2016年9月27日

日本は中露枢軸分断をインドに任せよ

安倍晋三首相は今年の12月初旬に地元選挙区の山口県でロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談する予定である(「安倍晋三首相、地元・山口でプーチン露大統領と会談へ 12月上旬、北方領土交渉加速へ本格調整」;産経新聞;2016年9月1日)。両首脳は第二次世界大戦の平和条約、北方領土問題、そしてロシア極東地域での二国間経済協力を話し合う。日本国内では安倍首相がこの機に乗じて中露枢軸を分断し、不確実性を増す世界に対処すべきだとの声もある。しかし日本がそのように西側同盟に悪影響を与えかねないリスクは犯すべきではなく、そうしたむしろ役割はインドに任せるべきだと主張したい。以下、説明をしてゆきたい。

第一に中露枢軸について言及する必要がある。表面的には両大国は西側、特にアメリカの世界秩序に対抗する同盟関係にある。しかしロシア極東地域は人口希薄であり、国境の向こう側にある人口大国の中国は潜在的に国家安全保障上の脅威である。ロシア極東の国境地帯はアムール州、プリモスキー(沿海)地方、ユダヤ自治州、ハバロフスク地方の全てを合わせても人口が430万人にしかならない。他方で中国東北地域は1億900万人という圧倒的な人口である(“Russia, China and the Far East Question”; Diplomat; January 20, 2016)。国家対国家レベルでの脅威に加えて、中国からやって来る蛇頭と呼ばれる犯罪集団や不法伐採業者は市民生活と環境の安全保障を脅かしている。ロシアが中国に表には出さない不信感を抱えていることもあり、日本でクレムリンとの戦略的パートナーシップを発展させて中露を分断し、人民解放軍の脅威を牽制しようという議論が挙がることは理解できる。

しかし来る首脳会談では平和条約や北方領土問題といった二国間問題に集中すべきだと主張したい。日本は西側同盟の中心にあり、中露のパワーゲームに関わる立場にはない。むしろ欧米諸国がバルト海地域とクリミアをめぐる緊張をよそに、日本は「ロシアを再び偉大にする」(Make Russia Great Again )ことを求めているのではないかとの疑念を抱くであろう。ヨーロッパ諸国の対中宥和には日本が不快感を抱くように、日本の対露宥和にはヨーロッパ諸国も不快感を抱く。ヨーロッパの宥和でも顕著な事例はジョージ・オズボーン財務相(当時)の主導による英中原子力合意で、イギリスの国家安全保障関係者の間ではそれに対して中国による対英スパイ行為への重大な懸念が高まっていた。また日米両国もそうした物議を醸すような合意には戸惑っていた。

しかしテリーザ・メイ現首相は合意を再検討し、ヒンクリー・ポイントとブラッドウェルの原子力発電所での中国の影響力を低下させようとしている(“UK's Theresa May to review security risks of Chinese-funded nuclear deal”; Reuters; September 4, 2016)。キャメロン政権の内相であったメイ氏はニック・ティモシー首相首席補佐官とMI5とともに、原子力合意に対する国家安全保障上の懸念を述べていた(“Hinkley Point: Theresa May's China calculus”; BBC News; 31 July 2016)。メイ氏の行動は中国広核集団を通じたヨーロッパでの人民解放軍の影響力の浸透を防止するであろう。日本もロシアに関してそれに応じた行動をとるべきである。

そうした中でインドは中露のパワー・ゲームに入り込むには格好の立場である。印露がFGFAステルス戦闘機開発のように対中牽制のための緊密な防衛協力を行なっても、欧米が当惑することはない。歴史的にインドは親中のパキスタンに対抗するためにソ連と緊密な関係にあった。インドはミグ21、ミグ23、ミグ27、ミグ29といったソ連製の兵器を数多く輸入してきた。冷戦後もインドはヒンドスタン航空機社がロシアのライセンスで製造しているスホイ30MKIという典型例に見られるように、ロシア開発した兵器を配備している。そうしたソ連時代からのロシアとの強固で長年にわたる関係にもかかわらずインドは非同盟外交を堅持し、ソ連圏に入ったことはなかった。

他方で冷戦期のインドは西側とも軍事的な関係を深化させ、そうした関係は今世紀に入ってさらに発展している。インドは過去にフランスからミラージュ2000を購入し、1971年の印パ戦争ではイギリスから入手した中古空母ビクラントを投入した。9・11同時多発テロを機にインドとアメリカの戦略的パートナーシップは急速に発展し、それはマンモハン・シン首相とジョージ・W・ブッシュ大統領の間で結ばれた原子力合意に典型的に表れている。オバマ政権下ではこうした安全保障での協調がさらに進んで日本がマラバール海上演習に招待されるほどになり(“US, Japan, and India Kick off 2016 Malabar Exercise”; Diplomat; June 12, 2016)、南シナ海での中国の海洋拡張主義の抑止を模索するようになっている(“India, Japan Call on China not to Use Force in South China Sea Disputes”; Diplomat; June 15, 2016)。

インドは大国の競合で独自の行動をとってきたので、ロシアとの関係が強化されたからといって地政学上のバランスが劇的に変わることはない。西側にとって、インドは友好国であるとともに有望な市場でもある。また欧米はアフガニスタンでのテロとの戦いでこの国とパキスタンのバランスをとっているが、それはしばしば後者に信頼を持てないことがあるためである。そのようにロシアとも欧米とも緊密な関係にあるインドの方が中露枢軸の分断には適している。こうした目的のためには日米両国がインドとの外交パートナーシップを深化させ、アジアの安全保障について共通の認識を模索しなければならない。そして安倍首相は12月のプーチン大統領との会談では欧米との不要な摩擦を避けるためにも二国間問題に集中すべきである。


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2015年12月20日

パリ同時多発テロ後の世界

パリ同時多発テロによって、国際社会はテロとの戦いがもはやアメリカの戦争にはとどまらないことを自覚した。これは9・11同時多発テロの時に気づいておくべきで、イラクとアフガニスタンの戦争でアメリカ主導の多国籍軍への批判どころではなかったはずである。特にこの事件はヨーロッパの安全保障と全世界での対テロ連合に影響を与えている。

ヨーロッパの安全保障に関して言えば多くの人々が犠牲者への哀悼と連帯を示したものの、テロ攻撃への反応は分かれている。フランスは9・11後のアメリカと同様に即座に対応した。イギリスも同時多発テロを深刻にとらえてイラクで行なっているISISへの空爆をシリアにも拡大することを決定した。そうした中で軍事小国は消極的平和主義国家だったかつての日本のようにISISとの戦いに関与を躊躇し、イスラム教徒の難民を排除している。11月17日にフランスのジャン=イブ・ル・ドリアン国防相がEU加盟国に負担分担を求めた際に、他の加盟国の関与は文言の上にとどまった。イギリスだけが本気で応じてきた(“Despite Initial Solidarity, Paris Attacks Will Deepen Europe’s Divisions”; World Politics Review; November 19, 2015)。キャメロン政権はキプロスのアクロティリ英空軍基地をフランスに提供した(“Brits offer Cyprus base to French”; Defense One; November 23, 2015)。

オランド政権がブッシュ政権のように行動していることは、イラク戦争に当時のドミニク・ド・ビルパン外相が激しく反対したことを考えれば何とも皮肉である。今や保安官の役割を担うフランスは消極的で無責任なバーマスターとして振る舞うヨーロッパの友好国に不満を抱えるようになっている。欧州共同防衛への道がとても遠いものであることはイギリスの脱EU運動にも見られる通りであり、英仏協商の再来はヨーロッパの安全保障が国民国家志向になっていることを示している。ヨーロッパ内での分裂は各国の国益と能力の違いを反映している。その国の軍事力が強力であるほど、テロの脅威をより深刻に受け止める。究極的には軍事介入によって彼らの拠点を一掃して油田や人身売買などの収入源を絶つ必要がある。にもかかわらず軍事的に弱小な国々は戦争による死傷者、予算増大、反戦運動の圧力といったリスクを避ける傾向がある。こうした国々は軍事大国に負担を負わせたがっている。シリアでの戦争が激化し長期化するようならヨーロッパ内部の分裂はさらに大きくなるだろう。

全世界レベルでは強固な反ISIS前線はない。イラクとアフガニスタンでのテロとの戦いからシリアの泥沼化が懸念されるので、フランスのフランソワ・オランド大統領がパリ同時多発テロからほどなくしてモスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会見した際にはロシアやイランをも含めた世界的な連合が模索された(“Moscow is ready to coordinate with the West over strikes on Syria, Putin says”; Washington Post; November 26, 2015)。しかしロシアもイランも重要な戦略目的を西側と共有しているわけではない。両国がISISを相手に戦うのはアサド政権あるいは別の傀儡政権を支援するためであって、両国とも過激派の根拠地一掃などには関心はない。両国とも域内で西側の影響力を弱め、不安定化を利用して自分達の勢力拡大を狙っている。アメリカン・エンタープライズ研究所にある重大脅威プロジェクトのフレデリック・ケーガン氏とキンバリー・ケーガン氏はアサド政権の存在で行き場を失ったシリア国民がテロ集団に流れ込み、ISISを過激化させていると論評している(“What to do and to don’t in response to the Paris attacks”; AEI Critical Threats; November 15, 2015)。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、バラク・オバマ大統領がロシアをアメリカ主導の反テロ連合に招いたことを積極的に評価(“Foreign Minister Sergey Lavrov’s interview with Rossiya Segodnya,”; Foreign Policy News, Ministry of Foreign Affairs of Russia; 11 December, 2015)しているが、アメリカ財務省はロシアが支援するアサド政権はISISと交戦していながら彼らにとって最大の石油顧客だという事実を公表した(“US official details who’s buying the bulk of ISIS oil”; New York Post; December 10, 2015)。さらにロシアのスホイ34フルバック戦闘機はシリア空爆の経路を確保するためにイランの空軍基地を使用し、Tu95ベア、Tu160ブラックジャック、Tu22バックファイアといいた爆撃機にいたってはイランの戦闘機の護衛を受けている(“The Russo-Iranian Military Coalition in Syria may be Deepening”; AEI Critical Treats; December 14, 2015)。 ここでもフレデリック・ケーガン氏はロシアとイランの枢軸に警鐘を鳴らしている。実際にイランは核合意が結ばれてから2度目の弾道ミサイル実験にガドル110を打ち上げた (“Iran violated nuclear deal with second ballistic missile test last month, U.S. officials say”; UPI News; December 8, 2015)。明らかにそれはイラン版のモンロー・ドクトリンであり、中東でのシーア派支配と欧米の影響力排除の宣言である。

さらに言えばプーチン政権が重視していることがNATOの弱体化であることはロシアとトルコの衝突に典型的に表れている。アサド政権への支援のためにロシアはシリア国内のトルクメン人居住地域を空爆してトルコを刺激した。11月24日にトルコ軍のF16がロシア軍のスホイ24を撃墜したのも無理はない(“Russo-Turkish Tensions Since the Start of the Russian Air Campaign”; AEI Critical Threats; November 24, 2015)。トルコのアフメット・ダウトール首相はロシア軍のシリア駐留によって「目的が違う別々の2つの同盟」の衝突の危険が高まっていると述べている(Turkey: “Additional accidents are likely to happen”; Jerusalem Post; November 29, 2015)。今回の撃墜事件以前にも、イラク上空で作戦任務に従事するイギリス空軍のトーネード戦闘機がシリア上空のロシア空軍機との交戦という不測の事態に備えて対空ミサイルを配備したことで英露が対立している (“Cold War 2015: Russia 'FURIOUS' after RAF pilots cleared to shoot down Moscow warplanes”; Daily Express; October 13, 2015)。

