2024年9月 6日

日本の国連外交が自民党総裁選挙の犠牲になって良いのか?

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先日、次期自民党総裁選挙への不出馬を表明した岸田文雄首相は、在任の総仕上げに9月22日のクォッド首脳会議、日米首脳会談に続いて26日には国連総会で演説する運びとなっていた。双日総合研究所の吉崎達彦氏が述べたように防衛3文書の制定などで日米同盟の深化に寄与した岸田首相にとって、今回の訪米は政権の最後を飾るに相応しい一大行事である(『岸田&バイデン時代」の後に何がやってくるのか』;東洋経済;2024年8月17日)。その一方で27日に行なわれる自民党総裁選挙のために、国連総会欠席となったことは残念である(”Kishida to skip U.N. General Assembly speech during U.S. visit”; Japan Times; August 31, 2024

 

世界秩序の形成において、平和憲法の制約を受ける日本は国際社会での法強制執行手段となる武力行使には直接的にも間接的にも関与することができない。本欄8月21日付けの拙稿でも述べたように、それは日本が国際的な存在感を高めるうえでは大きなハンディキャップとなっている。今回のロシア・ウクライナ戦争で欧米諸国がウクライナに大々的な軍事援助を行なっていることは周知である。それどころか韓国までも、露朝同盟への警戒からウクライナへの兵器供与の検討を表明するほどである(”South Korea will consider supplying arms to Ukraine after Russia, North Korea sign strategic pact”; VOA News; June 27, 2024)。また最近のウクライナ軍のクルスク侵攻にはイギリスMI6の手引きがあったとも言われている(”As Ukraine brings war to Russia, Britain too must be bolder with sanctions”; City A.M.; 14 August, 2024)。しかるに日本は、こうした国際貢献が何一つできないのである。

 

軍事面で充分な存在感を発揮できないとなると、日本は非軍事的な側面での国際貢献に多大な労力を注ぐ必要がある。戦後の日本は東南アジア、アフリカ、そして現在では中央アジアを重点に、グローバル・サウスとの開発援助および国際協力を推し進めてきた。そして国連外交も重視してきた。にも拘らず、この度の国連総会は首相欠席である。重要な国際会議に岸田首相が出られないとなると代役に上川陽子外相が考えられるが、こちらも総裁選出馬で国連総会には出られない。G7の一員ながらグローバル・サウスと独自の関係を築こうという日本にとって、来る総会への欠席では自国の外交方針に関するメッセージを世界に向けて発する機会を失うことになる。これは大きな損失である。

 

そこまで考えると、この度の自民党総裁選挙を数日延期できないのだろうか?上記のような事態では、まるで党益が国益に優先するかのように見えてしまう。そもそも「永田町の町内会」の行事を決まったスケジュール通りに行なうことが、それほど大事なのだろうか?党利党略を無視して「歴史を俯瞰する」観点から見れば、来る国連総会欠席によって日本の戦後歴代内閣が掲げてきた国連重視外交のスローガンがまやかしに思えてくる。そうした疑念は次期政権にも向いてしまう。さらに言えば、数年前に盛り上がっていた日本の国連常任理事国入りの熱意も偽物だったのだろうか?私はこの一件を岸田政権だけの問題とは見ていない。日本の過去から未来に連なる、全ての政権の問題と見ている。

 

ところで立憲民主党は「護憲」を高く掲げる立場から国際社会での日本の非軍事的役割を重視し、平和主義の立場から自民党以上に国連外交を信奉してきたはずである。にも拘らず、岸田首相の国連総会欠席について彼らが強く異論を主張した様子は伺えない。立民党も自党の代表選挙で頭が一杯のようだ。しかし、これでは議会制民主主義における野党の役割を完全に放棄している。彼らも「永田町の町内会」に囚われているようだ。

 

ここで私は日本の全ての政党および派閥的なグループに、軍事的な役割を担えない日本は国際政治で大きなハンディキャップを背負っていることを再認識せよと訴えたい。それを埋め合わせるべく、非軍事的な面で大きな役割を担う必要が出てくる。この度の国連総会のために自民党総裁選挙を数日延期できないなら、それを何で埋め合わせるのだろうか?やはり「永田町の町内会」を超えた視点で、この国の舵取りを考えてゆかねばならない。

