極的に手を貸した。非常に興味深いことに、反エリート意識が労働者階級の女性をクリントン氏への投票を妨げた。こうした女性達にとってクリントン氏が掲げるジェンダーの平等などホワイトカラーに限られたものであって、自分達には全く関係ないのである。ティー・パーティーに典型的に見られるグラスルーツ保守は市場原理主義に固執しないが、民主党のようなポリティカル・コレクトネスに基づいて優先される福祉支援には反対している。いわば、トランプ氏の支持基盤は部族主義傾向が強く、社会的多様性には強く反対している。

上記の政治的メカニズムに加えて、本書ではトランプ氏がどのようにして汚い手を使って保守系メディアを自分のプロパガンダのための拠点に作り変えていったかにも分析のメスを入れている。非常に興味深いことに、今ではトランプ氏お気に入りメディアの一つとなっているフォックス・ニュースは、予備選初期には強固な反トランプ派であった。中でもメーガン・ケリー氏はメキシコがアメリカに犯罪者を送り込んでいるというトランプ氏の主張に疑問を呈した。非常に驚くべきことに、トランプ氏はCNNとのインタビューでケリー氏について不満を述べ続けた。当時は両局の立場は逆だったのだ。例によってトランプ氏はゴシップ漏洩による中傷という手段でケリー氏に報復を行なった。その結果、オルタナ右翼のタッカー・カールソン氏がケリー氏に代わってアンカーマンに就任した。我々がトランプ氏による保守系メディアへのハイジャックを注視すべき理由は、これが彼の行なったマフィア的なやり方での共和党征服の先駆けだからである。フラム氏はトランプ氏が恐怖と不安を利用して共和党を支配したのは、彼の常套手段だと指摘する。トランプ氏は不人気ではあるが、党内で彼に対抗する立場にあるポール・ライアン氏も教条主義的な財政規律重視で不人気である。このことが逆にトランプ氏が議会共和党より力を持つようにさせている。特に下院共和党は中間選挙後に自分達が多数派の地位を失う前に、トランプ氏に自分達の法案への署名を得ようと必死である。そうした懸念に駆られた彼らはロシア捜査からセクハラ騒動にいたるまで問題が噴出すると、トランプ氏の支持基盤と同等に彼を忠実に擁護しようとしている。

フラム氏が本書で統治の性質も重要な問題に挙げている。予備選期間中には共和党内の対立候補達はトランプ氏をラテン・アメリカのカウディーヨになぞらえた。トランプ氏の事業が不透明性で悪名高いことは、税務申告の情報が開示されていないことに見られる通りである。さらにトランプ氏はマール・ア・ラーゴなどにある自分のゴルフ・コースへの旅費に公費を使用しているばかりか、公的選挙資金から自らの情事の相手となった女性に口止め料を支払った。国民が道徳と社会規範の遵守を絶対的視している限り、政治家の行動もそれに従うことになる。しかし国民が政治家による非倫理的な行為を許容すれば腐敗は国中に蔓延し、彼らは自分達の間違った行為が許されるものと思い込み、やがては全ての国民が専制政治とクレプトクラシーを受け容れるようになってしまう。フラム氏はさらに、こうした要因がトランプ氏の政権スタッフへの態度にどのように暗い影を投げかけているかについても議論を進めている。トランプ氏は自分のスタッフを支配するために忠誠と追従を要求するが、その見返りは与えない。そして気に入らなければスタッフをすぐに解雇してしまうことでも悪名高い。よってこの政権に崇高な使命感をもって参加しようものなら究極的には裏切られることはエリオット・コーエン氏が政権移行期に述べた通りで、それはトランプ氏の突発的な発言への言い訳を余儀なくされるようになるからである。それが典型的に表れているのが2017年5月のNATO首脳会議でトランプ氏が第5条でアメリカに科せられた義務を軽視する発言をした時で、H・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官は大統領はそのような発言はしなかったと弁明せざるを得なかった。

トランプ氏の支持層と現政権が抱える苛烈な性質は、保守の方が道徳観念を重視する一方でリベラルの方がLGBTのような社会的異端派に寛容だという私の先入観を覆した。フラム氏はさらに、不正な選挙制度によってこうした問題点が強まったと言う。ヒラリー・クリントン氏が黒人有権者の支持の支持を得られなかったと指摘されることが頻繁である。実際に共和党は2012年中間選挙で収めた連邦および地方レベルでの勝利を悪用したことに本書では触れている。彼らは期日前投票の制限など新しい選挙ルールを作り、マイノリティーの投票を妨げた。その結果、2016年には黒人の投票率は下がった。選挙期間中にトランプ氏は自分にとって不利なことは全て「不正」だと非難した。しかし実際にはアメリカの政治システムはトランプ氏の支持基盤に対して極端で怪しげなほどに有利に働いている。共和党はバラク・オバマ前大統領に相次いで負け続けたトラウマが酷く、ホワイトハウスの奪還には手段を選ぶ余裕がなかったように思えてくる。

本書は現在のアメリカの陰鬱な政治的光景を詳述し分析している。さらに深刻なことに、フラム氏はトランプ氏の「ディープ・ステート」に対する反感が逆に民主的な統治を疎外してしまうと論評している。トランプ氏の就任以来、アメリカ国内および国外の政治アナリスト達は政権内の大人によるトランプ氏へのコントロールについて語っている。また、アメリカの政策専門家達はトランプ氏が何もかも覆そうとするなら、政府官僚機構、軍事組織、情報機関など連邦政府機関がトランプ氏を全力で阻止するだろうと主張する。実際に国家安全保障のエスタブリッシュメントはロシアのウラジーミル・プーチン大統領とのヘルシンキ首脳会談においてトランプ氏がアメリカの情報機関よりもプーチン氏を信頼するだのマイケル・マクフォール元大使をロシアの情報機関の尋問に引き渡すだのといったあきれるばかりの失言をした際に、そうした失言を訂正させた。しかしフラム氏は軍がトランプ氏では大統領に不適格だと見てしまえば、誰にも気づかれずに彼を指揮命令から排除してしまうという重大な懸念を挙げる。さらに、そうした動きによって国家安全保障関係の機関は大統領が誰であってもコントロール不能になりかねず、将来に民主党の大統領が選ばれても同様に疎外されかねないという不安も述べている。

私には上記のような事態は1930年代の日本で国民が大正デモクラシーへの信頼を失い、相次ぐクーデター未遂事件が起きて軍部の台頭をもたらした時局とそっくりに思える。現在のアメリカでは事態はそこまで絶望的なのだろうか?フラム氏によれば希望はあるということだ。トランプ現象はグローバル化による社会的不平等と大衆の怒りというエリート達が見過ごしてきた問題に光りを当てている。しかし彼の虚言政治は全米での抵抗の直面している。またトランプ氏とロシアの緊密な関係によって左側の政治勢力が覚醒し、国家安全保障への問題意識が高まっている。最後に、トランプ氏の中傷政治にどのように対処すべきかについてフラム氏の助言について述べたい。『ポリティコ』誌がカリフォルニア州パサデナで開催した会議に参加したフラム氏に対し、あるパネリストが「ソフト路線ではトランプ氏を止めることはできない。彼を止めたければ、我々は彼の手法を模倣しなければならない」と発言した。フラム氏はそれに対して「しかしトランプ氏の手法を模倣しても彼を止めることはできない。貴方が彼に取って代わるだけだ」と応じた。まさにフラム氏の言う通りなのだが、それを行なうことはきわめて難しいのは、腐敗臭が漂うように低俗なトランプ氏を前にすると怒りの感情が込み上げてくるからである。我々には忍耐と理性が必要になる。本書は無数の政治的なやり取りが詳細に述べられているので、読者を圧倒する。『Trumpocracy』ではフラム氏による冷静で説得力のある分析がなされているので、私は本書をトランプ政治の教科書として強く推奨したい。

