2016年9月27日

日本は中露枢軸分断をインドに任せよ

安倍晋三首相は今年の12月初旬に地元選挙区の山口県でロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談する予定である(「安倍晋三首相、地元・山口でプーチン露大統領と会談へ 12月上旬、北方領土交渉加速へ本格調整」;産経新聞;2016年9月1日)。両首脳は第二次世界大戦の平和条約、北方領土問題、そしてロシア極東地域での二国間経済協力を話し合う。日本国内では安倍首相がこの機に乗じて中露枢軸を分断し、不確実性を増す世界に対処すべきだとの声もある。しかし日本がそのように西側同盟に悪影響を与えかねないリスクは犯すべきではなく、そうしたむしろ役割はインドに任せるべきだと主張したい。以下、説明をしてゆきたい。

第一に中露枢軸について言及する必要がある。表面的には両大国は西側、特にアメリカの世界秩序に対抗する同盟関係にある。しかしロシア極東地域は人口希薄であり、国境の向こう側にある人口大国の中国は潜在的に国家安全保障上の脅威である。ロシア極東の国境地帯はアムール州、プリモスキー(沿海)地方、ユダヤ自治州、ハバロフスク地方の全てを合わせても人口が430万人にしかならない。他方で中国東北地域は1億900万人という圧倒的な人口である(“Russia, China and the Far East Question”; Diplomat; January 20, 2016)。国家対国家レベルでの脅威に加えて、中国からやって来る蛇頭と呼ばれる犯罪集団や不法伐採業者は市民生活と環境の安全保障を脅かしている。ロシアが中国に表には出さない不信感を抱えていることもあり、日本でクレムリンとの戦略的パートナーシップを発展させて中露を分断し、人民解放軍の脅威を牽制しようという議論が挙がることは理解できる。

しかし来る首脳会談では平和条約や北方領土問題といった二国間問題に集中すべきだと主張したい。日本は西側同盟の中心にあり、中露のパワーゲームに関わる立場にはない。むしろ欧米諸国がバルト海地域とクリミアをめぐる緊張をよそに、日本は「ロシアを再び偉大にする」(Make Russia Great Again )ことを求めているのではないかとの疑念を抱くであろう。ヨーロッパ諸国の対中宥和には日本が不快感を抱くように、日本の対露宥和にはヨーロッパ諸国も不快感を抱く。ヨーロッパの宥和でも顕著な事例はジョージ・オズボーン財務相(当時)の主導による英中原子力合意で、イギリスの国家安全保障関係者の間ではそれに対して中国による対英スパイ行為への重大な懸念が高まっていた。また日米両国もそうした物議を醸すような合意には戸惑っていた。

しかしテリーザ・メイ現首相は合意を再検討し、ヒンクリー・ポイントとブラッドウェルの原子力発電所での中国の影響力を低下させようとしている(“UK's Theresa May to review security risks of Chinese-funded nuclear deal”; Reuters; September 4, 2016)。キャメロン政権の内相であったメイ氏はニック・ティモシー首相首席補佐官とMI5とともに、原子力合意に対する国家安全保障上の懸念を述べていた(“Hinkley Point: Theresa May's China calculus”; BBC News; 31 July 2016)。メイ氏の行動は中国広核集団を通じたヨーロッパでの人民解放軍の影響力の浸透を防止するであろう。日本もロシアに関してそれに応じた行動をとるべきである。

そうした中でインドは中露のパワー・ゲームに入り込むには格好の立場である。印露がFGFAステルス戦闘機開発のように対中牽制のための緊密な防衛協力を行なっても、欧米が当惑することはない。歴史的にインドは親中のパキスタンに対抗するためにソ連と緊密な関係にあった。インドはミグ21、ミグ23、ミグ27、ミグ29といったソ連製の兵器を数多く輸入してきた。冷戦後もインドはヒンドスタン航空機社がロシアのライセンスで製造しているスホイ30MKIという典型例に見られるように、ロシア開発した兵器を配備している。そうしたソ連時代からのロシアとの強固で長年にわたる関係にもかかわらずインドは非同盟外交を堅持し、ソ連圏に入ったことはなかった。

他方で冷戦期のインドは西側とも軍事的な関係を深化させ、そうした関係は今世紀に入ってさらに発展している。インドは過去にフランスからミラージュ2000を購入し、1971年の印パ戦争ではイギリスから入手した中古空母ビクラントを投入した。9・11同時多発テロを機にインドとアメリカの戦略的パートナーシップは急速に発展し、それはマンモハン・シン首相とジョージ・W・ブッシュ大統領の間で結ばれた原子力合意に典型的に表れている。オバマ政権下ではこうした安全保障での協調がさらに進んで日本がマラバール海上演習に招待されるほどになり(“US, Japan, and India Kick off 2016 Malabar Exercise”; Diplomat; June 12, 2016)、南シナ海での中国の海洋拡張主義の抑止を模索するようになっている(“India, Japan Call on China not to Use Force in South China Sea Disputes”; Diplomat; June 15, 2016)。

インドは大国の競合で独自の行動をとってきたので、ロシアとの関係が強化されたからといって地政学上のバランスが劇的に変わることはない。西側にとって、インドは友好国であるとともに有望な市場でもある。また欧米はアフガニスタンでのテロとの戦いでこの国とパキスタンのバランスをとっているが、それはしばしば後者に信頼を持てないことがあるためである。そのようにロシアとも欧米とも緊密な関係にあるインドの方が中露枢軸の分断には適している。こうした目的のためには日米両国がインドとの外交パートナーシップを深化させ、アジアの安全保障について共通の認識を模索しなければならない。そして安倍首相は12月のプーチン大統領との会談では欧米との不要な摩擦を避けるためにも二国間問題に集中すべきである。


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2016年1月 8日

ルビオ候補が示す4つの北朝鮮対策

北朝鮮が1月6日に行なった「水爆」実験は世界に大きな衝撃を与えた("World Powers Unite In Condemnation of North Korea's H-BombTest Claim"; Buzz Feed News; January 6, 2016)。これほどまで度重なる核実験に鑑みて、国際社会はこれまでより有効な手を打つ必要に迫られていることが明らかになった。そうした中で今回のアメリカ大統領選挙の候補者の中で安全保障政策に最も通じている共和党のマルコ・ルビオ上院議員が4つの対策を示している("Here Are Four Things Marco Would Do to Take On North Korea"; Marco Rubio.com)。第1は北朝鮮をテロ支援国家に再指定することである。第2は経済制裁の強化である。さらに第3にはアジア太平洋諸国との同盟強化とアメリカ自身の海軍力強化である。第4はミサイル防衛の強化である。

