「トランプの世界」での「日欧同盟」について、生成AIはどのように答えるか?
アメリカのドナルド・トランプ大統領は第二期目においては「政権内の大人」に煩わされることもなく、MAGAとアメリカ・ファーストの立場がさらに過激になったことを明示した。ウクライナ和平協定を取引本位で模索していることからもわかるように、世界は無秩序に向かいつつある。そのような世界では、自由民主主義諸国は、MAGA勢力の手に落ちたアメリカによる混乱を乗り越えるためのリスクヘッジが必要である。日欧同盟はこの目的に適うだろうが、それが大西洋同盟や日米同盟に取って代わるわけではなく補完的なものに留まるだろう。全世界に広がるアメリカの同盟国にとって、安全保障の傘を完全に放棄することは依然として非現実的である。このようにますます複雑化する世界において、生成AIは将来の政策の方向性を示すことができるのか?その一例として、トランプの世界での日欧同盟に関する私の質問に対するGrokの回答について述べたい。
Grokは最近になってツイッター(現X)に追加された生成AIアプリケーションである。日欧同盟については私のツイートからのプロフィール概要に基づいて、そのアプリでは以下のように簡潔に説明された。それには3点の戦略的根拠があり、ロシアがヨーロッパとアジア双方に及ぼす脅威、中国による全世界での一帯一路構想とFOIP(自由で開かれたインド太平洋戦略)への挑戦、そしてトランプ政権の略奪的なアメリカ・ファーストが挙げられる。実際のところヨーロッパと日本は情報共有や兵器の共同研究開発といった軍事協力、そして経済政策の調整を追求することができるであろう。政治的には、国連やG7における日欧の結束した発言はルールに基づく世界秩序の強化に繋がり、ウクライナ、バルト諸国、台湾といった小国が、ロシアや中国といった近隣の略奪的な大国に抵抗するうえで一役買えるだろう。問題は双方の地理的な遠隔性と、同盟から疎外に対するアメリカの不快感であると。
これは今回の主題の典型的な教科書的な序文に過ぎず、生成AIの真の思考能力を判断するにはさらに会話を続ける必要がある。これらの質問の中で、Grokが長々とした複雑な質問を、言葉だけでなくニュアンスまでも正しく理解し、どのように簡潔に議論を方向づけているかを注視したい。ここでは日欧関係とトランプのアメリカに関してのオーソドックスで予測可能な質問ではなく、私自身の関心による非オーソドックスな質問をいくつか見ていきたい (1)。
【質問1】:トランプ氏はメディアに対し、F-47次期戦闘機のモンキーモデルしか同盟国には提供できないと述べた。それは冷戦時代のソ連の所業である。彼の脳はあまりにもロシア化している。アメリカの同盟国は、GCAPやFCASといった独自のハイテク兵器への支出をもっと増やすべきか?またイランのF-14がイスラム革命から劣悪な状態に置かれているため、トランプ氏の発言は意味をなさない。彼には世界の安全保障よりも、次世代戦闘機の販売利益に関心があるように思われる。
これに対しGrokはトランプ氏が思考回路を「ロシア化」したわけでもなかろうが、同盟国の安全保障よりもF-47の輸出利益を優先しているという、モンキーモデルに関する私の懸念を条件付きで認めた。同盟国が「信用の置けない」F-47ではなく、イギリス、日本、イタリアによるGCAP、あるいはフランス、ドイツ、スペインによるFCASに支出を充てるべきかどうかという点については(2)(3)、Grokは双方の研究開発プロジェクトの概要を示し、GCAPは日本の対中国配備のスケジュールに間に合うが(4)、たとえ劣化版であっても将来的なF-47の調達を排除すべきではないとも答えている。私はこの回答について、次世代戦闘機の研究開発には何年もかかるため、アメリカで別の政権が将来登場すれば同機正規モデルの輸出を許可する可能性があるとの趣旨だと解釈している。他方でトランプ氏のようなナショナリストが、イランのF-14の場合のように同戦闘機の部品輸出を停止した場合のサプライチェーンの寸断というショックを起こす可能性については言及していない(5)。AIは質問の全てに答えるわけではない。
それでもこのAIアプリケーションは、トランプ氏によるソ連さながらのモンキーモデル輸出は彼の根深いアメリカ・ファーストを象徴しているのではないかという、私の質問の重要な点に答えた。この質問は長いうえにそれほど単純ではないが、生成AIは私の意図を深く理解している。興味深いことに私は質問文でGCAPをGPACと誤入力したが、それをGrokは正しく解釈した。
【質問2】:それでは、核抑止力について質問する。日本は独自核兵器を保有せずに、イギリスとフランスの核戦力強化のための研究開発を支援すべきか?日本が自主的に核武装すれば国際的な核不拡散体制の崩壊を加速させ、それが却って自国の国家安全保障に重大な脅威をもたらしかねない。またトランプ政権下のアメリカが同盟国を放棄した場合、日本は両国と核共有を行なうべきか?
