2016年11月30日

トランプ・ショックを契機とした日本自主防衛論に疑問

先の大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の当選は予期されなかったばかりか望まれてもいなかったので、全世界のアメリカの同盟を恐怖に陥れることになった。トランプ氏は全世界での同盟ネットワークの破棄を口にしたばかりか、日本、韓国、サウジアラビアといった同盟諸国には自前の核武装さえ要求したので、アメリカが一方的に覇権を破棄することによる新世界無秩序が恐れられるようになっている。日本とヨーロッパではトランプ・ショックは戦後の安全保障枠組を再考し、自主的な外交および国防政策を模索する機会だとの声も挙がっている。

日本の外交政策の有識者の間ではトランプ政権の登場による不確実性を伴う不安定化に重大な懸念が広まっているが、ナショナリスト達は在日米軍の撤退によって「戦後の政治的な対米従属」を脱却するという自分達の願いを叶える絶好の機会だとして歓喜の声が挙がっている(「日本でじわり広がる”トランプ大統領”待望論―対米自立か隷属か―」;;Yahoo!ニュースJAPAN;2016年3月27日)。ヨーロッパの識者からはもっと冷静沈着な議論も出ている。ブルッキングス研究所のマッテオ・ガラヨグリア氏は独伊二重国籍の立場から、ヨーロッパは独自の国防能力の強化、域内での相互協力の深化、そしてオーストラリア、ブラジル、カナダ、日本、インドといったヨーロッパという枠組みを超えた主要民主主義国とともに世界の安定化に向けて手を携えてゆくべきだと主張する(“Never waste a crisis: Trump is Europe’s opportunity”; Brookings Institution; November 10, 2016)。

問題はアジアが文化的にも歴史的にも政治経済的発展度合でもあまりに多様なために、日本は多国間地域安全保障機関に入っていないことである。また日本は韓国や台湾といった安全保障での提携の可能性のある国々とも領土上の見解不一致を抱えている。よって日本がいわゆる自主安全保障政策を執れば、世界から孤立しかねない。ナショナリスト達は日帝の復活という長年の夢のために歓喜に浸っているが、真の自主防衛を叶えるだけの軍事力を備えるには、防衛費を大幅に増額しても長い時間がかかる。兵器は注文生産であり、支払いがなされたからと言ってすぐに顧客の許に届くわけではない。また、兵器を使いこなすには訓練も必要である。思い出すべきは、ISISがバグダッドに迫る中でオバマ政権がF16戦闘機の引き渡しとイラク軍パイロットの訓練に遅延をきたした時、イラク政府がどれほど焦燥感に駆られたかということである(“From Iraq to Syria, splinter groups now larger worry than al-Qaeda”; Washington Post; June 10, 2014)。この観点から言えばトランプ氏が以前に口にしたような北朝鮮に対する独自核抑止力などは、馬鹿げている。

問題は尖閣諸島を含めて日本牡領土を中国から防衛するだけではない。背後にアメリカの力がなければ、地政学的にも経済的にも日本がアジアで中国の影響力とせめぎ合うことは難しい。日本が規範に基づいた国際関係という普遍的な価値観を訴えてはいるが、アジア諸国は大なり小なり中国の台頭には抗えないとして受容している。経済では日本の商品やサービスが高品質を誇ったところでアジアの顧客には必ずしも受け入れられず、むしろ低価格で猛烈な営業攻勢をかけてくる中国製のものが席巻するようにもなっている。自主独立の日本がたとえ中国からどうにか自国の領土を守り切ったとしても、アジア外交ではこれほど脆弱になるのである。アジア諸国は中国の脅威に対して立場が一致しているわけではない。カンボジア、ラオス、ミャンマーのように親中の国もある。親欧米かつ親日と思われる国々でさえ、中国に宥和することもある。小国にとっては崇高な理念を掲げるよりも、大国の競合の間での国家生存の方がずっと重要である。よってこうした国々が時に中国の台頭は「不可避」として容認してしまうのは、AIIB加盟やインドネシア高速鉄道の受注でも見られる通りである。ナショナリスト達が夢見るような日本主導の大東亜共栄圏の復活などは、ただ馬鹿げていて危険である。

トランプ氏は孤立主義の選挙公約を掲げたが、歴史的に見てアジアは1890年のフロンティア消滅以前からアメリカの影響圏である。マシュー・ペリーの艦隊が1853年と1854年に日本に派遣されたのは、それだけの理由があるのである。それは中東でのアメリカの関与が大英帝国から引き継がれたこととは著しい対照をなす。トランプ氏がリアリストの外交政策を執るというなら、ビジネスマンにありがちな近視眼的な損得勘定にしがみつかず、アジアでのアメリカのプレゼンスの深い背景を理解しなければならない。しかし新アメリカ安全保障センターのロバート・カプラン氏はトランプ氏がリアリズムを理解していないと批判する。トランプ氏は世界の中でのアメリカの役割と立場について明確なビジョンもなく、同盟国の防衛にも世界の安定に寄与することにもほとんど関心はない(“On foreign policy, Donald Trump is no realist”; Washington Post; November 11, 2016)。選挙中のトランプ氏の発言はカプラン氏とは正反対で、ゆすり屋さながらの収奪的なゼロサム思考にとらわれている。それがアメリカ国内外の外交政策有識者の懸念を募らせている。

どう考えてもトランプ・ショックは日本が「従属的」な対米関係を終焉させ、「自主独立」で「誇り高い」外交政策を採用する好機ではない。それなら、我々はこの危機にどう対処すべきだろうか?何よりもトランプ氏の基本的思考パターンを理解しなければならない。コロンビア大学のジェラルド・カーティス名誉教授によれば、トランプ氏が取引にこだわるのは、始めに最大限の要求を突き付けて相手との妥協点を探ってゆくという不動産ディベロッパーの交渉技術に由来しているという。

このことを念頭に置いたうえで、トランプ政権の不確実性に対処してゆくための米国内での影響力行使法を考えてゆく必要がある。カーティス氏は、議会、メディア、シンクタンク、そして国務省および国防総省の官僚機構を通じた権力分立によって日米同盟の破棄など認められないと論じている。また誰が大統領であっても基本的な国益は不変であるとも主張している(“Trump couldn't change Asian policy even if elected, Columbia professor says”; Nikkei Asian Review; November 8, 2016)。さらに、我々は価値観を共有する西側民主国家と手を携え、ワシントンのエリート達と共通の解決手段を模索しなければならない。幸いにも先の選挙でトランプ氏を支持した低学歴層は、このレベルでの政策のやり取りにはほとんど影響を及ぼすことができない。また、政治家としては完全な初心者であるトランプ氏は、自らの問題解決能力のなさを突き付けられた時には著名な専門家の助力を仰ぐしかない。従来とはかなり変わった大統領を完全に制御することはできないが、我々としてはあらゆる手段を模索しなくてはならない。


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2016年9月27日

日本は中露枢軸分断をインドに任せよ

安倍晋三首相は今年の12月初旬に地元選挙区の山口県でロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談する予定である(「安倍晋三首相、地元・山口でプーチン露大統領と会談へ 12月上旬、北方領土交渉加速へ本格調整」;産経新聞;2016年9月1日)。両首脳は第二次世界大戦の平和条約、北方領土問題、そしてロシア極東地域での二国間経済協力を話し合う。日本国内では安倍首相がこの機に乗じて中露枢軸を分断し、不確実性を増す世界に対処すべきだとの声もある。しかし日本がそのように西側同盟に悪影響を与えかねないリスクは犯すべきではなく、そうしたむしろ役割はインドに任せるべきだと主張したい。以下、説明をしてゆきたい。

第一に中露枢軸について言及する必要がある。表面的には両大国は西側、特にアメリカの世界秩序に対抗する同盟関係にある。しかしロシア極東地域は人口希薄であり、国境の向こう側にある人口大国の中国は潜在的に国家安全保障上の脅威である。ロシア極東の国境地帯はアムール州、プリモスキー(沿海)地方、ユダヤ自治州、ハバロフスク地方の全てを合わせても人口が430万人にしかならない。他方で中国東北地域は1億900万人という圧倒的な人口である(“Russia, China and the Far East Question”; Diplomat; January 20, 2016)。国家対国家レベルでの脅威に加えて、中国からやって来る蛇頭と呼ばれる犯罪集団や不法伐採業者は市民生活と環境の安全保障を脅かしている。ロシアが中国に表には出さない不信感を抱えていることもあり、日本でクレムリンとの戦略的パートナーシップを発展させて中露を分断し、人民解放軍の脅威を牽制しようという議論が挙がることは理解できる。

しかし来る首脳会談では平和条約や北方領土問題といった二国間問題に集中すべきだと主張したい。日本は西側同盟の中心にあり、中露のパワーゲームに関わる立場にはない。むしろ欧米諸国がバルト海地域とクリミアをめぐる緊張をよそに、日本は「ロシアを再び偉大にする」(Make Russia Great Again )ことを求めているのではないかとの疑念を抱くであろう。ヨーロッパ諸国の対中宥和には日本が不快感を抱くように、日本の対露宥和にはヨーロッパ諸国も不快感を抱く。ヨーロッパの宥和でも顕著な事例はジョージ・オズボーン財務相(当時)の主導による英中原子力合意で、イギリスの国家安全保障関係者の間ではそれに対して中国による対英スパイ行為への重大な懸念が高まっていた。また日米両国もそうした物議を醸すような合意には戸惑っていた。

しかしテリーザ・メイ現首相は合意を再検討し、ヒンクリー・ポイントとブラッドウェルの原子力発電所での中国の影響力を低下させようとしている(“UK's Theresa May to review security risks of Chinese-funded nuclear deal”; Reuters; September 4, 2016)。キャメロン政権の内相であったメイ氏はニック・ティモシー首相首席補佐官とMI5とともに、原子力合意に対する国家安全保障上の懸念を述べていた(“Hinkley Point: Theresa May's China calculus”; BBC News; 31 July 2016)。メイ氏の行動は中国広核集団を通じたヨーロッパでの人民解放軍の影響力の浸透を防止するであろう。日本もロシアに関してそれに応じた行動をとるべきである。

そうした中でインドは中露のパワー・ゲームに入り込むには格好の立場である。印露がFGFAステルス戦闘機開発のように対中牽制のための緊密な防衛協力を行なっても、欧米が当惑することはない。歴史的にインドは親中のパキスタンに対抗するためにソ連と緊密な関係にあった。インドはミグ21、ミグ23、ミグ27、ミグ29といったソ連製の兵器を数多く輸入してきた。冷戦後もインドはヒンドスタン航空機社がロシアのライセンスで製造しているスホイ30MKIという典型例に見られるように、ロシア開発した兵器を配備している。そうしたソ連時代からのロシアとの強固で長年にわたる関係にもかかわらずインドは非同盟外交を堅持し、ソ連圏に入ったことはなかった。

他方で冷戦期のインドは西側とも軍事的な関係を深化させ、そうした関係は今世紀に入ってさらに発展している。インドは過去にフランスからミラージュ2000を購入し、1971年の印パ戦争ではイギリスから入手した中古空母ビクラントを投入した。9・11同時多発テロを機にインドとアメリカの戦略的パートナーシップは急速に発展し、それはマンモハン・シン首相とジョージ・W・ブッシュ大統領の間で結ばれた原子力合意に典型的に表れている。オバマ政権下ではこうした安全保障での協調がさらに進んで日本がマラバール海上演習に招待されるほどになり(“US, Japan, and India Kick off 2016 Malabar Exercise”; Diplomat; June 12, 2016)、南シナ海での中国の海洋拡張主義の抑止を模索するようになっている(“India, Japan Call on China not to Use Force in South China Sea Disputes”; Diplomat; June 15, 2016)。

インドは大国の競合で独自の行動をとってきたので、ロシアとの関係が強化されたからといって地政学上のバランスが劇的に変わることはない。西側にとって、インドは友好国であるとともに有望な市場でもある。また欧米はアフガニスタンでのテロとの戦いでこの国とパキスタンのバランスをとっているが、それはしばしば後者に信頼を持てないことがあるためである。そのようにロシアとも欧米とも緊密な関係にあるインドの方が中露枢軸の分断には適している。こうした目的のためには日米両国がインドとの外交パートナーシップを深化させ、アジアの安全保障について共通の認識を模索しなければならない。そして安倍首相は12月のプーチン大統領との会談では欧米との不要な摩擦を避けるためにも二国間問題に集中すべきである。


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2016年4月25日

オバマ大統領は広島でトランプ氏に警告を発せよ!