ルビオ氏が挙げた対策の内で強力な効果を期待できるとともに、比較的早く実行できるという条件を満たしているのは4のミサイル防衛の強化を中心とした抑止力の強化である。3の海軍強化は必要かつ強力な対策にはなるが、すぐにできる対策ではない。艦艇の建造には時間がかかるのだ。いずれにせよ、これまでの経済制裁よりもさらに強力な手段で北朝鮮が我々には勝てないことを知らしめねばならない。さらに朝鮮日報は1990年代初頭に在韓米軍から撤去された戦術核兵器の再配備を主張している(『米戦術核の再配備検討を=日本の対応に警戒感-韓国紙』;時事通信;2016年1月7日)。韓国の英字紙コリア・ヘラルドはさらに進んで日米韓の間でIAMD(統合防空およびミサイル防衛:"US Army's Integrated Air and Missile Defense System Defeats Cruise-Missile Target"; DEfense News; November 13, 2015)の強化をすべきだという議論まで掲げている("U.S. likely to step up efforts to build IAMD with Seoul, Tokyo"; Missile Defense Advocacy Alliance; January 7, 2016)。こうして北朝鮮に対する防衛能力と攻撃能力をしっかり見せつけ、決して彼らが我々よりも強いのだと思い上がらせぬようにしなければならない。

経済制裁の強化はもちろん重要である。しかし、北朝鮮に対しては国際社会がこれまでに何度も制裁を科してきたことを忘れてはならない。また、経済制裁をどれだけ厳格にしても抜け道があることは避けられない。何と言っても貧困に慣れた国民にどれだけ制裁を強化しても、大きな痛手を感じないだろう。過去の事例でも経済制裁の効果は時間がかかる。1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻には西側を中心とした経済制裁が科されたが、それが赤軍の撤退を促したわけではなかった。むしろレーガン政権期が600隻海軍やSDI構想といった軍備増強を打ち出したことで、アメリカとの軍拡競争について行けなくなってソ連がペレストロイカを採用したのである。その他にもアパルトヘイト時代の南アフリカはアラブ諸国からの石油禁輸という制裁を受けたが、石炭液化で乗り切った。むしろ当時の南アフリカはアフリカで最も豊かな国だった。しかもアメリカとイギリスはアジアとヨーロッパを結ぶ地理的条件から大英帝国の戦略要衝だった南アフリカを共産主義の防波堤と見なし、国際的な制裁には及び腰だった。

こうした歴史を振り返ってみても、経済制裁だけで北朝鮮を屈服させされるとは考えにくい。やはり力を背景にした交渉で北朝鮮に臨む必要がある。また中国は六ヶ国協議の重要な当事者ではあるが、北朝鮮に対するこの国の影響力を過大評価すべきでなないだろう。1990年代に核実験の相互応酬で世界に緊張をもたらしたインドとパキスタンでさえ、今や実験を止めている。21世紀になっても核実験を続けているのは北朝鮮だけで、中国の説得などこの国は歯牙にもかけていないのだ。もはや従来の対策では北朝鮮の暴走を止める効果は期待できない。このまま北朝鮮を増長させると、今年に入ってからアメリカとサウジアラビアとの衝突を繰り返しているイランも同様に振る舞いかねない。

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2015年7月 7日

中国は本当に広く信じられているほど強いのか?

中国の台頭は国際政治の学徒の間では最重要テーマの一つである。様々な国際会議ではアメリカ人からヨーロッパ人、アジア人、そして日本人まで国籍を問わず世界各国の有識者達は、この巨大な新興国の上昇と、この国がグローバルな問題で影響力を拡大してゆくという「マニフェスト・デスティニー」を受け入れよと説いている。中には我々のような従来からの大国は国際社会の力の変遷という動向に抵抗することなく、自らの衰退を受け入れよというほど受け身の発言さえ見られる。そうした諸行無常を何が起ころうとも、それが望ましくてもが望ましくなくても受け入れよというのはあまりに「仏教的」である。しかしホッブス的な世界で一国の指導者がそのように諦観的な態度をとれば、その国は野心に満ちた新興国のなすがままに陥ってしまうだろう。新たに台頭してくる国の国力は適正に評定し、その国に対処する戦略を考えねばならない。

ともかく中国は多くの有識者達が言うように本当に強いのだろうか?この国が勃興する大国であることに異論はなく、それが世界秩序と国際安全保障にもかなりの影響を及ぼすであろう。しかし我々は中国を大変な経済大国だと見なしてよいのだろうか?この疑問については中国経済の相反する性格を注視すべきで、それは国家全体では巨大な経済も一人当たりの所得が不釣り合いに低いということである。世界銀行が公表した2014年の一人当たり国民所得によると、中国はアトラス方式では101位で購買力平価では105位となっている。財界人はしばしば急激な経済成長と都市開発に印象づけられてしまって中国の台頭に 魅入られがちなのは、伊藤忠商事会長から転身した丹羽宇一郎駐中国大使を見ればよくわかる。中国経済が総合で大きいのは巨大な人口が主要な要因である。歴史的にも国民が貧しい経済大国など、スペインからオランダ、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本にいたるまで例がない。そのために中国の本当の経済的な実力を評定することは非常に難しい。ともかく中国がアメリカに対して最有力で手強い経済的な競合国だという認識は馬鹿げている。実際のところ、中国は日本やヨーロッパ主要国に追いついてもいない。中国はロシアよりもはるかに貧しい。近い将来、中国がアメリカを追い越す?それはいつのことか?