そうしたシリア周辺の危うい状況に加えて、ロシアとトルコの地政学的競合関係も重要である。ロシアはイラン、イラク、シリアと緊密な関係である一方で、トルコはアゼルバイジャンと深い関係にある(“Turkish-Russian war of words goes beyond downed plane”; Al Jazeera; December 9, 2015)。歴史的にロシアはトルコをヨーロッパに対する緩衝地帯としてきた(“The Czar vs. the Sultan”; Foreign Policy; November 25, 2015)。プーチン大統領がこの機をとらえてトルコにもジョージアやウクライナに対するのと同様に圧力をかけたことは、何の不思議もない。事件を契機にロシアは東地中海に対空ミサイル巡洋艦モスクワを派遣し(“Russia deploys missile cruiser off Syria coast, ordered to destroy any target posing danger”; RT; 24 November, 2015)、シリアにS400対空ミサイルを配備(“New Russian surface-to-air missiles in Syria, DoD confirms”; Military Times; December 1, 2015)したが、それはすでに当地に配備済みとも伝わるS300よりも新鋭のミサイルである(“America's Worst Nightmare in Syria: Has Russia Deployed the Lethal S-300?”; National Interest; November 5, 2015)。

プーチン政権によるトルコへの圧力はもっと懸念すべきである。これらのミサイルに付随するSA17という新鋭の防空システムによって、ロシア軍のレーダーはシリア上空の米軍機を監視している。アメリカ側は有人機の飛行を当面停止してロシア軍の防空システムへの対処を模索している(“New Russian Air Defenses in Syria Keep U.S. Grounded”; Bloomberg News; December 17, 2015)。トルコの周辺事態はウクライナ化している。しかしトルコ自身にも原因はある。エルドアン政権はイスラム主義に走って欧米との関係を緊張化させた。ケマル主義から逸脱したトルコは中国からHQ9防空ミサイルの購入さえ試み、日本を含めた西側諸国全てを慌てふためかせた。プーチン大統領はこの機を逃さなかった。相手がポーランド、バルト三国、ルーマニアといったNATOの忠実な加盟国であれば、ここまで挑発的な振る舞いはなかったであろう。プーチン政権の危険な拡張主義はしっかり念頭に置くべきであり、共和党のマルコ・ルビオ大統領候補は、パリ同時多発テロを機にアメリカ主導の多国籍軍によるISIS掃討を支援するためにトルコの対クルド関係と報道の自由に改善が見られると指摘する(“Why We Must Stand Up for Turkey and Against Russian Aggression”; World News.com; December 1, 2015ないしこちら)。

パリ同時多発テロによって世界の動向は不透明度を増している。大西洋の両側での分裂はヨーロッパ内部に移っている。恐怖に駆り立てられた小国は移民を排除するだけでテロ掃討に本格的に貢献しようとはしない。フランスやイギリスのような軍事的能力のある国だけが責任ある行動をしている。こうした亀裂によってヨーロッパ諸国民が地域統合に疑問を抱くようになるのは、イギリスの脱EU運動にも見られる通りである。ロシアとイランをも含めた大連合などは、両国とも中東からの欧米勢力の駆逐とNATOの解体という地政学的野心を抱いている事態ではほとんど実現性がない。ロシアもイランも西側の弱点に付け込もうと虎視眈々と狙っている。このことを忘れてはならない。


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2015年9月30日

核合意をめぐるイランとアメリカについての追記

以前の記事ではキャピトル・ヒルでイラン核合意反対派が合意の破棄を目指して協力に働きかけていた。しかし3度目の投票で反対派は3分の2の多数を取れなかった。その結果、大統領の法案が上院を通過した(“Last bid to kill Iran nuclear deal blocked in Senate”; Reuters; September 17, 2015)。それにもかかわらず、民主党でもベン・カーディン上院議員、ジョー・マンチン上院議員、ボブ・メネンデス上院議員、チャック・シューマー上院議員の4氏が共和党とともに3回続けて合意への反対票を投じた(“Senate Dems stonewall Iran resolution, handing victory to Obama”; Hill; September 17, 2015)。

しかし反対派は核合意に厳しい制約を科してイランの不履行を防ごうという希望を捨て去っていない。そのために、イランが合意を履行しないなら1996年のイラン制裁法の復活を要求し、外国企業にイランの石油および天然ガス産業への投資をせぬように圧力をかけようとしている。これと並行して湾岸アラブ諸国とイスラエルへの軍事援助によって対イラン抑止力の強化を推し進めている。さらに、査察には長い時間がかかるので、イランと国際社会の対立も起きるかも知れない。反対派はイランに合意の順守を厳しく求めてゆくであろう(“Iran nuclear deal is done, but not the debate in Congress”; AP; September 19, 2015)。国連査察官とサダム・フセインの対立がイラク戦争の引き金となったことを思い出すべきである。

P5+1の協調は砂上の楼閣の上に建っている。シリアでの見解の相違は核合意の当事者を分断している。ロシアとイランはアサド政権を支援してISISと戦おうとしているが、アメリカは自由シリア軍への支援によってアサド体制から民主体制への転換をさせようとしている。サウジアラビアはイランがアサド政権支援によってシリアで影響力を拡大させることを恐れている(“US-Russia tensions on show as Putin and Obama clash over Syria”; Guardian; 28 September, 2015)。この地域の両大国の緊張が激化すると、イランと外部世界の相互信頼は一層脆弱になってゆくだろう。

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2015年9月19日

イランとアメリカのデタントは考えにくい

オバマ政権による核合意がイランとアメリカのデタントへの道を開くと期待する向きがある。しかし当ブログで何度か記しているように、それは考えにくい。核合意自体は議会で超党派の激しい批判ばかりか、中東でのアメリカの同盟諸国の懸念にさらされている。9月10日の上院採決では3分の2の多数をとれなかった(“Lawmakers Against the Iran Nuclear Deal”; New York Times; September 10, 2015)ことを受けて、共和党のミッチ・マコネル上院議員は合意の破棄を目指して木曜日に第3回目の投票を呼び掛けている (“Senate Dems block vote to disapprove of Iran deal”; AP; September 15, 2015)。また共和党は一般には公開されていないオバマ政権による裏取引についての訴訟さえほのめかしている(“U.S. Republicans Threaten To Sue To Stop Iran Nuclear Deal”; Payvand Iran News; September 12, 2015)。

さらに核合意賛成派も米・イラン関係に関して楽観的でないことは、ヒラリー・クリントン前国務長官が2009年のグリーン運動への支援を控えたバラク・オバマ大統領を非難していることに表れている(“No Love for Obama”; Weekly Standard Blog; September 9, 2015)。オバマ氏はイランとの外交関係の突破口を開こうとしているのかも知れないが、大統領の任期は1年あまりしか残っていない。クリントン氏の発言は、次の選挙で勝つのが民主党であろうが共和党であろうが、オバマ政権後にはイランとアメリカの緊張が高まると言う私の見解を裏付けている。

この合意は本質的に抜け道と欠点だらけである。共和党の大統領予備選候補のマルコ・ルビオ上院議員は、この核合意が問題視されるべき理由を10個挙げている。最も深刻なものはイランとIAEAが交わしてと疑われる裏取引で、それが合意全体を破滅させかねない。またイランが核物質の爆発実験のコンピューター・モデル化を実施できるように、査察も抜け道だらけである。さらに遠心分離機を秘密裡に動かすこともできるばかりか、さらに危険なことにイランの政府関係者はこの合意の下では自分達の必要に応じて国連査察官に施設への立ち入りを拒否できるものと解釈している。裏取引と査察の他に、差し迫った問題は制裁解除によってイランがテロリストへの資金援助や兵器の購入ができるようになることである(“Ten Things That Every American Should Be Concerned About In The Iran Deal”; MarcoRubio.com)。そうした可能性がある兵器の中でもアメリカの論客たちがきわめて危険視しているのが、イランのICBM開発によってアメリカ本土への攻撃が現実化することである(“Off-Target: The Folly of Removing Sanctions on Iran’s Ballistic Missiles”; National Interest; August 17, 2015)。

そうした欠陥のため、ディック・チェイニー前副大統領は、この合意は敵によるアメリカ本土への直接攻撃を許すような歴史的にも独特なものだと辛辣に論評している。以下のビデオを参照されたい。



制裁解除となれば、ロシアと中国がイランに武器を輸出するであろう。今年の7月に行なわれたウィーン交渉の前に、ロシアはイランへのS300対空ミサイルの売却を表明してイスラエルの不興をかったが、オバマ氏はそれを了承している(“Russia-Iran relationship is a marriage of opportunity”; Washington Post; April 18, 2015)。このミサイルは中国がコピーしたHQ9とほぼ同型で、このミサイルを中国がトルコと韓国に輸出しようとした際にはNATOと日本の安全保障の専門家達の間で物議を醸した。ロシアの行動は中東の安全保障に多大な悪影響をもたらすもので、イスラエルがオバマ政権のイラン政策を疑問視するのも当然である。ロシアと中国はこれまで以上にイランに兵器を売るのだろうか?私は両国によるイランへのキャリアー・キラー・ミサイルの輸出を警戒しているが、それと符合するかのように中国は抗日戦勝70周年記念日にDF21Dを誇示した。イラン核合意はペルシア湾でのアメリカ海軍の海洋支配を脅かしかねない。

また湾岸地域の地政学も本質的に不安定である。イスラム革命以来、近隣アラブ諸国はイランを信用していない。これはイラン・イラク戦争でアラブ諸国がサダム・フセインを支持したことに顕著に表れている。サウジアラビア、クウェート、ヨルダンといったアラブ王制諸国は非常に保守的で、バース党体制下のイラクとはイデオロギー的に水と油である。しかしシーア派革命の輸出というイランの国家理念はスンニ派の君主制諸国に多大な危機感を抱かせたので、イランの脅威に対抗するためにイラクに頼りきった。この同盟はサダムによる後年のクウェート侵攻に見られるように、非常に脆弱であった。現在、核合意によってイランの脅威に対するアラブ諸国の懸念が非常に高まっているので、これらの国々では国防力が急速に強化されている。サウジアラビアはロッキード・マーチン社との間で最新鋭のフリゲート艦とTHAAD(終末高高度防衛)弾道ミサイル迎撃ミサイルシステムの購入の交渉を進めている(“Saudi Arabia, U.S. near deal for two Lockheed warships: sources”; Reuters; September 2, 2015)。クウェートもイタリアとタイフーン戦闘機28機の購入で合意した。ユーロファイター・コンソーシアムは次のタイフーン輸出先としてバーレーンにも注目している(”Typhoon scores in Kuwait “; IHS Jane’s 360; 15 September 2015)。

これらの動きからヨーロッパ諸国もイランとの核合意によって湾岸地域に平和と安定がもたらされるといった白昼夢など信じていないことがわかる。ヨーロッパがこの合意を支持するのは、制裁解除後に新規の市場とエネルギー供給源を求めてのことである。フランスはサルコジ政権期にすでにアラブ首長国連邦に海軍基地を設置している(“France Opens First Military Base in Persian Gulf Region”; Washington Post; May 27, 2009)。イギリスも昨年、バーレーンへの海軍基地建設で合意した。フィリップ・ハモンド英外相は、イギリスとフランスがオバマ政権によるアメリカのアジア転進がもたらす中東での力の真空を埋めると語った(“Britain returns 'East of Suez' with permanent Royal Navy base in Gulf”; Daily Telegraph; 6 December, 2014)。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はオバマ大統領と頻繁に会談してイランの真の脅威を理解するとともに、これまで以上に断固たる対応を要求している(“Obama likely to meet Israel's Netanyahu in November, White House says”; Reuters; September 11, 2015)。こうした事情を踏まえて私は以下の問いかけをしたい。SALTが締結された時、ヨーロッパの同盟諸国と日本がソ連の脅威に対してこれほど危機感を強めただろうか?