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2024年4月14日

ハガティ前駐日大使のインタビューへの疑問

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アメリカのウィリアム・ハガティ前駐日大使は2月29日に時事通信とのインタビューで、トランプ氏の再選という事態になれば日米同盟に不安定をもたすのではないかという日本国民の不安払拭に努めた。現在、ハガティ氏は共和党の上院議員である。ハガティ前大使は、ドナルド・トランプは日米同盟の戦略的重要性を理解していると強調し、トランプ氏のアメリカ・ファーストと孤立主義に関しては国際社会でも誤解されていると述べた。中でもNATO同盟諸国に対して脱退をチラつかせるトランプ氏の恫喝については、国防費でNATO基準を下回る国には支出を増額するように強制するために取られた彼ならではの駆け引きテクニックだと前大使は論評している。よってトランプ氏はロシアの脅威を深刻にとらえていると答えている。

 

件の記事は短い報道で、インタビューの詳細は公開されていない。そのためハガティ氏の発言への反応は性急ではあろうが、あのインタビューで日本国民が「もしトラ」を好意的に受け止められるとはとても思えない。トランプ氏によるNATO脱退の恫喝はSAISのエリオット・コーエン教授が件のアメリカ・ファーストに異議を唱える公開書簡で「ゆすりたかり」と記されたように、そうした発言への超党派での警戒が高まりから民主党のティム・ケイン上院議員と共和党のマルコ・ルビオ上院議員は議会の同意なきNATO脱退を大統領が行なえなくする法案を提出し、その法案は上院を通過した。そうした立法によって集団防衛への心理的な保証が保たれ、抑止力にも寄与することになる。

 

しかしトランプ氏はケイン・ルビオ法案があってもNATOに対するアメリカの関与を大幅に低下させるだろう。NATO事務次長とアメリカの駐NATO大使歴任したアレクサンダー・バーシュボウ氏は、トランプ氏がNATOに様々な会合で米外交官の参加を妨害し、ブリュッセル本部への拠出金も削減するだろうと警告する。すなわちトランプ氏は合法的にNATOを機能不全に陥らせかねない(“Trump will abandon NATO”; Atlantic; December 4, 2023)。トランプ氏は法の支配に敬意など払わないとしても、法の抜け穴を巧妙に利用する点ではブラジルの左翼ポピュリストで有名なルーラ・ダシルバ大統領さながらで、あちらは国際刑事裁判所で訴追されたウラジーミル・プーチン露大統領を自国で今年開催されるBRICS首脳会議に招待しようとしている。トランプ氏が保守派優位の最高裁判所に、自らの候補者資格を剥奪したコロラド州とメイン州の決定を却下したことを忘れてはならない。ポピュリストは右も左も、そうしたものだ。いずれにせよバーシュボウ氏が言及するような世界規模でのアメリカの同盟ネットワークの持続性に関する重要問題には、ハガティ氏は答えていない。NATOの組織構造では軍事指揮権はアメリカ人に委ねられる一方で、文民官僚機構はヨーロッパ人主導となっている。バーシュボウ氏はアメリカの外交官としてはNATOで最高の地位を歴任した立場から、深い懸念を示している。

 

防衛におけるバードン・シェアリングが古くて新しい問題であることに疑いの余地はない。冷戦以来、アメリカは同盟諸国に対して国防費の増額を求め続けてきた。相互の信頼構築のためにも同盟内でフリーライダーの存在は望ましくない。しかし、それはアメリカの国防の根本的な問題ではない。ジャック・キーン退役陸軍大将は2月16日のFOXニュースで、トランプ政権からバイデン政権にかけて軍事力が大幅に縮小された一方で敵国は攻撃能力を向上させたためにアメリカの国家安全保障は危機的な状況にあると評した。明らかにアメリカ自身の国防能力こそが問題なのである。トランプ氏によるアメリカの同盟国叩きは彼の岩盤支持層からは喝采されるだろうが、キーン氏のように党利党略を超えて真面目にアメリカの国防を語る者であれば、たとえMAGAリパブリカンお気に入りのチャンネルのコメンテーターであっても全く異なる観点を持つものだ。よって日本人なら誰でも自らの特異な思考に固執するトランプ氏に対し、アメリカと世界の安全保障について本当に理解できているのだろうかという疑義を強く抱くようになる。

 

 

 