世界各国の有識者達が、国籍、文化、経歴を問わずそれほど単純明快な事実を見過ごすのはどうしたことだろうか。そのように中国の実力に間違った評定を下すことの危険性は、北京の共産党が心理的な幻想を利用して国際規範を強引に抑えつけて自らをより有利な立場に置こうとすることである。高名な論客たちは中国について深く知り過ぎるあまり、ここで言及したような簡明な事実を忘れ去っているように思われる。アジア・インフラ投資銀行に対する受容姿勢は、中国によるアジアの最有力大国としての地位の強引な主張に対する「仏教まがい」の宥和の典型的な事例である。社会問題や環境問題に対してどこまで考慮するかという懸念はさて置き、中国が多国間機関を運営するだけのノウハウや専門知識を持っているとは到底思えない。この国は地域機関でも安全保障同盟でも主導的な役割を果たしたことはない。この国は西側、ソ連、そして非同盟のどのブロックからも孤立してきたのである。多国籍開発銀行を運営するだけの中国人経済学者は多くない。さらに貧しい国が多国間銀行を実質的に一国で運営するだけの経営体力はあるのだろうか?中国が日米両国および国際社会の敬意を勝ち取りたいという希求は理解すべきだが、彼らが多国間記入期間を運営するだけの能力を備えているかどうかは疑わしい。

他に問題とすべき点は製造業である。中国は世界の工場と呼ばれ、付加価値の低い製品と一般消費者向け用品での競争力については反論の余地がない。しかしハイテク製品ともなると中国は世界の最先端ではない。人民解放軍の戦闘機のほとんどはロシア空軍のもののコピーである。例えばJ11はスホイ27から、J15はスホイ33からといった具合である。中国独自のステルス戦闘機J31さえミグ29と同じエンジンを使用している。実際に中国製のエンジンは旧式でパワー不足である(“Why China’s Air Force Needs Russia's SU-35”; Diplomat; June 1, 2015)。J31はアメリカのF35の情報をハッキングしたコピーと見なされているが、2014年珠海航空ショーでのパフォーマンスは酷い評価であった(「自国メディアにも叩かれた「中国最新ステルス機」の未熟さ」;イザ産経デジタル; 2014年12月17日)。しかし正当であれ不当であれ、模倣は模倣に過ぎない。興味深い事例はドイツ製214型潜水艦の韓国への技術移転である。韓国はドイツのハイテク潜水艦を建造するライセンスを認可されたが、ボルト接合技術が充分に発達していなかったのでその潜水艦を造れなかった。言い換えれば、基礎レベルの技術もなしに模倣を行なうのは、素人が一流コックのレシピを読んだだけで作った料理のようなものである。よってライセンスであれハッキングであれ、コピーされた技術は本物の技術ではない。

戦闘機以外でも、中国のミサイルは輸入かコピーといった形式でロシアの技術に依存している。先進技術では、中国はロシアあるいはハッキングを通じたアメリカの技術にこれほど依存している。このことは中国の製造業の基盤が非常に脆弱だということになる。経済の面では、中国はもはや止めようもないほど台頭してしまった国ではなく、アメリカ、日本、ヨーロッパ主要国、そしてロシアに追いつくには程遠い。G2構想など白昼夢である。また中国は軍事超大国でもない。中国は巨大な低開発国に過ぎない。中国が「衰退する」ロシアをジュニア・パートナーにすると信じる者も少なくない。そんなことはほとんど考えられない。スーザン・ストレンジの構造的な力の理論を適用すれば、国防のあり方を決定づける力を行使しているのはロシアであって中国ではない。ロシアの技術への依存は、中国の国防システムをそれに応じたものにしてしまう。この観点から、私は日本国際フォーラムの伊藤憲一理事長が対独戦勝70周年記念での習近平氏のモスクワ訪問について「それにしても、そのような場に中国の習近平国家主席が席を連ねたことは、果たして中国のためによかったのであろうか。私は疑問に思う。」と記した最後の一文を注視している(「プーチン・ロシアはどこへ行くのか」;日本国際フォーラム――百花斎放;2015年5月12日)。

最後に質問を繰り返したい。どうして世界各国の有識者達は中国の台頭にそれほど受容的で、国際社会で自国の序列が下がることに寛容なのだろうか?「仏教まがい」の諦観は政策形成の態度ではない。何かが望ましくないのなら、それを望ましいものに変えねばならない。何かが望ましいなら、それをさらに望ましいものに変えねばならない。この目的のためには、中国の真の実力に冷静な評価を下さねばならない。

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2014年12月18日

複雑化するアジアでのアメリカ外交政策

去る12月12日にグローバル・フォーラム・ジャパンと明治大学が主催する日本・アジア太平洋対話「パワー・トランジションの中のアジア太平洋:何極の時代なのか」が開催された。シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授をはじめ、対話に招かれたパネリスト達はアジア太平洋地域のパワー・ゲームについてリアリストの観点から明解に述べた。

実は11月5日のムンク討論会で『ウォールストリート・ジャーナル』紙のブレット・スティーブンス編集員が中国の脅威が抜き差しならないほど大きくなれば、日本のプルトニウム施設は核兵器に利用されるかも知れないとの疑念を述べたことに、私は少なからぬ驚きを覚えた。私はオバマ政権の超大国の自殺行為に対するスティーブンス氏の批判には同意するが、彼のような影響力のあるオピニオン・リーダーが日本を北朝鮮、イラン、パキスタンと同列に論じるかのように警鐘を鳴らしたことにはやや戸惑いを感じた。私は核不拡散がアメリカ外交で優先度の高い案件であることを充分に認識しているので、スティーブンス氏の発言はまるで日本をアメリカにとっての潜在的な「敵」と見なしているかのように響いた。問題は核不拡散自体にとどまらず、アメリカのコントロールが効かなくなるほど地域の緊張が高まることで、そうした事態は1998年のインドとパキスタンによる核実験の応酬に見られた。

しかしミアシャイマー教授のリアリストに視点によれば、スティーブンス氏の発言はアジア太平洋地域でアメリカの最重要同盟国に対して「非友好的」とも言い切れないようだ。国家は 国力と国威の最大化を追求し、自国の周囲に確固とした勢力圏を築こうとする。そうして生存の可能性を高め、政策の選択肢を増やしてゆく。よって、リアリストはアメリカが中国の脅威の増大に対処するにはあまりに弱く信頼できないと映れば、日本が核保有に走るのは当然だと考えている。それは核兵器が中国に対して最も費用効果の高い抑止力だからである。