日本は核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を堅持しているため、この質問は非常に物議を醸してしまう。しかしトランプ政権第二期においてアメリカの核の傘の信頼性が低下するとあっては、日本にとってリスクヘッジは重要な課題となる。Grokは私の質問に対し、研究開発と核共有という二つの観点から回答した。そして前者については肯定的に評価する一方で、後者についてはやや慎重な姿勢を示した。日本には英仏の核戦力を支援するための資金と技術力がある。また日本が独自の核兵器を保有することで他の非核保有国への核拡散を刺激し、世界の軍備管理体制を破壊するリスクを冒すことは国際社会の利益にならない。これは日本と英仏との核共有にも当てはまる。しかし核共有では中国との緊張激化の懸念から、日本国内で反核感情がより深刻化しかねない。またこのようなリスクヘッジが模索されるなら、ナショナリスト傾向を強めるアメリカは同盟への日本の忠誠心に疑念を抱くことも考えられると。
しかしGrokが「日本では国内核兵器はタブーだ」と懸念していることに私が必ずしも同意できないのは、イギリスとフランスの核兵器のほとんどは陸上配備型ではないので恒久的に配備されることはないからだ。そうした兵器は必要に応じて日本の海上防衛または航空防衛施設に配備されるだけである。結局のところ、自主独立の核抑止力は日本にとって、最後の最後のそのまた最後の手段である。したがってアメリカが党派に拘わらずポピュリストの手に落ちて超大国の自殺行為に走る際の空白を埋めるために、英仏両国との核安全保障パートナーシップについて質と量の両面で検討する必要があるとも思われる。現状では両国合わせても、その核抑止力はあまりにも小さ過ぎる(6)。
非常に興味深いことに、イギリスはトランプ政権下のアメリカの統治が国家安全保障にとって重大なリスクとなっているため、アメリカ製のトライデントSLBMへの依存を見直しつつある。現在、イギリスが自主独立で配備する核兵器については以下の3つの選択肢が検討されている。そこで単独またはフランスと協力による抑止力の構築が挙げられる。しかしどちらの場合も、核研究開発での規模の経済性は限られている。そのため、NATOなどの欧州大西洋の多国間枠組みの中でイギリスの核抑止力を強化するという第三の選択肢が検討されている(7)。その場合、このプロジェクトには日本やオーストラリアなど太平洋諸国の参加も有り得る。
【質問3】: 問題は地政学に留まらない。トランプ政権下のアメリカにおける民主主義の衰退は、『プロジェクト・シンジケート』誌に掲載されたクリス・パッテン氏の最近の記事でも指摘されているように致命的な問題である。彼は親EU派のヘーゼルタイン氏とは対照的に親米派のサッチャー元首相と非常に近かったものの、MAGAに乗っ取られたアメリカから英国がより主権と自立性を持つべきだと主張している。彼は政治家としてのキャリアを通じて、ヨーロッパとアジアの両方を理解している。こうした状況を踏まえ、アメリカが自由の理想と人道主義を後退させている中で、日欧同盟はどのようにして価値観に基づいた外交を主導できるのだろうか?
