英国王チャールズ3世、「トランプのアメリカ」を建国250周年の国賓訪問:その裏にある地政学と価値観
私は昨年5月以来、「トランプのアメリカ」とヨーロッパの間で綱渡り外交を展開するイギリスの動向を注視してきた。トランプ2.0における英米関係は比較的友好的なスタートを切ったが、西半球、ウクライナ、ガザ、イランにおけるドンロー主義によって大西洋両岸の亀裂が深まるにつれ、今や特別関係は深刻に問い直されている。イギリス王室は独立宣言250周年への祝賀のため、まさに政府間関係に不協和音が垣間見られる時期に「トランプのアメリカ」を訪問する。皮肉なことにドナルド・トランプ氏は、民主党優勢州への州兵ないしICE(移民税関執行局)の派兵、関税外交など、建国の父たちの理想とは全く相容れない政策に見られるように、史上でも例を見ないほど憲法を軽んずる大統領である。こうした論争にもかかわらず、国王チャールズ3世とカミラ王妃は4月27日から30日にかけて訪問する予定であり、それに続いて皇太子夫妻が6月ないし7月に訪問すると見込まれている。
1.【イギリス王室外交における訪米】
現在の二国間関係について述べる前に、まずイギリス王室とアメリカ国民の歴史に触れておく。アメリカ独立戦争の契機となったボストン茶会事件は本来、英本国の王政に対する抵抗運動ではなく、「代表なくして課税なし」という原則の宣言に見られるようにイギリス国民としての権利を訴えるものであった。独立初期のアメリカは反英的だったが、新世紀に向けた民主主義の成熟、カナダとの国境紛争の解決、国際主義の高まりにつれて、英米関係は徐々に後年の特別関係へと発展していった。後のエドワード7世が1860年に王子としてアメリカを訪問して以来、王室の訪問はアメリカ国民の間でイギリスに対する好意的なイメージの醸成に非常に役立ってきた。第二次世界大戦勃発寸前の1939年には、ジョージ6世と後のエリザベス皇太后はフランクリン・ルーズベルト大統領と会談し、アメリカ国民の間で蔓延していた「アメリカ・ファースト」という孤立主義の風潮を弱めた。
最も重要な一件は、エリザベス2世とフィリップ殿下がスエズ危機によって悪化した英米関係を修復するため、ジェームズタウンにおけるイングランド人入植350周年を記念して1957年に訪米したことである。しかし、チャールズ国王とウィリアム皇太子は両国間の友好関係を促進できるのだろうか?ドナルド・トランプ大統領がイラン戦争においてキア・スターマー首相を嘲笑したことを忘れてはならない。トランプ氏は東地中海に独自に配備されたイギリス海軍の空母を「おもちゃ」呼ばわりし、スターマー氏が米空軍によるイギリス空軍基地の使用を全面的に許可しなかったことで彼を臆病者だと非難した。(1) 究極的に、国王はトランプ氏の右翼ポピュリズムを是認するのだろうか?これらの疑問に答えるために、政権2期目に入った「トランプのアメリカ」に対するイギリスの外交について述べたい。
2.【トランプ2.0における英米特別関係】
新たに就任する大統領がどれほどの問題児であっても、イギリスにはロシアによるウクライナ侵攻が欧州・大西洋圏に重大な脅威をもたらす状況下でアメリカとの特別関係を安定させ、ヨーロッパでブレグジットのダメージを修復することが喫緊の課題であった。このような環大西洋安全保障の環境下で、スターマー政権はドナルド・トランプ氏の再選直前に成立した。トランプ政権2期目の発足時には、イギリスはEUや日本と比べて比較的有利な協定を締結した。悪名高いトランプ関税は他国より低めで、TPD(技術繁栄協定)を通じてイギリスのテック産業へのアメリカからの巨額の投資が合意された。さらにバッキンガム宮殿での晩餐会への招待は、トランプ氏の子供じみた虚栄心を満たした。スターマー氏は「トランプのアメリカ」との関係を安定させることに成功したように見えた。
しかし昨年末にかけてトランプ氏はNATO同盟国への暴言攻勢をますます強め、カナダとグリーンランドの併合を主張したり、関税をさらに引き上げたり、ウクライナへの支援を撤回したりした。ベネズエラの政権転覆はほぼ容易に行われ、スターマー氏はその結果を受け入れた。しかしカリブ海でベネズエラの麻薬密輸船を攻撃したアメリカの行為の合法性について国際的な懸念が高まったため、米国との情報共有を停止した。カリブ海にはイギリスと他のヨーロッパ諸国の海外領土が存在する。(2) そして、イラン戦争は英米関係に致命的な打撃を与えた。トランプ大統領のイラン攻撃は、国際法上の根拠の欠如、戦争の戦略目標の不明確性、アメリカの意思決定へのイスラエルの影響力などについて、国際的に批判されている。
非対称戦争、エネルギー価格、ホルムズ海峡といった問題に加え、ブレア政権下で合同情報委員会委員長、キャメロン政権下で国家安全保障担当補佐官を務めたピーター・リケッツ氏は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が10月末までにイランとその代理勢力の脅威を排除し、議会選挙に備えたいと考えていると指摘している。(3) そうした中でトランプ政権1期目の国家安全保障担当補佐官ジョン・ボルトン氏は、トランプ氏は11月の中間選挙に向けて、ベネズエラで行なったようにイランに対して迅速かつ効率的な戦争を望んでいると述べている。(4) 両首脳の意図は一致していないものの、共に選挙を強く意識していることを忘れてはならない。
イギリスの視点から見ると、トランプ氏のイランに対する戦争は戦後の英米関係軽視である。フランス国際戦略研究所(IRIS)のジャン=マルク・ヴィジラント氏は、スエズ危機後の英仏の環大西洋戦略を対比している。予期せぬ衝突を避けるため、イギリスはアメリカの意思決定に一定の影響力を持ち、ヨーロッパでの先方の軍事プレゼンスを維持させるために、アメリカとの緊密な戦略的関係構築へと舵を切った。一方、フランスは自主独立の核兵器開発とNATO統合軍司令部からの離脱によって、アメリカからの戦略的自律性を追求した。(5) ジョージ・H・W・ブッシュ政権下の湾岸戦争とジョージ・W・ブッシュ政権下のイラク戦争において、イギリスはアメリカと戦略的に連携していた。しかしイラン戦争でトランプ氏はネタニヤフ氏とのみ意思疎通を図り、イギリスは蚊帳の外に置かれた。スターマー氏がトランプ氏を支援する理由が、どこにあるのだろうか?