そうした議論を念頭に置けば、日本の指導者達はアメリカと中国を両方とも相手にしたパワー・ゲームに絡んでまで核兵器を保有する覚悟があるのだろうか?歴史的に見てアメリカがアジアで支配的な勢力の台頭を受容しなかったのは、1899年に当時のジョン・ヘイ国務長官による門戸開放政策からもわかる。たとえ中国に宥和姿勢のように見えることがあっても、アメリカがアジアでの影響力を手放すことは考えにくいばかりか、極東が1998年の印パ核競争のように管理不能に陥ることなど欲していない。よって日本の指導者達は歴史認識に関して注意深い言動をとるべきである。何と言ってもミアシャイマー氏やスティーブンス氏のような名立たるオピニオン・リーダー達が日本の核保有の可能性をこれほど公然と語っているのである。

この対話は非常に印象深く洞察力に富んだもので、私はここで以下3つの論点を提起したい。第一はアジア転進政策である。確かにアジア新興経済諸国での市場の機会は重要である。しかしそれはアメリカがヨーロッパと中東への関与を弱めよという意味だろうか?ウクライナ危機はアジア関与を低下させるだけなのだろうか?そうとは言えない。ロシアは日本の北方空域に頻繁に侵入しているからである。この国はヨーロッパとアジアの双方で我々の脅威なのである。さらに中国は世界規模でアメリカに立ち向かっている。中国が中東への戦力投射能力がないにもかかわらず、一極支配の世界を恐れてロシアとともにイラク戦争に反対したことを忘れてはならない。また、中国の対アフリカ援助は物議を醸しているが、それも影響力の拡大のためである。よって私はヨーロッパと中東での関与を低下させることはアジアでのアメリカのプレゼンス強化を保証するわけではないと信じている。遺憾ながらISISの台頭に見られるように、これがオバマ政権によるアジア転進政策によってもたらされた結果で、その一方で中国が東アジアでますます挑発的になってきている。

中国が全世界で展開するアメリカへの挑戦に関して、この国が自らを「まだ途上国だ」としばしば言う理由を再考すべきである。これは謙遜からでた言葉ではなく大々的な野心から出た言葉であろう。私はそれが暗示する意味を「全世界の途上国よ、団結せよ!欧米(そして日本も)帝国主義に対して立ち上がれ!」であると解釈すべきではなかろうか。中国は革命国家であり、彼らには世界規模でパックス・アメリカーナに世界規模で抵抗するだけの充分な理由がある。中国の拡張主義を抑制するうえで、私は割れ窓理論を適用すべきと考えている。すなわち、アメリカの敵が防衛の弱い場所を見つければ、街で割れ窓を見つけたギャングのように勢いづくというものである。

第二の点は仮にもヘゲモニーの移転が起きた場合である。万一にも中国がアメリカによる世界秩序の後を襲うことがあれば、前覇権国のものとの違いは著しいであろう。パックス・アメリカーナはパックス・ブリタニカから自由主義の価値観、文化、政治システムを引き継いだ。20世紀初頭に競合国の追い上げに直面したイギリスは、超大国の役割のバードン・シェアリングにはドイツよりアメリカの方が好ましいと見た。こうしたギリシアとローマに擬せられる関係は、中国がさらに台頭した場合には決して見られることはない。それはパックス・アメリカーナとパックス・シニカではヘゲモニーの断層があまりにも大き過ぎるからである。仮にそうした事態になったとしても、中国ではローマを破壊して後世に何も残さなかったアッティラのフン族にしかなれない。

第三には、たとえリアリストの視点からでも大国の競合で各国のレジームの性質が何の影響も及ぼさないのかという点である。私は一例としてイランを挙げたいが、それはこの国が近代化路線を歩もうがイスラム神権政治であろうがペルシア湾の大国を志向してきたからである。パーレビ王政時代には、イランはアメリカが支援するペルシア湾の憲兵としての台頭を目指した。シャーは啓蒙専制君主で西欧式の近代化によるネーション・ビルディングを追求した。シャーはペルシア人の偉大な歴史とともに、脱イスラム化によってアラブ諸国民に対する人文たちの優位を訴えかけた。それによってイランはレアルポリティークの面でもイデオロギーの面でも極めて親米で親イスラエルになった。他方で現在の神権体制はアメリカの優位への抵抗を通じた台頭を求め、その性質から言っても極端に反イスラエルである。彼らはアラブの間でも宗派が共通するシーア派のモスタザフィン(被抑圧者)との連帯を主張している。そうした国がテロ支援を行なうのは、レアルポリティークの面でもイデオロギーの面でも不思議ではない。

この対話はますます複雑化してゆくアジア太平洋地域の情勢を理解するうえで非常に有益だったばかりか、日本の指導者達に対しても微妙な問題では注意深く振る舞うべしという重要なメッセージを発信した。私が言及した3つの疑問点の中でも最も重大なものはアジア転進政策の真の意味である。これはただのレトリックなのか、それとも中国での市場機会への叩頭なのか、それともこの地域への真の戦略的関与なのか?それが問題である。


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2014年7月31日

中国は日帝の再来か?

今年5月のCICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)において中国の習近平国家主席が「アジア人によるアジア」という演説で物議を醸した際に(“China president speaks out on security ties in Asia “; BBC News; 21 May 2014)、私は我が耳を疑った。この演説の根底にある発想は戦中の日本が主張した大東亜共栄圏と二重写しである。中国の海洋拡張主義と大国意識の高まりに近隣諸国の懸念が高まっていることから、習氏の「アジア人によるアジア」演説は国際社会では否定的に受け止められている。第二次大戦中と現代のアジアの大国の間には数多くの共通点がある。そうした共通点について述べてみたい。

地政学の観点から言えば、大戦中の日本も現代の中国も反欧米である。戦中の日本は脱植民地化と白人支配からの解放を掲げ、ヨーロッパとアメリカの勢力をアジアから駆逐しようとした。しかし日帝自体が植民地帝国であり、アジア人にとっては白いサーヒブも黄色いサーヒブも根本的に大きな違いはなかった。今日では中国もアジアにおけるアメリカのプレゼンスを追い払い、そこを自国の勢力圏に収めようとしている。