バラク・オバマ大統領が就任してからというもの私が彼の広島訪問の希望には強く反対であったのは、そうした態度がいかにも謝罪姿勢でポスト・アメリカ的なものに映るからである。私はそれによって冷戦後に西側同盟に敵対するようになった勢力が勢いづくのではないかと大いに懸念していた。しかしアメリカ国内の大統領選挙ではそれよりもはるかに甚大な脅威が出現したとあっては、核安全保障に関して無知で無責任な発言への強いメッセージで臨み、党派にも国家にもかかわらず、国際社会の良心がいかなる類いのものであれそうした言動を許さないと表明しなけらばならない。今や「トランプ許すまじ!」の観点から優先すべき事柄は変わるべきだとの信念から、私はオバマ氏の広島訪問を歓迎したい。

大多数の日本国民、そして広島と長崎の被爆者さえも、アメリカの指導者が誰であれ大戦中の行為に対して謝罪して欲しいとは思っていない。私は広島がアウシュビッツではなく、原爆ドームを含めた平和記念公園の展示物でアメリカおよび連合軍を非難するものは何もないということを全世界の人々に訴えたい。よってオバマ大統領が謝罪を行なう義務など全くなく、むしろ世界を核の脅威から安全にするうえでアメリカのリーダーシップを発揮するという自信にあふれたメッセージを発するべきである。これまでも大量破壊兵器(WMD)の不拡散はアメリカの外交政策では最重要課題の一つであった。その中でも核問題は保守派であれリベラル派であれ有力シンクタンクでは主要な政策課題である。このことは核不拡散がアメリカにとって超党派の重要な国益であることを意味する。ここで銘記すべきことは、ロシアと中国さえもアメリカの核不拡散イニシアチブを受け容れてきたことがイランと北朝鮮の事例にもみられる通りだということである。特にNPT(核不拡散条約)体制は国際公益におけるアメリカのリーダーシップを象徴するものである。さらに9・11同時多発テロ以降は核によるテロ攻撃の防止が至上命題になっている。

非常に嘆かわしいことに、ドナルド・トランプ氏はアメリカの核外交での基本的なアプローチを何一つ学んでいない。戦術核兵器は中東でのテロとの戦いに使用するには破壊力が大き過ぎる。さらに驚くべきことに日本と韓国にはアメリカの核の傘に頼ることなく自前の核武装をせよとまで言い放っている。それではNPT体制は崩壊に向かい、アメリカの国益そのものが脅かされることになる。そうなると、その波及効果は全世界に広がりかねない。中東では核合意が発効しても弾道ミサイル実験を止めないイランを尻目に、イスラエル、サウジアラビア、エジプト、トルコといった地域大国が核武装の強化ないし保有に走りかねない。またインドとパキスタンの核競争も激化しかねない。それによってテロリストによる核兵器の入手の可能性が高まるであろう。トランプ氏は「財務諸表」に基づいて議論しているが、アメリカは在外兵力の撤退によって予算を削減せよと説くような経済学者はほとんどいない。外交政策と安全保障の専門家達も、そのようにビジネスマン的な考え方には当惑している。

トランプ氏が犯した致命的な誤りとは、核保有が無条件に核抑止力になるという前提である。しかし米ソ対立の歴史から、それが全くの間違いであることがわかる。冷戦初期にはアメリカ国民はソ連による核攻撃を非常に恐れていたので避難訓練を繰り返していた。鉄のカーテンの向こう側でも事態は同様だったであろう。核の瀬戸際政策が頂点に達したのは1962年のキューバ危機である。信頼性のある抑止力の確立には長い時間を要した。第二撃能力とホットラインによって相互確証破壊(MAD)が確固としたものになるまで、米ソ間の核抑止力は信頼できるものではなかった。我々が思い出すべきは、1998年にインドとパキスタンが互いに核実験を繰り返した際にはそうしたシステムは全く作動せず、両国の核競争が地域の緊張を高めただけだったということである。さらにイスラム過激派に対しては核抑止力など全く効果がない。彼らは敵からの殲滅に恐怖を感じていないばかりか、我々との間には米ソ間ホットラインのように予期せぬリスクを予防できる相互の意思疎通手段もない。イスラム過激思想の根本的な価値観では「西欧十字軍」との戦い自体が目的である。よって歯止めなき核拡散は抑止力を強化するどころか空洞化してしまうのである。

こうした観点から、日本が独自核戦力によって北朝鮮に対する抑止力を構築できるかを問いかけねばならない。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は日本が核武装をしても北朝鮮は戦争のリスクなど厭わないと主張する。アメリカの大量報復だけが冒険主義的なキム政権による核戦争を予防できるだろうということである(「『日本核武装論』には現実性もメリットもない」;ダイアモンド・オンライン;2016年4月14日)。田岡氏の分析は理に適っており、それは北朝鮮が核の威嚇を行なう目的がアメリカを交渉に引き込んで自らの体制の生存を保証することだからである。またIAEA事務局長が日本外務省出身の天野之弥氏であるという事実は、日本とNPT体制が切っても切れない関係であることを意味している。それはこの秩序を構築したアメリカにとっても非常に重要かつ超党派の国益であるが、トランプ氏はただの利潤追求者であるせいか、こうしたことには全くの無知無関心なのである。北朝鮮からISISにいたるまで、トランプ氏の核戦略は全く意味をなしていない。トランプ氏の支持者の大多数は核安全保障のことなど考えたこともないので、彼の扇動で悦にいたるばかりである。これはきわめて危険である。よってオバマ氏は全世界で核問題を軽く考えている政治家、その中でもトランプ氏に対して強いメッセージを発するべきである。これは後世におけるオバマ氏の評価のためではなく国際公益のためである。

アメリカ国民が広島での大統領が自国の外交に好ましくない影響を与えると懸念することは理解できる。私もトランプという怪物の出現まではそうした視点を共有していた。確かにアメリカ側から一方的な自責の念を表明しても日本側も相応の行動に出なければ、アメリカ国民もアジア諸国も当惑するだろう(“So Long, Harry: Will Obama’s Apology Tour End in Hiroshima?”; Weekly Standard; September 2, 2015)。オバマ氏が広島で演説すればパール・ハーバー攻撃とバターン死の行進の痛ましい記憶を刺激し、日米両国民の間で大戦中の歴史認識に関する相違が表面化することもあろう(“Kerry's Premature Visit to Hiroshima”; Weekly Standard; April 11, 2016)。しかし安倍晋三首相はその返礼として当地訪問により連合国の戦争被害者を追悼し、互いにとってより良い未来を模索することを真剣に考慮するであろう。 我々にとって必要なものは謝罪でも後世での評価でもなく、将来の核不拡散に対する関与のメッセージである(“At Hiroshima, Obama should make a pledge, not an apology”; New York Post; April 13, 2016)。リベラル派の論客からはプラウシャーズ・ファンドのジョセフ・シリンシオーネ会長がブリュッセル事件によって核テロの可能性は高まり、オバマ大統領は広島でそうしたテロを防止するためにリーダーシップを献身的に発揮することを示すさねばならないと主張する(“Obama Still Has Time to Leave a Legacy of Nuclear Security”; Huffinton Post; March 31, 2016)。

もはや過去への悔恨の時ではない。我々が切実に必要としていることは核安全保障への問題意識を喚起し、核不拡散に不誠実な態度をとる指導者には誰であれ反対の声を挙げることである。特にドナルド・トランプ氏は今日の世界では最大の核の脅威である。核問題に関する真剣味に欠ける発言からして、トランプ氏が大統領の職務に真面目に取り組むとはとても思えない。バラク・オバマ大統領が広島を訪問する際には、全世界の人々がそのように恥知らずな政治家を排除してゆくように導くような強いメッセージを発することを望んでやまない。


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2016年4月 6日

日本は本当に核兵器を保有すべきか?

ドナルド・トランプ氏の衝撃的な放言によって(“In Japan and South Korea, bewilderment at Trump’s suggestion they build nukes”; Washington Post; March 28, 2016)、日本国民は国家安全保障について懸念を強めるようになり、独自核抑止力についても語り始めるようになっている。しかし我々がそのように性急に行動すべきかどうかは再考の余地がある。それは核兵器の開発と配備には数年を要するばかりか費用も膨大になる。そうした計画が一度着手されてしまえば、それを破棄しようにもできなきなる。日本の国家安全保障はワシントンの外交政策界で標準的かつ長期的な視点に確固として基づいたものであるべきで、間違ってそれが変わった考えで行動予測不可能な人物が大統領なって、常軌を逸した政策を行なう場合に基づいたものであってはならない。

それは以下のようなことである。仮にトランプ氏が大統領に就任したものとする。しかし彼の任期が保障されているのは1期4年だけである。日本は核兵器を早急に製造して配備しなければならないだろう。しかし彼の施政が成果を挙げなければ次の任期には他の人物が代わりに大統領になり、アメリカの外交政策は平常に回復するであろう。その場合、大量破壊兵器の不拡散がアメリカの国家安全保障で至上命題となっていることからすれば、次期大統領が日本の核抑止力を容認するとは考えにくい。よって我々が無知なうえに商業主義的で守銭奴なトランプ氏の考え方に思慮分別なく反応してしまえば、日本は膨大な時間と労力と資金を無駄にしてしまうだろう。私はここで、日本と国際社会の人々は間違ってもトランプ氏を支持するような知性と気質に致命的な問題を抱える群衆をアメリカ人と見なしたことはないと強調しなければならない。

また、トランプ氏自身の思考と行動も突飛で当てにならない。エリオット・コーエン氏の主唱で100名以上の署名を集めた例の有名な公開書簡にも記されているように「彼の思考は一文の中で孤立主義から軍事的冒険主義に揺れまくる」からである。現段階ではトランプ氏は日本の核抑止力を容認しているかも知れない。しかし外交政策における彼の見解は自身が吹聴するようにきわめて予測不能なので、4年間の任期の内には急に変節しかねない。そうなった場合にはトランプ氏が日本をイランや北朝鮮のように扱いかねない。実際に彼の短気は全世界に知れわたっている。日本がアメリカから敵視されるようなリスクを冒す必要がどこにあるのだろうか?

さらに問題視すべきこととして、私はトランプ氏が任期中に在日米軍の全てを撤退させられるかどうかということに心底からの懐疑の念を述べたい。日本に駐留するアメリカの陸海空軍の規模は膨大であり、また在日米軍そのものが日本社会に深く根を下ろしていることは3・11津波および大地震での救済活動を見ればよくわかる。撤退の手続きには信じられないほど膨大な形式的行政事務が付いて回るが、それはトランプ氏が不動産業の経営者として過ごした人生を通じて目にしたこともないほどのものである。軍事基地が関わる土地所有権は、トランプ氏が自らの事業で対処してきたものよりはるかに複雑である。さらに言えば、日本の空域を地域の安全保障と民間航空事業のために管轄しているのは横田米空軍基地である。この権限を日本側に移行しようとするなら交渉に多大な労力を割かねばならない。二国間交渉が円滑に進展しなければ、多大な損失を被るのはアメリカの航空運輸産業である。トランプ氏が経営者としての能力を吹聴するのであれば、そのことを強く認識すべきである。

さらに付け加えると撤退のスケジュールは不明であり、トランプ氏は日本が中国と北朝鮮に対する核抑止力を築き上げるまで待つ気があるのか、それとも力の真空がもたらす危険性に一切の考慮も払わずに直ちに撤退交渉を始める気なのかわからない。いずれにせよ、一連の作業には膨大な労力が伴う。トランプ氏が自身の人脈からそうした職務を行なえるだけの有能な高官を任命できるとはとても思えないのは、彼の外交政策チームの質に対するマイケル・オハンロン氏の辛辣な論評からも類推できる(“D.C.’s Foreign-Policy Establishment Spooked by `Bizzaro’ Trump Team”; National Review Online; March 24, 2016)。トランプ氏は大統領を2期務めることを視野に入れている(“Trump’s nonsensical claim he can eliminate $19 trillion in debt in eight years”; Washington Post; April 2, 2016)ようだが、この職はOJTでは務まらない。1期目の業績が悪ければそれで終わりである。彼自身が短気で悪名高いことを考慮すれば、それを棚上げして国民に忍耐強さを期待する気が知れない。彼の気まぐれな放言でも特に外交政策に関するものからは、この人物には大統領の責務に対する畏敬の念など全くないことが見え見えである。