さらに重要なことにイラン戦争はヨーロッパでは非常に不評で、いかなる形でもトランプ氏とネタニヤフ氏を支持すればNATO加盟国間の対ロシア防衛費増額の公約を破綻させかねない。(6) そのためイギリスはフランス式の戦略的自律性を高める方針を採り、ホルムズ海峡における航行の自由に関する会議を主催した。(7) 改革党のナイジェル・ファラージ党首や保守党のケミ・ベーデノック党首といった親トランプの下院議員は開戦時に、スターマー氏に英米特別関係のためにも参戦せよと要求したが、今や彼らはトランプ氏への支持を撤回している。これは何かと物議を醸すトランプ氏の平和委員会の役員である労働党のトニー・ブレア元首相にも当てはまる。(8) 彼らはサッチャー派のクリス・パッテン上院議員でさえ、イギリスは「トランプのアメリカ」との特別関係を前提とすべきではないと主張していることを念頭に置くべきだった。(9)
3.【アメリカと世界秩序の混乱】
さらにアメリカの外交政策について触れておきたい。イラン戦争が差し迫っていなかった昨年6月に、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は、トランプ氏が州兵とICEを民主党支持州に派遣したことは憲法違反で、米軍を私物化してしまったと評している。またトランプ氏はネタニヤフ首相と民族宗教的ナショナリズムの共有から同調しているが、これは建国の父たちの普遍的な自由主義的価値観と完全に相容れない。ケーガン氏が主張するように、ピート・ヘグセス国防長官は米軍内でDEI(多様性、公平性、包摂性)に反対する取り組みを進め、イラン戦争を十字軍に擬えているが、そのどちらも白人キリスト教ナショナリズムに深く根ざしている。したがって、ケーガン氏はトランプ大統領がイランでどのような成功を収めたとしても、それは世界中の独裁政権の勝利に過ぎないと結論付けている。(10) トランプ大統領とアメリカの同盟国との間の絶え間ない摩擦は、中国とロシアを喜ばせている。さらに、アメリカはイラン戦争で同盟国からの信頼を失った。これは地政学におけるアメリカの孤立を加速させるだけでなく、啓蒙主義の崩壊をも招き、アメリカ自身を含めた世界全体の安全保障を脅かすことになるだろうと。(11)
私の目にはバラク・オバマ元大統領もまた過度にポストアメリカ的であったように映るが、彼の外交政策ならカナダのマーク・カーニー首相が提唱したミドル・パワー同盟という世界秩序とも整合し得たとも言えよう。一方でトランプは極度にポスト啓蒙主義的で、アメリカを完全に孤立させてしまった。これは世界を本当に石器時代に逆戻りさせるほど野蛮な行為である。ケーガン氏は『アトランティック・ジャーナル』誌の最新投稿で、「トランプのアメリカ」を「ならず者超大国」と呼んでいる。彼は現在進行中の戦争に言及し、「イラン戦争は『アメリカ・ファースト』型のグローバル介入だ。議会での公開討論も採決もなく、イスラエル以外の同盟国とは協力どころか、多くの場合は協議すら行われず、地域や世界への潜在的な影響についても全く考慮されていないようだ」と述べている。これはアメリカを孤立させ、危険な存在にするが、決して偉大な国にはしないと。 (12) それによってトランプ氏は、アメリカとその同盟国に数えきれないほどの利益をもたらしてきた世界秩序を破壊することになる。
4.【ポスト啓蒙化の動向と文明体国家の台頭】
最後の論点はグローバルな文脈における政治変動である。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのアーロン・マッキール氏は、西側諸国における右翼ポピュリズムの急速な拡大や権威主義国家による地政学的な挑戦に見られるようなポスト啓蒙主義の時代には、文明体国家の価値観がリベラルでコスモポリタンな理念に取って代わるだろうと述べている。では文明体国家(civilizational state)とは何だろうか?それは、大国または地域大国が自国の領土を超えた統治主体として主張する、一種の民族文化的な勢力圏である。これはロシアの「ルースキー・ミール」や中国の「中華民族の偉大な復興」に典型的に見られる。国内においては、文明体国家は自民族中心的な伝統主義を通して国民の統一を重視する。トランプ氏は、白人キリスト教ナショナリズムによって、普遍的でコスモポリタンな理念により覇権国家アメリカの優位性を放棄し、ロシアや中国のような権威主義的な文明国家へと変貌させた。マッキール氏によれば、そうした文明体国家論の提唱者たちは、必ずしも懐古志向というわけではない。彼らはしばしば、テック業界における大国間の競争に勝利することに熱心な新テクノ未来主義者と結び付く。(13) これは、現在の英米関係ではTPDに典型的に見られる。
【結論】