さらに重要なことに、戦中の日本も現在の中国も自由主義世界秩序に異を唱え、民主主義諸国に対抗するための枢軸を築き上げようとしている。日本はファシスト国家のドイツとイタリアと同盟したが、中国は上海条約機構、BRICS、CICAを利用して西側民主国家に対抗する発言力を得ようとしている。日本がドイツおよびイタリアと結んだ枢軸は共同の戦略立案や作戦が行なえるほどの政策調整能力はなかったが、中国もアメリカとその民主的な同盟諸国に対抗する枢軸の形成には成功していない。また過去と現在のアジアの大国はいずれも普遍的に受容される価値観を打ち出して国際公益のために動くことができていない。

注目すべきは過去と現在の反欧米専制国家の台頭と進撃がアジア人から歓迎されていないことである。シンガポール陥落はアジア諸国民に強い印象を与えたかも知れないが、ダグラス・マッカーサーとルイス・マウントバッテン卿の指揮で連合軍が反撃に転じた際に、彼らは日本軍と手を組んで白人のサーヒブを押し返そうとはしなかった。同様に、中国が主導する「アジア人によるアジア」はアジア近隣諸国、中でも東シナ海と南シナ海で領土をめぐる衝突を抱える国々の間では強い警戒の念を呼び起こしている。またアジアは政治的にも文化的にも多様なので、どの地域機構も中国が国際政治上の支配力を強めるための道具にはならないだろう(“Don't bet on China's 'Asia for Asians only' vision yet”; Strait Times; 30 May 2014)。今日では白人支配の植民地帝国などとっくに消え去っているので、アジア諸国民がアメリカの影響を排除した中国主導のアジアに関心を持つことはないだろう。

アジア諸国民の福利よりも、両専制国家は天然資源を求めて南方に拡大している。戦中の日本は東南アジアの石油、錫、ゴム、その他鉱産物およびプランテーション作物を求めていた。今日では東シナ海および南シナ海での中国の領有権主張は、この水域での石油と天然ガスを求めてのものだと広く理解されている。両国がアジアの結束による欧米勢力の駆逐を呼びかけているのは、天然資源を確保しようという欲望と深くかかわっている。

極めて皮肉なことに、中国の漁船は南方海上の島々の領有権を主張しようとして、海洋地域の隣国警備隊に対して体当たり攻撃を仕掛けてくる。こうした攻撃は日帝が米軍の艦艇に行なった神風攻撃と同様に前近代的である。中国は本当に戦中の日本のカーボン・コピーなのではなかろうか?興味深いことに、アメリカのカーティス・チン元駐アジア開発銀行大使も現在の中国を戦中の日本になぞらえている(“Xi Jinping's 'Asia for Asians' mantra evokes imperial Japan”; South China Morning Post; 14 July 2014)。

アジア諸国が中国の大国気取りに警戒心を強める中で、私は中国に歴史認識の問題で日本を非難する資格があるのか疑問を呈したい。私の目には中国こそが他のどの国にも増して日帝さながらの行動をしている国である。中国はこれからも恒久的に第二次世界大戦の勝者として振る舞いたいのであろうが、重要な点を忘れてはならない。戦争に敗れたのは日本国民ではなく戦中のファシズムである。中国が本当に戦勝国として振る舞うつもりなら、このことを銘記すべきである!

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2014年6月 4日

中国とイスラム

ツール・ポワチエ間の戦い以来、イスラムと西欧の激突こそ最も歴史を左右する文明の衝突だと一般には思われている。しかし中国が昨年9月にGDPよりも先に石油輸入量でアメリカを抜いて世界第一位になってしまったので、イスラム世界との新たな衝突相手として浮上するであろう(“China surpasses US as biggest oil importer”; New York Post; October 10, 2013)。これは中国とイスラム諸国との接触が増え、そのためにアフリカで見られるように摩擦も増えることを意味する。これによって欧米の支配からイスラムの解放者、そして途上国のリーダーを自任する中国の立場は揺らぐであろう。また中国経済は欧米以上にイスラム圏での政治的動向に対して脆弱となる。

アメリカのエネルギー情報庁による「中国カントリー・レポート2012年」によれば、中国への主要石油輸出国の中でイスラム諸国はサウジアラビア(1位)、イラン(3位)、オマーン(5位)、イラク(6位)、スーダン(7位)、カザフスタン(9位)、クウェート(10位)となっている(“Fueling a New Order? The New Geopolitical and Security Consequences of Energy”; Brookings Institution; April 15, 2014)。これほどまでイスラムの石油に依存しているとあっては、中国は中東と中央アジアで綱渡りの外交および内政政策をとって自国の経済的権益を守り、国際舞台での勢力強化をはかっている。

中東で中国が戦略的に重視している国はイラン、サウジアラビア、トルコである。イランはイスラム革命以来、中国とは緊密な関係を保ってきた。しかしペルシア湾岸ではイランとサウジアラビアと対立する大国同士であり、中国も両国の微妙なバランスをとらねばならない。イスラエルはテヘランの核の脅威を恐れているが、サウジアラビアが懸念しているのはイラクからバーレーン、シリア、レバノン、イエメン、自国の東部にいたるシーア派包囲網の確立による湾岸地域でのイランの覇権である(“Next Test for Obama: Soothing the Saudis”; Los Angels Times; March 24, 2014)。今春に行なわれた軍事演習では、サウジアラビアは中国製の東風3弾道ミサイルを誇示した。サウジアラビアはこのミサイルを1988年に輸入していたが、今回の演習までそれを極秘にしていた。CIAによればサウジアラビアは2007年にはより高度な東風21を輸入しているが、それはまだ公開されてはいない(“Saudi missile parade a signal to Iran, Israeli defense expert tells ‘Post’”; Jerusalem Post; May 1, 2014)。

サウジアラビアはオバマ政権によるイランとの対話に重大な懸念を抱いている。チャック・ヘーゲル国防長官は今年5月の湾岸協力会議でアメリカがペルシア湾岸諸国との安全保障上の関係を犠牲にすることはないと言ってアラブ同盟諸国を宥めねばならなかった (“Hagel Says Iran Deal Won’t Weaken Gulf Security”; Eurasia Review; May 15, 2014)。アメリカの安全保障の傘が信頼性を失っているように思われては、サウジアラビアが中国に接近しても不思議はなく、中国もそこから石油を輸入している。しかし中国はサウジアラビアとイランの地政学的あるいは宗教的な対立に本気で関わる気があるのか? そうした問題を抱えながらも中国は石油輸出の得意先として好感を持たれながら危険な事態の責任を全面的にアメリカに担ってもらい、そして一部をイギリスやフランスに担ってもらえるような立場にはない。中国には1960年代から80年代の日本が当然視していたようなことはできないのである。中国は自分だけでこの地域のパワー・ゲームに関わり、影響力の拡大と石油供給の確保を目指さねばならない。武器輸出はこうした目的のために重要な政策なのである。