トランプ氏のものの考え方は核安全保障と日米同盟のコペルニクス的転換である。しかし彼がこのことを理解しているとはとても思えないのは、自らが公衆の面前で口にしたことを実施するだけの準備がまるで整っていないからである。全世界のアメリカの同盟国の中でもトランプ氏が最初に槍玉に挙げたのが日本である。対日関係の全面見直しがそこまで重要だと言うなら、トランプ氏の外交政策チームに日本情勢に精通した顧問が一人もいないのはどうしたことだろうか。さらに深刻なことに核安全保障に関するこの人物の知識はきわめて貧困である。トランプ氏は核の三本柱さえ知らなかった。そのうえ、中東でのイスラム系テロリストに対して戦術核兵器の使用を主張した(“Donald Trump Won't Rule Out Using Nukes Against ISIS”; Fortune; March 23, 2016)。それはこの人物が核兵器の破壊力についてあきれ果てるほど無知なことを露呈している。今日の戦術核兵器は広島と長崎に投下されたものよりも強力である。また、戦術核兵器も使用によって戦争がエスカレートする危険もある。トランプ氏は米軍のドローン攻撃による巻添え被害がイラクとアフガニスタンで厳しく批判されたことを知るべきである。たとえ戦術使用でも、核兵器は無数の民間人を殺傷する。トランプ氏がこれらの事柄について何も学んだことがないのは明らかで、だからこそ恥知らずな放言をやりたい放題なのである。

もはや、ただ分析をして嘆いているだけの時ではない。トランプ氏の打倒に向けて我々は行動を起すべきである。この目的のために、私は日本のオピニオン・リーダー達がこの人物宛に抗議の公開書簡を出し、本文中に記された問題点をひとつ残らず問い詰めて我々の怒りの意志を表明すべきだと提言したい。トランプ氏は怒りの感情に対して敏感なので、大衆の激怒を巧みに悪用しているものと理解している。日本政府にはそうした挑発的な行動はできないだろうが、トラックIIのレベルであればそれもできることである。アメリカと全世界の政策関係者達、そして良心的なアメリカ国民は絶対に我々に味方することに疑いの余地はない。本論の冒頭で述べたように、我々の二国間関係はトランプという御仁よりはるかに永く続くものである。日本の国益にとって重要なことはアメリカの外交政策界で共通の理解に基づいて行動することであり、トランプ氏の変わった考え方に基づいて行動することではない。


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2016年1月25日

ロールス・ロイス社国有化をめぐる国家と軍事産業の関係

イギリスは海外企業による買収からロールス・ロイス社を救済するために国有化を考慮していると表明した。政府筋によるとロールス・ロイス社の国有化か、さもなければ同社の一部ないし全てをBAEシステムズ 社と合併させるということである。ロールス・ロイスは2014年より船舶および航空エンジン部門の不振から株価が下がっている。アメリカのプラット&ホイットニー社とドイツのシーメンス社がロールス・ロイスの航空エンジン部門を買収しようとしている(“Britain would consider nationalizing Rolls Royce's submarine business – FT”; Reuters; December 14, 2015)。キャメロン政権の政策が国家安全保障政策の立案者達が国家と軍事産業の関係についてどうするかという重大な問題を投げかけているのは、企業の国有化とはきわめて保守党らしくないばかりか、それがオールド・レイバーで失敗した政策だからである。マーガレット・サッチャーがこのことを聞けば驚愕するであろうことは疑いようもないが、それは1987年にこの会社を民営化したのが他ならぬ同首相(当時)だからである。

このニュースが私の目をひいた理由は、佐藤正久参議院議員が最近の論説で日本の防衛産業について問題提起をしていたからである。佐藤氏は企業の国有化が非現実的である以上、日本には防衛産業に小さな国内市場で利潤を挙げさせようという意志と具体的な取り組みが必要だと主張する。そして日本の防衛調達がF35やV22といった輸入兵器の価格高騰に圧迫されていることにも懸念を抱いている(「日本の防衛生産・技術基盤を守れ」;議論百出;2015年12月2日)。防衛産業は戦略的な価値が高く、民間産業とは違って何らかの重商主義的な政策は不可避である。

私がロールス・ロイスを取り上げるのは、この会社と日本の防衛産業には相通じるところが多く、注意深く観測すれば日本だけでなく他の国々で国防政策に携わる者達にとっても非常に有意義だと信ずるからである。日本の防衛企業と同様にロールス・ロイス社も有名軍事企業の間ではそれほど企業規模は大きくないが、高い技術水準である。世界軍事産業ランキング2015年版によるとロールス・ロイス社は15位で収益の軍事依存度は22.60%である。それに対し日本の防衛産業では三菱重工が36位で5.60%の依存度、IHIが91位で4.30%の依存度となっている。そうした軍事依存度の低さは、国防部門に大きく依存している大手軍事産業とは著しい対照を成している。実際に1位のロッキード・マーチン社は88.00%、3位のBAEシステムズ社は92.80%、4位のレイセオン社は97.40%、5位のジェネラル・ダイナミックス社は60.20%、6位のノースロップ・グラマン社は76.70%の収益を軍事部門に依存している(“Top 100 for 2015”; Defense News)。

しかしロールス・ロイス社と上記の日本企業はともに目覚ましい技術開発によって高い評価を得ている。ロールス・ロイスの場合、そのブランドと高い技術が船舶および航空宇宙エンジンから原子炉の部門まで活かされている。イギリス製の兵器は言うにおよばず、外国製に最新鋭兵器にもロールス・ロイス製のエンジンが利用されている。例えばアメリカ海軍のズムウォルト級駆逐艦は同社製のガス・タービンで航行している。また、韓国の国産ステルス戦闘機KFXの一部にもユーロファイター・タイフーンと同じロールス・ロイス製のエンジンが備え付けられることになっている。他方で三菱製のステルス戦闘機ATDX(先進技術実証機)は世界的な注目を集めている。非常に驚くべきことに、三菱製戦闘機にエンジンを提供しているIHIは同じサイズでは推力重量比と燃費効率が欧米製のものを上回るHSE(ハイパワー・ストリーム・エンジン)の開発に成功し、日本の念願である国産戦闘機F3の開発にはずみをつけることになっている(「次期戦闘機エンジン、民間機用に開発応用も 米国製上回る技術、燃費効率が強み」;産経ビズ;2015年3月17日)。

そうした一方で小規模な会社はグローバル化が進んだ世界市場の荒波に対して脆弱である。また、こうした企業の質の高い頭脳は海外どころか敵対的な勢力の手先には格好の買収の対象である。市場機能は時には非常に無慈悲であり、国益や公益に一切の考慮を払わないこともある。しかし国家が戦略的な産業を国有化すべきなのだろうか?1985年から1986年にかけてのウエストランド事件ではマーガレット・サッチャー首相(当時)が市場原理に基づいてアメリカのシコルスキー社によるウエストランド・ヘリコプター社の合併を認めたのに対し、マイケル・ヘーゼルタイン国防相(当時)が同社の所有権をヨーロッパの枠内に収めようと主張した。周知の通りサッチャー側が閣内構想に勝利し、ヘーゼルタイン氏は辞任となった。

冷戦期にはボーダーレス経済と言ってもほとんど西側同盟の中でのことであった。今日では企業はそうした政治的な境界を超えて活動する。例えば中国のハイアール・グループは三洋やジェネラル・エレクトリックといった西側企業の洗濯機部門を買収している。しかし軍事産業は家電産業とは違う。軍事企業が一度でも本国から外国の手に渡ってしまえば、それがたとえ同盟国や友好国の企業による買収であっても、買い取られた企業が敵国に売り渡される危険を秘めている。こうした観点からすればキャメロン政権がロールス・ロイスを外国企業の買収から何としても守ろうとするのは当然である。特に同社の原子力部門はトライデント戦略ミサイル原潜とも深く関わっているだけに、イギリスの国家安全保障のうえで細心の注意が必要な問題である。

ロイター通信のロバート・コール論説員は問題の解決は市場に任せるべきで、たとえ弱くても同社には業績回復の見込みはあると言う。それで上手くゆかないならば、BAEシステムズ社が一部あるいは全社を傘下に収めることも可能で、その方が国有化より好ましい。BAEは自社の事業を民間部門に多角化し、イギリス、アメリカ、サウジアラビアの国防関連事業への依存度を下げることができる(“BAE deal beats Rolls-Royce nationalization”; Reuters; December 14, 2015)。この案は国有化よりはましだが、たとえBAEによる合併であってもロールス・ロイスの分解は両案とは思えず、同社の技術が自動車から航空および海洋エンジン、そして原子炉まで相互に深く関わりあっていることに留意すべきである。デイリー・テレグラフ紙のジェレミー・ウォーナー氏はロールス・ロイス社が顧客からの多様な要求を満足させられるのは独立でエンジンの専門性が高いメーカーだからだと主張する。大手企業に飲み込まれてしまえばロールス・ロイスはオーダーメイドに応えられる専門性という利点を失ってしまう。それではペンタゴンのような同社の優良顧客にとって魅力がなくなってしまう(“BAE in Rolls Royce merger? Let’ not go there”; Daily Telegraph; 16 January, 2015)。

グローバル化が進む経済において、小規模ながら戦略的に重要な企業のイノベーション意欲と高い士気を保つ一方で、そうした企業を熾烈な競争や敵対的な投資家から守ってゆくのは難しい課題である。ウエストランド事件から何らかの教訓は得られるかもしれないが、過去は過去である。日本の場合、三菱重工あるいはIHIの業績が悪化してもBAEシステムズのように敵対的な投資家に対抗するホワイト・ナイト役を引き受けられるような巨大軍事企業は存在しない。日本政府はこうした企業が外国からの買収の脅威に直面した時には46位の川崎重工や66位のNECなどとの合併に向けた行政指導を行なうべきだろうか?しかし日本の企業は民間部門への依存度が高く、川崎は11.20%、NECは3.50%を防衛部門から収益を挙げているだけである。こうした事実に鑑みて、日本企業が防衛省に従うインセンティブはあまり高くないように見受けられる。

軍事産業はあまりに戦略性が高く、教科書通りに市場経済の原則を当てはめられない。こうした企業への支援と国益の確保のために、民間の公共事業においても政府が軍事企業を優遇するという施策はどうであろうか。その典型的な事例を挙げれば、キャメロン政権が国有化という手段に訴えてまでロールス・ロイス社を守りたいのであれば、ヒクリー・ポイントとブラッドウェルの原子力発電所の再建に人民解放軍との深い関係が懸念されるCGN(中国広核集団)の入札を受け入れたことは理解しがたい。そこまで言うならイギリスの看板とも言うべき企業を特別に優遇すべきであった。ロールス・ロイス社の一件は現在進行中で、各国の国防政策関係者にとっても注目に値する。それはこの会社が富裕層の玩具メーカーをはるかに超えた存在だからである。

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2015年9月23日

横田基地の日米友好祭に見る国民の真意

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大盛況の日米友好祭(9月20日横田基地)

去る9月19日および20日には在日米軍および航空自衛隊の横田基地において日米友好祭が開催された。今年の友好祭は例年以上に注目に値するものであった。それは、直前9月19日未明に大紛糾の末に参議院で安保法案を通過したばかりだったからである。このイベントに対する市民の受け止めは、メディアの報道にも学者達の研究にも表れない国民の真意を知るための試金石である。結論から言えば、反対派の声を過大評価したメディアの報道姿勢は間違いである。それは彼らが何を言おうとも、日米友好祭の膨大な人出と活気が国民の間での日米同盟と安保法制への強い支持を雄弁に物語っているからである。

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あのオスプレイも大人気


今回の安保法案をめぐってはSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)をはじめとした左翼およびリベラル系の大規模な反対デモが国会前で行なわれ、メディアからは60年安保闘争の再来として大きな注目を集めた。あまりの大きなデモに民主党の岡田克也代表は、安保法制は国民の声を無視するものだと決めつけた。確かに無数の人々が永田町を占拠し、大声で安保法制への反対を叫んだ。しかし、それが論理的にも情緒的にも日本国民の声を代表するものなのだろうか?こうした街頭の市民運動において、左翼系の団体がきわめて動員能力に長けていることに留意しなければならない。政治学の入門理論では、強い団結力で特定の目的意識を持ったグループが大多数の国民以上に大きな影響力を持つ。永田町を占拠した者達がどこまで国民の声を代弁する存在なのか、それはきわめて疑わしい。

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AWACSに長蛇の列


それに対して日米友好祭での横田基地への市民の来訪は、どこの組織からも動員されていない自発なものであった。通常は最寄りのJR青梅線牛浜駅から基地までは徒歩で15分ほどということだが、この日の入場には1時間以上もかかった。警察は膨大な人数の来客が周辺住民の交通を妨げぬよう、彼らの行列を整えて往路を迂回させたほどだった。もう基地に入る前から、これが永田町占拠者と同じ日本国民とは思えないほど、在日米軍および自衛隊に対する支持と人気の高さを示していた。道中では日本民主青年同盟の運動家20人ほどが安保法制反対のデモをやっていたが、日米友好祭にやって来る訪問客が彼らの主張に耳を貸すはずがない。民青の行為は、ただ失笑と冷笑の対象になるためだけの運動であった。