地域内の安全保障環境とともに、イランの政治についても議論すべきである。核合意の有無を問わず、イランは依然として強硬な態度をとっている。アリ・ハメネイ最高指導者は、この合意はきわめて例外的だと明言し、アメリカとイスラエルへの呪詛とシリアのアサド政権への支援は続けている(“Iranian leader: No wider talks with Washington after nuclear deal”; Washington Post; September 9, 2015および“Khamenei: Israel will no longer exist in 25 years”; Al Monitor; September 9, 2015)。革命防衛隊はさらに、アメリカとイスラエルを根絶する準備ができているとまで言明している(“Iran Welcomes War With The U.S.”; Value Walk;September 4, 2015)。ハッサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相は穏健派と見なされている。しかし外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員はロウハニ師にゴルバチョフ氏の面影を見るのは夢物語で、実際にロウハニ師はシーア派神権政治の民主化には関心はないばかりか近隣諸国に対する拡張主義の方針も捨て去っていないが、ゴルバチョフ氏はベルリンの壁崩壊直後の東欧諸国に広まった自由を求める動きを抑え込もうとはしなかったと論評している(“Iran's Rouhani: He's no Gorbachev”; Los Angels Times; November 24, 2013)。さらに、最高指導者はシーア派神権政治を代表し、その権力も革命防衛隊のような教条主義的な忠誠を誓う勢力を基盤としているので本質的に強硬派だということを銘記しなければならない。大統領がどれほど穏健派であっても、これを乗り越えることは非常に難しい。

核合意が成立しても米・イラン間のデタントはきわめて考えにくい。ヨーロッパと中東でのアメリカの同盟諸国はこれをよく理解している。しかし日本の国会では安保法制の議論で、ペルシア湾には脅威が存在するのかといった非常に初歩的な質問がなされている。しかしイランの脅威はこれほど大きなものである。今回の核合意は地域の平和を保障するものではない。間違ってもそれに希望を託してはならない。


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2015年8月25日

自衛隊のペルシア湾派兵は日本の国益に適う

国会における安保法制の議論では、諸野党が安倍政権は自衛隊の海外派兵に地理的制約を科すべきだと主張している。国際的な作戦に無制限に関与すれば憲法9条が空洞化しかねないとの懸念からである。野党はそうした制約が緩和されてしまえば法的安定性を損なうと憂慮している。さらに安倍政権の全世界的な関与政策に反対する勢力は、日本はアジアの国として東アジアの脅威、特に中国と北朝鮮への対処に国防の精力を集中すべきだと主張する。

しかし、こうした議論には説得力がない。テロ、過激思想、専制政治、核不拡散といった脅威はますますグローバル化している。また日本はペルシア湾からの輸入に総需要の80%以上も依存している(「今日の石油産業」;石油連盟;2014年4月)。よって、日本はアメリカおよび西側主要国とともに湾岸の緊急事態を管理してゆく必要がある。我々が忘れてはならないことは、現在の積極的平和主義と安保法制の発端は1991年湾岸戦争での外交的屈辱である。国連決議に基づくアメリカ主導の多国籍軍がサダム・フセインの不当なクウェート侵攻に懲罰を科す時に、日本は何も支援できなかったばかりか、アメリカの軍事作戦に資金を出すATMマシーンだと嘲笑されてしまった。この事件によって日本の指導者層と国民は戦後の平和主義がどれほど受動的か、それどころか孤立的なものだと知らしめられたのである。この観点から言えば、自国の周囲を超えて世界の安全保障の負担を分担することが日本の国益と責務である。

ペルシア湾での石油輸送路の安全保障に関しては、最も重大な脅威はアメリカの空母打撃部隊に対するイランのA2AD能力向上である。実際にイランは今年2月の海軍演習で模擬空母を破壊してアメリカ艦隊攻撃への強い意志を示した(“Iran blasts mock U.S. carrier in war games”; CNN; February 27, 2015)。アメリカの空母機動部隊は日本の防衛に大変重要で、敵の空母攻撃は日本の国家と国民にとって明白な存立危機事態である。日米同盟の深化に最も不熱心な政治家の一人である小沢一郎衆議院議員でさえ、日本の防衛に第7艦隊が不可欠だと認めている(「『駐留米軍は第7艦隊で十分』 民主・小沢代表」;産経新聞;2009年2月25日)。よって私は安保法制が日本の防衛任務に地理的制約を科すべきではないと強く主張する。安倍政権は湾岸へは掃海艇の派遣のみという非常に抑制された関与を提案しているが、艦隊防空の方がもっと重要である。鉄壁にさえ見える空母であるが防御の武装はほとんどなく、夜間には不意の攻撃を避けるために飛行甲板の照明を落としているほどである。このことは空母打撃部隊の防衛にはアメリカのイージス艦やイギリスの45型艦のように先進技術を駆使した駆逐艦が不可欠なことを意味する。この観点から、アメリカやイギリスのようにイージス艦を派遣することは日本の重要な国益に適うのである。よって、安倍政権のきわめて抑制されたビジョンにさえ反対する者は非常に孤立志向なので、1991年湾岸戦争の屈辱のような過ちを繰り返しかねない。

日本人には主力艦喪失が戦略的そして象徴的にもたらす影響を理解するうえで重要な歴史的体験があり、それも攻撃側と防御側の両方の立場を経験している。シンガポール陥落の時に日本帝国軍はイギリス海軍の戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを撃沈し、アジア太平洋地域の英連邦および大英帝国の諸国に重大な戦略的および心理的な打撃を与えた。他方でレイテ沖海戦によって日本帝国海軍が戦艦武蔵をはじめとする主力艦の喪失により近隣海域の制海権を失うと、日本の本土はアメリカの空襲にさらされることになった。ペルシア湾で敵がアメリカの空母への攻撃に成功すれば、それはどこか遠くでの軍艦の喪失では済まない。世界各地で脅威となる勢力が勢いづき、割れ窓理論で言われるようにこれらの勢力がパックス・アメリカーナに対して立ち上がるだろう。そうなると日本にとってはまさに存立危機事態である。

永田町では最近の核協定をイランとアメリカの外交的雪解けと見なす国会議員もいる。バラク・オバマ大統領はカイロ演説での謝罪姿勢に見られるように就任以来、イランへの外交的アプローチを変えようとしている。しかし間違ってもアメリカとオバマ氏を同一視してはならない。イギリスのデービッド・キャメロン首相がオバマ氏と親しい友人だからといって、アメリカ政策形成者の評価が必ずしも高いわけではない。実際にオバマ政権の核協定はキャピトル・ヒルで超党派の厳しい批判にさらされている。ほとんど協定に反対で一致している共和党ばかりか、民主党からも反対の声が挙がっている。そうした民主党員の中で、チャック・シューマー上院議員は核の野望を捨てない限り協定によってイランが穏健化することはないと主張している(“Schumer: I'm Voting Against Iran Deal”; Weekly Standard --- Blog; August 6, 2015)。シューマー議員の見解を裏打ちするかのように、アリ・ハメネイ最高指導者はイランの事情に部外者は口を挟むべきでないと述べた。これはハメネイ師には核計画を止める意図などなく、ただ制裁の解除だけを望んでいるものと解釈されている(“Iranian Hard-Liner Says Supreme Leader Opposes Nuclear Deal”; New York Times; August 15, 2015)。こうした事態に鑑みて、もう一人の民主党員のボブ・メネンデス上院議員は協定によってイランの核開発能力が完全に排除されたわけではないとして深刻な懸念を表明している。すなわち、フォルドのように査察官が入り込めない施設があるばかりか、依然として多数の遠心分離機がイランの手にあるということである (“Senate Democrats stake out both sides of Iran deal” Reuters; August 18, 2015)。

オバマ大統領は議会の批判を何とか乗り切るかも知れないが、核協定が施行されるとしても、それで米・イラン関係が緩和すると考えるのは夢想的と言わざるを得ない。過去にはSALT合意が米ソのデタントを保証しなかった。米・イラン間の外交的雪解けを信じる永田町の政治家達は、レオニード・ブレジネフ氏のカモにされたジミー・カーター氏と同類としか思えない。イラクとシリアのISISを打倒するうえでイランが同盟国になるとの主張も見られるが、それは妄想としか言えない。イランはISISの拡大阻止を望んでいるかも知れないが、彼らの真の狙いは両国を不安定化させてアメリカと近隣アラブ諸国の影響力を弱めることである。それはイランが支援知るシーア派代理勢力をさらに勢いづかせる(“Sorry, America: Iran Won't Defeat ISIS for You”; National Interest; July 23, 2015)。永田町の政治家達の間では政策通とされる議員まで核協定後の米・イラン関係に楽観的なのは、どうしたことだろうか?いずれにせよオバマ大統領の任期は1年過ぎには終わり、次期大統領がたとえ民主党であってもイランにはより強硬になるだろう。また核協定は地域の緊張の引き金になりかねず、イスラエルやサウジアラビアはイランの地域支配を懸念している。‬‬

石油輸送路に突きつけられる脅威はイランだけではない。海賊やテロリストといった非国家アクターも機雷や対艦ミサイルで航海の自由を妨げることができる。ハマスがイスラエル攻撃のために巡航ミサイルを配備していることを忘れてはならない。イランやテロリストのようなこの地域の脅威を理解するには、イスラム過激派の思想的および歴史的背景を知る必要がある。ある永田町の政治家はアメリカあるいは欧米によるイスラム過激派掃討に日本が巻き込まれることを避けられれば、彼らと友好的な関係でいられると言う。しかしそれは殺戮と破壊のイデオロギーで、カフィール(異教徒)と穏健派ムスリムに対して徹底的に非寛容である。一度でもアラーへの冒涜だと見なされれば、キリスト教徒やユダヤ教徒であろうとなかろうと過激派による攻撃の標的となってしまう。イスラム過激派は中世にはインドの仏教を根絶した。タリバンはバーミヤンの大仏の救済に向かった日本代表団を侮辱的にあしらった。これらの観点から、受動的で孤立志向の平和主義では日本が宗教過激派に対処するうえで役に立たない。ISISが今年の1月に後藤健二氏と湯川遥菜氏を身柄拘束して殺害するより以前から、彼らは多くの日本人を殺してきた。

湾岸の安全保障がどうであろうとも、日本人の中には我が国は高まる一方の中国と北朝鮮をはじめとした近隣の脅威に集中すべきとの声もある。彼らは自国から遠く離れた場所に自衛隊を送るのは日本の国防と財政の資材の無駄だと言う。しかし歴史は彼らの見方が間違いだと教えてくれる。例えば、韓国は国境を隔てた北朝鮮の甚大な脅威に直面していながら、ベトナム戦争に派兵した。当時の韓国にとってベトナムなどほとんど気にもかけない存在で、それよりも近隣に北朝鮮、中国、ソ連といった敵対的な国々を抱えて孤立して包囲されている状況の方が深刻であった。日本との関係は緊張していた。よってソウルはアメリカへの忠誠を証明する必要があった。ポーランドも同様にイラク戦争に参戦してアメリカとの緊密な同盟関係をロシアに見せつけた。そのような忠誠は、同盟国にとって自分達の国益をアメリカの外交政策に反映させるうえで何らかの役に立つことがある。

さらに海外派兵は実戦部隊の戦闘経験を深める良い方法である。日本自衛隊は多国間演習で訓練の行き届いたパフォーマンスから高く評価されている。しかし日本が戦後70年間の平和に浸かっていたこともあって、自衛隊は世界でも最も実戦経験が乏しい軍隊である。日本のリベラル派はそれを誇りに思っているが、私の目には現在の自衛隊がマシュー・ペリー来航時の徳川武士に見えてならない。自衛隊は戦闘経験もなしに、日本本土に直接的で差し迫った危険が及ぶ際に実戦を戦えるだろうか?自衛隊が中東およびアフリカで多国籍軍に参加できれば、それは自国本土での危険な事態への対処を準備するうえで、まさに好都合な修業の場となるだろう。アジアにおいては自衛隊に実戦経験がなくても重要な責任を背負わざるを得ない。他方で中東やアフリカなら自衛隊は比較的低いリスクで実戦の中で戦争について学ぶことができるが、それは主要交戦国がアメリカ、NATO同盟諸国、そして地域の関係諸国だからである。これは日本が「殺るか殺られるか」という戦場への見習いと準備をするうえで好都合な環境である。イギリスのヘンリー王子はアフガニスタンでタリバン兵をプレイステーションのように射殺したと語った(“Prince Harry: 'I've killed Taliban fighters'”; Daily Telegraph; 21 January, 2013)。自衛隊もヘンリー王子のように平常心を持って敵に直面しなければならない。