さらにNATOの国防支出推奨基準も満たせないヨーロッパの同盟国が、力のバランスを我々に望ましい方向に変えられるような新しい技術に投資できるとは、まず考えられない。そうした国が軍事費を増額したところで、アメリカ製兵器をもう少し多く買えるくらいのものだ。それはアメリカの防衛産業には幾分かの利益をもたらすであろうし、トランプ氏もそうした取引から利益を得たいのかも知れない。 しかし「弱小国」叩きへのトランプ氏の固執は的外れである。嘆かわしくもトランプ氏にはキーン退役大将が述べたような国防の人員補充と装備調達のような重要課題について語る気はなく、怒れる労働者階級に海外の同盟国や国内のマイノリティーに対して自分達の税金を使うなと不満をぶちまけるようにけしかけている。彼の外交政策での孤立主義と国内政治でのヘイトのイデオロギーは深く絡み合っている。トランプ氏は小さな政府の理念を巧妙に悪用し、自分の岩盤支持層の狂信性を刺激した。時事通信はハガティ上院議員とのインタビューでは、こうした点も突くべきだった。

 

時事通信にインタビュー記事から、私にはトランプ氏の取り巻きは多国間主義によってグローバルの挑戦課題への対応と域内での中国の脅威の軽減を図ろうという、日本の安全保障政策への敬意を欠いているような印象を受ける。インタビューでのハガティ氏の発言は、トランプ氏によるNATO同盟国への強圧的言動など日米同盟には何の関係もないと言わんばかりに聞こえてしまう。しかし安倍晋三氏が打ち上げたFOIP構想はアジアとヨーロッパのステークホルダーも抱合し、その多国間外交のレガシーは菅政権にも岸田政権にも受け継がれている。上川陽子外相は1月30日の外交政策演説でこれをさらに推し進め、「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であり」と述べた。共和党の孤立主義者の中にはジョシュ・ホーリー上院議員のように非常にNIMBYで、怒れる労働者階級の鬱積した不満の捌け口に中国叩きには躍起ながら、ウクライナと環大西洋地域でのロシアの脅威をアメリカの国家安全保障との関係は希薄なものと片付ける者もいる。それは日本のグローバルな戦略的方向性とは軌を一にしない。日本にとって現行のリベラルでルールに基づく世界秩序の擁護は重要である。

 

ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏が昨年末の『ワシントン・ポスト』紙コラムで提言したように、元前政権主要閣僚達がトランプ氏の候補資格に反対の意を表明していることを我々は深刻に捉える必要がある(“The Trump dictatorship: How to stop it”’ Washington Post; December 7, 2023)。マイク・ペンス前副大統領がトランプ氏の2期目出馬への支持を公然と拒否したことに続き、先の政権での国家安全保障関係の閣僚達がアメリカのグローバルな同盟ネットワークと立憲政治に関するトランプ氏の貧弱な理解に深刻な懸念を表明するようになった。そうした閣僚にはマーク・エスパー前国防長官、ジェームズ・マティス元国防長官、ジョン・ケリー大統領首席補佐官、マーク・ミリー統合参謀本部議長そしてジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官らの名も挙がっている(“Full List of Former Donald Trump Officials Refusing to Endorse Him”; Newsweek; March 23, 2024)。非常に注目すべきことに、彼らの中には米軍の中核となっている軍事専門家がかなりいることである。

 

非常に興味深いことにトランプ氏の取り巻きは彼の失言を特異なで言い回しで正当化する。よくあることだが先の政権で大統領副補佐官とNSC議長を兼任したアレクサンダー・グレイ氏は日本のテレビ局とのインタビューで、トランプ氏のことは言ったことではなく行なったことで理解するようにと言いくるめてきた。またグレイ氏はアメリカと日本の同盟関係はトランプ政権期に深化したとも強調した(『もしトラ、日本への影響は?』; TBS news 23; 2024年3月14日)。しかしトランプ氏のアメリカ・ファーストを修正したのは「政権内の大人」とテクノクラートであり、今や彼らは反トランプの立場を表明している。日本の国民も政治家もそのことをよく認識している。実際にエスパー前国防長官はHBOテレビ局番組『ビル・マーとのリアルタイム』で、「トランプ政権2期目の最初の年は1期目の最後の年のように、混乱したものとなるだろう」と語っている(“Trump’s Former Defense Secretary Tells Bill Maher He Is ‘Definitely Not’ Voting for Ex Boss”; Daily Beast; March 31, 2024)

 