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アメリカ兵と記念撮影する日本人女性


やっとのことで基地内に入場できたものの、そこではどこの出店も展示も長蛇の列であった。また、米軍兵士との記念撮影にも多くの来客が殺到した。こうした光景を目の当たりにすれば、日本国民が信頼を寄せているのが在日米軍や自衛隊なのか、それともSEALDsや小林節名誉教授なのかが一目瞭然である。永田町占拠者達はこうした国民の声なき声を無視し、まるで「私達こそが世論である」と言わんばかりの態度であった。それではもはや太陽王ルイ14世さながらであり、彼らには市民運動家を名乗る資格など全くない。民主党の岡田代表のように国民世論を読み誤っている政治家こそ、アメリカ軍を素朴で素直に歓迎する国民に目を向けるべきである。アメリカ軍および自衛隊に対するこうした素朴な信頼と支持が広まっているのは、遠方から電車でやって来る来客の間ばかりではない。基地周辺の住民も近隣で祭りを楽しみ、夜になると花火見物に基地内へ入場してきた。本土の左翼が乗り込む沖縄と違い、横田の米軍は地域社会に溶け込んでいるのである。

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パックス・アメリカーナ?地面に横たわってくつろぐ人々

こうした事態に鑑みて私はメディアが安保法制反対派の声ばかりをとりあげ、彼らが必要以上に勢いづけられた偏向報道には強い疑問を抱いている。本来なら、国民の声なき声を拾い上げるのが彼らの役目である。また、この法制に反対する諸政党は国会で「国民は理解できない」と声を荒げていた。しかし実際には数えきれないほど多数の国民はアメリカ軍と自衛隊に共感と理解を示している。横田基地の日米友好祭はこれを雄弁に物語っている。このことは取りも直さず日米の防衛協力を進める安保法制への理解は国民の間では静かに広まっていることを意味する。今回の安保法制を理解するかしないかは、頭脳よりも意志によるところが大である。永田町占拠者達のような教条的な一国平和主義者達に国際情勢の変遷やホッブス的な性質を何度説いても徒労に終わるだろう。理解する気がない者は何を言っても理解しない。真のグラスルーツとは、横田基地にやって来た人々である。よって今法案成立後の政策実施に当たっては、日本国民の内でもどのような層の声を重視すべきかを考慮すべきである。

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2015年8月31日

国際政治と安保法制における法と力

日本の安保法制をめぐる議論は国際政治に基本的で普遍的な問題を突きつけているが、それは法と力の関係である。よって学者も実務家も日本が専門であろうとなかろうと、永田町の議論にもっと注目すべきだと提言できれば幸いである。フーゴー・グロチウスが『戦争と平和の法』を著してから、人類は戦争と紛争の管理と制限を模索してきた。戦間期にはアメリカのフランク・ケロッグ国務長官とフランスのアリスティード・ブリアン外相がケロッグ・ブリアン条約によって戦争の非合法化さえ試みた。しかしそれで第二次世界大戦は防げなかった。国際政治ではいかなる権力も主権国家の上には存在しないので、戦争を法的に規制することはきわめて難しい。非常に重要なことに、日本は国内憲法による法的規制を見直して力が支配する世界に適応する一方で、法の支配を維持しようとしている。

そうした前例のない取り組みを理解するために国内事件における個人の犯罪行為と国際事件における国家の犯罪行為では、法の適用と強制執行がどのように違うかを見直す必要がある。個人は国家の三権に従う存在であるが、主権国家はいずれも超国家機関に従う存在ではない。国内法はテクノクラート的な手続きで適用されるが、国際法の適用には政治的なやり取りが絡む場合も時にはあり得る。国内法への侵害の場合、犯罪者個人は国家権力によって身柄を拘束される。しかし国家が超国家機関によって身柄を拘束されたり拘留されたりすることはない。国際法を強制執行できるような、単一の中央集権化された世界政府は存在しない。よって国際政治における法の強制執行は、力と責任を持つ国民国家の軍事力の行使に依存している。

このことを踏まえれば、6月4日に衆議院で行なわれた安保法制に関する憲法学者の証言はあまりに単純であった。その審査会において慶応大学の小林節名誉教授および早稲田大学の長谷部恭男教授と笹田栄司教授といった3人の憲法学者が、この法案は憲法違反で法的安定性を損なうものだと切って捨てた。しかし国際法さえ戦争と紛争を規制するには不完全なのである。どうして日本が国内憲法によって自らの行動にそれほど厳格に規制しなければいけないのか?日本が法の支配を重視する国であることには何の異論もなく、3人の憲法学者達が「違憲」と「法的安定性」の両語を法案阻止のカードに利用することも理解できる。しかし三学者とも力の支配で動くという国際政治の性質など、ほとんど気にも留めていないように見受けられる。

国際政治における法と力に関する考察を進めるうえで、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は有名な著書『ネオコンの論理』で非常によく知られた説得力のある議論を展開している。ケーガン氏の論理を安保法制をめぐる議論に適用すれば、反対派は法と超国家的な協調が支配する「恒久平和」というカント的な世界観を信奉しているのに対し、賛成派は平和とは頼りにできない国際法や超国家機関よりも自由主義秩序の覇権国家による軍事力に裏付けられるというホッブス的な世界観を信奉していることになる。主権国家が乱立して力によって自国の国益を最大化しようとする世界では、法で平和は保証できない。もちろん日本が法規に基づいて行動する遵法国家であることに異論を挟む余地はないが、敵がそこまでカント的に行動する保証はどこにもない。法的安定性とは主として国内向けのものなのである。安保法制反対派は「法的安定性」という呪文を唱えているが、それが通用するのは国内であってホッブス的な国際政治では通用しない。世界は「政治的安定性」のためにパックス・ブリタニカとパックス・アメリカーナを必要としてきた。安保法制によって日本は自国の法で身動きできない状態を脱し、ホッブス的な世界で行動できるようになるだろう。

そうしたホッブス的な現実に鑑みて、安倍政権はカント的な法的安定性と新時代の安全保障上の要求との微妙なバランスを非常に注意深くとっている。それが典型的に表れているのがペルシア湾に関する事項で、イランのA2AD能力向上で艦隊防空がより重要になっている現状にもかかわらず、安倍晋三首相は日本は掃海艇を派遣するにとどまるというきわめて抑制された答弁に終始している。当ブログで幾度も述べてきたように、これでは日本がなすべき安全保障上の役割を果たすにはまだ不充分ではあるのだが。さらに安倍氏はこの掃海作業は自衛隊が多国籍軍への後方支援以上の任務に就くきわめて例外的なケースだと明言している。礒崎陽輔首相補佐官が法的安定性について物議を醸す発言をしたが、安倍氏のアプローチは非常に、それどころか過剰に慎重である。

3人の憲法学者達は憲法違反の安保法制では日本の民主主義と法の支配を破壊すると非難している。しかし実際の反応を見ると、アメリカ、NATO諸国、アジアの民主主義諸国は新法案を歓迎している。安倍政権が提案するこの法案が反対派の学者達が言うようにそれほど危険なものなら、これが民主的な国々から支持されているのはどうしたことだろうか?忘れてはならないことは、民主的な価値観が重大な危機に瀕する時には欧米諸国が専制国家を糾弾することである。中国は欧米との経済的な関係が深まっているとはいえ、人権侵害が深刻になると非難の的になる。戦略的なパートナーシップが深く根付いているサウジアラビアでさえ、国民への抑圧が行き過ぎると厳しい批判にさらされる。しかし日本で「違憲」とされる安保法制がそのような敵意にさらされることは全くない。現在、メディアは安保法制が採決されるかを注視しているが、この法案がどのように適用されて強制執行されるかについて考えることも重要である。それは全世界の人々にとっては国際政治の理論と政策の重要問題であり、日本国民にとっては国家安全保障の問題である。

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2015年8月25日

自衛隊のペルシア湾派兵は日本の国益に適う

国会における安保法制の議論では、諸野党が安倍政権は自衛隊の海外派兵に地理的制約を科すべきだと主張している。国際的な作戦に無制限に関与すれば憲法9条が空洞化しかねないとの懸念からである。野党はそうした制約が緩和されてしまえば法的安定性を損なうと憂慮している。さらに安倍政権の全世界的な関与政策に反対する勢力は、日本はアジアの国として東アジアの脅威、特に中国と北朝鮮への対処に国防の精力を集中すべきだと主張する。

しかし、こうした議論には説得力がない。テロ、過激思想、専制政治、核不拡散といった脅威はますますグローバル化している。また日本はペルシア湾からの輸入に総需要の80%以上も依存している(「今日の石油産業」;石油連盟;2014年4月)。よって、日本はアメリカおよび西側主要国とともに湾岸の緊急事態を管理してゆく必要がある。我々が忘れてはならないことは、現在の積極的平和主義と安保法制の発端は1991年湾岸戦争での外交的屈辱である。国連決議に基づくアメリカ主導の多国籍軍がサダム・フセインの不当なクウェート侵攻に懲罰を科す時に、日本は何も支援できなかったばかりか、アメリカの軍事作戦に資金を出すATMマシーンだと嘲笑されてしまった。この事件によって日本の指導者層と国民は戦後の平和主義がどれほど受動的か、それどころか孤立的なものだと知らしめられたのである。この観点から言えば、自国の周囲を超えて世界の安全保障の負担を分担することが日本の国益と責務である。

ペルシア湾での石油輸送路の安全保障に関しては、最も重大な脅威はアメリカの空母打撃部隊に対するイランのA2AD能力向上である。実際にイランは今年2月の海軍演習で模擬空母を破壊してアメリカ艦隊攻撃への強い意志を示した(“Iran blasts mock U.S. carrier in war games”; CNN; February 27, 2015)。アメリカの空母機動部隊は日本の防衛に大変重要で、敵の空母攻撃は日本の国家と国民にとって明白な存立危機事態である。日米同盟の深化に最も不熱心な政治家の一人である小沢一郎衆議院議員でさえ、日本の防衛に第7艦隊が不可欠だと認めている(「『駐留米軍は第7艦隊で十分』 民主・小沢代表」;産経新聞;2009年2月25日)。よって私は安保法制が日本の防衛任務に地理的制約を科すべきではないと強く主張する。安倍政権は湾岸へは掃海艇の派遣のみという非常に抑制された関与を提案しているが、艦隊防空の方がもっと重要である。鉄壁にさえ見える空母であるが防御の武装はほとんどなく、夜間には不意の攻撃を避けるために飛行甲板の照明を落としているほどである。このことは空母打撃部隊の防衛にはアメリカのイージス艦やイギリスの45型艦のように先進技術を駆使した駆逐艦が不可欠なことを意味する。この観点から、アメリカやイギリスのようにイージス艦を派遣することは日本の重要な国益に適うのである。よって、安倍政権のきわめて抑制されたビジョンにさえ反対する者は非常に孤立志向なので、1991年湾岸戦争の屈辱のような過ちを繰り返しかねない。

日本人には主力艦喪失が戦略的そして象徴的にもたらす影響を理解するうえで重要な歴史的体験があり、それも攻撃側と防御側の両方の立場を経験している。シンガポール陥落の時に日本帝国軍はイギリス海軍の戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを撃沈し、アジア太平洋地域の英連邦および大英帝国の諸国に重大な戦略的および心理的な打撃を与えた。他方でレイテ沖海戦によって日本帝国海軍が戦艦武蔵をはじめとする主力艦の喪失により近隣海域の制海権を失うと、日本の本土はアメリカの空襲にさらされることになった。ペルシア湾で敵がアメリカの空母への攻撃に成功すれば、それはどこか遠くでの軍艦の喪失では済まない。世界各地で脅威となる勢力が勢いづき、割れ窓理論で言われるようにこれらの勢力がパックス・アメリカーナに対して立ち上がるだろう。そうなると日本にとってはまさに存立危機事態である。