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2018年8月 8日

ヘルシンキでのトランプ大統領によるプーチン大統領への危険な宥和

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自信に満ちたプーチン大統領と不安そうなトランプ大統領


ドナルド・トランプ大統領の選挙チームが2016年の大統領選挙でクレムリンとの共謀が疑われていることもあって、ヘルシンキ首脳会談についてアメリカの外交政策の論客達と情報関係者が重大な懸念を抱いていたが、それは正しかったことが明らかになった。当初の予想通り、トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領との共同記者会見においてメディアと安全保障の専門家達からの批判の渦を巻き起こした。この共同声明の全文書き下しを見ての通り、両首脳はクリミアやシリアといった重要な問題について詳細には語らずにこれらの問題をめぐる相互の見解の相違を述べただけだった(“Read the full transcript of the Helsinki press conference”; Vox; July 17, 2018)。そのためトランプ氏がプーチン政権によるクリミア併合を認めたのか、またシリアをロシアに委ねるのかは不明である。ともかくトランプ氏にはクリミア併合の合法性、およびシリア難民の人道的処遇についてプーチン氏に強く要求を押し出す意図などなかったものと理解されている(“Putin didn’t have to push the Kremlin’s narrative. Trump did it for him.”; Brookings Institution; July 20, 2018)。そうした中でトランプ氏はロシアは選挙に介入しなかったとプーチン氏が言うのでそれを信じると発言したので、あまりに安易に相手の言い分を受け入れる態度に批判が紛糾した。トランプ氏はアメリカの情報機関よりもプーチン氏を信頼すると言ったばかりか、ミュラー捜査で12人のロシア人スパイへの取り調べをさせる見返りにクレムリンが不都合と見なすアメリカ人および同盟国民に対する尋問をロシアの情報機関に認めるとまで言明した(“Trump Says He Lay Down the Law in His Latest Account of His Meeting With Putin”; New York Times; July 18, 2018)。

プーチン氏がトランプ氏にロシア当局による尋問を要求した人物には、クレムリンが反プーチン的な外交活動をしていたとするマイケル・マクフォール元駐露大使、元MI6工作員でトランプ文書でトランプ氏のロシアとの緊密な関係と不名誉な行状について記したクリストファー・スティール氏、ロンドン在住のビジネスマンでロシアから15億ドルを違法に持ち出してヒラリー・クリントン氏の選挙運動に4億ドルの献金を行なったとしてプーチン政権から指名手配を受けているビル・ブラウダー氏らの名が挙がっている。非常に重要なことに、ブラウダー氏はロシアの人権侵害に対する制裁を科す目的のマグニツキー法の成立のためのロビー活動を行なっていた(“White House says Trump to discuss allowing Russia to question US citizens”; Hill; July 18, 2018)。プーチン氏の要求に応じてアメリカおよび同盟国の国民の身柄を引き渡すなら、トランプ氏が固執する国家主権とは明らかに矛盾する。特にマクフォール元大使への取り調べというプーチン大統領の要求は言語道断で、しかもアメリカが国際刑事裁判所から距離を置いているのは自国の外交官を敵国から守るためである(Twitter; Richard Haass; July 19, 2018)。さらに重要なことにトランプ氏がプーチン氏との間で成した無分別なディールは、ウィーン外交関係条約の外交特権の侵害になる。トランプ氏はマクフォール氏のようなオバマ政権の高官、そしてスティール氏やブウラダー氏のように彼に不利な行動をとった者への個人的な復讐のためには、アメリカの主権などプーチン氏に切り渡してしまうように見受けられる。トランプ氏はロシアとの和解によって有権者の間で自身の人気が高まると思っていたが、逆に議会から超党派の激しい批判を浴び、政権内からもマイク・ペンス副大統領、ジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官、ジョン・ケリー大統領首席補佐官らホワイトハウスの陣営の加えてジェームズ・マティス国防長官とマイク・ポンペオ国務長官がトランプ氏とプーチン氏の間のディールに危機感を唱えた(“Pence, Bolton, Kelly confronted Trump in Oval Office about Russia comments”; Chicago Tribune; July 21, 2018)。

実際に外交政策の識者達はリベラルだろうが保守だろうか、トランプ氏とプーチン氏の和解には失望している。アメリカ政治へのロシアの介入にこだわっているのはリベラルの人達で、それはトランプ氏を貶めるためだという見方は全くの間違いである。現在の共和党はもはやレーガンやリンカーンではなく「プーチンの党」とまで言われるほどナショナリストで孤立主義になってしまったが、責任ある識者達はグラスルーツ保守の間で広まるそのように視野の狭い党派主義には染まっていない。アトランテック・ジャーナル誌のジェームズ・ファローズ氏は大統領がロシアの国益を優先する有り様に衝撃を受け、共和党支持者は党に忠誠を誓うのか国家に忠誠を誓うのかと問いかけている(“This Is the Moment of Truth for Republicans”; Atlantic; July 18, 2018)。ブッシュ政権のスピーチライターを務めたデービッド・フラム氏は、アメリカ政府はプーチン大統領とのディールについて何か聞いているのか、そのようなディールが存在するならトランプ氏はその意味が本当に分かっているのかという深刻な懸念を表明している(“The Worst Security Risk in U.S. History”; Atlantic; July 19, 2018)。マックス・ブート氏はさらに辛辣で、トランプ氏がプーチン氏と成したディールはアメリカ国民に対する敵対行為であり、彼の許し難い国家反逆をとりあげたことはメディアの大きな手柄だとまで述べている(“We just watched a U.S. president acting on behalf of a hostile power”; Washington Post; July 16, 2018)。自らを保守と見なす有権者の多くがトランプ氏を夢中で支持する有り様は非常に嘆かわしい。フォックス・ニュースによると共和党支持層の88%がトランプ大統領の職績を肯定的に評価している(Twitter; Fox News; July 24)。プーチン大統領がトランプ氏にロシア政府による捜査を認めるようにと要請したマクフォール氏とブラウダー氏はインタビューで、そうした過剰な要求はクレムリンがマグニツキー法にどれだけ戦慄しているかを示すものだと答えている(“Deeply disappointed”: Michael McFaul opens up about threat of being turned over to Putin by Trump”; Salon; July 20, 2018)。トランプ氏がそうした背景と外交的なやり取りの基本を理解しているか否かはともかく、彼はオバマ政権期の成果の破棄とミュラー捜査への直接的あるいは間接的な協力者への報復しか考えていないように思われる。

何よりも、トランプ氏が通訳以外に誰も同伴させずにプーチン氏と会談したことは非常に奇妙である。太ってたるんだ肉体の不動産屋上がりなど、筋肉質で引き締まった肉体の旧KGBエリートにはとても敵わぬことはホモ・サピエンスの常識である。チーム・アメリカになってはじめてチーム・ロシアと同等あるいはそれ以上に渡り合うことができるのである。それではトランプ氏がプーチン氏と一対一の会談を望んだのはなぜだろうか?外交問題評議会のリチャード・ハース会長は、こうした交渉スタイルはトランプ氏のビジネスマンとしての経験に由来すると述べている。トランプ氏は外交においても個人的な関係を重視している。官僚が準備した会談よりもトランプ氏が臨機応変の会談を好む理由は、相手方とより自由に議題を設定できるからである。しかし合意について公式の文書のない会談では何をすべきという義務も定義されないので、最終的にはディールの実施をめぐって相互不信になりかねない。双方が何かで見解の相違にいたった時にはディールの内容を読み直す手段がない。トランプ氏はそうした危険を軽視しているので、プーチン氏やキム氏など奸智に長けた独裁者のカモになりかねない(“Summing up the Trump Summits”; Project Syndicate; July 25, 2018)。またトランプ氏はロシアとの共謀が疑われていることから、さらなる考察が必要である。ワシントン・ポスト紙およびロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのアン・アップルボーム氏はロシアと英米の右翼がケンブリッジ・アナリティカを通じて情報を共有していたと指摘しているが、この会社がクレムリンによる選挙干渉でトランプ氏を支援したことはメディアの注目を集めた。ロシアおよび東ヨーロッパを専門とするアップルボーム氏は、オルタナ右翼のブライトバート・ニュースと緊密な関係にあったこのコンサルティング会社を通じて先に挙げた「悪の枢軸」がどのように形成されたかを説明している。ケンブリッジ・アナリティカはケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン氏を通じて8700万人のフェイスブック利用者の個人データを違法に入手し、トランプ氏、ブレグジット運動そしてテッド・クルーズ上院議員の選挙運動まで支援した。ロシアのインターネット・リサーチ・エージェンシーはケンブリッジ・アナリティカと共同でトランプ選挙チームと選挙情報を共有し、特定の有権者を標的にしたと疑われている。例を挙げると、トランプ氏の支持者には反移民のメッセージを送って立ち上がるように促し、黒人の有権者には歪曲された情報を送りつけて投票意欲を削いだ。ケンブリッジ社のデータが彼らの違法工作に一役買ったと考えるのは当然である(“Did Putin share stolen election data with Trump?”; Washington Post; July 20, 2018)。