アメリカあるいは欧米が中東や他の場所で行なう戦争に日本が巻き込まれてはならないと強調する者は、アジア太平洋諸国との友好とパートナーシップを重視しているのだろう。しかしこれは我が国が世界の中で占める特別(exceptional)な地位への素っ気ない否定である。日本はアジア太平洋の国でありながら、明治末期以来は「西欧列強」の一員としてアメリカやヨーロッパと共に世界を運営してゆく立場であった。日本国民はペルシア湾の戦略的重要性も日本の特別な地位もよく理解している。永田町で「自衛隊を湾岸に派兵するなど国民には理解できない」と言うことは全くの間違いなのである。私は天才でも何でもないが、ここに記したように上記の点をよく理解している。よって日本国民がペルシア湾の重要性をよく理解することに何の疑いの余地もない。

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2015年6月11日

ネタニヤフ・キャメロン外交からアメリカの同盟諸国への教訓

去る3月11日にグローバル・フォーラム・ジャパンが主催した日米対話において、慶応大学の宮岡勲教授と細谷雄一教授が同盟に関するいくつかの理論的な概念について言及した。特に他国への「巻き込まれ」および他国からの「見捨てられ」のリスクは非常に重要である。通常は脅威の認識に食い違いがある時には強い同盟国が弱い同盟国に自国の立場を押しつけると思われている。しかしアメリカ海軍大学のジェームズ・ホームズ准教授は全く正反対の事態が起こり得るとしている。弱小な同盟国は同盟の盟主の力を最大限に利用して自国の国益の伸長をはかるのに対し、強大な同盟国は対立国と対決のリスクを冒そうとは思わない。これはペロポネソス戦争の直前にスパルタとの対戦を促すケルキュラの要求を前にアテネが直面したジレンマである(“Thucydides, Japan and America”; Diplomat; November 27, 2012)。

上記でホームズ氏が言及したツキジデスの引用は、アメリカと同盟諸国の関係をどのように調整するかを理解するうえで非常に有益な示唆を与えてくれる。特にイランの核の脅威に関してイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とバラク・オバマ大統領の間で最近見られる見解の不一致は、世界各国の政策形成者達に重要な教訓を与えるだろう。オバマ氏との関係は良くないものの、ネタニヤフ氏はアメリカでも敵対勢力への宥和に走るホワイトハウスに強い懸念を抱く政策形成者達と中東の安全保障に関する理解を共有している。他方でイギリスのデービッド・キャメロン首相はオバマ大統領ときわめて良好な関係にあり、「よお兄弟(bro)」と呼ばれるほどである。しかし真面目な政策形成者はイギリスの軍事的能力を低下させているキャメロン氏の国防政策に批判的である。両指導者の著しい違いは我々が学ぶべき教訓を与えてくれるだろう。

まずベンヤミン・ネタニヤフ氏について述べたい。この場合、問題はイランの核の脅威に関するオバマ政権との認識の相違と、アメリカ国内の党派対立である。以下の点が主要な論点となる。第一は核協定自体の効果で、それというのもこれが一時的なものだからである 。第二の点は核拡散を超えたイランの脅威そのものの性質である。両方の論点ともに、オバマ政権がイランによるシーア派過激勢力支援の直接的な脅威を受けているイスラエル、サウジアラビアおよびその他湾岸アラブ諸国といった中東の同盟諸国とパーセプション・ギャップを抱えていることと深く関連している。いわば中東の同盟諸国はオバマ氏が自分達をケルキュラ扱いしているのではないかと疑念を抱いている。そうした中で共和党および民主党の一部は、トム・コットン上院議員が47人の署名を集めてアリ・ハメネイ最高指導者に核協定とそれが中東の安全保障に及ぼす波及効果への反対の意を示した公開書簡を宛てた一件に見られるように、こうした国々と懸念を共有している。最後の論点が事態をさらに複雑にするのはロシアと中国が核協定後のイランに関わってくるからである。例えばロシアはイランにS300対空ミサイルを売却しようとしているが、それがイスラエル、アラブ諸国そしてキャピトル・ヒルから由々しく思われている。ネタニヤフ氏の議会演説からほどなくしてワシントン近東政策研究所のロバート・サトロフ理事は、ネタニヤフ氏はオバマ氏に対してISISとの戦いよりもイランによる中東支配に戦略的な優先順位を置くようにと訴えたと評している。核協定自体についてサトロフ氏はイスラエルと欧米に諜報成果の食い違いを指摘し、アメリカはイスラエルをはじめとする中東の同盟諸国とのパーセプション・ギャップを解消してイランの不正行為を阻止せよと主張している。以下のビデオを参照されたい。


ネタニヤフ首相によるアメリカ議会演説。2015年3月3日


ロバート・サトロフ氏のインタビュー。2015年3月3日


核協定に関して、反対派はウラン濃縮と遠心分離機に規制が緩いうえに一時的な合意であることに懸念を抱いている。イラン国内の濃縮ウラン貯蔵量が減るとはいえ、必ずしも海外に輸送されるというわけでもない。イランの核施設はどれも閉鎖されない。また遠心分離機も全廃されるわけでもない。これは2012年にオバマ氏が突きつけた要求から大きく後退しているので中東の同盟諸国が重大な懸念を抱くようになる(“Obama’s Iran deal falls far short of his own goals”; Washington Post; April 2, 2015)。またワシントン近東政策研究所のマイケル・シン所長は、一時的な合意でしかも公式の文書さえない協定の拘束力はほとんどないと評している。以下のビデオを参照されたい。



反対派からの批判に鑑みて、同じくワシントン研究所のデニス・ロス評議員は、オバマ政権は核協定に関して、特に一時合意の有効期間、査察、そして違反への処罰といった懸念材料にどう対処するか示すべきだと主張する。オバマ氏の顧問でもあるロス氏自身も、現在の協定ではオバマ氏が第一期政権時に掲げたイランの核開発を無能化するという目的から後退したと認めている。しかしこの協定によってイランの意志を平和的なものに変えられるともロス氏は言う(“Deal or No, Iran Will Remain a Nuclear Threat”; Politico; March 31, 2015)。協定への賛成派は、イランは制裁の影響で経済的に疲弊し、国際的な核不拡散規範の遵守に積極的になると言う。よって現実的な合意によって我々の重大な目的であるイランの核兵器保有阻止を達成すべきだと主張している。しかしイランとアメリカが協定の文書の意味の解釈が食い違っているとあっては、そうした議論は反対派にとってほとんど説得力がない。4月2日のローザンヌ合意では、イランは今後15年間に3.67%までウランを濃縮できることになっている。イラン原子力庁のアリ・アクバル・サレーヒー長官は、イラン国営のプレスTVとのインタビューで20%のウラン濃縮はいつでも可能だと応えた(“Iran Nuclear Chief Threatens New Uranium Enrichment”; Washington Examiner; April 10. 2015)。

さらにアリ・ハメネイ最高指導者は、アメリカは制裁を即刻解除して協定の実施に踏み切るようにと要求した。それは文書に書かれた英語とペルシア語という言語上の違いによるものだと言う者もいる。ウッドロー・ウィルソン・センターのロブ・リトワク副所長によれば、解釈の違いが起きるのは両国の内政事情によるもので、イランの強硬派は大悪魔との協定など望まず、アメリカの強硬派もならず者国家との合意には懐疑的である。アメリカの反対派とイスラエルはイランの体制の性質を協定の内容以上に問題視しているが、賛成派は文書の技術的な問題に注目すべきだと主張する。そうした事態とは裏腹に、解釈の相違をもたらしたのは政策として重視するものの違いである。アメリカはイランが核分裂物質を製造する能力に制約を科そうとしているが、イランはエネルギー目的でウラン濃縮をしたいと思っている(“The Language of the Iran Deal”; WNYC Brian Lehrer Show; April 13, 2015)。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官とジョージ・シュルツ元国務長官はイランが国際査察官を騙そうと思えば、多くの施設も核分裂物質も査察の対象外なので簡単にできると指摘する。中東でのアメリカの同盟諸国は、オバマ政権が一時的で拘束力の弱い合意を取り付けたことでイランの地域的な覇権を認めたと見なしている。よってサウジアラビアは独自の核抑止力を模索している(“The Iran Deal and Its Consequences”; Wall Street Journal; April 7, 2015)。

オバマ政権と中東の同盟諸国の間のパーセプション・ギャップは協定の技術的解釈を超えたものである。そうしたパーセプション・ギャップは中東でのより包括的な安全保障上の意味合いから理解しなければならない。オバマ政権がイランをISIS打倒のためのある種のパートナーと見なしている一方で、反対派はイランの地域支配への野望とシーア派過激勢力への支援を域内で最も重大な脅威と見ている。サウジアラビア元総合情報庁長官のトゥルキー・アル・ファイサル王子は3月19日に英国王立国際問題研究所の講演で、今回の核協定が中東の安全保障に与える影響の全体像を語った。それは核協定によってこの地域のステークホルダーの間でアメリカとイランの談合によって湾岸地域でイランの影響力が増大するとの懸念から、域内の核軍拡競争が高まるというというものである。オバマ政権の中東への関与について、サウジアラビアは地域安全保障のためには言葉でなく行動を求め、アメリカが自由シリア軍を支援するかどうかが重要な試金石になると見ている。他方でトゥルキー王子はイラク政府がイランを刺激することを過剰に恐れているので、サウジアラビアの影響力はこの国にほとんど及ばないと述べた。以下のビデオを参照されたい。



トゥルキー王子が英国王立国際問題研究所で講演したようにサウジアラビアは今やオバマ政権をそれほど信頼できないと見なしているので、去る5月にキャンプ・デービッドで開催された会議にスルタンが参加しなかったばかりか、パキスタンから核兵器の購入さえ検討している有様である(“Saudi Arabia vs. Iran”; Value Walk; May 21, 2015)。イスラエルのモシェ・ヤーロン国防相もこの協定は抜け穴だらけで、イランが査察官を妨害して最終的には北朝鮮のように核兵器しかねないと懸念を述べている(“Current Iran framework will make war more likely”; Washington Post; April 8, 2015)。実際にイランのアリ・ハメネイ最高指導者はかつてのサダム・フセイン同様に、国際査察官による自国の軍事事施へのアクセスとイラン人科学者に聞き取りを拒否した(“Iran’s Supreme Leader Rules Out Broad Nuclear Inspections”; New York Times; May 20, 2015)。

オバマ政権はISIS打倒だけのためにイランと核問題での妥協を模索し、イランに支援されたシーア派代理勢力への支援さえ行なっている(“Complex US-Iran ties at heart of complicated Mideast policy”; Rudaw; 27 March, 2015)。外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員はさらに、アメリカ空軍はイラン空軍になってしまったとさえ言っている (“America’s New Role: As Iran’s Air Force”; Commentary; March 25, 2015)。しかし民主国家防衛基金(FDD)のマイケル・レディーン、フリーダム研究員は、アメリカとイランがイラクで共通の敵を抱えているというだけで行動を共に出来るわけではないと論ずる。イランはイスラム革命以来、事あるごとにアメリカを呪っている。さらにイランのテロリストがアメリカ人を殺害したばかりが、駐米サウジアラビア大使の暗殺さえ行なおうとしていた。アメリカとその同盟国であるイスラエルに対してそこまで長年にわたって激しい敵意を抱くイランが、拡張主義的な野心を捨て去ることは考えにくい(“The Iran Deal: Forget About Stability, Our Strategy Should Be Survival”; Forbes; April 15, 2015)。上院の「四十七士」に代表されるキャピトル・ヒルの反対派が、オバマ政権にイスラエルをケルキュラ扱いすることをやめるように強く要求するのも当然である。