永田町では最近の核協定をイランとアメリカの外交的雪解けと見なす国会議員もいる。バラク・オバマ大統領はカイロ演説での謝罪姿勢に見られるように就任以来、イランへの外交的アプローチを変えようとしている。しかし間違ってもアメリカとオバマ氏を同一視してはならない。イギリスのデービッド・キャメロン首相がオバマ氏と親しい友人だからといって、アメリカ政策形成者の評価が必ずしも高いわけではない。実際にオバマ政権の核協定はキャピトル・ヒルで超党派の厳しい批判にさらされている。ほとんど協定に反対で一致している共和党ばかりか、民主党からも反対の声が挙がっている。そうした民主党員の中で、チャック・シューマー上院議員は核の野望を捨てない限り協定によってイランが穏健化することはないと主張している(“Schumer: I'm Voting Against Iran Deal”; Weekly Standard --- Blog; August 6, 2015)。シューマー議員の見解を裏打ちするかのように、アリ・ハメネイ最高指導者はイランの事情に部外者は口を挟むべきでないと述べた。これはハメネイ師には核計画を止める意図などなく、ただ制裁の解除だけを望んでいるものと解釈されている(“Iranian Hard-Liner Says Supreme Leader Opposes Nuclear Deal”; New York Times; August 15, 2015)。こうした事態に鑑みて、もう一人の民主党員のボブ・メネンデス上院議員は協定によってイランの核開発能力が完全に排除されたわけではないとして深刻な懸念を表明している。すなわち、フォルドのように査察官が入り込めない施設があるばかりか、依然として多数の遠心分離機がイランの手にあるということである (“Senate Democrats stake out both sides of Iran deal” Reuters; August 18, 2015)。

オバマ大統領は議会の批判を何とか乗り切るかも知れないが、核協定が施行されるとしても、それで米・イラン関係が緩和すると考えるのは夢想的と言わざるを得ない。過去にはSALT合意が米ソのデタントを保証しなかった。米・イラン間の外交的雪解けを信じる永田町の政治家達は、レオニード・ブレジネフ氏のカモにされたジミー・カーター氏と同類としか思えない。イラクとシリアのISISを打倒するうえでイランが同盟国になるとの主張も見られるが、それは妄想としか言えない。イランはISISの拡大阻止を望んでいるかも知れないが、彼らの真の狙いは両国を不安定化させてアメリカと近隣アラブ諸国の影響力を弱めることである。それはイランが支援知るシーア派代理勢力をさらに勢いづかせる(“Sorry, America: Iran Won't Defeat ISIS for You”; National Interest; July 23, 2015)。永田町の政治家達の間では政策通とされる議員まで核協定後の米・イラン関係に楽観的なのは、どうしたことだろうか?いずれにせよオバマ大統領の任期は1年過ぎには終わり、次期大統領がたとえ民主党であってもイランにはより強硬になるだろう。また核協定は地域の緊張の引き金になりかねず、イスラエルやサウジアラビアはイランの地域支配を懸念している。‬‬

石油輸送路に突きつけられる脅威はイランだけではない。海賊やテロリストといった非国家アクターも機雷や対艦ミサイルで航海の自由を妨げることができる。ハマスがイスラエル攻撃のために巡航ミサイルを配備していることを忘れてはならない。イランやテロリストのようなこの地域の脅威を理解するには、イスラム過激派の思想的および歴史的背景を知る必要がある。ある永田町の政治家はアメリカあるいは欧米によるイスラム過激派掃討に日本が巻き込まれることを避けられれば、彼らと友好的な関係でいられると言う。しかしそれは殺戮と破壊のイデオロギーで、カフィール(異教徒)と穏健派ムスリムに対して徹底的に非寛容である。一度でもアラーへの冒涜だと見なされれば、キリスト教徒やユダヤ教徒であろうとなかろうと過激派による攻撃の標的となってしまう。イスラム過激派は中世にはインドの仏教を根絶した。タリバンはバーミヤンの大仏の救済に向かった日本代表団を侮辱的にあしらった。これらの観点から、受動的で孤立志向の平和主義では日本が宗教過激派に対処するうえで役に立たない。ISISが今年の1月に後藤健二氏と湯川遥菜氏を身柄拘束して殺害するより以前から、彼らは多くの日本人を殺してきた。

湾岸の安全保障がどうであろうとも、日本人の中には我が国は高まる一方の中国と北朝鮮をはじめとした近隣の脅威に集中すべきとの声もある。彼らは自国から遠く離れた場所に自衛隊を送るのは日本の国防と財政の資材の無駄だと言う。しかし歴史は彼らの見方が間違いだと教えてくれる。例えば、韓国は国境を隔てた北朝鮮の甚大な脅威に直面していながら、ベトナム戦争に派兵した。当時の韓国にとってベトナムなどほとんど気にもかけない存在で、それよりも近隣に北朝鮮、中国、ソ連といった敵対的な国々を抱えて孤立して包囲されている状況の方が深刻であった。日本との関係は緊張していた。よってソウルはアメリカへの忠誠を証明する必要があった。ポーランドも同様にイラク戦争に参戦してアメリカとの緊密な同盟関係をロシアに見せつけた。そのような忠誠は、同盟国にとって自分達の国益をアメリカの外交政策に反映させるうえで何らかの役に立つことがある。

さらに海外派兵は実戦部隊の戦闘経験を深める良い方法である。日本自衛隊は多国間演習で訓練の行き届いたパフォーマンスから高く評価されている。しかし日本が戦後70年間の平和に浸かっていたこともあって、自衛隊は世界でも最も実戦経験が乏しい軍隊である。日本のリベラル派はそれを誇りに思っているが、私の目には現在の自衛隊がマシュー・ペリー来航時の徳川武士に見えてならない。自衛隊は戦闘経験もなしに、日本本土に直接的で差し迫った危険が及ぶ際に実戦を戦えるだろうか?自衛隊が中東およびアフリカで多国籍軍に参加できれば、それは自国本土での危険な事態への対処を準備するうえで、まさに好都合な修業の場となるだろう。アジアにおいては自衛隊に実戦経験がなくても重要な責任を背負わざるを得ない。他方で中東やアフリカなら自衛隊は比較的低いリスクで実戦の中で戦争について学ぶことができるが、それは主要交戦国がアメリカ、NATO同盟諸国、そして地域の関係諸国だからである。これは日本が「殺るか殺られるか」という戦場への見習いと準備をするうえで好都合な環境である。イギリスのヘンリー王子はアフガニスタンでタリバン兵をプレイステーションのように射殺したと語った(“Prince Harry: 'I've killed Taliban fighters'”; Daily Telegraph; 21 January, 2013)。自衛隊もヘンリー王子のように平常心を持って敵に直面しなければならない。

アメリカあるいは欧米が中東や他の場所で行なう戦争に日本が巻き込まれてはならないと強調する者は、アジア太平洋諸国との友好とパートナーシップを重視しているのだろう。しかしこれは我が国が世界の中で占める特別(exceptional)な地位への素っ気ない否定である。日本はアジア太平洋の国でありながら、明治末期以来は「西欧列強」の一員としてアメリカやヨーロッパと共に世界を運営してゆく立場であった。日本国民はペルシア湾の戦略的重要性も日本の特別な地位もよく理解している。永田町で「自衛隊を湾岸に派兵するなど国民には理解できない」と言うことは全くの間違いなのである。私は天才でも何でもないが、ここに記したように上記の点をよく理解している。よって日本国民がペルシア湾の重要性をよく理解することに何の疑いの余地もない。

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2015年6月11日

ネタニヤフ・キャメロン外交からアメリカの同盟諸国への教訓

去る3月11日にグローバル・フォーラム・ジャパンが主催した日米対話において、慶応大学の宮岡勲教授と細谷雄一教授が同盟に関するいくつかの理論的な概念について言及した。特に他国への「巻き込まれ」および他国からの「見捨てられ」のリスクは非常に重要である。通常は脅威の認識に食い違いがある時には強い同盟国が弱い同盟国に自国の立場を押しつけると思われている。しかしアメリカ海軍大学のジェームズ・ホームズ准教授は全く正反対の事態が起こり得るとしている。弱小な同盟国は同盟の盟主の力を最大限に利用して自国の国益の伸長をはかるのに対し、強大な同盟国は対立国と対決のリスクを冒そうとは思わない。これはペロポネソス戦争の直前にスパルタとの対戦を促すケルキュラの要求を前にアテネが直面したジレンマである(“Thucydides, Japan and America”; Diplomat; November 27, 2012)。

上記でホームズ氏が言及したツキジデスの引用は、アメリカと同盟諸国の関係をどのように調整するかを理解するうえで非常に有益な示唆を与えてくれる。特にイランの核の脅威に関してイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とバラク・オバマ大統領の間で最近見られる見解の不一致は、世界各国の政策形成者達に重要な教訓を与えるだろう。オバマ氏との関係は良くないものの、ネタニヤフ氏はアメリカでも敵対勢力への宥和に走るホワイトハウスに強い懸念を抱く政策形成者達と中東の安全保障に関する理解を共有している。他方でイギリスのデービッド・キャメロン首相はオバマ大統領ときわめて良好な関係にあり、「よお兄弟(bro)」と呼ばれるほどである。しかし真面目な政策形成者はイギリスの軍事的能力を低下させているキャメロン氏の国防政策に批判的である。両指導者の著しい違いは我々が学ぶべき教訓を与えてくれるだろう。

まずベンヤミン・ネタニヤフ氏について述べたい。この場合、問題はイランの核の脅威に関するオバマ政権との認識の相違と、アメリカ国内の党派対立である。以下の点が主要な論点となる。第一は核協定自体の効果で、それというのもこれが一時的なものだからである 。第二の点は核拡散を超えたイランの脅威そのものの性質である。両方の論点ともに、オバマ政権がイランによるシーア派過激勢力支援の直接的な脅威を受けているイスラエル、サウジアラビアおよびその他湾岸アラブ諸国といった中東の同盟諸国とパーセプション・ギャップを抱えていることと深く関連している。いわば中東の同盟諸国はオバマ氏が自分達をケルキュラ扱いしているのではないかと疑念を抱いている。そうした中で共和党および民主党の一部は、トム・コットン上院議員が47人の署名を集めてアリ・ハメネイ最高指導者に核協定とそれが中東の安全保障に及ぼす波及効果への反対の意を示した公開書簡を宛てた一件に見られるように、こうした国々と懸念を共有している。最後の論点が事態をさらに複雑にするのはロシアと中国が核協定後のイランに関わってくるからである。例えばロシアはイランにS300対空ミサイルを売却しようとしているが、それがイスラエル、アラブ諸国そしてキャピトル・ヒルから由々しく思われている。ネタニヤフ氏の議会演説からほどなくしてワシントン近東政策研究所のロバート・サトロフ理事は、ネタニヤフ氏はオバマ氏に対してISISとの戦いよりもイランによる中東支配に戦略的な優先順位を置くようにと訴えたと評している。核協定自体についてサトロフ氏はイスラエルと欧米に諜報成果の食い違いを指摘し、アメリカはイスラエルをはじめとする中東の同盟諸国とのパーセプション・ギャップを解消してイランの不正行為を阻止せよと主張している。以下のビデオを参照されたい。


ネタニヤフ首相によるアメリカ議会演説。2015年3月3日


ロバート・サトロフ氏のインタビュー。2015年3月3日


核協定に関して、反対派はウラン濃縮と遠心分離機に規制が緩いうえに一時的な合意であることに懸念を抱いている。イラン国内の濃縮ウラン貯蔵量が減るとはいえ、必ずしも海外に輸送されるというわけでもない。イランの核施設はどれも閉鎖されない。また遠心分離機も全廃されるわけでもない。これは2012年にオバマ氏が突きつけた要求から大きく後退しているので中東の同盟諸国が重大な懸念を抱くようになる(“Obama’s Iran deal falls far short of his own goals”; Washington Post; April 2, 2015)。またワシントン近東政策研究所のマイケル・シン所長は、一時的な合意でしかも公式の文書さえない協定の拘束力はほとんどないと評している。以下のビデオを参照されたい。



反対派からの批判に鑑みて、同じくワシントン研究所のデニス・ロス評議員は、オバマ政権は核協定に関して、特に一時合意の有効期間、査察、そして違反への処罰といった懸念材料にどう対処するか示すべきだと主張する。オバマ氏の顧問でもあるロス氏自身も、現在の協定ではオバマ氏が第一期政権時に掲げたイランの核開発を無能化するという目的から後退したと認めている。しかしこの協定によってイランの意志を平和的なものに変えられるともロス氏は言う(“Deal or No, Iran Will Remain a Nuclear Threat”; Politico; March 31, 2015)。協定への賛成派は、イランは制裁の影響で経済的に疲弊し、国際的な核不拡散規範の遵守に積極的になると言う。よって現実的な合意によって我々の重大な目的であるイランの核兵器保有阻止を達成すべきだと主張している。しかしイランとアメリカが協定の文書の意味の解釈が食い違っているとあっては、そうした議論は反対派にとってほとんど説得力がない。4月2日のローザンヌ合意では、イランは今後15年間に3.67%までウランを濃縮できることになっている。イラン原子力庁のアリ・アクバル・サレーヒー長官は、イラン国営のプレスTVとのインタビューで20%のウラン濃縮はいつでも可能だと応えた(“Iran Nuclear Chief Threatens New Uranium Enrichment”; Washington Examiner; April 10. 2015)。