トルコのような非石油輸出国も中国の武器輸出の潜在的な市場となる。イスラム復古主義を掲げるエルドアン政権の下ではアフメト・ダウトール外相がトルコをアフロ・ユーラシア圏の中核に据えようと、欧米よりもイスラムとアジアへの接近をはかり、ケマル主義から脱却しようとしている。中国は自国の中東およびユーラシア戦略のために要石となるような国への影響力を強めようとしている。これはトルコと欧米同盟諸国との間の中国製ミサイル論争に典型的に表れている。中国精密機械進出口総公司(CPMIEC)は自社の対空ミサイル・システムの売り込みのために、低価格および技術移転の条件緩和といった好条件を提示している。レッド・チャイナはレイセオン=ロッキード・マーチン連合やユーロサムといった欧米企業を押しのけんばかりの勢いで、大西洋同盟も崩壊させかねなかった。しかしNATO同盟諸国の圧力によって、トルコは中国とのミサイル取引を白紙に戻した (“Why Turkey May Not Buy Chinese Missile Systems After All”; Diplomat Magazine; May 7, 2014)。日本の安倍晋三首相も昨年10月にレジェップ・エルドアン首相との会談でトルコの中国製ミサイル輸入中止に一役かっている(「トルコが中国製ミサイルの購入を白紙に 米欧の圧力、安倍首相の訪問が原因か―中国メディア」;新華社ニュース;2013年10月31日)。 しかし国防大学インターンのデニース・ダー氏によると、ミサイル取引の一件は中国が新興経済諸国の防衛市場に浸透する能力が恐るべきものだということを示している。

そうした大躍進にもかかわらず、中国は中東での影響力強化には決定的な弱点がある。最近行なわれた南インド洋でのマレーシア航空の遭難機探索の任務では、中国は水上戦闘艦艇18隻、沿岸警備隊舟艇、民間輸送船、砕氷船から成る大艦隊を派遣した。中国が真の外洋海軍となるには海外に海軍補給ネットワークが必要なことが明らかになった。中国は今回の任務ではオーストラリアの港湾を使用しているが、インド洋から太平洋にいたるシーレーンの国々のほとんどはアメリカの同盟国である(“Search for MH370 reveals a military vulnerability for China”; Reuters News; April 22, 2014)。中国の政治的および経済的プレゼンスが増大すれば現地住民との接触も増加し、そうなると中国人が過激派に攻撃される可能性も高まる。空母「遼寧」に見られるように中国の海軍力は急激に強化されてはいるが、海軍への支援能力が不充分な現状では中東での中国の戦力投射能力は向上しないだろう。

中央アジアは内陸で近隣でもあるので、中国は海軍への支援体制を気にかける必要はない。しかし中国はすでにアフリカばかりか反欧米の同志ともいうべきロシアの極東地域でも、天然資源の収奪と環境破壊という悪名を博している。イスラム圏との経済的取引が増えれば、中国と現地住民の摩擦もそれに伴って増えてくるだろう。このことは新疆にも影響を及ぼすだろう。非常に興味深いことに世界ウイグル会議のラビヤ・カーディル総裁は、中国がウイグル人には抑圧的な政策をとりながら、中央アジア近隣諸国の不興をかわぬためにも他のイスラム少数民族にはそうした政策をとらないと論評している(“Incidents of unrest in the East Turkestan reflect a Uighur Awakening”; The New Turkey; November 6, 2013)。中国はいつまで新疆でそうした分割統治を続けられるのだろうか?中央アジア諸国住民との経済摩擦および文化摩擦は中国の北西部辺境地帯に容易に飛び火する。ウイグル人の抵抗は今年になって強まっている(“Q&A: Xinjiang and tensions in China's restive far west”; CNN; May 23, 2014)。中国の石油浪費経済は彼の地の紛争を激化させかねない。

中国とイスラムの衝突は中東と中央アジアにかつてないほどの不確実性をもたらす。従来から中国はタンザン鉄道への援助に見られるように、自らを西欧帝国主義に立ち向かう途上国のリーダーと位置付けてきた。しかし今日では中国は欧米と並んで現地過激派の憎悪の標的になる可能性の方が高い。イスラム過激派にとってカフィールはカフィールであり、相手がキリスト教徒であろうと非キリスト教徒であろうと、また白人であろうと非白人であろうと同じであることは銘記すべきである。イスラムとの衝突は中国と地政戦略上の対抗相手との関係にどのような影響を与えるだろうか?特に日米両国、そしてヨーロッパとの関係がどうなるか注目すべきである。

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2013年10月31日

ウイグルの地にアル・カイダの拠点はない

中国当局は天安門爆破事件で5人のウイグル人を逮捕した。しかし彼らが真犯人なのだろうか?歴史的に、新疆すなわち東トルキスタンは中国からアフガニスタンおよびパキスタンに向かう通路である。しかしアル・カイダの拠点を示す以下の地図を参照されたい。


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2008年のイラクでの兵員増派の成功によって、アル・カイダは撃破されたと思われた。しかしオバマ政権によるイラクからの米軍撤退と、それに続くアラブの春によってアル・カイダは息を吹き返し、サヘル地域からケニアやソマリアといったアフリカ、そしてアラブ諸国一帯に広まった。彼らにはアフガニスタンとパキスタンにも強固な根拠地がある。ボストン爆破事件はチェチェンのアル・カイダ関連組織に触発された。しかしアル・カイダは中央アジアと中国領新疆には浸透していない(“The al Qaeda Franchise Threat”; Wall Street Journal; April 30, 2013)。