ヘルシンキ首脳会議は、トランプ氏の国家に対する忠誠と外交上のやり取りへの理解不足以上に深刻な問題を露呈している。トランプ政権の発足時にはワシントン政治の観測者達は「政権内の大人」によって大統領の気質や不可測性には対処できると言ってきた。その後、レックス・ティラーソン国務長官とH・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官は更迭され、後任にはトランプ氏への忠誠とナショナリスト色の強いマイク・ポンペオ氏とジョン・ボルトン氏がそれぞれ就任した。しかし両人はトランプ大統領との関係が近くとも、プーチン氏とキム氏を相手に彼が行なおうとした準備不足でしかも危険な一対一外交を阻止できなかった。さらにトランプ氏はジェームズ・マティス国防長官をも遠ざけるようになり、軍事問題に関しても自分が主導権を握ろうとしている(“Trump is reportedly turning on Mattis and taking US military matters into his own hands”; Business Insider; July 25, 2018)。またジョン・ケリー首席補佐官自身がトランプ氏の任期終了まで現職に留まるとメディアに語っても、首席補佐官の大統領との緊張関係の噂は絶えない(“John Kelly, Trump’s chief of staff, says he will stay in role through 2020”; PBS; July 31. 2018)。閣僚達が大統領の歯止めとならないなら、プーチン氏との間には公開されていない合意もあるのだろうか?それはきわめて危険である。ドナルド・トランプ氏のコアな支持層はヘルシンキ首脳会談で露呈したきわめて憂慮すべき欠陥など気にもかけないだろうが、こうした問題を追及することは見識ある人々の責務であり、我々も俗悪なポピュリズムに迎合すべきではない。


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2018年7月16日

トランプ・プーチン首脳会談で世界秩序は破壊されるか?

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米露両国の首脳会議では、大国間の競合をめぐる世界の戦略的な光景が特にヨーロッパと中東で変わるとも考えられる。ヘルシンキで7月16日に開催される太った男と筋肉男の首脳会談は、北朝鮮という特定の核の脅威についての交渉に過ぎなかったシンガポールでの太った男と太った男の首脳会談よりもはるかに重要である。さらに、この首脳会談が開催される時期に合わせて12人のロシア人スパイが2016年アメリカ大統領選挙への介入で起訴された("U.S. accuses Russian spies of 2016 election hacking as summit looms" Reuters; July 14, 2018)。ヘルシンキ首脳会談と事前のNATO首脳会議を前に、ドナルド・トランプ大統領はドイツからの米軍撤退ばかりかロシアのクリミア併合承認まで口走って、批判を招いた。これは西側同盟と国際政治での法の支配の完全な否定である。さらにスティーブン・ウォルト氏はNATOとEUがなければヨーロッパは戦前のような国家中心の競合の場となるので、どちらの多国間安全保障機関もアメリカの国防費削減に一役買っていることをトランプ氏は理解していないと指摘する(“The EU and NATO and Trump — Oh My!”; Foreign Policy—Voice; July 2, 2018)。アメリカの安全保障関係筋ではヨーロッパ同盟諸国の不安を鎮めようとあらゆる手を尽くしている(“Withdrawal of U.S. troops from Germany is not being discussed, U.S. ambassador to NATO says”; Washington Post; July 5, 2018 および “Pentagon: White House did not request plan to withdraw Germany troops”; Washington Examiner; June 29, 2018)。クリミアに関してはジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官が7月1日放映のCBSニュース「フェイス・ザ・ネーション」に出演した際に, トランプ氏がプーチン政権による非合法的な強奪を承認しないと確約することができなかった (Twitter; Richard N. Haass; July 2, 2018)。さらに問題となるのは、トランプ氏がスタッフの同伴なしにロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談することである(Twitter; Richard N. Haass; July 4, 2018)。

トランプ氏とプーチン氏は強権的なリーダーシップを好み、同盟を尊重しないという思考様式で共通している(“Trump hopes he and Putin will get along. Russia Experts worry they will”; Washington Post; July 29, 2018)。よって専門家達はトランプ氏が選挙介入とシリアでプーチン氏に宥和姿勢をとるのではという危機感を抱いている。そうした中でトランプ政権はシリア南西部でヨルダンとロシアに支援されたアサド政権の間での停戦を模索している。そうした事情からトランプ氏はロシアとの妥協に余念がないが、アメリカの政府高官はアサド政権が再び化学兵器を使用しないか警戒している(“Trump is kowtowing to the Kremlin again. Why?”; Washington Post; June28, 2018)。アメリカの同盟国の間でもイギリスとウクライナはそれぞれが、ソールズベリ毒攻撃とクリミアおよびドンバスでのクレムリン代理勢力の活動によってロシアと厳しい対立を抱えている。そのため両国ともヘルシンキで致命的なディールが結ばれないかという重大な懸念を抱いている(“First Trump-Putin summit has Cold War backdrop, U.S. allies nervous”; Reuters: June 28, 2018)。最も危険な問題点は、トランプ氏がアメリカ外交にとっての同盟の重要性を評価できないままにプーチン氏と会談することである。ビクトリア・ヌーランド元駐NATO大使は、戦後を通じてアメリカの歴代大統領はヨーロッパ同盟諸国の支持を固めてソ連およびロシアの指導者との会談に臨んだが、トランプ氏はNATOがアメリカの対露外交に多大な力を及ぼしていることを理解していないがためにこうした立場を弱体化させていると論評する。さらにロシア国民はシリアやクリミアでの軍事的な成功によって自分達の愛国心を満足させるよりも、西側の制裁解除による経済の好転を望んでいる。言わばアメリカはロシアとの外交上のやり取りで相手よりも強い立場にある。しかしヌーランド氏はトランプ氏がクリミアや選挙介入の件でロシアとの妥協に傾き過ぎることで、最終的にプーチン大統領の立場を再び強くしてしまうのではないかと深刻な懸念を述べている(“In Two Summits, a Moment of Truth for Trump”; New York Times; July 6, 2018)。