イランはイエメンでフーシ、レバノンでヒズボラ、イラクでシーア派民兵といったテロリストを支援している。また、イランはアフガニスタンでも戦闘員を募集してシリアでアサド政権を支援している。こうした周辺地域での工作ばかりか、イランは全世界で大規模なサイバー攻撃を仕かけている。イランがそれほど挑発的な行動に出る理由は、地政学と国際的な孤立にある。イランは西アジアと中央アジアを連結する位置にあるが、自然の防壁には恵まれていない。歴史的には北方からテュルク系民族が侵入し、メソポタミアはセム系諸国、ローマ、アラブ、そしてオスマン帝国との係争地であった。また、イランはイラン・イラク戦争の時期に自国が欧米からも中東諸国からも完全に孤立していると痛感している。よってテヘランのシーア派体制は中東地域で自国の代理勢力を支援し、安全保障に関する歴史的な不安を克服しようとしている(“Why Iran Needs to Dominate the Middle East”; National Interest; April 10. 2015)。上記の問題に鑑みて、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将はイスラエルが示した、中東一帯でのシーア派民兵勢力が拡大すると地域全体がイランの影響力に対して脆弱になってしまうとする懸念を支持している。さらにオバマ政権がイラクから性急に撤退してしまったために、イランがそれを中東でのアメリカの力の弱さだと解釈してしまった。問題はイランが中東の支配、イスラエルの抹殺、そして核開発の継続を目論んでいることである(“Former general splits with Obama; says Iran, not ISIS, is the real enemy.”; National Review; March 20, 2015)。そうした事態に加えて、イランは核開発で北朝鮮との協力を依然として続けている(”State: We can't deny Iran nuclear cooperation with North Korea; it won't stop nuke deal”; Washington Examiner; May 28, 2015)。ネタニヤフ氏はイランがイエメンで自国の代理勢力を支援している時期だけに、現状は核交渉を進めるには好ましくないタイミングだと恐れている。弱い合意では彼らの拡張主義を勢いづけかねず、イスラエルは現核協定ではイランへの懲罰もなしに利益だけを供与していると見ている(“Netanyahu accuses Iran of trying to 'conquer the entire Middle East' amid looming nuclear deal”; FOX News; March 29, 2015)。

上記で述べたように、イランとの現在の核協定の影響は技術的な問題を超えて中東の安全保障構造の全体に影響を及ぼす。オバマ政権とイスラエルやサウジアラビアに代表される中東の同盟諸国とのパーセプション・ギャップはこれほどまでに大きい。さらに、ロシアと中国は核協定の実施後を見越して国防分野も含めたイランとの関係強化を模索している。この協定が公表されると、ロシアはイランとS300対空ミサイルの売却で合意してイスラエルの危機感を高めた(“Russia-Iran relationship is a marriage of opportunity”; Washington Post; April 18, 2015)。ロシアのイラン政策の中核は欧米の影響力を低下させることである。またロシアの原子力産業はイランの市場を注視し続け、今回の核協定は彼らにとって絶好の機会となる(“How Russia Views The Iran Nuclear Talks”; Breaking Energy; March 18, 2015)。しかしオバマ氏はネタニヤフ氏の厳しい対露批判にもかかわらず、ロシアからイランへのミサイル売却を擁護する発言をしてしまいイスラエルのメディアを驚愕させた (“Israel analysts shocked by Obama’s comments on sanctions, S-300 supply”; Times of Israel; April 17, 2015)。そうした中で中国は、今回の協定がイランからの石油輸入を確保するために必要だと見ている(“The Dragon and the Atom: How China Sees Iran and the Nuclear Negotiations”; National Interest; November 14, 2014)。

オバマ政権が主導するイラン核協定はそれほど危険なので、上院「四十七士」をはじめとするワシントンの反対派はイスラエルやサウジアラビアの懸念に共鳴している。同盟の盟主がパーセプション・ギャップのためにより弱小な同盟国をケルキュラ扱いする時には、弱小な同盟国は盟主国内の反対派と手を組んでその国の内政に入り込んで、盟主の国の政府の決定を覆すべきだろうか?上記のような核協定の欠陥とオバマ政権の中東戦略の危険性にもかかわらず、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、ネタニヤフ氏がワシントン政治に深入りし過ぎだと批判的に論評している。ケーガン氏は決してオバマ政権の外交政策を支持してはいないことを忘れてはならない。それでは、どうしてそこまで批判的なのか?ケーガン氏はネタニヤフ氏によるワシントン政治への深入りは内政干渉であり、イスラエルが戦略的に重要であろうがオバマ氏との関係が良くなかろうが例外でないと述べている。また、そうした行為によってアメリカが国家全体としてイラン政策に関するコンセンサスを形成することを妨げるとも言う。ケーガン氏が言うように、党派分裂はアメリカの外交政策形成者の間で深刻な問題となっている。さらにウィンストン・チャーチルが鉄のカーテン演説を行なったのは議会でなくミズーリ州フルトンだったのも、チャーチル自身が大統領の招待を受けたわけでもなく、公職からも退いていたからである(“Five reasons Netanyahu should not address Congress”; Washington Post; January 29, 2015)。ケーガン氏はさらに、ジョン・ベイナー下院議長がネタニヤフ氏を招待できるなら、民主党側も共和党政権に対して同様なことができると主張する(“At what price Netanyahu?”; Washington Post; February 27, 2015)。ネタニヤフ氏の事例は全世界の国家指導者達にとって、アメリカが世界の期待に応えない時にどのように振る舞うかを模索するうえで重要な課題を示してくれる。アジア諸国はオバマ政権の戦略的リバランスに歓迎一色だが、オバマ大統領がアジアの期待に沿うという保証はない。それどころか中国に対してもイランに対するのと同様な宥和姿勢だと、どうなるのか?

他方でデービッド・キャメロン首相の場合に問題になるのは同盟国としての軍事的能力である。キャメロン氏はオバマ氏と個人的に良好な関係にある。2013年12月にプレトリアで行なわれたネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の葬儀では、キャメロン氏はオバマ氏とデンマークのヘレ・トーニングシュミット首相と共に嬉々として自撮り写真を撮っていた(“David Cameron defends 'selfie' at Nelson Mandela memorial”; Daily Telegraph; 11 December 2013)。しかしそれでアメリカの政策形成者の間でキャメロン氏の評価が高まるわけではない。2010年の戦略防衛見直し以来、イギリスの国防能力は縮小され、それが多くのアメリカ人に危機感を抱かせた。アメリカ陸軍参謀長のレイモンド・オディアーノ大将は、イギリスは戦後のアメリカが世界各地で軍事作戦を展開するうえで最も信頼できるパートナーであったこともあり、国防力削減は英米同盟にとってマイナスであると発言した。特にウクライナ危機以後のロシアの脅威の高まりとISISによる自称カリフ国家の台頭によってNATO諸国は国防力の再強化の必要があり、イギリスはこうした取り組みの主導的立場にある。しかしイギリスの陸海空軍は大幅に削減されたので、軍事的能力は地球規模での活動の要求を満たすことが難しくなっている。現状では英海軍のマンパワーと飛行部隊の数はクイーン・エリザベス級空母の運用には少な過ぎる(“US fears that Britain's defense cuts will diminish Army on the world stage”; Daily Telegraph; 1 March 2015)。そうした事態にもかかわらず、イギリスの有権者は国防費が海外開発援助費を下回っても何とも思っていない(“EXCLUSIVE: UK set to spend MORE on foreign aid than on Armed Forces”; Daily Express; March 1, 2015)。

イギリスの国防の問題はNATOが掲げたGDP2%という目標達成に過剰に囚われていることだが、実際の軍事的能力は予算の金額で決まるわけではない。海軍史家のアレクサンダー・クラーク氏は、イギリスは自国の国防への要求水準とその目的には何が求められるかを明確にすべきだと主張する(“The Defence Debate – why the UK needs to change the subject”; USNI Blog; February 20, 2015)。実際にイギリスは自国の主権が及ぶ領土の防衛にさえ難題を突き付けられている。スコットランドではロシアの潜水艦がトライデント・ミサイル原潜の基地があるファスレーン近海にまでやって来ている。イギリスはロシアの潜水艦勢力に対抗するために、アメリカ、カナダ、フランスなど同盟諸国の支援を必要としている。いわば、イギリスはキャメロン政権が対潜水艦能力を削減したために、自国の独自核戦力を守れないのである(“A Suspected Russian Submarine Is Lurking Off Of The Scottish Coast”; Business Insider; January 9, 2015)。イギリスがドイツのUボートと戦った豊富な経験によって、冷戦期を通じてNATOの対ソ潜水艦抑止を主導してきたことを考慮すれば、これは驚くべき事態である。キャメロン政権の致命的な誤りはニムロッド対潜哨戒機を廃棄してしまったことである(“Nimrod cuts 'have allowed Russian submarines to spy on Trident”; Daily Telegraph; 29 May, 2015)。アルゼンチンでのナショナリズムの台頭も新たな脅威である。イギリス海軍はクイーン・エリザベス級空母の就役を前にインビンシブル級を退役させてしまったが、アルゼンチンはロシアからフォークランド諸島を攻撃できるスホイ24爆撃機を賃借している(“Britain's military defences in the Falkland Islands”; Daily Telegraph; 24 March 2015)。

イギリスのようにグローバルな海軍国が主力艦に空白期間を作るとはきわめて信じがたい。イギリスの軍事的能力の低下は外交政策のビジョン欠如と深くかかわっている。サセックス大学のマキシン・デービッド講師はそうした傾向を以下のように分析している。総選挙を前にした4月2日の党首討論では、外交政策はほとんど語られなかった。イラクとアフガニスタンでの戦争への厭戦気運と地域ナショナリズムの高揚によって、イギリスは孤立主義を深めている。さらに国際安全保障への国民的関心の低下によってイギリスの外交政策は通商志向になっている(“State of the Nation: Britain’s Role in the World Just Keeps Shrinking” The Conversation; 29 April 2015)。これが典型的に表れているのがAIIBへの加盟申請で、しかもそれはヨーロッパ諸国の先陣を切ってであった。問題は世界が直面する脅威が多様化する時にイギリスがグローバルな役割を果たすと期待しにくくなっていることである(“World crises may be multiplying, but campaign turns Britain further inward”; Washington Post; April 25, 2015)。イギリスの関与はヨーロッパから中東、アフリカ、アジアにいたる地域で低下している。キャメロン政権は香港の学生運動に対する中国の抑圧にさえ強く抗議しなかった。フランスも軍事的な役割はドイツにとって微妙な問題であることから、イギリスの孤立志向を懸念している(“Britain’s Drift From the Global Stage Becomes an Election Issue”; New York Times; April 27, 2015)。イギリスの国防能力の問題はきわめて根深い。ダウニング街は世界の安全保障と国際公益のためにイギリスが持てる力を全面的に発揮することを忌避している。オディアーノ陸軍大将の発言は全世界のイギリスの同盟国の懸念を代弁したもので、キャメロン首相がオバマ大統領の良き相棒であろうともそれは変わらない。

ここまで、中東とヨーロッパにおけるアメリカの主要同盟国について記したので、次はアジア太平洋地域の最重要同盟国である日本について記したい。日本はイスラエル、サウジアラビア、そしてイギリスから何か教訓を学べるだろうか?現在、安倍政権は国会で安全保障法案を通過させ、積極的平和主義を強く推し進めようとしている。安倍晋三首相のキャピトル・ヒルでの演説は概ね成功であった。日本の安全保障の認識と軍事的能力についてはどうだろうか?中東でイランが地域の派遣を目指しているように、極東では中国が地域の覇権を目指している。自国の軍隊の他に、イランがシーア派代理勢力を利用しているのを真似て中国は漁師を代理勢力に仕立てて影響圏を拡大しようとしている。よってオバマ政権のアメリカがイスラエルとサウジアラビアにとっている態度は、日本にとって死命を制する問題である。安全保障法案と憲法改正に関する限り、日本国民は「巻き込まれ」を過剰に懸念しているが、日本という国の生存には「見捨てられ」の方がはるかに重大な意味を持つ。たとえ日本が憲法その他の法的制約を超えてアメリカ主導の多国籍軍に積極的に全面協力しようとしても、国力を超えたことまでしてもらおうと誰が期待するのだろうか?日米あるいは多国間同盟への貢献強化に反対する者は、アメリカ側とのパーセプション・ギャップを埋めて「見捨てられ」を避けることをもっと真剣に考えるべきである。日本国民にとって最悪のシナリオはオバマ氏が日本をイスラエルやサウジアラビアのようにケルキュラ扱いすることである。それは私の背筋を凍らせるものである。日本はワシントン政界で自国に同調する者達とともに行動してこうした事態を避けることもできるが、それはスマートで人目につきにくいロビイングでなければならない。それには高度な政治手腕が要る。ネタニヤフ氏はアメリカの外交政策で党派分裂を刺激してしまった。