さらにアリ・ハメネイ最高指導者は、アメリカは制裁を即刻解除して協定の実施に踏み切るようにと要求した。それは文書に書かれた英語とペルシア語という言語上の違いによるものだと言う者もいる。ウッドロー・ウィルソン・センターのロブ・リトワク副所長によれば、解釈の違いが起きるのは両国の内政事情によるもので、イランの強硬派は大悪魔との協定など望まず、アメリカの強硬派もならず者国家との合意には懐疑的である。アメリカの反対派とイスラエルはイランの体制の性質を協定の内容以上に問題視しているが、賛成派は文書の技術的な問題に注目すべきだと主張する。そうした事態とは裏腹に、解釈の相違をもたらしたのは政策として重視するものの違いである。アメリカはイランが核分裂物質を製造する能力に制約を科そうとしているが、イランはエネルギー目的でウラン濃縮をしたいと思っている(“The Language of the Iran Deal”; WNYC Brian Lehrer Show; April 13, 2015)。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官とジョージ・シュルツ元国務長官はイランが国際査察官を騙そうと思えば、多くの施設も核分裂物質も査察の対象外なので簡単にできると指摘する。中東でのアメリカの同盟諸国は、オバマ政権が一時的で拘束力の弱い合意を取り付けたことでイランの地域的な覇権を認めたと見なしている。よってサウジアラビアは独自の核抑止力を模索している(“The Iran Deal and Its Consequences”; Wall Street Journal; April 7, 2015)。

オバマ政権と中東の同盟諸国の間のパーセプション・ギャップは協定の技術的解釈を超えたものである。そうしたパーセプション・ギャップは中東でのより包括的な安全保障上の意味合いから理解しなければならない。オバマ政権がイランをISIS打倒のためのある種のパートナーと見なしている一方で、反対派はイランの地域支配への野望とシーア派過激勢力への支援を域内で最も重大な脅威と見ている。サウジアラビア元総合情報庁長官のトゥルキー・アル・ファイサル王子は3月19日に英国王立国際問題研究所の講演で、今回の核協定が中東の安全保障に与える影響の全体像を語った。それは核協定によってこの地域のステークホルダーの間でアメリカとイランの談合によって湾岸地域でイランの影響力が増大するとの懸念から、域内の核軍拡競争が高まるというというものである。オバマ政権の中東への関与について、サウジアラビアは地域安全保障のためには言葉でなく行動を求め、アメリカが自由シリア軍を支援するかどうかが重要な試金石になると見ている。他方でトゥルキー王子はイラク政府がイランを刺激することを過剰に恐れているので、サウジアラビアの影響力はこの国にほとんど及ばないと述べた。以下のビデオを参照されたい。



トゥルキー王子が英国王立国際問題研究所で講演したようにサウジアラビアは今やオバマ政権をそれほど信頼できないと見なしているので、去る5月にキャンプ・デービッドで開催された会議にスルタンが参加しなかったばかりか、パキスタンから核兵器の購入さえ検討している有様である(“Saudi Arabia vs. Iran”; Value Walk; May 21, 2015)。イスラエルのモシェ・ヤーロン国防相もこの協定は抜け穴だらけで、イランが査察官を妨害して最終的には北朝鮮のように核兵器しかねないと懸念を述べている(“Current Iran framework will make war more likely”; Washington Post; April 8, 2015)。実際にイランのアリ・ハメネイ最高指導者はかつてのサダム・フセイン同様に、国際査察官による自国の軍事事施へのアクセスとイラン人科学者に聞き取りを拒否した(“Iran’s Supreme Leader Rules Out Broad Nuclear Inspections”; New York Times; May 20, 2015)。

オバマ政権はISIS打倒だけのためにイランと核問題での妥協を模索し、イランに支援されたシーア派代理勢力への支援さえ行なっている(“Complex US-Iran ties at heart of complicated Mideast policy”; Rudaw; 27 March, 2015)。外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員はさらに、アメリカ空軍はイラン空軍になってしまったとさえ言っている (“America’s New Role: As Iran’s Air Force”; Commentary; March 25, 2015)。しかし民主国家防衛基金(FDD)のマイケル・レディーン、フリーダム研究員は、アメリカとイランがイラクで共通の敵を抱えているというだけで行動を共に出来るわけではないと論ずる。イランはイスラム革命以来、事あるごとにアメリカを呪っている。さらにイランのテロリストがアメリカ人を殺害したばかりが、駐米サウジアラビア大使の暗殺さえ行なおうとしていた。アメリカとその同盟国であるイスラエルに対してそこまで長年にわたって激しい敵意を抱くイランが、拡張主義的な野心を捨て去ることは考えにくい(“The Iran Deal: Forget About Stability, Our Strategy Should Be Survival”; Forbes; April 15, 2015)。上院の「四十七士」に代表されるキャピトル・ヒルの反対派が、オバマ政権にイスラエルをケルキュラ扱いすることをやめるように強く要求するのも当然である。

イランはイエメンでフーシ、レバノンでヒズボラ、イラクでシーア派民兵といったテロリストを支援している。また、イランはアフガニスタンでも戦闘員を募集してシリアでアサド政権を支援している。こうした周辺地域での工作ばかりか、イランは全世界で大規模なサイバー攻撃を仕かけている。イランがそれほど挑発的な行動に出る理由は、地政学と国際的な孤立にある。イランは西アジアと中央アジアを連結する位置にあるが、自然の防壁には恵まれていない。歴史的には北方からテュルク系民族が侵入し、メソポタミアはセム系諸国、ローマ、アラブ、そしてオスマン帝国との係争地であった。また、イランはイラン・イラク戦争の時期に自国が欧米からも中東諸国からも完全に孤立していると痛感している。よってテヘランのシーア派体制は中東地域で自国の代理勢力を支援し、安全保障に関する歴史的な不安を克服しようとしている(“Why Iran Needs to Dominate the Middle East”; National Interest; April 10. 2015)。上記の問題に鑑みて、デービッド・ペトレイアス退役陸軍大将はイスラエルが示した、中東一帯でのシーア派民兵勢力が拡大すると地域全体がイランの影響力に対して脆弱になってしまうとする懸念を支持している。さらにオバマ政権がイラクから性急に撤退してしまったために、イランがそれを中東でのアメリカの力の弱さだと解釈してしまった。問題はイランが中東の支配、イスラエルの抹殺、そして核開発の継続を目論んでいることである(“Former general splits with Obama; says Iran, not ISIS, is the real enemy.”; National Review; March 20, 2015)。そうした事態に加えて、イランは核開発で北朝鮮との協力を依然として続けている(”State: We can't deny Iran nuclear cooperation with North Korea; it won't stop nuke deal”; Washington Examiner; May 28, 2015)。ネタニヤフ氏はイランがイエメンで自国の代理勢力を支援している時期だけに、現状は核交渉を進めるには好ましくないタイミングだと恐れている。弱い合意では彼らの拡張主義を勢いづけかねず、イスラエルは現核協定ではイランへの懲罰もなしに利益だけを供与していると見ている(“Netanyahu accuses Iran of trying to 'conquer the entire Middle East' amid looming nuclear deal”; FOX News; March 29, 2015)。

上記で述べたように、イランとの現在の核協定の影響は技術的な問題を超えて中東の安全保障構造の全体に影響を及ぼす。オバマ政権とイスラエルやサウジアラビアに代表される中東の同盟諸国とのパーセプション・ギャップはこれほどまでに大きい。さらに、ロシアと中国は核協定の実施後を見越して国防分野も含めたイランとの関係強化を模索している。この協定が公表されると、ロシアはイランとS300対空ミサイルの売却で合意してイスラエルの危機感を高めた(“Russia-Iran relationship is a marriage of opportunity”; Washington Post; April 18, 2015)。ロシアのイラン政策の中核は欧米の影響力を低下させることである。またロシアの原子力産業はイランの市場を注視し続け、今回の核協定は彼らにとって絶好の機会となる(“How Russia Views The Iran Nuclear Talks”; Breaking Energy; March 18, 2015)。しかしオバマ氏はネタニヤフ氏の厳しい対露批判にもかかわらず、ロシアからイランへのミサイル売却を擁護する発言をしてしまいイスラエルのメディアを驚愕させた (“Israel analysts shocked by Obama’s comments on sanctions, S-300 supply”; Times of Israel; April 17, 2015)。そうした中で中国は、今回の協定がイランからの石油輸入を確保するために必要だと見ている(“The Dragon and the Atom: How China Sees Iran and the Nuclear Negotiations”; National Interest; November 14, 2014)。

オバマ政権が主導するイラン核協定はそれほど危険なので、上院「四十七士」をはじめとするワシントンの反対派はイスラエルやサウジアラビアの懸念に共鳴している。同盟の盟主がパーセプション・ギャップのためにより弱小な同盟国をケルキュラ扱いする時には、弱小な同盟国は盟主国内の反対派と手を組んでその国の内政に入り込んで、盟主の国の政府の決定を覆すべきだろうか?上記のような核協定の欠陥とオバマ政権の中東戦略の危険性にもかかわらず、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、ネタニヤフ氏がワシントン政治に深入りし過ぎだと批判的に論評している。ケーガン氏は決してオバマ政権の外交政策を支持してはいないことを忘れてはならない。それでは、どうしてそこまで批判的なのか?ケーガン氏はネタニヤフ氏によるワシントン政治への深入りは内政干渉であり、イスラエルが戦略的に重要であろうがオバマ氏との関係が良くなかろうが例外でないと述べている。また、そうした行為によってアメリカが国家全体としてイラン政策に関するコンセンサスを形成することを妨げるとも言う。ケーガン氏が言うように、党派分裂はアメリカの外交政策形成者の間で深刻な問題となっている。さらにウィンストン・チャーチルが鉄のカーテン演説を行なったのは議会でなくミズーリ州フルトンだったのも、チャーチル自身が大統領の招待を受けたわけでもなく、公職からも退いていたからである(“Five reasons Netanyahu should not address Congress”; Washington Post; January 29, 2015)。ケーガン氏はさらに、ジョン・ベイナー下院議長がネタニヤフ氏を招待できるなら、民主党側も共和党政権に対して同様なことができると主張する(“At what price Netanyahu?”; Washington Post; February 27, 2015)。ネタニヤフ氏の事例は全世界の国家指導者達にとって、アメリカが世界の期待に応えない時にどのように振る舞うかを模索するうえで重要な課題を示してくれる。アジア諸国はオバマ政権の戦略的リバランスに歓迎一色だが、オバマ大統領がアジアの期待に沿うという保証はない。それどころか中国に対してもイランに対するのと同様な宥和姿勢だと、どうなるのか?