しかし問題がトランプ氏自身より根深いのは、共和党がプーチン大統領が仕かける工作の簡単な餌食に陥ってしまったからである。以前の共和党はクレムリンに対してはより強硬であり、ビル・クリントン政権がボリス・エリツィン政権のロシアをG8に加盟させる決定を下した際には警戒の念をあらわにしていた。しかし現在の共和党が国家安全保障よりも党利党略を優先していることは、ヒラリー・クリントン氏のeメールへのロシアのハッキングの一件に典型的に表れている。このような雰囲気の中で、トランプ氏は外交政策のエスタブリッシュメントが長期的な同盟関係の構築に向けてきた取り組みを無下にあしらい、自分のビジネスの利益のための外交を追求している。それがかれの個人的な勝利のために行なわれるディール志向の外交である(“The Trump-Putin summit in Helsinki”; Economist; July 5, 2018)。そうした共和党の劣化に関してブルッキングス研究所のジェイミー・カーチック氏はさらに分析を進めているが、ここで注目すべきはジェブ・ブッシュ氏やマルコ・ルビオ氏の下であれば彼が共和党の外交政策の一翼を担っていた可能性のある人物だということである。よって「トランプの共和党」についてこれから述べる批判は、間違っても民主党革新派の観点からではない。クリントン氏のeメールの件で最も致命的な問題は、選挙期間中に大多数の共和党政治家はロシアが盗み取ったeメールを入手してクリントン氏への誹謗中傷を行なったことである。見過ごしてならぬことは、マイク・ポンペオ現国務長官もプーチン大統領とウィキリークスが仕掛けたこの誹謗中傷に積極的、しかも事情を承知のうえで関与したということである。共和党の中でもジョン・マケイン氏やマルコ・ルビオ氏などごく一部がプーチン政権の工作への支援を拒絶した。実のところアメリカの保守派の間で親露的な考え方が見られるようになったのはトランプ氏の台頭以前のことで、特に反LGBT運動など社会問題において顕著になっていた。またプーチン氏とトランプ氏の支持層は世界的に広まるミー・トゥー運動を馬鹿にしきっている。ポリティカル・コレクトネスやグローバル化に困惑した今の共和党支持層は、プーチン氏がKGBでの経験を通じて抱くようになった非自由主義的で反西欧的な価値観に惹かれるようになっている。彼らのアメリカ第一主義がプーチン氏の世界観と共鳴するのは、リベラルな世界秩序を下支えするNATOやEUのような多国間安全保障機関に対して彼らが懐疑的だからである。これぞ共和党の政治家や支持層が今や国家よりも党利党略を優先するようになった重要な理由である。「レーガンの党」はこのようにして「プーチンの党」に堕落してしまったのである("How the GOP Became the Party of Putin"; Politico: July 18, 2017)。

最後にヘルシンキ首脳会談がヨーロッパと中東を超えて及ぼすであろう影響について述べたい。中国外務省はこの首脳会談がグローバルな課題を解決するうえで一役買うことを望むと表明した("Trump-Putin Summit: China says meeting should help solve global problems"; CGTN; June 29, 2018)。そうした中でインドはトランプ政権がユーラシアから手を引くようになれば、この大陸全土で自国の影響力を強める新たな好機が訪れると見ているが、ヨーロッパはその結果もたらされる巨大な力の真空を憂慮している("Raja Mandala: Trump, Putin and future of the West"; Indian Express; July 3, 2018)。中国と北朝鮮の脅威増大に直面する日米同盟は、トランプ氏の問題発言はあっても表面上は上手く機能しているように見える。しかし彼の法外な選挙公約が本気であってハッタリでないことは、全世界を相手にした貿易戦争や先のNATO首脳会議での罵詈雑言にも見られる通りである。重要な問題は世界の中でのアメリカの役割と同盟ネットワークについて、トランプ氏が基本的にどのように考えているかである。ヨーロッパでも見られたように、トランプ氏は在韓米軍の撤退を口にして、日本を含む東アジア諸国の間に不安が広がった。それらの失言からは、彼の経営センスに基づく視点からはアメリカの同盟国など負債としか見ていないことがわかる。さらにウクライナでのクリミアおよびドンバスへの侵入、ソールズベリでのロシアの元スパイとイギリス人一般市民に対する毒攻撃、ヨーロッパとアメリカでの選挙介入といったクレムリンの所業に対するトランプ氏の宥和的なアプローチでは、国際政治における法の支配を侵害するプーチン氏の行動に青信号を発したのも同然である。それでは南シナ海での航行の自由作戦へのアメリカの関与にも疑念が生じる。また、ヨシフ・スターリンによる非合法的な北方領土の強奪に対する日本の訴えも土台から揺らいでしまう。トランプ・プーチン首脳会談にはあまりにも多くの懸念材料がある。


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2018年4月18日

ネオコンに評価されないボルトン補佐官

国際社会はドナルド・トランプ大統領が政権再編でレックス・ティラーソン国務長官とH・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官を更迭し、マイク・ポンぺオCIA長官とジョン・ボルトン元国連大使をそれぞれの後任に指名したことに衝撃を受けた。北朝鮮危機が深まる中、トランプ氏への忠誠心が高いタカ派の指名は全世界の外交政策の専門家に懸念を抱かせている。ポンぺオ氏は上院の承認を待たねばならないが、ボルトン氏は4月9日に執務を開始した。歯に衣着せぬ言動のボルトン氏と常識にとらわれぬ言動のトランプ氏は互いに馬が合うと一般には見られている。しかし両者の間では外交政策観にある種の齟齬が見られる。特にボルトン氏は一般にはネオコンと見なされ、イランや北朝鮮のような無法者国家へのレジーム・チェンジを積極的に主張する一方で、トランプ氏はビジネスマン式の損益思考と孤立主義に傾倒している。そうしたことから、政権移行期にボルトン氏の国務長官起用が噂された(”Bolton would consider serving as Trump's secretary of State”; Hill; August 23, 2016)が私はそれに懐疑的であった。こうした観点から、トランプ氏とマクマスター氏のミスマッチはあっても彼が国家安全保障担当補佐官に任命されたことは驚きであった。

しかしボルトン氏とトランプ氏の間には特にロシアと中東で政策の齟齬が見られる。BBCによると両者の政策が一致するのは5件中3件だけである。両者とも北朝鮮への先制攻撃は正しいと信じている。イランについても必要なら空爆も厭わない。さらに両者とも国連を信用せず、主権国家に基づいた世界システムの方が好ましいと考えている。他方でボルトン氏はイラク戦争でのサダム・フセインの脅威除去は正しかったと強く信じているが、それはトランプ氏とは正反対の立場である。ロシアも両者の意見が食い違っている問題である。皮肉にもボルトン氏は前任者のマクマスター氏がトランプ氏とこの問題をめぐる衝突を余儀なくされたにもかかわらず、2016年大統領選挙でのロシアの介入を認めている(“John Bolton: Five things new Trump security adviser believes”; BBC News; 23 March, 2018)。この観点からすれば、シリアおよびその近隣地域でのロシアの支配がボルトン氏とトランプ氏の間で将来の摩擦の火種になる可能性も有り得る。著名な専門家からの激しい批判があっても、トランプ氏は以下の悪名高き選挙公約に固執するほどである。そうした公約には貿易相手国が同盟国か否かにかかわらず関税引き上げ、メキシコとの国境の壁建設の予算を勝ち取れなかったので現地に軍を派兵、TPPから撤退、気候変動をめぐるパリ協定の破棄などが挙げられる。これでは誰が補佐官であってもトランプ氏との衝突を回避することはきわめて難しい。