究極的に多国間同盟を蔑視するトランプ氏の見解は、数多くの同盟国や現地指導者達との多国間の戦略調整を通じてアメリカを戦争で勝たせたデービッド・ペトレイアス退役陸軍大将のものとは相容れない。トランプ氏がこれと逆の方向性を取るなら、アメリカは今世紀のいかなる戦争にも大国間競合にも敗者となってしまう。さらに彼の右翼ポピュリズムによってアメリカの民主主義の正当性が侵食されている現状で、中国やロシアのようなリビジョニスト勢力が勢いづいてしまう。MAGAリパブリカンの中にはマージョリー・テイラー・グリーン下院議員のように議会内でロシアのプロパガンダを拡散するなど、プーチンのスパイさながらの行為に及ぶ者もいる。

 

 

 

 

 

それは日米同盟にも深刻な被害を及ぼしている。日本政府が「もしトラ」に備える必要があることに疑いの余地はない。他方で日本にもアメリカ国内のネバー・トランプ論者に積極的に共鳴する者が存在すべきである。よって日本のメディアはトランプ氏の取り巻きにはもっと厳しい質問をすべきで、まるで茶道の客人をもてなすかのようなお行儀の良い質問など必要ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年2月14日

日本はウクライナとの首脳会談で、どのように存在感を示せるか?

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ここ最近はウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領による岸田文雄首相へのウクライナ訪問要請が取り沙汰される一方で、一時期は内閣支持率の低迷から盛んに報道された岸田降ろしはないようである。そうなると岸田氏は訪問の際に、どのように事態に対処すべきだろうか?

日本の首相のウクライナ訪問に関しては、疑問の声も挙がっている。それは以下の理由からである。まず国際的な公約によって日本自身が大変な負担を抱え込みかねないという懸念の声がある。また現政権には国会など日本国内での政治日程があり、ジョセフ・バイデン米大統領もウクライナを訪問していないことも指摘されている。さらに首脳同士の対面階段はなくとも日宇両国の実務協議は進展可能で、機密保持に関する法制度の整わぬ日本の首相が戦時のウクライナで首脳会談に臨めばメディアを通じて情報が漏洩しかねない。そうなると両首脳の身の安全確保が難しくなるということである(「「秘密を守る権利のない国」日本の首相がウクライナへ行けるわけがない」;ニッポン放送;2023年1月28日)。

そうした懸念はあるものの、対面会談の象徴性は無視できない。現時点でゼレンスキー大統領と直接会談がないのは、G7では日本の首相だけである。アメリカはバイデン大統領がウクライナを訪問していないとはいえ、アントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官はウクライナを訪問している。またバイデン大統領もワシントンではゼレンスキー大統領と会談している。それに対して日本からは林芳正外相がポーランドでドミトロ・クレバ外相と直接会談を行なったのみである(「日・ウクライナ外相会談」;日本外務省;2022年4月2日)。やはり、いつまでも二国間会談に応じないことで、現政権も湾岸戦争での海部政権のような消極的平和主義の方針と国際社会から見られないだろうか?この時の日本は渋々巨額のクウェート復興資金を支払いながら、多国籍軍に対して非協力的な印象を与えてしまった。

それでは日本がウクライナとの二国間会談で何をすべきだろうか?まず政策面では日本に軍事的な役割は期待されないだろう。実際にゼレンスキー大統領が昨年3月に日本の国会で行なったリモート演説では地道な復興支援への期待が語られた一方で、軍事的な要望は皆無である(「【全文】ウクライナ ゼレンスキー大統領 国会演説」;NHK;2022年3月24日)。そうした戦後の復興支援もさることながら、現在進行戦時下のウクライナ国民の生活と安全のための支援も必要である。その中でもロシア軍が戦時における国際人道法も眼中になく破壊し尽しているインフラの修復は急務で、ウクライナ軍のロジスティクス、食糧輸出経路の保全、電力など国民生活の維持には不可欠である。また日本が長年取り組んできたカンボジアでの地雷除去作業の実績から、彼の地でウクライナ人スタッフをJICA支援で訓練している(「ウクライナ向け人道的地雷・不発弾対策能力強化プロジェクトを開始:ウクライナ非常事態庁にクレーン付きトラックを供与」;JICA;2023年1月24日)。戦争被害者への医療及び精神的ケア、ロシアの戦争犯罪捜査などでも両国の協力が望まれる。だが直接の軍事支援が考えられないため、日本のウクライナ支援がより具体化するのは戦争終結後の協議の場だろう。