他方でデービッド・キャメロン首相の場合に問題になるのは同盟国としての軍事的能力である。キャメロン氏はオバマ氏と個人的に良好な関係にある。2013年12月にプレトリアで行なわれたネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の葬儀では、キャメロン氏はオバマ氏とデンマークのヘレ・トーニングシュミット首相と共に嬉々として自撮り写真を撮っていた(“David Cameron defends 'selfie' at Nelson Mandela memorial”; Daily Telegraph; 11 December 2013)。しかしそれでアメリカの政策形成者の間でキャメロン氏の評価が高まるわけではない。2010年の戦略防衛見直し以来、イギリスの国防能力は縮小され、それが多くのアメリカ人に危機感を抱かせた。アメリカ陸軍参謀長のレイモンド・オディアーノ大将は、イギリスは戦後のアメリカが世界各地で軍事作戦を展開するうえで最も信頼できるパートナーであったこともあり、国防力削減は英米同盟にとってマイナスであると発言した。特にウクライナ危機以後のロシアの脅威の高まりとISISによる自称カリフ国家の台頭によってNATO諸国は国防力の再強化の必要があり、イギリスはこうした取り組みの主導的立場にある。しかしイギリスの陸海空軍は大幅に削減されたので、軍事的能力は地球規模での活動の要求を満たすことが難しくなっている。現状では英海軍のマンパワーと飛行部隊の数はクイーン・エリザベス級空母の運用には少な過ぎる(“US fears that Britain's defense cuts will diminish Army on the world stage”; Daily Telegraph; 1 March 2015)。そうした事態にもかかわらず、イギリスの有権者は国防費が海外開発援助費を下回っても何とも思っていない(“EXCLUSIVE: UK set to spend MORE on foreign aid than on Armed Forces”; Daily Express; March 1, 2015)。

イギリスの国防の問題はNATOが掲げたGDP2%という目標達成に過剰に囚われていることだが、実際の軍事的能力は予算の金額で決まるわけではない。海軍史家のアレクサンダー・クラーク氏は、イギリスは自国の国防への要求水準とその目的には何が求められるかを明確にすべきだと主張する(“The Defence Debate – why the UK needs to change the subject”; USNI Blog; February 20, 2015)。実際にイギリスは自国の主権が及ぶ領土の防衛にさえ難題を突き付けられている。スコットランドではロシアの潜水艦がトライデント・ミサイル原潜の基地があるファスレーン近海にまでやって来ている。イギリスはロシアの潜水艦勢力に対抗するために、アメリカ、カナダ、フランスなど同盟諸国の支援を必要としている。いわば、イギリスはキャメロン政権が対潜水艦能力を削減したために、自国の独自核戦力を守れないのである(“A Suspected Russian Submarine Is Lurking Off Of The Scottish Coast”; Business Insider; January 9, 2015)。イギリスがドイツのUボートと戦った豊富な経験によって、冷戦期を通じてNATOの対ソ潜水艦抑止を主導してきたことを考慮すれば、これは驚くべき事態である。キャメロン政権の致命的な誤りはニムロッド対潜哨戒機を廃棄してしまったことである(“Nimrod cuts 'have allowed Russian submarines to spy on Trident”; Daily Telegraph; 29 May, 2015)。アルゼンチンでのナショナリズムの台頭も新たな脅威である。イギリス海軍はクイーン・エリザベス級空母の就役を前にインビンシブル級を退役させてしまったが、アルゼンチンはロシアからフォークランド諸島を攻撃できるスホイ24爆撃機を賃借している(“Britain's military defences in the Falkland Islands”; Daily Telegraph; 24 March 2015)。

イギリスのようにグローバルな海軍国が主力艦に空白期間を作るとはきわめて信じがたい。イギリスの軍事的能力の低下は外交政策のビジョン欠如と深くかかわっている。サセックス大学のマキシン・デービッド講師はそうした傾向を以下のように分析している。総選挙を前にした4月2日の党首討論では、外交政策はほとんど語られなかった。イラクとアフガニスタンでの戦争への厭戦気運と地域ナショナリズムの高揚によって、イギリスは孤立主義を深めている。さらに国際安全保障への国民的関心の低下によってイギリスの外交政策は通商志向になっている(“State of the Nation: Britain’s Role in the World Just Keeps Shrinking” The Conversation; 29 April 2015)。これが典型的に表れているのがAIIBへの加盟申請で、しかもそれはヨーロッパ諸国の先陣を切ってであった。問題は世界が直面する脅威が多様化する時にイギリスがグローバルな役割を果たすと期待しにくくなっていることである(“World crises may be multiplying, but campaign turns Britain further inward”; Washington Post; April 25, 2015)。イギリスの関与はヨーロッパから中東、アフリカ、アジアにいたる地域で低下している。キャメロン政権は香港の学生運動に対する中国の抑圧にさえ強く抗議しなかった。フランスも軍事的な役割はドイツにとって微妙な問題であることから、イギリスの孤立志向を懸念している(“Britain’s Drift From the Global Stage Becomes an Election Issue”; New York Times; April 27, 2015)。イギリスの国防能力の問題はきわめて根深い。ダウニング街は世界の安全保障と国際公益のためにイギリスが持てる力を全面的に発揮することを忌避している。オディアーノ陸軍大将の発言は全世界のイギリスの同盟国の懸念を代弁したもので、キャメロン首相がオバマ大統領の良き相棒であろうともそれは変わらない。

ここまで、中東とヨーロッパにおけるアメリカの主要同盟国について記したので、次はアジア太平洋地域の最重要同盟国である日本について記したい。日本はイスラエル、サウジアラビア、そしてイギリスから何か教訓を学べるだろうか?現在、安倍政権は国会で安全保障法案を通過させ、積極的平和主義を強く推し進めようとしている。安倍晋三首相のキャピトル・ヒルでの演説は概ね成功であった。日本の安全保障の認識と軍事的能力についてはどうだろうか?中東でイランが地域の派遣を目指しているように、極東では中国が地域の覇権を目指している。自国の軍隊の他に、イランがシーア派代理勢力を利用しているのを真似て中国は漁師を代理勢力に仕立てて影響圏を拡大しようとしている。よってオバマ政権のアメリカがイスラエルとサウジアラビアにとっている態度は、日本にとって死命を制する問題である。安全保障法案と憲法改正に関する限り、日本国民は「巻き込まれ」を過剰に懸念しているが、日本という国の生存には「見捨てられ」の方がはるかに重大な意味を持つ。たとえ日本が憲法その他の法的制約を超えてアメリカ主導の多国籍軍に積極的に全面協力しようとしても、国力を超えたことまでしてもらおうと誰が期待するのだろうか?日米あるいは多国間同盟への貢献強化に反対する者は、アメリカ側とのパーセプション・ギャップを埋めて「見捨てられ」を避けることをもっと真剣に考えるべきである。日本国民にとって最悪のシナリオはオバマ氏が日本をイスラエルやサウジアラビアのようにケルキュラ扱いすることである。それは私の背筋を凍らせるものである。日本はワシントン政界で自国に同調する者達とともに行動してこうした事態を避けることもできるが、それはスマートで人目につきにくいロビイングでなければならない。それには高度な政治手腕が要る。ネタニヤフ氏はアメリカの外交政策で党派分裂を刺激してしまった。

軍事的能力に関しては、国際社会の期待に応えることが重要である。キャメロン政権下のイギリスは国力に見合った国防力の維持をやっていない。だからこそオディアーノ陸軍大将がそのことに懸念を表明したのだと銘記しなければならない。日本には脅威が多様化する時代にあって、近隣地域を超えて活動する能力がある。安倍氏が安保法制をめぐる議論で言及したホルムズ海峡は日本の石油需要のために死活的な海路で、緊急時には多国籍軍に参加してここの海上交通を保証することは日本にとって当然の役割である。しかし安倍氏が日本の関与を1991年の湾岸戦争後に日本が既にやっていた掃海に限定したことは非常に残念であった。現在、湾岸地域の海上で最も深刻な脅威はイランの対艦ミサイルである。イランは当時よりもA2AD能力を質量ともに大幅に強化している。キャリアー・キラー・ミサイルはどのような艦船でも、たとえそれが機雷敷設水域から遠く離れていいようとも撃沈できる。艦隊防空がなければ、エネルギー供給のシーレーン防衛の任務を安全かつ成功裡に行なうことは不可能である。日本の海上自衛隊はイージス艦を配備し、こうした艦艇は日本のオピニオン・リーダーの間でしばしば言われるように多国間での北朝鮮の弾道ミサイル撃墜作戦に役立つ。しかしイージス艦開発の第一目的は艦隊防空であり、日本には他の参加国と共に多国籍軍の艦隊をイランのミサイル攻撃から守る能力がある。これはSEADあるいはDEADのように敵の基地を無力化したり、あるいは敵の領土に上陸したりといった攻撃的な役割ではなく、全面的に防衛的なものである。日本が中東でそのような作戦を行なう能力がないのは明らかであり、そうした役割を諸外国が期待することなどまず考えられない。しかし艦隊防空であれば日本にできることであり、これぞ過去に日本が成し得た成果から積極的平和主義に向かう真の一歩となる。

安保法案をめぐる永田町での議論では、海外派兵によって戦争で死傷者が出るリスクが過剰に意識に取り上げられている。しかしこの法案で決定的に重要な点は、日本が自国の防衛能力を全面的に活用して国際公益に尽くすことである。これは積極的平和主義の中核を成す概念である。ペルシア湾の安全保障は日本一国の狭い国益を超えたものであり、その価値は日本が国際社会に貢献することに付随すると考えられる「リスク」よりもはるかに大きなものである。遺憾なことに安倍政権も野党もこの絶対的に見逃せない論点を忘れ去っている。現在の日本で繰り広げられる防衛論議の質は、キャメロン政権下のイギリスでのものよりもはるかに悪い。しかし防衛能力を完全に発揮できれば、日本が諸外国と共通の安全保障認識を形成してゆくうえでも役立つだろう。

最後に首脳同士の個人的関係について述べたい。国家間の関係であっても首脳同士が個人的に親密な方が有利なことに疑いの余地はない。しかし私は日本の政界および言論界では安倍首相とオバマ大統領の関係を心配するあまり、首脳間の個人的関係を情緒的にとらえ過ぎていると睨んでいる。オバマ大統領と親密なキャメロン首相だが、アメリカの政界や識者の間での評価は必ずしも高くはない。逆にホワイトハウスとの関係が良好とは言えないネタニヤフ首相の主張を支持するためには、47人もの上院議員の署名を動員できるのである。もちろん、オバマ外交に批判的なロバート・ケーガン氏でさえ述べたように、外国の首脳がアメリカ国内の党派対立に深入りし過ぎることは好ましくないだろう。だがここで問題提起したいのは、日米関係の観測者の間で安倍氏とオバマ氏の個人的関係を情緒的に拡大解釈し過ぎていなかったかという点である。こうした傾向はアメリカ側の日本問題専門家にも見られるように思われる。首脳同士の関係を決して軽視するつもりはないが、日米双方のオピニオン・リーダー達はより重要な課題を注視した方が良いと思われる。

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2015年2月27日

それでも日本は積極的平和主義でISISとイランの脅威を抑制すべし

安倍晋三首相が中東訪問で2億ドルの人道支援によってこの地域でのテロに立ち向かうと表明した(「中庸が最善:活力に満ち安定した中東へ 新たなページめくる日本とエジプト」";;安倍首相の中東政策スピーチ;2015年1月18日)のを受けて、ISISがインターネットで日本人人質2人の殺害を全世界に流した(ISIS Says It Has Killed 2nd Japanese Hostage”; New York Times; January 31, 2015)ために野党と一部のオピニオン・リーダー達からの批判の嵐となった。JNNの世論調査によると国民の55%が安倍氏の中東訪問は不適切だったと答えている(「安倍首相の中東訪問、タイミング『不適切55%”』; TBSニュース;2015年2月9日)。

しかし安倍首相がエジプトで2億ドル援助の演説を行なった次にイスラエルを訪問したことを人質殺害と関連付けるのは、あまりに皮相的である。ニューヨーク在住の文筆家である安田佐和子氏はテロリストの真の目的は一般市民の間に恐怖を煽り、自分達の存在を誇示することだと語る。私は安田氏の見解に同意する。それはメディアがジョージ・W・ブッシュ氏への批判を繰り広げたために、サダム・フセイン打倒後のイラクに反米テロリストが終結したという先例があるからである。安倍氏への批判に対する批判はアラブ側からも挙がっている。パレスチナ自治政府のワリード・シアム駐日代表は駐日アラブ外交団団長として、ISISを非難して安倍氏を擁護している(「『安倍首相のせいで日本人がテロの標的に』ジャーナリストの指摘に疑問、反論が噴出」;J-CASTニュース;2015年2月2日)。

人質両名の殺害は日本国民を震撼させたが、日本は戦後の全方位外交から脱却して自国の国益を守る必要がある。オバマ大統領自身がアメリカはもはや世界の警察官ではないとのたまわるようでは、日本もオバマ政権のアメリカに信頼を寄せられなくなっている。そうであるとすれば、日本は民主主義諸国の中核として中東の安定化のために何かをやる必要がある。さもなければ中東の石油に大幅に依存する自らの経済さえ持続できなくなってしまう(“A tipping point for Japan’s foreign policy”; Financial Times; January 28, 2015ないしこちら)。 問題は日本一国の狭い国益を超えたものである。安倍政権の積極的平和主義を後押ししている日本国際フォーラムは第37回政策提言で、日本は戦後の「一国平和主義」を脱却して自由主義世界秩序の強化に積極的に関わるべきだと主張する 。

この提言の重要なポイントは日本の再軍備でも大国の地位追求でもなく、世界平和への脅威の抑制による真の「世界不戦体制」の構築である(「積極的平和主義と日本の針路」;日本国際フォーラム;2014年8月)。安倍政権が打ちだしたイラクとシリアの避難民に対する非軍事援助は、積極的平和主義の考え方を実行に移したものである。ISISの登場は現行のウエストファリア体制を骨抜きにする重大な挑戦で、狂気とテロに支配された世界規模のカリフ国家の設立など到底受け入れられないものである。そんな事態になれば平和と繁栄、そして国民の福祉という日本の存在基盤そのものが危機にさらされる。永田町での党利党略がどうあろうと、中東の脅威を抑え込むことは日本の国益である。