さらに厳しい批判が寄せられているのはかつての仲間であった「ネオコン」からで、彼らのほとんどは選挙中にはネバー・トランプ運動に参加していたがボルトン氏は終始一貫してヒラリー・クリントン氏ではなくトランプ氏を支持していた。そうした声を列挙してみたい。選挙期間中に反トランプ運動を主導したジョンズ・ホプキンス大学のエリオット・コーエン教授は、トランプ氏がティラーソン氏とマクマスター氏を更迭してポンぺオ氏とボルトン氏を指名したことで政権内に抑制役を果たすものがいなくなると懸念している。そこでコーエン氏はマクマスター氏に回顧録の執筆によってトランプ氏の政権運営の混乱ぶりを世に知らしめ、国民を啓発するように提言している(“McMaster's Choice”; Atlantic; March 23, 2018)。外交問題評議会のマックス・ブート氏はさらに辛辣に論評している。歴史上の大統領は政権再編の際には議会や連邦政府官僚機構との共通の立場を模索してきたが、トランプ氏は摩擦を起こしがちなボルトン氏をマクマスター氏の後任に据えた。ブッシュ政権期には、国際条約及び国際機関の軽視をあらわにするボルトン氏の国連大使任命に対して、上院の承認が遅れた。実際に大使に就任すると、国連ではアメリカの指導力を発揮できなかった。国家安全保障担当補佐官には外交政策や国防に関わる諸官庁の調整で対人関係の能力が求められるが、ボルトン氏はそうしたことが得意ではない。最も危険なことは核保有国となった北朝鮮への先制攻撃ばかりか、アメリカによるイラン非核化の代替案もなしに核合意からの脱退を主張している(“Add another zealot to the White House”; Washington Post; March 22, 2018)。ブート氏は国連の過剰人員とレッドテープについてはボルトン氏に同意しているが、ボルトン氏がEUとイスラムに対して抱く反感に見られるようなナショナリストで権威主義的な思考様式は共和党主流派の理想主義的な国際主義よりもトランプ主義に近いと評している(“Why I changed my mind about John Bolton”; Washington Post; March 26, 2018)。

ボルトン氏は「新世紀アメリカのプロジェクト」によるイラクのレジーム・チェンジ運動に参加はしていた(“PNAC and Iraq”; New Yorker; March 29, 2009)ものの、ウィリアム・クリストル氏は自らが主宰するウィークリー・スタンダード誌による3月23日のインタビューで、彼はネオコンではなく国益重視のタカ派だと答えている。実のところボルトン氏は北朝鮮とイラン両国でのレジーム・チェンジを主張しているからといって、民主化の促進や人権といった普遍的な価値観にはそれほど関心は高くない(“Bolton Brings Hawkish Perspective To North Korea, Iran Strategy”; NPR News; March 22, 2018)。言い換えれば、ボルトン氏はアメリカの国家安全保障に重大な脅威を与える国の体制を転覆したいだけなのである。クリストル氏の分析は妥当に思われ、実際にボルトン氏はエジプトやサウジアラビアの民主化などほとんど支援していない。アブデル・エル・シシ大統領や湾岸諸国の首長の独裁政治など、アメリカの緊密な同盟国である限りは気にも留めないだろう。そうした人物であれば、ネオコン的な理想主義よりもトランプ流のアメリカ・ファーストの方が思想的に合致する。他方でクリストル氏はボルトン氏がトランプ氏の孤立主義に同意はせず、アメリカ外交強化のためにもNATOや日本などとの強固な同盟関係が必要だと信じていることに言及している。この点から、ボルトン氏がトランプ氏のロシア政策にどれだけ影響力を及ぼせるかは非常に重要である。差し迫った問題は、ボルトン氏が北朝鮮とイランに対して開戦に踏み切ろうというトランプ氏の本能に拍車を駆けるか抑制するかである。ボルトン氏は北朝鮮への先制攻撃とJCPOAの破棄を主張しているので。トランプ氏の好戦性に拍車を駆ける可能性の方が高い。クリストル氏はブート氏ほど辛辣ではないものの、タカ派のボルトン氏と短気なトランプ氏という組み合わせには、同じボルトン氏が共和党主流派の大統領だったブッシュ父子の政権にいた場合には抱かなかったような懸念を抱いている。

ともかくメディアではイラク戦争を支持した者には誰彼構わずネオコンという語が用いられる。実際には一般にネオコンと呼ばれる者には広範囲の外交政策の権威が含まれ、ボルトン氏のように自らをはじめから徹頭徹尾の保守派だと見なすものもあれば、ロバート・ケーガン氏のように自身の思想はリベラルで伝統的な国際介入主義に基づいていると主張し、先の大統領選挙では早くからクリントン氏を支持した者もいる。メディアも外交問題の専門家も語句の使用は正確な定義に基づくべきである。しかしボルトン氏がネオコンではないとしても、国務省での長年のキャリアにもかかわらずトランプ氏をそれほど強く支持するのはなぜだろうか?トランプ氏が台頭するまで、米国内外の外交政策関係者の間ではポスト・アメリカ志向のバラク・オバマ大統領の後はヒラリー・クリントン氏であろうが共和党主流派の誰かであろうが、アメリカの国際的指導力は回復するものと思われていた。しかしボルトン氏はクリントン氏の介入主義には非常に懐疑的であった。その一例として挙げているのは2011年のリビア内戦への米軍の介入である。クリントン氏はリベラル・タカ派だと一般には見られているが、ボルトン氏はリビアがテロ支援を再開しているにもかかわらず国際社会の承認なしにムアマル・カダフィの放逐に乗り出そうとしなかったほど臆病だと主張する。彼の見解では国連が支持する人道的な介入は民主党の標準的な外交政策で、ヘンリー・ジャクソンの思想とはほとんど相容れないということである(“Hillary and ‘interventionism’”; Pittsburgh Tribune Review; May 7, 2016)。クリントン氏の「消極」外交を批判する一方で、ボルトン氏はトランプ氏がテロとの戦いがイスラム過激派による西欧へのヘイト・イデオロギーだと理解しているとして称賛している。そうした事情から、オバマ氏とクリントン氏の法執行のアプローチとは正反対になるトランプ氏のイスラム教徒入国制限を支持した。非常に興味深いことに、ボルトン氏はイランと北朝鮮でのレジーム・チェンジを主張しているにもかかわらず、法的、政治的、文化的基盤のない国でのネイション・ビルディングは一顧だにする価値がないと見ている(“What Trump’s foreign policy gets right”; Wall Street Journal; August 21, 2016)。

そうした矛盾はあるもの、ボルトン氏の積極的ネショナリズムとトランプ氏のフォートレス・アメリカ的な孤立主義との間にはいく分かの食い違いはある。この観点から、シリア内戦は両者んとって重大な試金石である。トランプ氏はアサド政権による化学兵器攻撃に対してイギリスとフランスとともに空爆に踏み切った(“US strikes three Syrian sites in response for chemical attack”; Military Times; April 14, 2018)が、この事件の前にはシリアからの米軍撤退計画を示唆して軍首脳から強い抵抗を受けていた(“Trump gets testy as national security team warns of risks of Syria withdrawal”; CNN News; April 5, 2018)。トランプ氏は力を誇示したかも知れないが、外交問題評議会のリチャード・ハース会長はツイッターで「アメリカの攻撃は正当なものだが、シリアの化学兵器使用には限定的な反応に過ぎない。アメリカのシリア政策には目立った変化はない、すなわちアメリカは現体制の弱体化に向けた行動はとらなかった。また今後のアメリカの政策やシリアでのプレゼンスに関しても明確になっていない」と発言している。

現在のシリア政策はロシアおよび中東政策と深く絡み合っている。ボルトン氏はトランプ氏にフォートレス・アメリカの本能から脱却するよう説得できるだろうか?問題はトランプ氏の選挙基盤である。彼らはトランプ氏がシリアをめぐってヒラリー・クリントン氏やジョージ・W・ブッシュ氏にようになっていると失望している(“Trump supporters rip decision to strike Syria”; Politico, April 13, 2018)。ステーブ・バノン氏やセバスチャン・ゴルカ氏といったオルタナ右翼は政権から去ったが、トランプ氏の支持者の間で人気があるFOXニュース・アンカーマンのタッカー・カールソン氏は民主・共和両党の外交政策で指導的な役割を果たす人物を非難して孤立主義を広めている(“Tucker Takes on Critics Over Skepticism of Syria Strikes: They Want You to 'Shut Up and Obey'” FOX news; April 11, 2018)。ボルトン氏はネオコン的理想主義を信奉していないかも知れないが、外交に長年携わった者としてこの政権の基盤となっているポピュリスト的な孤立主義をも乗り越えてゆかねばならない。それは非常に難しい仕事である。