嘆かわしいことに、アメリカは建国250周年祝賀 にあたり最も不適格な大統領を選出した。チャールズ国王がアメリカの民主主義に意義ある、この歴史的記念行事で訪米するにもかかわらずだ。スターマー氏の外交姿勢の変化は、トランプ氏との衝突を避けるためだけに媚び諂っても無駄であることを示している。親トランプのジョルジア・メローニ首相でさえ、米空軍がイタリアの空軍基地を使用することを認めよというトランプ氏の要求を拒否した。国内政治において、トランプ氏は忠誠派でも多くの人物を罷免した。彼への追従の見返りは期待できない。G7首脳の中では、日本の高市早苗首相がトランプ氏に迎合しようと躍起になっている。彼女のクレージー・ダンスは、東京とワシントンでの二国間会談で嘲笑された。しかし私が注目すべきと呼びかけたい所業は、ジョー・バイデン前大統領のオートペン肖像画を見て無礼にも笑ったことである。これは彼女が政治的なバランス感覚を失っていることを示唆している。高市氏は最早みっともないほどトランプ氏に魅了されているので、自身を「MAGA市」と改名すべきだろう。
去る3月にユーガヴが行なった世論調査によるとイギリス国民の間では今回の訪米は不評で、国王に訪問を中止するよう求めている。(14) トランプ政権の性質と彼の性格を考えると、今回の国賓訪問でさえ国家間の関係改善には繋がらないだろう。したがって、チャールズ国王がトランプ氏の功績を認めるような印象を与える必要はない。一方、イギリスの王室外交は1世紀以上にわたり米国との友好関係を育んできた。トランプ氏ではなく市民に目を向ければ、建国250周年記念の国王訪問は米国民が建国の父たちの理想を思い起こす機会となるだろう。イギリス王室は歴史的にアメリカ人の間で人気が高い。
「トランプのアメリカ」は新テクノ未来主義をも抱合する文明体国家であるため、たとえトランプ氏がイギリスとの関係悪化に伴いスターマー氏への非難を強めているとしても、TPDのような大型ビジネス取引は二国間関係の決定的な破綻を阻止するための「人質」となるだろう。いかに彼がマッドマン外交を好むとはいえ、このテック合意の撤回を示唆することは全くなかった。これは、「トランプのアメリカ」との関係を媚びへつらうことで安定させようとする世界の指導者たちにとって、教訓となるだろう。
トランプ氏が国内外に混乱をもたらそうとも、この歴史的行事においてチャールズ3世はアメリカの民主主義と大西洋横断関係に好ましい影響を与えられるのだろうか?国王はアメリカ合衆国への国賓訪問に先立ち、故女王エリザベス2世の「善は必ず勝利し、明るい夜明けは常に地表から遠からぬ所にある」という困難にも希望を失わぬための遺訓を語った。(15)
脚注:
(1) “As a state visit looms … can King Charles tame Trump?”; Guardian; 4 April. 2026
(3) Peter Ricketts, BBC Breakfast; 4 March, 2026
(4) “John Bolton Warns How Trump’s Big Mouth Has Weakened U.S.” Daily Beast; April 20, 2026
(5) “Europeanising” NATO: A Utopia or an Obvious Necessity for Europeans?”; IRIS; 16 May 2025
(8) “The UK’s right wing is suddenly silent about supporting war in Iran”; News Agents; 11 March, 2026
(9) "Britain Must Downgrade the Special Relationship"; Project Syndicate; February 28, 2025
(10) “American Democracy Might Not Survive a War With Iran”; Atlantic Journal; June 21, 2025
(11) “America vs. the World”; Atlantic Journal; January 18, 2026
(12) “America Is Now a Rogue Superpower”; Atlantic Journal; March 30, 2026
(13) “How to navigate global disorder”; Engelsberg IDEAS; March 23, 2026
(15) “William and Catherine praise late Queen's 'lifetime of duty'”; BBC News; 22 April, 2026













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