軍事的能力に関しては、国際社会の期待に応えることが重要である。キャメロン政権下のイギリスは国力に見合った国防力の維持をやっていない。だからこそオディアーノ陸軍大将がそのことに懸念を表明したのだと銘記しなければならない。日本には脅威が多様化する時代にあって、近隣地域を超えて活動する能力がある。安倍氏が安保法制をめぐる議論で言及したホルムズ海峡は日本の石油需要のために死活的な海路で、緊急時には多国籍軍に参加してここの海上交通を保証することは日本にとって当然の役割である。しかし安倍氏が日本の関与を1991年の湾岸戦争後に日本が既にやっていた掃海に限定したことは非常に残念であった。現在、湾岸地域の海上で最も深刻な脅威はイランの対艦ミサイルである。イランは当時よりもA2AD能力を質量ともに大幅に強化している。キャリアー・キラー・ミサイルはどのような艦船でも、たとえそれが機雷敷設水域から遠く離れていいようとも撃沈できる。艦隊防空がなければ、エネルギー供給のシーレーン防衛の任務を安全かつ成功裡に行なうことは不可能である。日本の海上自衛隊はイージス艦を配備し、こうした艦艇は日本のオピニオン・リーダーの間でしばしば言われるように多国間での北朝鮮の弾道ミサイル撃墜作戦に役立つ。しかしイージス艦開発の第一目的は艦隊防空であり、日本には他の参加国と共に多国籍軍の艦隊をイランのミサイル攻撃から守る能力がある。これはSEADあるいはDEADのように敵の基地を無力化したり、あるいは敵の領土に上陸したりといった攻撃的な役割ではなく、全面的に防衛的なものである。日本が中東でそのような作戦を行なう能力がないのは明らかであり、そうした役割を諸外国が期待することなどまず考えられない。しかし艦隊防空であれば日本にできることであり、これぞ過去に日本が成し得た成果から積極的平和主義に向かう真の一歩となる。

安保法案をめぐる永田町での議論では、海外派兵によって戦争で死傷者が出るリスクが過剰に意識に取り上げられている。しかしこの法案で決定的に重要な点は、日本が自国の防衛能力を全面的に活用して国際公益に尽くすことである。これは積極的平和主義の中核を成す概念である。ペルシア湾の安全保障は日本一国の狭い国益を超えたものであり、その価値は日本が国際社会に貢献することに付随すると考えられる「リスク」よりもはるかに大きなものである。遺憾なことに安倍政権も野党もこの絶対的に見逃せない論点を忘れ去っている。現在の日本で繰り広げられる防衛論議の質は、キャメロン政権下のイギリスでのものよりもはるかに悪い。しかし防衛能力を完全に発揮できれば、日本が諸外国と共通の安全保障認識を形成してゆくうえでも役立つだろう。

最後に首脳同士の個人的関係について述べたい。国家間の関係であっても首脳同士が個人的に親密な方が有利なことに疑いの余地はない。しかし私は日本の政界および言論界では安倍首相とオバマ大統領の関係を心配するあまり、首脳間の個人的関係を情緒的にとらえ過ぎていると睨んでいる。オバマ大統領と親密なキャメロン首相だが、アメリカの政界や識者の間での評価は必ずしも高くはない。逆にホワイトハウスとの関係が良好とは言えないネタニヤフ首相の主張を支持するためには、47人もの上院議員の署名を動員できるのである。もちろん、オバマ外交に批判的なロバート・ケーガン氏でさえ述べたように、外国の首脳がアメリカ国内の党派対立に深入りし過ぎることは好ましくないだろう。だがここで問題提起したいのは、日米関係の観測者の間で安倍氏とオバマ氏の個人的関係を情緒的に拡大解釈し過ぎていなかったかという点である。こうした傾向はアメリカ側の日本問題専門家にも見られるように思われる。首脳同士の関係を決して軽視するつもりはないが、日米双方のオピニオン・リーダー達はより重要な課題を注視した方が良いと思われる。

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2015年2月27日

それでも日本は積極的平和主義でISISとイランの脅威を抑制すべし

安倍晋三首相が中東訪問で2億ドルの人道支援によってこの地域でのテロに立ち向かうと表明した(「中庸が最善:活力に満ち安定した中東へ 新たなページめくる日本とエジプト」";;安倍首相の中東政策スピーチ;2015年1月18日)のを受けて、ISISがインターネットで日本人人質2人の殺害を全世界に流した(ISIS Says It Has Killed 2nd Japanese Hostage”; New York Times; January 31, 2015)ために野党と一部のオピニオン・リーダー達からの批判の嵐となった。JNNの世論調査によると国民の55%が安倍氏の中東訪問は不適切だったと答えている(「安倍首相の中東訪問、タイミング『不適切55%”』; TBSニュース;2015年2月9日)。

しかし安倍首相がエジプトで2億ドル援助の演説を行なった次にイスラエルを訪問したことを人質殺害と関連付けるのは、あまりに皮相的である。ニューヨーク在住の文筆家である安田佐和子氏はテロリストの真の目的は一般市民の間に恐怖を煽り、自分達の存在を誇示することだと語る。私は安田氏の見解に同意する。それはメディアがジョージ・W・ブッシュ氏への批判を繰り広げたために、サダム・フセイン打倒後のイラクに反米テロリストが終結したという先例があるからである。安倍氏への批判に対する批判はアラブ側からも挙がっている。パレスチナ自治政府のワリード・シアム駐日代表は駐日アラブ外交団団長として、ISISを非難して安倍氏を擁護している(「『安倍首相のせいで日本人がテロの標的に』ジャーナリストの指摘に疑問、反論が噴出」;J-CASTニュース;2015年2月2日)。

人質両名の殺害は日本国民を震撼させたが、日本は戦後の全方位外交から脱却して自国の国益を守る必要がある。オバマ大統領自身がアメリカはもはや世界の警察官ではないとのたまわるようでは、日本もオバマ政権のアメリカに信頼を寄せられなくなっている。そうであるとすれば、日本は民主主義諸国の中核として中東の安定化のために何かをやる必要がある。さもなければ中東の石油に大幅に依存する自らの経済さえ持続できなくなってしまう(“A tipping point for Japan’s foreign policy”; Financial Times; January 28, 2015ないしこちら)。 問題は日本一国の狭い国益を超えたものである。安倍政権の積極的平和主義を後押ししている日本国際フォーラムは第37回政策提言で、日本は戦後の「一国平和主義」を脱却して自由主義世界秩序の強化に積極的に関わるべきだと主張する 。

この提言の重要なポイントは日本の再軍備でも大国の地位追求でもなく、世界平和への脅威の抑制による真の「世界不戦体制」の構築である(「積極的平和主義と日本の針路」;日本国際フォーラム;2014年8月)。安倍政権が打ちだしたイラクとシリアの避難民に対する非軍事援助は、積極的平和主義の考え方を実行に移したものである。ISISの登場は現行のウエストファリア体制を骨抜きにする重大な挑戦で、狂気とテロに支配された世界規模のカリフ国家の設立など到底受け入れられないものである。そんな事態になれば平和と繁栄、そして国民の福祉という日本の存在基盤そのものが危機にさらされる。永田町での党利党略がどうあろうと、中東の脅威を抑え込むことは日本の国益である。

にもかかわらず、日本の世論には安倍首相の中東訪問のタイミングを非難する声もあり、彼らは思慮を欠いた外交日程によって後藤健二氏と湯川遥菜氏がISISに殺害されたと固く信じている。我々の同胞が残虐に殺されたことはきわめて悲劇的である。しかし私は安倍首相の中東訪問は日本の国際関与を訴えるうえで絶好のタイミングだったと主張したい。それは世界の公益に寄与するものだが、安倍氏を非難する者はこの点にほとんど考慮を払っていない。私は安倍晋三氏を礼賛しているわけではない。私が深刻な懸念を抱いているのはこれまでも当ブログで頻繁かつ再三にわたって述べたように、バラク・オバマ氏の中東政策が恐ろしく間違っていることである。日本を含めたアメリカの同盟国はオバマ氏の失策を取り戻すためにも、とれる行動は何でもとるべきである。

中東がISISによる蛮行と恐怖で震撼するような事態を許した最大の要因は、オバマ政権のイラク政策の失敗である。これは政権内での国防長官の頻繁な交代に顕著に表れている。ロバート・ゲーツ氏からレオン・パネッタ氏、チャック・ヘーゲル氏にいたるまでがイラクへの関与を低下させようというオバマ氏の政策に異を唱えた。政権発足前の移行チームの時期からオバマ・チーム入りしていたミシェル・フロノイ国防次官さえパネッタ氏とともに政権を去り、ヘーゲル氏退任後の国防長官への就任を受諾しなかった。オバマ大統領によるイラクからの性急な撤退で生じた力の真空は事態を非常に複雑にしている。ほとんどの専門家とオピニオン・リーダーがシリアとイラク西部のスンニ派過激主義者と旧バース党員の枢軸ばかりを論じるが、イランの支援を受けたイラク南部とレバント地域のシーア派ジハード主義者の脅威も侮れない。あまりにも多くのオピニオン・リーダー達が未知数xだけの方程式だとの前提で事態を語っている。この方程式でもう一つの未知数y、すなわちイランの影響については彼らの視野に入っていない。

そのように複雑な方程式をどのように解けばよいのだろうか?ISISと戦うというだけの理由でクルド人とシーア派の民兵を呉越同舟させることはきわめて危険で、実際に民族宗派間の紛争も伝えられているからである(“U.S.-backed Iraqi forces face risky urban warfare in battle against Islamic State”; Washington Post; February 8, 2015)。イラク南部の現地シーア派に加えて、イランはシリアでもシーア派代理勢力を支援してアサド政権を守っている。メリーランド大学研究員のフィリップ・スミス氏は、こうした代理勢力がシリアに流入しているからと言ってシーア派が自発的に連帯しているわけではなく、イランが地政学的にもイデオロギー的にも高度に組織化された支援を行なっていることを示すものだと している。すでにレバノンにはイランがパーレビ王政崩壊から支援を続けているヒズボラがいる。さらにイラクのリワ・アブ・ファドル・アル・アッバースというシーア派組織もシリアの内戦に参加している。ISISと同様にイランもフェイスブックを利用して志願兵を募っている。特にアフガニスタンのシーア派が広告の対象となっている。イランの革命防衛隊は反乱兵の募集のためにそのように広範なネットワークを築いている。イランが及ぼすことができる悪影響は一般に思われているより大きなものである(“The Shiite Jihad in Syria and Its Regional Effects”; Washington Institute for Near East Policy – Policy Focus 138; February 2015)。それら多くの懸念にもかかわらず、オバマ氏は欧米がイランに原子力利用と中東での「正当な地位」さえ認めてやれば、この国がイラクとシリアで建設的な役割を果たせると信じ込む有り様である。民主党のボブ・メネンデス上院議員やオバマ氏と長年の盟友であるトム・ケイン上院議員さえ、イランに対するそうした白昼夢には異を唱えている(“Obama’s fight with his own party over foreign policy”; Washington Post; February 1, 2015)。スミス氏は先の報告書で欧米はISISとシーア派双方がネット上で行なうプロパガンダと兵員募集を遮断するように提言しているが、それは序の口に過ぎない。

アメリカが二つの敵にどのように対処すべきか模索するために、ワシントン近東政策研究所は2月11日に公開討論会を開催した。同研究所のマイケル・ナイツ研究員とメリーランド大学のフィリップ・スミス氏が戦略的な概観を述べて政策の方向性を提言した。両者の議論はP・J・ダーマー退役陸軍大佐が総括した。はじめにナイツ氏がISISとの戦いには数年で勝つことが可能だが、シーア派民兵がクルド人およびイラク中央政府と衝突すればイラクの統一が損なわれると述べた。また、バグダッドは有志連合がイランへの過剰な依存に走れば、シーア派がイラクを乗っ取るのではないかと懸念している。よってアメリカと同盟諸国はこの戦いでイランより大きな戦果を挙げねばならないと説く。さもなければイラクはイランの衛星国となり、アメリカはこの地域で重要なパートナーを失うことになる。レバント地域でのイランの影響力も問題である。シーア派民兵はシリアのアサド政権についているので、彼らの存在はイスラエルにはゴラン高原で、イラクには北西部国境での脅威となる。よってスミス氏はイランがレバントからペルシア湾まで影響下に置くようになると警告している。ISISとイランへの対処が同時に必要になるという複雑な事態に鑑みて、ダーマー氏はアメリカにとって最重要課題はISIS打倒後のイラクを安定して継続的なパートナーにすることだと総括している。以下のビデオを参照されたい。