一連の政策面もさることながら、日宇両国の直接会談ではパブリック・ディプロマシーの側面も見逃せない。ゼレンスキー政権にとって最大の生命線は、国際世論でのウクライナ侵攻への関心である。日本が二国間首脳会談に臨むことで、ウクライナ危機が欧州大西洋圏の地政学的対立に留まらないことを国際社会に印象付けられる。言わば、日本は「遠方の善人」として振舞えばよいだろう。首脳会談の際には当然ながら共同記者会見や演説も考えられるが、遅れてやって来た国が存在感を発揮するには国際世論でウクライナへの「共感と感動」の創出に一役買うのが良いだろう。ゼレンスキー大統領が「見せる外交」に腐心していることは周知の通りである。日本の歴代政権は諸外国との首脳会談では粛々と実務をこなしてきた一方で、国際社会に「共感と感動」を呼ぶメッセージを発するという意識には乏しかった。

ウクライナへの国際的な「共感と感動」に関して言えばグローバル・サウスでは未だに自国と欧米との立場の違いが意識され、対露配慮が行き過ぎている。その中の主要国について述べたい。インドはこの度のウクライナ侵攻以前に次期国産ステルス戦闘機の共同開発で、ロシアの軍事技術が信頼に足らぬことがわかっていたはずである。だからこそ、この計画を中断した。ポスト・アパルトヘイト体制の南アフリカが、レイシストのプーチン政権との友好関係を維持しようとすることも矛盾している。ウクライナ侵攻後も欧米の極右にはロシアと気脈を通じる者も少なくない。またプーチン政権は旧ソ連がウクライナで起こしたホロドモールを否定しているが、これはまさにナチス同調者のホロコースト否定と同様なレイシスト思考である。ブラジルについては左派のルラ政権再登場でアメリカ離れを指摘する声もあるが、実は右派のボルソナロ前政権は親米というよりむしろ親トランプであった(”Russian Invasion of Ukraine Reveals Incoherence of Jair Bolsonaro’s Foreign Policy; Providence”; March 2, 2022)。すなわち、左右どちらであれ親露のブラジルではプーチン政権のプロパガンダに肩入れしかねない。もちろん、数十ヶ国以上のグローバル・サウスを十把一絡げにはできないが、日本の代表者が国際世論に「共感と感動」をもたらせれば現在進行中の戦争は我々にとってもっと有利になろう。

岸田首相は内政においても外交においても「信頼と共感」を重視すると言っている。だがコミュニケーションを専門とする東照二ユタ大学教授によると首相自身は政策を論理的に説明するリポート・トーク(report talk)には長けているものの、聞き手の情緒に共感を訴えるラポート・トーク(rapport talk)は不得手だという(「岸田首相の言葉はなぜ響かないのか」;時事通信;2022年10月7日)。それが顕著に表れた事例が、女性の産休時のリスキリングをめぐる発言で世論の反感を抱かれた一件だろう。ウクライナではロシア軍による非戦闘員への様々な暴力行為や学童の拉致による家族離散といった惨事が続いている。それに対して一日も早い平穏な生活と家族の絆の回復を訴えるためにラポート・トークを世界に発信し続けているのが、オレナ・ゼレンスカ大統領夫人である。

となると軍事支援よりも復興支援など役割の方が重視される日本の立場なので、岸田首相本人よりも裕子夫人がオレナ夫人と並んで首脳会談時の演説を行なった方が国際世論の「共感と感動」を呼ぶには相応しいとも考えられる。裕子夫人は東京女子大学卒でマツダの役員秘書という経歴である。基礎的な教養とコミュニケーション・スキルは充分にあると見て良いだろう。そして英語も堪能で、雰囲気にも華がある。もちろん裕子夫人自身は政治や外交の知識と経験が深いわけではなかろうが、オレナ夫人と並んで人道的意識高揚を訴えるメッセージを世界に発する役割を果たせると思われる。この場合、岸田首相は首脳会談の協議に徹し、セレンスキー大統領とともに日宇両首脳夫人の演説を後ろから見守るくらいが良いだろう。