中国当局はウイグルの「テロリスト」はシリアで訓練を受けたとしている。容疑者とシリア反乱軍との間に関係があるのだろうか?そうした情報は提供されていない。ウイグル人権プロジェクトのアリム・セイトフ世話人は、ウイグル市民がこれほど厳重に警備された場所を攻撃するとは考えにくいと言う(“Rights Groups Doubt Uyghur Involvement in Tiananmen Attack”; Diplomat Magazine; October 30, 2013)。さらに世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長は、中国はウイグルの「テロ」を捏造して東トルキスタンの独立運動を抑圧するためなら何でもやりかねないと主張する。他方で中国在住のウイグル人経済学者のイルハム・トフティ氏は北京政府に表現の手段を取り上げられたウイグル人には暴力に訴える以外の手段がないという(“China suspects Tiananmen crash a suicide attack, sources say”; Reuters News; October 30, 2013)。

中国はテロを捏造しているのか、それともアル・カイダが新疆に入り込み始めているのか?現段階では共産党がテロ攻撃を捏造した疑いが強い。

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2013年5月15日

日本こそレッド・チャイナからアメリカとアジアを守る防壁である

中国の拡張主義的な野心と北朝鮮の核瀬戸際政策は東アジアの緊張を高めている。特に、中国への対処には綱渡り外交が求められる。中国とは安全保障での協調と経済関係を模索する一方で、アメリカもアジア太平洋諸国もこの国の危険性をしっかり認識しておかねばならない。強い日本はレッド・チャイナに対する防壁となり、北京政府と対話になっても対決になっても、この地域の国々の利益となるであろう。

問題はオバマ政権のアジア重視政策がただの文言に過ぎず、中東でのアメリカの特別な役割を放棄しているかのように思われることである。それが超大国の自殺行為にもつながりかねない。現在のアメリカの東アジア政策は日中間の地政学的な競合を超えたグローバルな文脈から理解されるべきである。中東でのアメリカの役割を支持する者は中国の拡張主義にも毅然と立ち向かっている。財政支出強制停止に見られるようにアメリカ国内で孤立主義が高まる時代にあって、このことは銘記さるべきである。

アメリカとアジア太平洋諸国が強い日本を必要とするのはなぜか?ジョセフ・リーバーマン元上院議員の政策スタッフであったバンス・サーチャック氏は、最近の論文でその理由を述べている(“An ascendant Japan would boost U.S. interests”; Washington Post; April 19, 2013)。 リーバーマン氏はジョン・カイル元上院議員と共に孤立主義に反対する論文(“The danger of repeating the cycle of American isolationism”; Washington Post; April 25, 2013)を寄稿し、アメリカン・エンタープライズ研究所で「アメリカ国際主義プロジェクト」を設立している。よってサーチャック氏の政策分析はオバマ政権のアジア政策を批判的に見つめ、アメリカとアジア太平洋同盟諸国にとっての日本の戦略的重要性を評定するうえで示唆に富む。

そこで東アジアと日中競合に関するサーチャック氏の見解に触れたい。地域安全保障に関しては、アメリカが北朝鮮の核の脅威への対処で中国の協力を要請することもあるだろう。しかし中国は必ずしも核不拡散について国際社会と重要な利害を共有しているとは言えず、むしろ北朝鮮の体制崩壊を懸念している有様である。また中国のサイバー攻撃の脅威と海洋拡張主義はきわめて大きな懸念材料である。日本はそのような脅威に直面する国々にとって安全保障上の信頼できるパートナーになる大きな可能性を秘めている。日本の防衛支出はGDPの1%に過ぎないが、その軍事能力はアジアでも最も高度な部類に属する。さらにアジアでの緊張の高まりを受けて安倍政権は安全保障上の役割分担に積極的だとも指摘している。

オバマ政権はこうした議論を理解しているのだろうか?4月のジョン・ケリー国務長官による東アジア訪問に関して、外交政策イニシアチブのクリストファー・グリフィン副所長とロバート・ザラテ政策部長の連名論文に言及したい(“What John Kerry is Doing Right and Wrong in East Asia”; Diplomat Magazine; April 18, 2013)。ケリー長官は中国が無謀な侵入をしてきた際には日本とアジアのシーレーンを防衛すると明言した。しかし8人の共和党上院議員が4月12日付けでケリー氏に書簡を送り、中国の危険な冒険主義と日本の戦略的重要性への注意を促した。この書簡にはマルコ・ルビオ上院議員、ジョン・コーニン上院議員、ジェームズ・インホフ上院議員、ジェームズ・リッシュ上院議員、ケリー・エイオット上院議員、ロバート・コーカー上院議員、ジョン・バラッソ上院議員、サクスビー・チャンブリス上院議員、そしてジョン・マケイン上院議員が署名した。

実はケリー国務長官に書簡を送った8人の上院議員はイラク、アフガニスタン、シリアそしてイランでのオバマ氏の中東政策にはきわめて批判的である。この事実から、オバマ政権の中東への関与を弱める方針がアジアへの関与の強化につながるものではないことがわかる。中東で宥和姿勢のアメリカはアジアでも宥和姿勢になるものだ。日本とアジア太平洋諸国の政策形成者達はアジア転進政策などを無条件に歓迎するよりも、こうしたことを銘記すべきである。

他方でケリー氏は北朝鮮対策で中国の協力を取り付けるためにはアメリカのミサイル防衛システムの撤去さえ考慮している。中国は北朝鮮問題で不可欠なパートナーだが、西側民主国家による世界秩序に挑戦を突きつけている核大国である。抑止力を撤去してしまうことはアメリカのアジア太平洋政策で利益にはならない。マーティン・デンプシー米軍統合参謀本部長と房峰輝人民解放軍総参謀長の会談では、中国側が米中軍事協力の推進には三つの障害があると言ってきた。その障害とはアメリカから台湾への武器輸出、米軍による中国への偵察、そして対中武器禁輸である。さらに最近の人民解放軍白書で中国は名指しこそしないものの、アメリカが地域の緊張を高めていると非難している(“US, China military top brass take aim”; Asia Times; April 26, 2013)。

しかし全世界と域内で緊張を高めているのは中国であり、中でも東シナ海と南シナ海の洋上での威嚇行為とサイバー攻撃が深刻である。ジョン・マケイン上院議員が主張するように、アジア諸国民は「アメリカの力、アメリカの価値観、そしてアメリカのリーダーシップで形成された世界での生存繁栄を望んでいる」(“Why Asia Wants America”; Diplomat Magazine; May 22, 2012)のだが、中国がアメリカの覇権に真っ向から挑んでいる。政治家達は中国に対して挑発的な語句を注意深く避けているが、ジョセフ・ボスコ元国防長官官房審議官は中國を脅威だと明言している。中国は富裕、強大、自信過剰になり、国際体制がもたらす便益と西側の寛大な対話政策を利用しながら自己主張だけは強くなっていると警告する。これはアジア太平洋地域の国際海域で航行の自由を侵害する中国の態度に典型的に表れている(“Red China Remains a Threat”; Weekly Standard; November 26, 2011)。日本は地理的に中国の膨張を食い止めるには最も理想的な位置にある。