にもかかわらず、日本の世論には安倍首相の中東訪問のタイミングを非難する声もあり、彼らは思慮を欠いた外交日程によって後藤健二氏と湯川遥菜氏がISISに殺害されたと固く信じている。我々の同胞が残虐に殺されたことはきわめて悲劇的である。しかし私は安倍首相の中東訪問は日本の国際関与を訴えるうえで絶好のタイミングだったと主張したい。それは世界の公益に寄与するものだが、安倍氏を非難する者はこの点にほとんど考慮を払っていない。私は安倍晋三氏を礼賛しているわけではない。私が深刻な懸念を抱いているのはこれまでも当ブログで頻繁かつ再三にわたって述べたように、バラク・オバマ氏の中東政策が恐ろしく間違っていることである。日本を含めたアメリカの同盟国はオバマ氏の失策を取り戻すためにも、とれる行動は何でもとるべきである。

中東がISISによる蛮行と恐怖で震撼するような事態を許した最大の要因は、オバマ政権のイラク政策の失敗である。これは政権内での国防長官の頻繁な交代に顕著に表れている。ロバート・ゲーツ氏からレオン・パネッタ氏、チャック・ヘーゲル氏にいたるまでがイラクへの関与を低下させようというオバマ氏の政策に異を唱えた。政権発足前の移行チームの時期からオバマ・チーム入りしていたミシェル・フロノイ国防次官さえパネッタ氏とともに政権を去り、ヘーゲル氏退任後の国防長官への就任を受諾しなかった。オバマ大統領によるイラクからの性急な撤退で生じた力の真空は事態を非常に複雑にしている。ほとんどの専門家とオピニオン・リーダーがシリアとイラク西部のスンニ派過激主義者と旧バース党員の枢軸ばかりを論じるが、イランの支援を受けたイラク南部とレバント地域のシーア派ジハード主義者の脅威も侮れない。あまりにも多くのオピニオン・リーダー達が未知数xだけの方程式だとの前提で事態を語っている。この方程式でもう一つの未知数y、すなわちイランの影響については彼らの視野に入っていない。

そのように複雑な方程式をどのように解けばよいのだろうか?ISISと戦うというだけの理由でクルド人とシーア派の民兵を呉越同舟させることはきわめて危険で、実際に民族宗派間の紛争も伝えられているからである(“U.S.-backed Iraqi forces face risky urban warfare in battle against Islamic State”; Washington Post; February 8, 2015)。イラク南部の現地シーア派に加えて、イランはシリアでもシーア派代理勢力を支援してアサド政権を守っている。メリーランド大学研究員のフィリップ・スミス氏は、こうした代理勢力がシリアに流入しているからと言ってシーア派が自発的に連帯しているわけではなく、イランが地政学的にもイデオロギー的にも高度に組織化された支援を行なっていることを示すものだと している。すでにレバノンにはイランがパーレビ王政崩壊から支援を続けているヒズボラがいる。さらにイラクのリワ・アブ・ファドル・アル・アッバースというシーア派組織もシリアの内戦に参加している。ISISと同様にイランもフェイスブックを利用して志願兵を募っている。特にアフガニスタンのシーア派が広告の対象となっている。イランの革命防衛隊は反乱兵の募集のためにそのように広範なネットワークを築いている。イランが及ぼすことができる悪影響は一般に思われているより大きなものである(“The Shiite Jihad in Syria and Its Regional Effects”; Washington Institute for Near East Policy – Policy Focus 138; February 2015)。それら多くの懸念にもかかわらず、オバマ氏は欧米がイランに原子力利用と中東での「正当な地位」さえ認めてやれば、この国がイラクとシリアで建設的な役割を果たせると信じ込む有り様である。民主党のボブ・メネンデス上院議員やオバマ氏と長年の盟友であるトム・ケイン上院議員さえ、イランに対するそうした白昼夢には異を唱えている(“Obama’s fight with his own party over foreign policy”; Washington Post; February 1, 2015)。スミス氏は先の報告書で欧米はISISとシーア派双方がネット上で行なうプロパガンダと兵員募集を遮断するように提言しているが、それは序の口に過ぎない。

アメリカが二つの敵にどのように対処すべきか模索するために、ワシントン近東政策研究所は2月11日に公開討論会を開催した。同研究所のマイケル・ナイツ研究員とメリーランド大学のフィリップ・スミス氏が戦略的な概観を述べて政策の方向性を提言した。両者の議論はP・J・ダーマー退役陸軍大佐が総括した。はじめにナイツ氏がISISとの戦いには数年で勝つことが可能だが、シーア派民兵がクルド人およびイラク中央政府と衝突すればイラクの統一が損なわれると述べた。また、バグダッドは有志連合がイランへの過剰な依存に走れば、シーア派がイラクを乗っ取るのではないかと懸念している。よってアメリカと同盟諸国はこの戦いでイランより大きな戦果を挙げねばならないと説く。さもなければイラクはイランの衛星国となり、アメリカはこの地域で重要なパートナーを失うことになる。レバント地域でのイランの影響力も問題である。シーア派民兵はシリアのアサド政権についているので、彼らの存在はイスラエルにはゴラン高原で、イラクには北西部国境での脅威となる。よってスミス氏はイランがレバントからペルシア湾まで影響下に置くようになると警告している。ISISとイランへの対処が同時に必要になるという複雑な事態に鑑みて、ダーマー氏はアメリカにとって最重要課題はISIS打倒後のイラクを安定して継続的なパートナーにすることだと総括している。以下のビデオを参照されたい。



私が彼らの討論でやや当惑したのは、アメリカは核問題でテヘラン政府と厳しい交渉に臨んでいる最中に、ISIS打倒のためにイランに支援を求めるというオバマ政権のアプローチを認めたかのように議論が進んだからである。オバマ大統領の宥和政策によってイランがアメリカを弱体と見なして自信過剰になるのではないかとの懸念は深まるばかりである。昨年6月18日にアメリカン・エンタープライズ研究所でジャック・キーン退役陸軍大将がジョン・マケイン上院議員との公開討論で、イランはシーア派民兵を通じて自分達の足場が固められる限り、イラクの安定には関心もないと語ったことを忘れてはならない。

これまで挙げてきた観点から、私は安倍首相による2億ドルの援助計画は、有志連合がISISと戦う一方でイランの影響力拡大を極力抑えるには絶好のタイミングであったと考えている。日本のメディアはこのことに言及しない。安倍氏自身あるいは岸田文雄外相はこのことを国民の前でもっと大胆に述べるべきであったし、それによって日本国民と知識人の間でイスラム過激派に対する問題意識と理解が高まったであろう。日本はイスラエルとアラブ諸国の双方をイランの脅威から解放するとともに、こうした国にISIS掃討への関与を要請するというオバマ大統領の致命的な失態を取り返すためにも絶対に必要な行動をとったのである。これはまさに積極的平和主義を実行に移す対応である。なぜ永田町界隈とメディアの間ではこれほどまでに難癖がつけられるのだろうか?

そうした安全保障上の脅威からすれば、安倍首相の中東歴訪は最も望ましい時期をとらえたものである。後藤氏と湯川氏の斬首は恐るべきもので、両人には哀悼の意を述べたい。しかしこの事件をもって安倍氏を非難している者は過剰に感情的になり、ただ首相への反論に事件を利用しているだけのような印象を受ける。問題は安倍氏が好きか嫌いかではない。日本が中東の安定に寄与するための全体像を考えてゆく必要がある。アメリカもヨーロッパも長年にわたってこの地域でのテロ掃討に関わっている中で、ISISやシーア派ジハード主義者の温床となっている社会経済的不安定を抑制するために従来以上の影響力を行使できるのは、主要民主主義国では日本を置いて他にない。安倍氏はエジプト、ヨルダン、イスラエル、そしてパレスチナ自治政府を訪問したが、4者いずれも体制、国家承認、民族、宗教などの違いを乗り越えて日本の首相と会談するためにわざわざ外交日程を調整した。神でさえ何人も安倍氏を嫌うことを止めることはできないので、そうしたい者はそうすればよい。しかし遺憾なことに安倍氏の外訪を非難するもののほとんどは、中東へのビジョンもなく日本がアメリカ主導の有志連合から距離を置くべきだと主張するような古い消極的平和主義から物を言っているが、それは今世紀にはとてつもなく孤立主義で時代遅れな考え方である。

さらに、私は日本のオピニオン・リーダー達の間に広まっている反ユダヤ主義に怒りの意を表したい。彼らは日本人人質が殺害された際に、安倍氏があまりにも短慮にイスラエルを訪問したためにアラブの怒りに触れたと主張した。それは全くの間違いである。パレスチナ自治政府は安倍氏がイスラエルとともに自分達を訪問することを歓迎した。さらに重要なことに、イスラエルはイランの核兵器とシーア派代理勢力の脅威に対抗するうえで湾岸アラブ諸国にとって事実上の同盟国になっている。こうした観点から日本では一般市民から知識人にいたるまで多くの者がいとも簡単に反イスラエルの視点を持つようになったのか、両国が世界の安全保障で価値観と国益を共有していることをからすれば疑問を抱かざるを得ない。1月21日に行なわれたベンヤミン・ネタニヤフ首相と安倍晋三首相の共同記者会見では、反アラブあるいは反イスラム的な文言は一切なかった。ネタニヤフ氏はイランと北朝鮮への核拡散、そしてそこからテロリストへの核の漏洩が世界に与える恐怖を強調した。他方で安倍氏はテロ、二国間関係とともに、日本がイスラエルとパレスチナの和平交渉を双方の友人として支援してゆくと語った。以下のビデオを参照されたい。



反対派は安倍氏のイスラエル訪問を盲目的な対米追従だと見なしているが、彼自身はもっとリアリストの立場から日本自身の国益追求と中東でのプレゼンスを模索している。パレスチナとの関係を維持しながらイスラエルとの関係を深化させることによって、安倍氏はこの地域での日本の影響力強化をはかっている(“Shinzo Abe Raising Japan's Profile by Engaging the Middle East”; Economy Watch; 11 February, 2015)。多くの日本人が殺害事件に非常な衝撃を受けたので事件とイスラエルを短絡的に結び付けてしまい、中にはこの国が諸悪の根源であるかのように語った者さえいた。しかし我々は杉原千畝という人道主義者の国であって、アドルフ・ヒトラーという人種差別主義の殺戮者の国ではない。杉田和博官房副長官が委員長となる検証委員会が人質事件を検証する(「(社説)人質事件検証―歴史的視点が必要だ」;朝日新聞;2015年2月12日)際に、そうした根拠薄弱な反ユダヤ主義が払拭されることが望ましい。

また、イスラム過激派の性質も理解するべきである。日本が宥和したとしてもISISは人質を殺害したであろう。過激派は自分達の同胞であるイスラム教徒さえ殺害する。異教徒を殺すのに何の躊躇があるだろうか?日本は西欧対イスラムという文明の衝突に巻き込まれるべきではないという間違った理解が広まっている。それは全く誤っている。歴史を通してみると、キリスト教徒とユダヤ教徒だけがイスラム過激派と敵対関係にあったわけではない。彼らはインドで仏教を根絶したうえに、ゴータマ・シッダルタ生誕の聖地を破壊した。タリバンがバーミアンの大仏爆破を思いとどまるよう請願に訪れた日本代表団に対し、侮辱的な対応だったことを忘れてはならない。また日本がアメリカ主導の有志連合と距離を置くべきだという議論も、彼らがロシア人を殺害したことからして間違っている (“ISIS video claims to show boy executing two men accused of being Russian spies”; CNN News; January 15, 2015)。我々が銘記すべき最も重要な点は、過激派の偏向したイデオロギーと狂気性である。歴史的な証拠が示す通り、イスラム過激派はムスリム穏健派や他宗教の信者に非寛容的である。現在では彼らはスンニ派の中でも最も教条主義的で無辜の民への殺戮さえ正当化するようなサラーフィー主義に傾倒し、過激性と暴力性を強めている。

我々は中東の安全保障をめぐる複雑なやり取りとイスラム過激派の性質を理解せねばならない。最後に、グローバル社会は戦闘地域にいるジャーナリストと援助関係者を守るために国際的なプロトコールを作成すべきだと訴えたい。権力からの独立性を重要視している彼らは政府の指示に従うことに難色を示すかも知れない。しかし彼らの勇敢な職務への献身がテロリストに利用され、それが誘拐と殺害を誘発して世界を恐怖に陥れている。よって各主権国家はジャーナリストや援助関係者に対し、テロとの戦いでどのように危険に巻き込まれないようにするかというガイドラインを示さねばならない。危機の予防はテロリストに拘束された人質の解放よりも重要である。一度捕まった人質をテロリストから解放する手段は、事実上ほとんどないからである。

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