もし岸田政権が退陣に追い込まれるようなら、誰が日本ならではの「共感と感動」のメッセージを世界に伝える役割は誰が担うだろうか?岸田降ろしの先頭に立っていると言われる菅義偉前首相についてだが、G7カービスベイでの首脳集合撮影では「私は英語が苦手だし、欧米人と並んで写るもの気が引ける」と言わんばかりの表情だった。このような態度は1960年代から70年代の日本の首相のようで、これでは国際的にアピール力のあるメッセージの発信はとても望めない。あの時の菅氏は、安倍政権の官房長官として記者会見でメディアからの質問を冷静沈着に捌いた人物とはまるで別人のようだった。菅前首相は河野太郎デジタル相を擁立するとも言われている(「田原総一朗「菅前首相は『岸田降ろし』に踏み切った」 担ぎたいのは河野デジタル相」;AERA;2023年2月2日)。河野氏はジョージタウン大学卒で外相や防衛相を歴任してきた。当然ながら英語堪能で演説も歯切れ良く、しかも華がある。しかし思い切りのよい発言の裏でツイッターなどでは意見が異なる者に不寛容な態度を示すようでは、ウクライナの戦争被害者や弱者に対する共感力については疑問を抱いてしまう。ともかく日本のメッセージ発信者の人選では、誰を選んでも一長一短がある。

二国会談には機密、安全、日程など困難な壁もあろうが、いつまでも日本だけが首脳会談を出来ない状況は好ましくない。会談場所はウクライナと日本以外に第三国も有り得る。会談日程もG7広島以前で調整できるなら、その方が望ましい。「見せる外交」もハイブリッド戦争の一環であり、我々の陣営の勝利目指して国際世論の形成を進めて行けば世界秩序の破壊というロシアの野望を挫くうえで有益である。それは世界覇権奪取の野望を顕わにする中国への牽制につながる。日本国内での両国首脳会談に関する議論はややもすると実務本位に走り、「見せる」意識が希薄に思えてならない。日宇首脳会談をどのように開催するか、両国はしっかり検討しておくべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年11月 8日

日本とアングロサクソンの揺るがぬ同盟と、独自の戦略

Jaukus

 

JAUKUS?日本、オーストラリア、イギリス、アメリカによる太平洋同盟

 

 

先の記事『イギリスはインドを西側に引き込めるか?』に於いて、イギリスがトルコ、インド、日本と進める次期戦闘機共同開発について論じた。地政学的には、上記3ヶ国は大英帝国の戦略的ハブであり、各々がユーラシアの西、真南、東に位置している。もちろん現在のイギリスは覇権国家ではないが、ヨーロッパとの関係を保ちながらインド太平洋地域への傾斜は、欧州大西洋地域の地域大国の視点というよりもかつての海洋覇権国家、そして現在の覇権国家であるアメリカの戦略的視野に近いものがある。

 

過去の帝国の経験に基づく地政戦略を模索することは、必ずしも誇大妄想とは言えない。ロシアがウクライナの再征服を目論んだネオ・ユーラシア主義の夢は、破滅的な結果をもたらしたことは否定できない。他方でトルコはネオ・オスマン主義のビジョンを打ち出して世界の中での存在感を高めているが、これには欧米とその他の間での綱渡り外交が要求される。そうした中で日本は様々な事情が入り混じる立場である。冷戦後の世界で政治的存在感を増すために自主独立外交を追求する日本ではあるが、他方で自らの立場はクォッド+AUKUSというアングロサクソン主導によるインド太平洋地域の安全保障ネットワークに深く立脚させ、戦時中の帝国の再現など夢想だにしない。そうして、この国は自国の立場を今世紀におけるリベラル国際秩序、すなわち中国その他のリビジョニスト勢力に対抗するパックス・アングロサクソニカ2.0の重要な支持国と見做している。日本をアメリカと中国に挟まれた小さな島国としか見ないようでは、あまりに視野が狭い。地球儀を俯瞰して見れば、日本とアングロサクソン覇権国家は戦前からユーラシア・リムランドを地政戦略的に優先していたことがわかる。

 

そうした中で、日本外交の自主独立の側面も理解する必要がある。本年7月に日本国際フォーラムより刊行された『ユーラシア・ダイナミズムと日本』は、まさにユーラシアとインド太平洋における日本の戦略の自画像とも言える。1990年代に橋本政権がユーラシア・ハートランド との関係を強化する新シルクロード構想を打ち出したが、それは地政学的な考慮よりも、古代からのアジアとの文化的そして歴史的な関係をロマンチックに追い求めたもののように見えた。また、イデオロギー的側面はその構想ではあまり重要ではなかった。日本のグランド・ストラテジーの進化を促したものは、911同時多発テロ事件である。麻生太郎首相(当時)はブッシュ政権の拡大中東構想に呼応して、テロと専制政治に対抗する「自由と繁栄の弧」を打ち出した。