人道的な観点も中国の拡張主義への対処で重要な課題である。ペンシルバニア州立大学のキリク・カナト助教授はアメリカと西欧同盟諸国は今年の4月に起きたカシュガル衝突事件に典型的に見られるようなウイグル人に対する中国の抑圧を見過ごしてはならないと論評している。カナト氏は人権と自由に考慮を払わずに商業利益に重きを置いたアジア転進政策では「この地域全体に人道上の災いをもたらすばかりか欧米民主主義諸国の政策の正当性にも危機をもらたす」と述べている(“The Kashgar incident and China’s Uyghur question”; The New Turkey; May 9, 2013)。このメッセージは主としてアメリカ人とヨーロッパ人に向けられたものであるが、日本とアジア民主主義諸国の政策形成者達も銘記すべきものである。安倍政権が打ち出した 「安全保障ダイアモンド戦略」では人道主義の価値観が重要な柱である(“Shinzo Abe’s Strategic Diamond”; Diplomat Magazine; January 15, 2013)。

何よりも中国への単純な恐怖感からアジア転進政策を無条件に歓迎すべきではない。先に挙げた8人の上院議員の書簡の例に見られるように、アメリカが中東への関与に消極的ならアジアでも宥和政策に走る。日本の政策形成者たちはオバマ現政権との連絡を密にするのと並行して、アメリカの超大国の自殺行為に危機感を抱く国防増強論者や国際介入主義者達とも強い関係を築く必要がある。それこそが日米両国のみならずアジア太平洋民主主義諸国の重要な国益を増進させるのである。

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2013年3月17日

北朝鮮核ミサイルの射程範囲

昨年12月のキム・ジョンウンによるミサイル発射テストの成功(“One small step for Kim Jong Un”; CNN News; December 13, 2012)を受け、新任のチャック・ヘーゲル国防長官はオバマ政権が1期目に削減したミサイル防衛の拡大を表明した(US to boost nuclear missile defence to counter N Korea; BBC News; 16 March, 2013)。以下の地図を参照されたい。今やアメリカの領土であるアラスカが北朝鮮のミサイルの射程範囲に入ってしまった。


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北朝鮮の脅威はパール・ハーバー攻撃のレベルにまで高まった。フォルド事件(“North Koreans among 40 dead at Iran nuke plant”;WND; February 3, 2013)によって北朝鮮とイランを主とする悪の枢軸が突きつける脅威が差し迫ったものだと示された。核保有の野望をあらわにする両国に、どう対処すべきだろうか?

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2013年1月11日

新年への問いかけ:中国への疑問

中国の軍事的台頭に対して世界から懸念の声が挙がるたびに、中国側からは「国力に見合った軍事力を持つのは当然だ。そうして世界規模に広がった中国の国益を守るのだ」という反論がなされる。しかしアジア太平洋諸国も欧米諸国も、本当に脅威を感じているのは中国の意図である。その典型例はアメリカに持ちかけたという「太平洋分割案」である(“Division Rejected”;Washington Times; August 17, 2007)。これでは国際社会から、中国は他国の意思や国際公益を無視して自国の利益を世界に押し付けようとしているのではないかという疑念を抱かれても仕方がない。

強大な軍事力があるからと言って、それが必ずしも外国から脅威と見なされるわけではない。最も典型的な例はカナダとアメリカの関係である。カナダは南の超大国と長い国境線を接しており、しかも自国の人口のほとんどがその国境線沿いに集中している。通常ならば、これは隣国の脅威に非常に脆弱な状態であるが、アメリカを安全保障上の脅威だと見なすカナダ人はまずいない。それはアメリカがカナダを侵略する意図を持つとは考えにくいからである。

軍事力の強さと脅威の認識に関する歴史的考察には、帝国主義が最高潮であった19世紀末から20世紀初頭の英米独の競合が最適である。米独両国とも国力の向上に見合って軍事力を強化したが、カイゼルのドイツは大英帝国の覇権に真っ向から勝負を挑んだ。そのため、イギリスはより友好的なアメリカと同盟してドイツと対決したのである。

また、忘れてはならないのは国際公共財の提供という視点である。パックス・ブリタニカの維持には二国標準主義が採られ、イギリスは独仏露のうち2ヶ国が連合しても優位に立てるだけの軍事力を持った。こうした安全保障の傘によって、ベネルクスや北欧諸国のような小国も平和を享受したのである。同様に、現代はパックス・アメリカーナによってアジア太平洋地域の国々は平和を享受している。中国の指導達が「国力に見合った軍事力」を主張する際には、こうした「歴史認識」が欠けているように思われる。

中国の安全保障政策で疑問を呈すべきは、東シナ海および南シナ海における領有権主張である。両海域で中国の主張を支持する国家も非国家アクターもほとんどない。欧米に対抗するために中国に接近し、日本とは北方領土問題を抱えるロシアすら、これらの件では中立なのである。それでも自国の領有権主張を押し通す中国の態度は、かつての大東亜共栄圏を主張した日帝よりも強引である。この問題に関して中国の「歴史認識」はどうなっているのだろうか?

中国の対外政策への不安感を一層高めるのは、チベット、ウイグルなど国内の少数民族に対する抑圧である。少数民族の権利を主張する活動家達は、中国に一度譲歩をすると自分達の国の独立を失ってしまうと訴えかける。そうした声が真実味をもって受け止められるのも、東シナ海および南シナ海での強引な領有権主張と中国国内での少数民族への非人道的な抑圧の相乗効果があるからである。

中国の政府関係者および論客達は国際メディアに対して「国力に見合った軍事力の増強」という呪文さえ唱えれば説得力があると思い込んでいるようだ。しかしアジアにおいても欧米においても、彼らのこうした主張がほとんど受け入れられていないという事実をしっかりと認識して欲しいと思う。

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