質問でも述べたように、イギリスのクリス・パッテン上院議員は熱心な大西洋主義者であり、レーガン・サッチャー時代の世界秩序の寵児であった。また香港の最後の総督、そして元欧州委員会対外関係委員として、アジアとヨーロッパの両方に通じたイギリスの国益代表者であった。こうした経歴から、パッテン氏は「トランプ政権下のアメリカは1月6日暴動に見られるようにもはや自由の価値観の担い手ではないため、イギリスはアメリカとの数十年にわたる特別な関係を格下げすべきだ」と主張する。オックスフォード大学前総長としてパッテン氏はウィンストン・チャーチル以来の英米同盟の歴史を学術的に振り返り、トランプ氏が共通の価値観という根本的な前提を破壊したと主張する。そのため、パッテン氏は、キア・スターマー首相に対し、イギリスはトランプ氏の要求にすべて屈服すべきではないと強く訴えている(8)。実に驚くべきことに、スターマー氏はトランプ政権下のアメリカとの有利な貿易協定と引き換えにヘイトスピーチ法を撤廃しようとしている(9)。労働党がMAGA政策を採用するとは、なんともひどい追従である!さらに、トランプ氏の歴史と地政学に関する知識の欠如は、彼の大国重視の外交に如事実に表れている。パッテン氏が言うように、二度の世界大戦はセルビア、チェコスロバキア、ポーランドといった小国から始まったのだ。
現在のアメリカの混乱した統治と現大統領の国際情勢に対する理解不足を考えると、日欧同盟は価値観重視の外交におけるアメリカのリーダーシップの欠如を補完できるであろう。Grokの回答を振り返ってみたい。民主主義、法の支配、人権といった共通の価値観に加え、双方とも災害救援や環境といった人道問題にも取り組んでいる。ルールに基づく世界秩序を尊重する両国は、トランプ氏が「ディール外交」の名の下に小国を搾取するやり方に反対するようになる。これは世界の安全保障環境を権威主義体制に有利なものにしているが、トランプ氏は気にしていない。パッテン氏は香港の民主的統治をめぐる中国との交渉経験から、権威主義体制との衝動的な妥協の危険性を学んだ。もしトランプ氏が本当にウクライナと台湾を放棄するのであれば、日欧同盟がその空白を埋め、パッテン氏が構想する民主連盟再編の実現を後押しすることもあろう。しかしヨーロッパも日本も、単に道徳的な優位性という理由だけで現在のアメリカ中心の同盟を民主的なミドルパワー同盟に置き換えることはできないことを忘れてはならない。それはトランプ大統領の存在にもかかわらずアメリカはあまりにも大きく強大であり、地理的な遠隔性はヨーロッパと日本の戦略的優先事項を分断し得るからである。
最後に今日の世界秩序における最も重要な問題は、トランプ関税である。日欧同盟は、トランプ政権下の米国との貿易戦争にどのように対処すべきか?私は最近、以下のような質問をしてみた(10)。
【質問4】:貿易交渉は世界経済体制だけでなく、地政学の問題でもある。より多国間のアプローチが望ましくはあるが、トランプ氏のアメリカ・ファーストに基づく貿易政策に多国間の連携で対抗するよりも、米現政権との交渉を優先している国も見受けられる。その中で経済大国2ヶ国について問いたい。
(1) 日本はトランプ政権との早期合意を望んでいるようだが、それが性急過ぎると他国の貿易交渉に悪影響を及ぼしてしまうのではないか?石破政権はあまりにジャパン・ファーストになっていないか?
(2) イギリスは関税引き下げと引き換えに、ヘイトスピーチ法の廃止を提示した。もし労働党政権がMAGAの主張を容易に受け入れれば、保守党はさらに右傾化し、イギリスの内政でイデオロギー的なsurenchère(競り上げ)現象が加速しかねない。それによってイーロン・マスク氏のMEGA(ヨーロッパを再び偉大にする)構想がヨーロッパで右派ポピュリズムを刺激し、最終的にはNATOとEUの分裂にもなりかねないのか?