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2017年12月21日

アメリカ外交政策を深刻に歪めるトランプ政権

ドナルド・トランプ氏が昨年11月の大統領選挙で悪夢のような勝利を収めてから、アメリカ国内外の外交政策関係者達は彼のアメリカ第一主義という公約が現実に擦り合わせられるか注視している。中東からヨーロッパに至る大統領としての公式訪問と国連総会での演説は大いに注目され、そして最後の東アジア歴訪によってトランプ氏には物議を醸す公約の維持によって国内での自分の支持基盤を喜ばせることの方が、人権、環境、自由貿易といった国際公益の追求よりも重要なのだということが明白になった。またトランプ氏はロシアとの共謀がFBIの捜査の対象であるにもかかわらず、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛し続けている。他方でトランプ氏はイランと北朝鮮の脅威を重大なものと受け止めているが、そうした脅威への対応が適切とは言い難い。またサウジアラビアへの大々的な贔屓によってカタールがイランへの傾斜を強めることになった(“Iran, Turkey sign deal with Qatar to ease Gulf blockade”; Middle East Eye; 26 November 2017)。キム・ジョンウンとのツイッターでの喧嘩にいたっては何の成果もなく緊張を高めるだけである。

まずトランプ氏の外交政策の概要を述べ、それが世界の中でのアメリカの地位にどれだけ酷く悪影響を与えたかを議論してゆきたい。リアリストから国際介入主義者、そしてリベラルから保守にいたるまで、トランプ氏のように狭い視野で自己本位な外交政策で集団防衛も多国間合意も軽視する態度では国際社会でのアメリカの名声を貶めるとの認識が共有され、識者の間では懸念が挙がっている。外交問題協議会のマックス・ブート氏はトランプ氏批判の急先鋒であるネオコンの立場から、この大統領のアジア歴訪ではアメリカの責務が見過ごされたと論評している。中国ではトランプ氏はシェール・ガス、民間用ジェット機、マイクロチップなどの販売で2・5億ドルにのぼる商談に気を奪われ、貿易交渉の方は進展を見なかった(“These are the companies behind Trump's $250 billion of China deals”; CNN Money; November 9, 2017)。そうした中でベトナムではアメリカ第一主義を強調し、「自由で開かれたインド太平洋地域」を口にはしたものの、それが安倍晋三首相の提唱する日本の新しい外交の基本理念からの借り物であることは明白だった。しかしそうした表層的な言葉と裏腹にトランプ氏はTPPの批判に、アメリカ国民は多国間貿易合意のカモにされてきたとの認識を口にしたが、それは安倍氏の世界観とは全く相容れないものである。

さらにブート氏はトランプ氏の外交での振る舞いについてより根本的な問題を挙げている。この大統領は金星章戦死兵の両親やジャーナリストといった自分より弱い立場にある者と対立する時には非常に攻撃的だが、習近平国家主席やプーチン大統領のように本当に強い立場にある者と一対一で向き合う時には信じられないほど臆病になる。トランプ氏は人権にも言及せず劉暁波氏への哀悼の意も示さなかったかばかりか、習氏には知的所有権と不公正な貿易慣行で問い詰めることできなかった。同盟諸国がトランプ氏の独断的で取引志向の外交を信頼しないのも当然である(“Trump’s Worst Trip Ever. Until His Next One.”; Foreign Policy --- Voice; November 14, 2017)。トランプ氏はプーチン氏に対してもこのような振る舞いで、G20の折の両首脳直接会談直後にはロシアによる選挙介入がなかったと「信じる」とまで言った。

トランプ氏は自らの国際政治観をヘンリー・キッシンジャー氏に負っているとしているが、リアリストからも重大な懸念が寄せられている。ハーバード大学ジョン・F・ケネディ・スクールのスティーブン・ウォルト教授は、トランプ氏は民主主義と自由といったアメリカの価値観の普及など馬鹿にしきっているので、彼の世界観はアメリカが数十年にわたって築き上げた外交政策の財産を潰している。普遍的価値観がもたらす利点を軽視する一方で、取引本位の外交を追求するトランプ氏には国益と個人の利益の区別がつかない。これが典型的に表れたのは、中国とサウジアラビアへの訪問の時だった。トランプ氏の交渉技術は相手方に機嫌を取られるだけで、アメリカの重要な国益とも言うべき自由貿易、地域安定などを犠牲にしている。さらに危険なことに、トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領、トルコのレジェップ・エルドアン大統領、ポーランドのヤロスワフ・カチンスキ首相、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領といった独裁者がどのような政治を行なっているか理解せず、しかもそれが世界の中でのアメリカの立場をどれほど悪くするかも理解せずに称賛している(“Trump Isn’t Sure If Democracy Is Better Than Autocracy”; Foreign Policy --- Voice; November 13, 2017)。トランプ氏の我流リアリズムは不動産事業経営の経験に根差すものと思われ、そこから熾烈な競争の中で相手を出し抜く術を学んだのだろう。しかし国家と国家の関係はこのようには動かず、彼に言うように騙すか騙されるかの二分法に基づく世界観は、国際政治における多国間の枠組みを理解するうえで無知無教養ところか裏社会の人々のような思考様式である。

トランプ氏は自らを交渉術の達人だと吹聴するが、アメリカの情報機関よりもプーチン氏を「信用」すると口にするほど不用意である。そのように危険な不用意さはこの人物の自慢と矛盾している。ジョン・マクローリン元CIA副長官はそのようになる理由をいくつか挙げている。まずトランプ氏はアメリカの情報機関がもたらすロシアによる選挙介入の情報を信じていない。よってプーチン氏への称賛によって情報機関関係者を攻撃したいとの目論見がある。またロシアによる選挙介入をめぐる論争に国民の注目が集まれば、ロシアはアメリカで次の選挙の機会に介入しても警戒の目を逸らせるので、トランプ氏には究極的に有利に働く。さらにトランプ氏は特にシリアではロシアがアメリカにとって不可欠な戦略的パートナーだと信じている。彼の見解は誤りだが、プーチン氏のパーソナリティーとリーダーシップの在り方に惚れ込んでしまっているとあってはどうしようもない(“Why Putin Keeps Outsmarting Trump”; Politico; November 17, 2017)。トランプ氏の危険なほど不用意な態度はサウジアラビアに対しても見られる。それはモハマド・ビン・サルマン皇太子による「改革」がどのようなものもわからぬ段階で支持を表明し、この国との安全保障協力を進めようとしていることである。しかしイランへの対抗でサウジアラビアへの依存を強めることはリスクが大きく、ワッハーブ派を奉ずる王国の政治的安定性には疑問の余地がある(“Game of Thobes: Saudi Arabia”; AEIdeas; November 7, 2017)。いずれの場合もトランプ氏はタフ・ネゴーシエーターというよりは簡単なカモになっている。

トランプ氏がアメリカの外交政策での実績と伝統を軽視する根本的な理由は、主流派の政治家や知識人に対する根拠のない優越感であると指摘するのはブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏である。トランプ氏はスティーブ・バノン氏の助力で共和党を征服してしまった。両人には党の理念にもエスタブリッシュメントにも敬意を払う必要がないのは、主流派がバラク・オバマ氏への敗者であり続けたのに対して自分達は民主党を破ったと見なしているからである。党の組織と選挙基盤を征服してしまったトランプ氏は今や共和党そのものを自分の個人的な選挙マシーンとして利用している(“Faster, Steve Bannon. Kill! Kill!”; Washington Post; October 11, 2017)。『ナショナル・アフェアーズ』誌のユバル・レビン編集員はさらに、トランプ氏は経営の天才である自分は主流派の政治家や知識人より優秀だと信じ込んでいるからだと評している(“Donald Trump”; Entertainer in Chief”; National Review; November 27, 2017)。よってトランプ氏がウッドロー・ウィルソン以来のアメリカ外交政策の実績と伝統を何の未練もなく捨て去ろうとするのは、成るべくしてなったとしか言いようがない。トランプ氏が政権内で自分より知識も見識もある閣僚からの助言さえ一笑に付してしまうことが典型的に表れているのが、ジェームズ・マティス国防長官とレックス・ティラーソン国務長官が中東でアメリカの外交官と駐留部隊の安全と言う観点からエルサレムへの大使館移転に深刻な懸念を表したにもかかわらず、彼自身がその決行に踏み切った一件である(“Mattis, Tillerson warned Trump of security concerns in Israel embassy move”; Hill; December 6, 2017)。トランプ氏を政権内の大人達によってコントロールすることは実際には非常に困難である。