 

麻生氏を継いだ安倍晋三氏は、そうしたグランド・ストラテジーをさらに推し進めた。安倍政権はFOIPやTPPに代表される地域の安全保障と自由貿易の構想で指導的な役割を果たし、アメリカ・ファーストの孤立主義に陥るトランプ政権下のアメリカの穴を埋めた。非常に重要なことに安倍氏は世界各国、特に西側首脳に中国の脅威に対する注意を呼びかけた。それ以前には、西側のメディアは日中間の抗争を、まるでインドとパキスタン、イランとイラクなどの第三世界の地域大国の間の抗争のように扱っていた。実を言うと当時は私も中国を過剰に意識する者とは距離をとっていたが、それはネット右翼やその他リビジョニスト達のジャパン・ファーストな態度に嫌悪感を抱いていたからであった。彼らの世界観は地球儀を俯瞰したものには程遠く、今日で言えば戦後パックス・アメリカーナに対するプーチン的な怨念やグローバル化に対するトランプ的な怨念にも相通じるように思われた。日本国際フォーラムのイベントに参加することがなければ、私には中国が突きつける挑戦が増大する事態への認識を現状に追いつかせる機会を逸していたかも知れない。

 

他方で安倍氏はロシアが経済協力の見返りに北方領土を返還してくれると信じ込むほどの希望的観測を抱き、プーチン体制の「力治政治」という性質を認識できていなかった。忘れてはならぬことは、2016年の日露首脳会談を前に安倍首相はウラジーミル・プーチン大統領に一服とってもらおうと自身の選挙区である山口県内の温泉保養地に招待したが、その時に残虐な独裁者を歓待しようと取った態度は温泉旅館の主人さながらだったということである("Abe and Putin meet at a hot spring resort in Japan"; Yahoo News; December 16, 2016

 

さらに議論を進めるために、戦略的ハブ3ヶ国について歴史的な意味合いから言及したい。トルコはロシアの南下を食い止める防波堤であったばかりか、NATOとCENTOの重要な加盟国としてヨーロッパと中東でソ連の脅威の歯止め役を担ってきた。インドは英領インド帝国の時代から、東アジアと中東、そして中央アジアとインド太平洋を結び付ける場所であった。そのような地政学的背景から、インドは今日ではテロとの戦いとクォッドにおいてアメリカにとって不可欠な戦略パートナーとなった。そうした中で日本は東アジアのランド・パワーによる海洋へのアクセスを阻めるオフ・ショアの前線基地に役割を果たしてきた。現在、トルコとインドは多極化する世界の地政学で独自の役割を希求しながら、各々はNATOとクォッド加盟国の立場も保とうとしている。そうした中で日本はG7の原則であるルールに基づく世界秩序を掲げ、それによってアングロサクソンのシー・パワーにとって頼むに足る存在となっている。

 

地政学に加えてハブ3ヶ国の防衛産業についても言及する必要がある。3ヶ国ともある程度の軍事技術はあるが、次期戦闘機全体を製造できるほどの高度な技術はない。トルコは比較的廉価で入手が容易な兵器を、主に途上国に向けて輸出している。中でもバイラクタルTB2はロシアに対するウクライナの反撃で面目躍如となり、全世界的に評価が高まった。しかし先進技術となると、この国には欧米主要国の支援が必要である。他方でインドはナレンドラ・モディ首相による『メイク・イン・インディア』の旗印の下で多種多様な国産兵器を製造し、テジャス戦闘機、アージュン戦車、アストラ視界外射程空対空ミサイルなどが配備されている("Top 10 Indian Indigenous Defence Weapons"; SSBCrackExams; October 24, 2020)。しかしそうした兵器は国際市場で競争力は弱いので、インドは依然としてロシアに兵器調達を依存している。そうした事態にあって、インドは欧米との技術協力で国防の自立性を模索している。

 

上記2ヶ国と違って日本は基本的に先進技術に強く、欧米の兵器体系に重要な部品を提供している。中でも日本製のシーカーはイギリスのミーティア空対空ミサイルに組み込まれ、新たにJNAAMを生産するとこになった("Japan confirms plan to jointly develop missile with Britain"; UK Defence Journal; March 4, 2022)。しかし日本の防衛産業はマーケティングのための政治的ネットワークを持たないため、オーストラリアへの潜水艦輸出でフランスと競走して契約を勝ち取るには不利な立場にあった。日本にとって幸いなことに、AUKUS成立の公表を機に、オーストラリアはフランスの潜水艦に代わって米英の原子力潜水艦を輸入することになった。