日本に関してGrokは悪い前例となるリスクを認めつつも、石破政権はFOIP参加国やNATOと緊密に政策連携しており、それほどジャパン・ファーストではないと指摘する。石破茂首相は先のベトナムとフィリピン訪問の際に、貿易戦争におけるアメリカとASEAN諸国の仲介役としての日本の役割を強調しているので(11)、この反論には一理ある。それでも日本が性急な合意を急ぐことで、世界貿易秩序が崩壊する懸念もある。トランプのアメリカとの貿易協議において、石破政権高官はほぼ日本の国益についてのみ言及している。リベラル世界秩序の熱心な支持者で徹頭徹尾の反トランプ派である私のような者にとっては、それはいかにもジャパン・ファーストに聞こえてしまう。
イギリスに関してGrokは「スターマー氏がMAGAに譲歩すれば保守右派、ひいては改革党が勢いづくのではないか」という私の懸念を認めている。さらに、MAGAの政治文化が浸透すれば、ヨーロッパ全土で反EUまたは反NATO感情が高まり、イーロン・マスク氏のMEGA扇動を助長することになるだろう。Grokは、私の以前の質問に記した「アメリカの民主主義の後退は非リベラルなヨーロッパの周辺勢力を力づけ、労働党の譲歩はその流れに油を注ぐ可能性がある」というパッテン氏の警告についても、返答の中で言及している。親EU派のスターマー氏は慎重な行動を取りつつも、トランプ政権に対抗するためにEUとの新たな貿易・安全保障パートナーシップも模索していると(12)。
これに先立ちゴードン・ブラウン元英首相は2008年の金融危機の際に国際社会が行なったように、世界的な景気後退とインフレを克服するためのマクロ経済政策と金融政策における各国間の協調を呼びかけていた(13)。またブラウン氏は法の支配の再構築による新たな世界秩序に向けた集団的イニシアチブには、新興国をも抱合することを提唱している。私が言及した日欧同盟はトランプのアメリカ、プーチンのロシア、習近平の中国によるシャープパワーの取引主義に対し、こうした国々の意見に耳を傾けてルールに基づく多国間主義を再構築することができる。この目標達成のために、ブラウン氏はイギリスに対し安全保障と経済の分野でEUとの戦略的パートナーシップを再構築してブレグジット後のショックを乗り越えるよう促している(14)。
生成AIは思考をまとめ、時には見落としていた点に気づくうえで非常に役立つ。特に不確実性が増す世界において、日欧同盟のような複雑な問題を探求する際にはなおさらである。また教師がAIの思考に慣れておくことは、学生がレポートやエッセイを提出する際にAIによる不正行為を検知する上でも役立つ。最後に、イーロン・マスク氏がDOGEでの世界を騒然とさせる仕事でAIを活用していることに注目すべきである。このアプリケーションに精通することは、彼の奇妙な思考方法を理解する上で役立つであろう。結局のところ、AIは問題を解決する万能薬ではない。AIの答えは、各人の質問の質に依存する。また、様々なAIが次々と登場し進化しており、それぞれに長所と短所がある。トランプ政権下における日欧同盟の問題を議論する際には、この点を念頭に置かねばならない。この問題についてもっと模索するにはAIに対してより多く、そしてより深い質問してゆく必要がある。
脚注:
(1) Grok Chat
(2) "Sixth-Generation Fighter Showdown: F-47, GCAP, FCAS, and J-36 (Baidi)"; European Defence Review; 24 March, 2025
(3) "Will Boeing’s F-47 ‘KILL’ European GCAP & FCAS Programs As U.S. Could Export 6th-Gen Jets To Allies?"; Eurasian Times; March 23, 2025
(4) "Global Combat Air Programme Joint Statement"; UK Government; 20 November 2024
(5) "How Iran manages to keep its F-14 Tomcats flying"; Key Aero; August 2, 2022
(6) "Can Europe Build Its Own Nuclear Umbrella?"; Carnegie Endowment for International Peace; April 3. 2025
(7) "The UK’s nuclear deterrent relies on US support – but there are no other easy alternatives"; Chatham House; 24 March, 2025
(8) "Britain Must Downgrade the Special Relationship"; Project Syndicate; February 28, 2025
(9) "Starmer told UK must repeal hate speech laws to protect LGBT+ people or lose Trump trade deal"; Independent; 16 April, 2025
(10) Grok Chat
(11) "Japan's role for ASEAN increasingly crucial amid US tariff standoff"; Mainichi Shimbun; April 30, 2025
(12) "UK and EU defy Trump with new strategic partnership to boost trade and security"; Guardian; 29 April, 2025
(13) "Trump is pushing the world towards recession. By learning the lessons of 2008, we can still prevent it"; Giardian; 10 April, 2025
(14) "The ‘new world order’ of the past 35 years is being demolished before our eyes. This is how we must proceed"; Guardian; 12 April, 2025
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