さらにこの政権が本質的にアメリカの誇るべき外交官集団に対して侮蔑的だということを理解する必要がある。それはレーニン主義に基づいて「行政国家の破壊」を目指すバノン氏の一味だけのことではない。国際社会は北朝鮮危機で見られるように、ティラーソン長官をマティス長官やH・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官と並んで大統領を主流派の政策に導こうとする政権内の大人と見なしている。確かにティラーソン氏はオルタナ右翼ではないが、実際には国務省のプロフェッショナルな組織を損益重視の観点から破壊している。新規卒業者の職員募集を停止したことで、数百万ドル以上のプロジェクトの実施が大幅な人員不足に陥るであろう。職業外交官達はティラーソン氏による企業経営者さながらの組織運営に当惑している(“Present at the Destruction: How Rex Tillerson Is Wrecking the State Department”; Politico; June 29, 2017)。人員削減計画は省内全職員の9%にも達するほど急激なものである。さらに国務省の外交官の間ではティラーソン氏が連れてきた少数の側近だけで政策形成を行ない、自分達が排除されることへの批判が高まっている(“Tillerson Seeking 9% Cut to U.S. State Department Workforce, Sources Say”; Bloomberg News; April 28, 2017)。

問題は「外交の効率性」の名のもとに行なわれる国務省の人員削減と30%に及ぶ予算削減を超えたものである。ティラーソン氏は重要な問題を担当する部局や特使を削減しているが、その顧問となっているマリーズ・ビームズ氏は金融コンサルタントのキャリアを積んできたが外交政策には全く経験がない。廃止となる特使にはシリア、スーダン、南スーダン、北極圏の担当が含まれている。しかし議会の反対派はティラーソン氏に対し、特使は政治家の間で安全保障上の重要な課題に注意を引きつけるために必要で、こうした問題が忘れ去られることなきようにするためのものであるとの理解を求めている。廃止された特使は省内の他の部局に統合される(“First on CNN: Tillerson moves to ditch special envoys”; CNN Politics; August 29, 2017)。また民主化、人権、労働を担当する局が廃止される(“Tillerson 'offended' by claims of State Department's hollowing out”; Politico; November 28, 2017)。国務省各局から国連代表部に派遣される人員も削減される。例えばアフリカ局からは30人の人員が3人に削減される(“With Cost-Cutting Zeal, Tillerson Whittles U.N. Delegation, Too”; New York Times; September 15, 2017)。より問題視すべきは、ティラーソン氏が「上院での承認にかかる時間と費用の節約のため」と称して省内の重要ポストの人員を指名してい、ないことである。中でもアフリカ、東アジア、南および中央アジア、近東、そして西半球担当の国務次官補が空席のままである。ニコラス・バーンズ元国務次官とライアン・クロッカー元駐イラクおよび駐アフガニスタン大使は「トランプ大統領の急激な国務省予算削減と我が国の外交官および外交そのものを軽視する態度は素晴らしい外交官集団の喪失につながりかねない脅威である」と非難している(“Tillerson 'offended' by claims of State Department's hollowing out”; Reuters News; November 29, 2017)。

ティラーソン氏は国務省と国際開発庁の統合さえ打ち出しているが、外交機関と開発援助機関の役割は根本的に異なるものであり、だからこそ主要先進国では両者は分離されている。国務省は政策形成と外交を通じてアメリカの対外関係に対処するのに対し、国際開発庁は効果的で説明責任のあるプログラムの管理運営を通じて現地社会のエンパワーメントを支援する。こうした目的に合わせて国務省は中央集権的でヒエラルヒー化した組織運営がなされるのに対し、国際開発庁はボトム・アップの運営がなされるのは、災害救済活動に典型的に表れている。よって国務省の職員はゼネラリストで占められるが、国際開発庁ではスペシャリストで占められる(“Tillerson wants to merge the State Dept. and USAID. That’s a bad idea.”; Washington Post; June 28, 2017)。しかし真の問題はティラーソン氏でなくトランプ氏である。11月末にメディアでティラーソン氏に代わってマイク・ポンぺオCIA長官の国務長官登用が伝えられた時期、ブート氏はポンぺオ氏がCIAはロシアの介入は選挙に影響を与えなかったという結論に達したという誤った主張をしたことで情報官僚機構と衝突したことを指摘した(“Tillerson State Department ouster is overdue, but won't solve the Trump problem”; USA Today; November 30, 2017)。マティス氏やマクマスター氏のような純然たるプロフェッショナルな軍人と違い、ポンぺオ氏は陸軍を退役してから政党政治家となっているので、そのようにしてトランプ氏にすり寄るのも不思議ではない。政権内の大人がトランプ氏をコントロールするなどという期待は、この政権が本質的に政府の専門的官僚組織に侮蔑的なことを考慮すればあまりに楽観的である。彼らに「アメリカが作り上げた世界」がそれほどアメリカの国益と国際社会に寄与してきたかを理解できない。現在の政権内ではマティス氏ぐらいしか大人はいないのではないか。先のアラバマ上院補欠選挙でロイ・ムーア氏が落選した今、超党派の良識と良心が勢いを取り戻してトランプ衆愚政治に立ち向かえるかが死活的に重要になっている。


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2017年7月19日

トランプ大統領は外交から手を引くべきだ

非常に嘆かわしいことに、ドナルド・トランプ大統領は選挙中の公約であったアメリカ第一主義を変えることもないばかりか、さらに痛ましいことには彼の中東およびヨーロッパ歴訪の前に自らの政権の閣僚達が同盟国との相互信頼を再構築しようとした努力の一つ一つをぶち壊しにしてしまった。トランプ政権の発足からほどなくしてマイク・ペンス副大統領、レックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官らが訪欧して大西洋同盟へのアメリカの関与を再確認したことで、ヨーロッパ諸国民は安堵した。閣僚達はトランプ氏が大統領として国際舞台にデビューするお膳立てをした。しかしトランプ氏の歴訪は地域安全保障に対するアメリカの関与に疑念を抱かせるだけになった。今や我々はトランプ氏を安全保障上のリスクとして真剣に考える必要があるのは、国際安全保障でのアメリカの役割に関する彼の理解が乏しいからである。このリスクは同氏の選挙運動中から予期されていた。

まずトランプ氏のNATO首脳会議参加について述べたい。会議の場ではトランプ氏は第5条の相互防衛義務に言及しなかったことで米欧双方から深刻な懸念の声が挙がったが、それは歴代のアメリカ大統領が常にこれに言及してきたからである。さらに驚くことに、選挙中にNATOは時代遅れだと言った時には、米欧の同盟関係についてよく知らなかったとトランプ氏が認めたことである(“Trump didn’t know ‘much’ about NATO when he called it ‘obsolete’: report”; Hill; April 24, 2017)。それなら第5条の重要性を理解していなかったのも無理はない。トランプ氏が集団防衛の中核に言及しなかったことはヨーロッパの同盟諸国を驚愕させ、政権内の外交政策スタッフを当惑させた。実際にマティス長官とティラーソン長官とともに、H・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官はトランプ氏の演説原稿に第5条を含めるように進言した。しかしトランプ氏がそれに言及しなかったということは、彼らの専門的知識に敬意も払わぬどころか、どれほど危険であっても自分がやりたいようにやるということを意味する(“The 27 Words Trump Wouldn’t Say”; Politico; June 9, T2017)。それどころか、トランプ氏は夕食会でヨーロッパ同盟諸国の国防支出の少なさを非難した。さらにアメリカはヨーロッパ防衛から手を引いた方が良いとまでのたまった。ジム・タウンゼント元国務副次官補は、トランプ氏の不適切な発言は国家安全保障を担うだけの自制心が効かないことを示すと辛辣に述べている(“Trump Discovers Article 5 After Disastrous NATO Visit”; Foreign Policy; June 9, 2017)。