私が彼らの討論でやや当惑したのは、アメリカは核問題でテヘラン政府と厳しい交渉に臨んでいる最中に、ISIS打倒のためにイランに支援を求めるというオバマ政権のアプローチを認めたかのように議論が進んだからである。オバマ大統領の宥和政策によってイランがアメリカを弱体と見なして自信過剰になるのではないかとの懸念は深まるばかりである。昨年6月18日にアメリカン・エンタープライズ研究所でジャック・キーン退役陸軍大将がジョン・マケイン上院議員との公開討論で、イランはシーア派民兵を通じて自分達の足場が固められる限り、イラクの安定には関心もないと語ったことを忘れてはならない。

これまで挙げてきた観点から、私は安倍首相による2億ドルの援助計画は、有志連合がISISと戦う一方でイランの影響力拡大を極力抑えるには絶好のタイミングであったと考えている。日本のメディアはこのことに言及しない。安倍氏自身あるいは岸田文雄外相はこのことを国民の前でもっと大胆に述べるべきであったし、それによって日本国民と知識人の間でイスラム過激派に対する問題意識と理解が高まったであろう。日本はイスラエルとアラブ諸国の双方をイランの脅威から解放するとともに、こうした国にISIS掃討への関与を要請するというオバマ大統領の致命的な失態を取り返すためにも絶対に必要な行動をとったのである。これはまさに積極的平和主義を実行に移す対応である。なぜ永田町界隈とメディアの間ではこれほどまでに難癖がつけられるのだろうか?

そうした安全保障上の脅威からすれば、安倍首相の中東歴訪は最も望ましい時期をとらえたものである。後藤氏と湯川氏の斬首は恐るべきもので、両人には哀悼の意を述べたい。しかしこの事件をもって安倍氏を非難している者は過剰に感情的になり、ただ首相への反論に事件を利用しているだけのような印象を受ける。問題は安倍氏が好きか嫌いかではない。日本が中東の安定に寄与するための全体像を考えてゆく必要がある。アメリカもヨーロッパも長年にわたってこの地域でのテロ掃討に関わっている中で、ISISやシーア派ジハード主義者の温床となっている社会経済的不安定を抑制するために従来以上の影響力を行使できるのは、主要民主主義国では日本を置いて他にない。安倍氏はエジプト、ヨルダン、イスラエル、そしてパレスチナ自治政府を訪問したが、4者いずれも体制、国家承認、民族、宗教などの違いを乗り越えて日本の首相と会談するためにわざわざ外交日程を調整した。神でさえ何人も安倍氏を嫌うことを止めることはできないので、そうしたい者はそうすればよい。しかし遺憾なことに安倍氏の外訪を非難するもののほとんどは、中東へのビジョンもなく日本がアメリカ主導の有志連合から距離を置くべきだと主張するような古い消極的平和主義から物を言っているが、それは今世紀にはとてつもなく孤立主義で時代遅れな考え方である。

さらに、私は日本のオピニオン・リーダー達の間に広まっている反ユダヤ主義に怒りの意を表したい。彼らは日本人人質が殺害された際に、安倍氏があまりにも短慮にイスラエルを訪問したためにアラブの怒りに触れたと主張した。それは全くの間違いである。パレスチナ自治政府は安倍氏がイスラエルとともに自分達を訪問することを歓迎した。さらに重要なことに、イスラエルはイランの核兵器とシーア派代理勢力の脅威に対抗するうえで湾岸アラブ諸国にとって事実上の同盟国になっている。こうした観点から日本では一般市民から知識人にいたるまで多くの者がいとも簡単に反イスラエルの視点を持つようになったのか、両国が世界の安全保障で価値観と国益を共有していることをからすれば疑問を抱かざるを得ない。1月21日に行なわれたベンヤミン・ネタニヤフ首相と安倍晋三首相の共同記者会見では、反アラブあるいは反イスラム的な文言は一切なかった。ネタニヤフ氏はイランと北朝鮮への核拡散、そしてそこからテロリストへの核の漏洩が世界に与える恐怖を強調した。他方で安倍氏はテロ、二国間関係とともに、日本がイスラエルとパレスチナの和平交渉を双方の友人として支援してゆくと語った。以下のビデオを参照されたい。



反対派は安倍氏のイスラエル訪問を盲目的な対米追従だと見なしているが、彼自身はもっとリアリストの立場から日本自身の国益追求と中東でのプレゼンスを模索している。パレスチナとの関係を維持しながらイスラエルとの関係を深化させることによって、安倍氏はこの地域での日本の影響力強化をはかっている(“Shinzo Abe Raising Japan's Profile by Engaging the Middle East”; Economy Watch; 11 February, 2015)。多くの日本人が殺害事件に非常な衝撃を受けたので事件とイスラエルを短絡的に結び付けてしまい、中にはこの国が諸悪の根源であるかのように語った者さえいた。しかし我々は杉原千畝という人道主義者の国であって、アドルフ・ヒトラーという人種差別主義の殺戮者の国ではない。杉田和博官房副長官が委員長となる検証委員会が人質事件を検証する(「(社説)人質事件検証―歴史的視点が必要だ」;朝日新聞;2015年2月12日)際に、そうした根拠薄弱な反ユダヤ主義が払拭されることが望ましい。

また、イスラム過激派の性質も理解するべきである。日本が宥和したとしてもISISは人質を殺害したであろう。過激派は自分達の同胞であるイスラム教徒さえ殺害する。異教徒を殺すのに何の躊躇があるだろうか?日本は西欧対イスラムという文明の衝突に巻き込まれるべきではないという間違った理解が広まっている。それは全く誤っている。歴史を通してみると、キリスト教徒とユダヤ教徒だけがイスラム過激派と敵対関係にあったわけではない。彼らはインドで仏教を根絶したうえに、ゴータマ・シッダルタ生誕の聖地を破壊した。タリバンがバーミアンの大仏爆破を思いとどまるよう請願に訪れた日本代表団に対し、侮辱的な対応だったことを忘れてはならない。また日本がアメリカ主導の有志連合と距離を置くべきだという議論も、彼らがロシア人を殺害したことからして間違っている (“ISIS video claims to show boy executing two men accused of being Russian spies”; CNN News; January 15, 2015)。我々が銘記すべき最も重要な点は、過激派の偏向したイデオロギーと狂気性である。歴史的な証拠が示す通り、イスラム過激派はムスリム穏健派や他宗教の信者に非寛容的である。現在では彼らはスンニ派の中でも最も教条主義的で無辜の民への殺戮さえ正当化するようなサラーフィー主義に傾倒し、過激性と暴力性を強めている。

我々は中東の安全保障をめぐる複雑なやり取りとイスラム過激派の性質を理解せねばならない。最後に、グローバル社会は戦闘地域にいるジャーナリストと援助関係者を守るために国際的なプロトコールを作成すべきだと訴えたい。権力からの独立性を重要視している彼らは政府の指示に従うことに難色を示すかも知れない。しかし彼らの勇敢な職務への献身がテロリストに利用され、それが誘拐と殺害を誘発して世界を恐怖に陥れている。よって各主権国家はジャーナリストや援助関係者に対し、テロとの戦いでどのように危険に巻き込まれないようにするかというガイドラインを示さねばならない。危機の予防はテロリストに拘束された人質の解放よりも重要である。一度捕まった人質をテロリストから解放する手段は、事実上ほとんどないからである。

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2014年7月25日

スンニ派とシーア派の相違から読み解く中東情勢

去る6月21日に放映されたNHK「ニュース深読み」のイラク特集で、スンニ派もシーア派も同じイスラム教で違いはないと言われたことに私は驚愕してしまった。そのようなものは消極的平和主義による甘い願望に過ぎない。現代の政治的文脈では、シーア派とスンニ派の亀裂は国家間および民族宗派間の衝突に重大な影響を与えている。しかし戦略家や外交政策の学徒にとって神学上の詳細に立ち入ることはそれほど有益とは思えない。よって、歴史的背景と宗教的行動の初歩について述べてゆきたい。

広く知られているように宗派分裂の起源は第4代カリフのアリとムアウイアの抗争に逆上る。アリの死後は正統カリフに代わってムアウイアが設立したウマイア朝が支配権を確立した。その後はイスラム社会の少数派がアリの後継者こそカリフの地位の正当な継承者だと主張してウマイア朝の支配に抵抗した。シーア派を形成したのは彼ら少数派で、多数派はスンニ派を形成した。スンニ派とシーア派の分裂を決定づけた事件は680年のカルバラの戦いである。現在のイラク中南部にあるクーファのシーア派からの要請に応えて、アリの次男フサイン・イブン・アリはウマイア朝のヤジド1世に対して決戦を挑んだが、フサイン側が全滅という結果に終わった。

カルバラの戦いは両宗派に深い心理的影響を与え、シーア派の宗教的アイデンティティーを強化した。第一に挙げるべき点はシーア派とイランの民族性の緊密な関係である。シーア派によると、フサインはササン朝最後の国王ヤズデギルド3世の王女シャハルバヌとの婚姻により第4代イマームとなるアリ・ザイヌル・アビディンを儲けたということである。よってカルバラの件をシーア派の視点で解釈すると、中世初期のフサインの後継者達はササン朝王家の血を引いていることになる。イラン人は16世紀に自分達のサファビー朝を立てるまで長年にわたってアラブ人、テュルク人、モンゴル人などの支配を受けたが、彼らはシーア派への熱心な信仰によって国民的アイデンティティーを保ち続けた。アラブ人によるペルシア征服によってイランの国民的一体感を取り戻すために、サファビー朝はシーア派を国教とした。イラン国外ではシーア派はペルシア湾岸地域、イラク南部、レバノン、アフガニスタンのハザラ人居住地域などに広まっている。こうした地域に住む人々は文化的にも精神的にもイランと深いつながりがある。一例を挙げると、イラクのアリ・アル・シスターニ大アヤトラはイラン出身で、彼の姓もイラン南東部のシスタン地方に由来している。

第二に挙げるべき点は被抑圧者としての精神的土壌である。今日では世界のイスラム教徒人口の内でスンニ派が85%を占めるのに対し、シーア派は15%である(“The Sunni-Shia Divide”; Council on Foreign Relations; 2014)。これを表す最も象徴的な行事がアシュラの日で、シーア派はカルバラの戦いでウマイア朝の圧倒的な力に立ち向かったフサインの殉教に哀悼の意を表する。フサインと彼に従った者達が受けた苦痛と悲嘆を共有するために、シーア派の男性達は自らの体を血が出るまで鞭で打つ。儀式はただの儀式ではない。それによって共同体や宗派内での思考様式が形成される。宗派の選択は人生の在り方の選択である。毎年行なわれる儀式から、シーア派の人々は身体的な痛みと苦難によって自分達の宗教的情熱、そしてルホラ・ホメイニが被抑圧者を意味するために好んで使ったモスタザフィンというという語に託して自らの歴史的立場を思い起こすのである。

スンニ派とシーア派の関係についての初歩的な理解に鑑みて、外交政策上で見逃せないものは最近のイランとサウジアラビアの和解である。広く知られているようにイランはシーア派の神権政治体制だが、サウジアラビアはスンニ派でも極めて保守的なワッハーブ派を奉ずる君主制である。今年の5月にサウジアラビアのサウド・アル・ファイサル外相はイランのモハマド・ザリーフ外相と湾岸地域の安全保障およびシリア問題について会談した(“Saudi Arabia moves to settle differences with Iran”; Guardian; 13 May 2014)。両国の関係は劇的に改善するのだろうか?それは考えにくい。サウジアラビアにとってイランは強大な隣国であり「イランの怒りをかわないことが彼らにとって賢明なのである」ということだ(“What’s going on between Saudi Arabia and Iran?”; Jerusalem Post; June 11, 2014)。問題はイランがシーア派伝道主義のイデオロギーを振りかざすので、サウジアラビアのペルシア湾岸油田地帯で社会的にも経済的にも疎外されたシーア派が刺激されかねないことである。こうしたモスタザフィン達が住処を追われ貧困生活を強いられている中で、スンニ派は石油利権を支配している(“Iraq conflict reignites sectarian rivalry in Saudi Arabia”; Baltimore Sun; April 27, 2006)。イスラエルがイランの核攻撃を主要な脅威と見なしているのに対し、サウジアラビアはイランのシーア派覇権主義を警戒している(“Next Test for Obama: Soothing the Saudis”; Los Angels times; March 24, 2014)。