そのような無知と人格的未熟性は中東でも問題をもたらしている。サウジアラビアによるアメリカへのインフラ投資を受け入れる一方で、トランプ氏は彼らにカタールへの非難と域内での孤立化を行なうことを許した。実際にトランプ氏の中東訪問での第一の関心は商取引であって、地域安全保障の複雑な事情については自らの政策顧問に耳を傾けなかった (“Trump and the Damage Done”; Carnegie Endowment for International Peace; June 16, 2017)。カタールは相対的にイランに妥協的ではあるが、中東では最大の米海軍基地を提供している国でもある。実際に専制国家のサウジアラビアとそれに同調するエジプト、アラブ首長国連邦、バーレーンと言った国々はカタールでの報道の自由を恐れ、それがアラブの春をもたらしたと警戒している。以下ビデオを参照されたい。



よってサウジアラビアはトランプ氏に好条件な投資を持ちかけて媚びへつらいと敬意を渇望する彼の気持ちをくすぐり、カタールに対する外交関係断絶と制裁を認めさせた(“Saudi Arabia stroked Trump's ego. Now he is doing their bidding with Qatar”; Guardian; 7 June, 2017)。

しかしトランプ氏がサウジアラビアによるカタールへの圧力行使を認めてしまったことで湾岸地域での対イラン同盟の強化どころか、地域大国の競合が複雑化した。トルコはカタール支援に介入してきたが、それはエルドアン政権がアラブの春においてエジプトで政権をとったムスリム同胞団を支持しているからである(“Saudi Arabia is playing a dangerous game with Qatar”; Financial Times; June 15, 2017)。その結果、イラン、サウジアラビア、トルコの間で緊張が高まった。トランプ氏の無謀なアプローチはアメリカの中東政策をも混乱させている。議会においては共和党のボブ・コーカー上院議員はトランプ氏がツイッターでサウジアラビアとカタールの敵意を煽ることについて、外交委員長の立場から非難した(“Foreign Relations chairman stunned by Trump's Qatar tweets”; Hill; June 6, 2017). より深刻な問題は大統領と国防総省との亀裂である。ペンタゴンと国務省はトランプ氏のサウジアラビア寄りな暴言からカタールを擁護している(“Trump takes sides in Arab rift, suggests support for isolation of Qatar”; Reuters News; June 6, 2017)。 ヨーロッパと同様に、中東でも現政権の閣僚と政府官僚はダメージ・コントロールに多大な労力を投じざるを得ない。

これら外交上の失敗に鑑みて、ペンス氏とマティス氏がアメリカの軍事的プレゼンスの継続性を改めて保証した東アジアでトランプ氏が同じ間違いを繰り返さないことを望む。特に日本と韓国は北朝鮮危機への対処のためにも、そうした最保証を必要としている。ヨーロッパでもそうであったように、トランプ政権の閣僚達は良い仕事をした。しかしトランプ氏が極東を訪問するとなれば、彼の不用意な発言によって太平洋の安全保障パートナーシップはに被害が及びかねない懸念がある。現在、東アジアは19世紀的な大国の競合が最も激しい地域である。トランプ氏の思慮分別を欠いた失言によって予期せぬ緊張が引き起こされかねない。特に歴史認識での不用意な発言は日中韓の関係を複雑にしかねない。トランプ氏がマール・ア・ラーゴでの会談で習近平主席の歓心をかおうとして中国の歴史認識を受け入れた際に、韓国が激しく反論したことは記憶に新しい。またアジアでカタールのような仲間外れの同盟国を出すなど以ての外である。

トランプ氏の無知かつ無配慮な失言は、マクマスター氏、ティラーソン氏、マティス氏にジョン・ケリー国土安全保障長官を加えた政権内での「大人の枢軸」にとって由々しきものである。その中ではマティス氏だけが独立した立場を維持している。また政権閣内で作成されたいかなる政策も職業外交官によって実施されてアメリカの国益が守られている。彼らはトランプ氏によってもたらされたダメージの軽減にあらゆる努力を惜しまず、諸外国との友好関係の維持に努めている。特に大統領がロンドンのサディク・カーン市長をテロリスト呼ばわりした際には、アメリカの外交官僚が一丸となってイギリス政界の重鎮の間での嫌悪感を緩和し、両国の特別関係維持に努めた。そうした外交官達による国家への献身にもかかわらず、それに対するトランプ氏の褒章は国務省予算の大幅削減であり、ティラーソン長官もこれに同調した(“Trump Is Cutting Into the Bone of American Leadership”; News Week; June 18, 2017)。現大統領は明らかにアメリカの外交政策に関わる高官達にとってお荷物になっている。

トランプ氏は国家安全保障に重大なリスクであるが、ロンドン・スクール・オブエコノミックスのアン・アップルボーム客員教授は外交に関する全ての権限をトランプ氏から取り上げることはきわめて危険だと主張する。行政手続き上はアップルボーム氏の議論は完全に正論である。そこで同氏が取り上げているアフガニスタンで、マティス氏が駐留米軍の最高指揮権を全面的に一任されている例を見てみよう。アメリカ国内および海外の政策形成者達はトランプ氏の国際安全保障に関する理解には大いに疑問を抱いているので、マティス氏の主導下で戦争が取り仕切られるなら歓迎との声もある。しかしアップルボーム氏はこれには制度上の問題があると指摘する。軍事テクノクラートによる外交政策では政治的な正当性を欠き、民主主義では議会や他の省庁の支援を得て戦略が実行に移される。また軍事戦略には他の省庁との政策調整も必要で、ペンタゴンが全てを取り仕切ることはできないとも述べている(“Why ‘Mattis in charge’ is a formula for disaster”; Washington Post; June 23, 2017)。

しかしトランプ氏は省庁の枠を超えて問題を俯瞰して正しい決断を下すにはあまりに無能である。これが典型的に表れているのが、アメリカ外交における対外援助の価値に関する彼の無知である。実際にマティス長官、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長といった軍事のプロの方が、戦場での経験を通じて対外援助のような非軍事的側面の重要性をトランプ氏よりはるかによく理解している。閣僚の誰かが国家安全保障を主導するとなると省庁間の調整が問題となるだろう。その場合はマイク・ペンス副大統領が現政権の外交政策を総括すればよい。ヨーロッパ、日本、韓国への彼の歴訪は、これら諸国がアメリカとの同盟関係に抱いた懸念の払拭に一役買った。外交実務に当たる官僚達は自分達の職務に対するトランプ氏の無理解と統治能力の低さに辟易している(“US diplomats are increasingly frustrated and confused by the Trump administration”; Business Insider; July 2, 2017)。 トランプ氏のG20出席は世界の中でのアメリカの孤立を印象づけただけだった。その折にプーチン大統領と会談した後で、トランプ氏はロシアとのサイバーセキュリティ協力の強化を口にしてワシントンの安全保障関係者を驚愕させた。日本国民として、私はドナルド・トランプ氏には訪日して欲しくないと思っている。彼の不用意な発言で国際安全保障のリスクが高まることは、ヨーロッパと中東の例でも明らかだからである。

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