テヘランのシーア派神権政治体制の性質とアラブ近隣諸国の政治を考慮すれば、イランとサウジアラビアが劇的に和解すると考えるのはあまりにも楽観的である。ましてやイランに地域の警察官役を期待するなど論外である。スンニ派アラブ王政諸国がパーレビ時代のイランをペルシア湾の憲兵として受け入れたのは、その国が世俗的な啓蒙主義国家であり、アメリカの重要な同盟国だったからである。遺憾ながら今日のイランは東アジアでの中国と同様に、ペルシア湾岸では周囲とは全く異質な存在である。現在のサウジアラビアはナチス・ドイツに宥和したイギリスさながらの行動である。アメリカがもっとウィルソン主義外交に出ていればネビル・チェンバレンもアドルフ・ヒトラーにもっと強い態度に出ていたであろう。現代ではアメリカの敵対勢力と話し合い姿勢を見せるオバマ政権に対し、サウジアラビアが不安感を募らせている。現在の外交政策を分析するうえでも文化と宗教に関する初歩的な理解はさほどに重要である。

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2014年7月 8日

アメリカがオバマ大統領の失敗を取り返すためのイラク戦略

オバマ政権は6月初旬に「イラクおよびアル・シャームのイスラム国」(ISIS)が急速に拡大したのを受けて、2011年のイラクからの完全撤退を転換せざるを得なくなった。バラク・オバマ大統領と政権閣僚達はイラクに関する戦略的な評価を明らかに誤ったのである。2010年2月11日にラリー・キング氏からインタビューを受けたジョセフ・バイデン副大統領はイラクは銃撃戦なき安定した民主主義に向かっていると楽観的に論評していた以下のビデオを参照されたい。



しかしクルディスタン地域政府(KRG)は6月のISIS侵攻よりはるか以前に、ISISと現地部族指導者そして旧バース党との間の電報を傍受した結果に基づいて、アメリカとイギリスにイスラム過激派による攻撃を警告していた(“Washington and London Ignored Warnings about the ISIS Offensive in Iraq”; Daily Beast; June 24, 2014)。さらに重要なことに共和党のジョン・マケイン上院議員やリンゼイ・グラム上院議員らは2011年以降も米軍の一部を継続駐留させなければスンニ派武装勢力が反乱を起こすだろうと警告していた(“GOP on Iraq: We told you so”; Politico; June 13, 2014)。MSNBC局で6月13日に放映されたモーニング・ジョーに出演したマケイン氏はオバマ政権の安全保障関係閣僚は辞任し、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将、ジャック・キーン退役陸軍大将、ライアン・クロッカー元駐イラク大使ら彼らにが取って代わるべきだとまで述べた。さらにイラクでも日本、ドイツ、韓国のように占領終了後の治安の安定を維持留守ためにもアメリカ軍の継続駐留が必要だと述べた。以下のビデオを参照されたい。



イラク情勢がここまで不安定化した理由を検証するとともに、ISIS打倒の戦略とイランやロシアといった地政学的な競合相手の拡大を模索してゆきたい。特に6月18日にアメリカン・エンタープライズ研究所で開催されたジョン・マケイン上院議員とジャック・キーン退役陸軍大将による公開討論に注目したい。それは2007年の兵員増派に見られるようにイラク問題に関しては両人が最も精通し、影響力がある政策形成者だからである。マケイン氏は米軍の一部駐留が継続していれば反乱分子の台頭を抑制し、マリキ政権が民族および宗派の違いを乗り越えて多様性のある政府となるように導くこともできたと主張した。外交問題評議会のマックス・ブート氏も最近の寄稿で最低でも1万人のアメリカの軍事顧問団が駐留していればイラクの治安はより安定し、アメリカがマリキ政権に民族と宗教のバランスがとれた政府にするよう外交的な影響力も行使できただろうと記している(“Obama’s Iraq”; Weekly Standard; Jun 23, 2014)。オバマ大統領にはイラクを第二の日本やドイツにしようとする気などさらさらなかったのは明らかである



アメリカとイラク政府はISISとその同盟勢力をどのようにして押し返せるのだろうか?反乱分子の分断が非常に重要になる。マリキ政権がシーア派に過剰依存しているとあって、ISISはスンニ派アラブ人部族連合のアンサール・アル・イスラム、そして旧バース党と手を結んでいる。アラブ首長国連邦のデルマ研究所のハッサン・ハッサン研究員によると彼らは必ずしも一枚岩ではなく、ISIS以外の武装勢力が放棄した真の理由を究明する必要があるという(“More Than ISIS, Iraq’s Sunni Insurgency”; Carnegie Endowment for international Peace -- Sada Journal; June 17, 2014)。戦略的優先事項はバグダッドの防衛とテロリストへの反転攻勢である。イラク領内への快進撃とは裏腹に、キーン大将はISISにはスプロール化した都市のバグダッドを陥落させるだけの戦力造成(force generation:略称ARFORGEN)はできないと述べた。他方でISISはシリアからイラクにかけてイスラム過激派としては史上最大の領土を確立している。キーン氏は彼らがここを根拠地にしてヨーロッパとアメリカを直接攻撃できるとも述べた。マケイン氏はスターリンでさえそうした脅威を及ぼさなかったと語った。だからこそ両氏ともイスラム・テロの危険性を強調したのである。

厭戦気運の国民が地上軍の派遣を承認することは考えられないので、アメリカの選択肢は限られている。しかしキーン氏はアメリカが以下の方法でイラクを支援できると述べている。第一にアメリカの軍事顧問は敵の位置を知り、シリアとイラク北部に関する情報を与えるための諜報活動をイラク連邦政府に提供できる。さらにアメリカの軍事顧問はイラク軍によるバグダッド防衛と反乱分子への反撃の計画作成を支援できる。それに加えてアメリカの特殊部隊は重要な標的とテロ指導者を攻撃してイラク治安部隊を支援しなければならない。そのうえに、アメリカの航空作戦は現地語を話す地上の特殊部隊とも連携しなければならない。航空作戦は地上での限定的で目標を絞った攻撃には不可欠だが、キーン氏はアメリカの航空兵力がシーア派の空軍になってはならないと強調した。

軍事的な観点に加えて、アメリカの戦略は政治的な観点からも追求されねばならない。サウジアラビア、ヨルダン、湾岸諸国といったイラクの近隣諸国はアメリカの「衰退」よりも非関与政策を懸念している。マケイン氏は厭戦気運に浸る国民に国際関与の重要性を説得するのが大統領のリーダーシップであることは、朝鮮戦争でのハリー・トルーマンを見てもよくわかると述べた。また、モスルの住民50万人が土地を追われ1,700人も処刑された事態を見ればISISはアル・カイダよりも危険なことから、アメリカのイラク支援は緊急の必要性があるとも訴えた。フォーリン・アフェアーズ誌のギデオン・ローズ編集員は6月21日放映のPBSニューズ・アワーでISISはあまりの残虐性にアル・カイダから破門されたほどだと述べている。以下のビデオを参照されたい。



現在、ISISは油田を制圧したうえに企業からも強引に税を徴収していることもあってアル・カイダよりも資金に恵まれている。さらにモスル制圧の際に銀行から資金と金塊を強奪している。以下のビデオを参照されたい。



他方でシーア派の間ではイランの影が大きくなっている。アメリカとイランが協調するということもあり得るのだろうか?マリキ政権によるシーア派民へのスンニ派反乱分子打倒の要請に呼応し、イランの代理勢力はシリアからイラク南部に移動した。マリキ政権はイランへの過剰依存に陥りかねない(“Iranian Proxies Step Up Their Role in Iraq”; Washington Institute for Near East Policy---Policy Watch; June 13, 2014)。そうした中でイランのアリ・ハメネイ最高指導者はオバマ大統領が300人規模の派兵を公表した際にイラクへのアメリカの介入を非難した。それはアメリカがマリキ首相に代わって誰かほかに人物を擁立しようという動きに対する警告だと受け止める観測筋もある(“Iran rejects U.S. action in Iraq, ISIL tightens Syria border grip”; Reuters News; June 23, 2014)。シリア、イラク、湾岸アラブ諸国へのイランの影響力は増大している。こうした事情に鑑みてジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係学院のカミール・ペスカスティング上級准教授はオバマ政権が事態への関与に消極的なことから、ニクソン・ドクトリンでそうであったようにイランが地域の憲兵を担う可能性さえ主張している(“Iran, the New Force for Regional Stability?”; World Affairs Online; June 2014)。しかしキーン大将はイランにはイラク西部の砂漠からISISを追い払おうなどという意志はさらさらなく、石油資源に恵まれた南部を抑えたいだけだと指摘した。よって、キーン氏はイランとの協調もこの国を地域安定の頼みとすることも無意味だと述べた。

国内と地域の勢力の交錯に加えて、マリキ政権がロシアから12機のスホイ25対地攻撃戦闘機を購入するとあって事態は一層予断を許さなくなっている。イラクはアメリカからのF16戦闘機の引き渡しの遅延に不満を感じていた。イラクは2011年に18機のF16の購入で合意していたが、その内の最初が入手できたのは今年の6月に入ってである (“From Iraq to Syria, splinter groups now larger worry than al-Qaeda”; Washington Post; June 10, 2014)。オバマ大統領はさらに無人機を出動させて非戦闘任務に従事する米軍地上要員を防衛するように命令した(“Iraq receives Russian fighter jets to fight rebels”; BBC News; 29 June, 2014)。ロシア人教官が周防戦闘機とともにイラクに乗り込んできたことは、アメリカに対する挑戦を暗示している。さらにイランが1990年から91年の湾岸戦争でアメリカの空爆から自国に避難してきたサダム・フセイン時代の軍用機を一部変換するとの噂もある。そのほとんどはロシア製で、フランス製のミラージュF1も含まれている(“Russian Jets and Experts Sent to Iraq to Aid Army”; New York Times; June 29, 2014)。問題はサダム・フセイン打倒後のイラク軍が兵器体系と訓練の面でアメリカ化されていることである。ソ連製のスホイ25を再配備したところでイラク軍のパイロットが効果的に使いこなせるのだろうか?さらに旧ソ連製の戦闘機で地上の米軍特殊部隊と一体となって標的を絞った限定的な攻撃などできるのだろうか?

F16戦闘機とアパッチ・ヘリコプターの契約の件でも見られるように、オバマ政権はイラクの治安部隊が充分に強化される前に米軍を撤退させてしまった。マケイン氏は先の公開討論の場でオバマ氏が大統領に選出されたのはブッシュ政権によるイラクとアフガニスタンでの長きにわたる戦争への反発からであると語った。オバマ氏の非西欧的な思想とバックグラウンドは従来のアメリカに対するアンチテーゼである。現在の危機は外交政策の継続性を軽視した結果である。アメリカはイラクでの好ましからざる動向をキーン大将の提言に従って覆し、アフガニスタンでは同じ過ちを繰り返さないでいられるのだろうか?

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2014年6月30日

イラクはロシア製スホイ25を有効に活用できるか?

これがスホイ25対地攻撃用戦闘機である。この戦闘機は旧式ではあるが、イラクのヌーリ・アル・マリキ首相はアメリカからのF16およびアパッチの到着の遅延を座視できなくなっている。そこでロシアからスホイ25戦闘機を受領し、イラクおよびアル・シャー無のイスラム国家との戦闘に投入する。アメリカから訓練を受けたイラク軍のパイロットが、かつてサダム体制化の空軍に配備されたソ連時代の戦闘機を操縦できるだろうか?



上記のビデオはチェチェンで戦闘任務に従事したスホイ25。

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