 

アングロサクソンのシー・パワーはグローバルな観点から戦略を練り、各地域のハブの優先度は全世界の安全保障環境によって変わってくる。よって日本がアメリカ国内での視野の狭い対中強硬派の尻馬に乗ることは、ロシアがウクライナ侵攻によって世界秩序に反旗を翻す現況では得策とは思えない。彼らはアジアでの中国の脅威に囚われるあまり、地球儀を俯瞰する視点が欠けている。彼らと連携してアメリカのウクライナ支援を阻止しようとしている勢力は、アメリカ・ファーストを掲げる右翼と反戦を掲げる左翼である("A Moment of Strategic Clarity"; The RAND Blog; October 3, 2022。また、こうした非介入主義勢力は減税運動とも気脈を通じている("Inside the growing Republican fissure on Ukraine aid"; Washington Post; October 31, 2022)。バイデン政権の国家安全保障戦略にも記された通り、中国がリベラル世界秩序への第一の競合相手に上がってきた。そしてロシアとその他リビジョニスト勢力が、日本の平和と繫栄の礎となるこの世界秩序への妨害と反逆に出ている。よって日本が間違った相手と手を組むことによって自国第一主義との誹りを受けぬようにすべきである。

 

現在の地政学文脈の下で、アングロサクソンのシー・パワーはユーラシアとインド太平洋どのようにバランスをとるのだろうか?それについて、イギリスと共同で戦闘機プロジェクトを進める3ヶ国との関係から述べたい。トルコにとってイギリスは長年に渡ってヨーロッパで最も友好的な国である。ブレグジット以前には、イギリスはトルコのEU加盟申請を支持し続けた。ポスト・ブレグジットの時代にあって、イギリスとトルコはこれまで以上に互いを必要としている。通商では共通関税のために複雑な手続きが要求されるEUとの合意よりも、むしろ自国の経済主権を維持するためにはイギリスとの合意の方が好ましいとトルコは考えるようになった。非常に重要なことに、エルドアン政権が2020年にリビア内戦で残虐なシリア傭兵の派遣、そして2018年に自国内でのテロ行為阻止を名目にしたシリアでのクルド人民兵への攻撃を行なったことによって、トルコはEUとの関係で緊張をかかえることになった。しかしイギリスはトルコを強く非難することはなかった("TURKEY AND THE UK: NEW BEST FRIENDS?; CER Insights; 24 July, 2020。インドもポスト・ブレグジット時代に有望な市場である。戦略的には、この国は旧CENTO加盟国ながら親中でタリバンとの関係も深いパキスタンに代わり、南アジアではイギリスにとって最も重要なパートナーとなっている("The Integrated Review In Context: A Strategy Fit for the 2020s?" Kings College London; July 2021)。本年4月の英印共同声明で述べられた通り、両国の戦略的パートナシップはクォッド+AUKUSを超えてアフリカにまで達しようとしている。

 

そうした中で日本はオーストラリアとともにイギリスのインド太平洋傾斜で重要なパートナーとなっている。両国ともG7の一員としてルールに基づく世界秩序を支持している。イギリスにとってポスト・ブレグジットの政治および経済的な不安定を乗り切るためにも日本が必要であり、日本にとっては中国と北朝鮮の脅威の増大に対処するためにイギリスが必要である。通商においては、日本はイギリスのCPTPP加盟申請を支持している。二国間での安全保障の協力を強化するため、日本はメイ政権期のイギリスと共同軍事演習を開催し、自国版NSC設立による戦略的意思決定能力の向上のためにイギリス型の部分的な踏襲さえ行なった("The UK-Japan Relationship: Five Things You Should Know"; Chatham House Explainer; 31 May, 2019

 

大西洋の向う側ではバイデン政権が本年10月にアメリカの安全保障戦略の概要を示し、そこには我々が 地政学とイデオロギーで特に中国とロシアを相手にした競合の時代にあると記されている。現政権公表の戦略によると「ロシアが自由で開かれた国際体制に喫緊の脅威を及ぼし、無謀にも国際秩序の根幹を成す法を軽視していることは、ウクライナに対する残虐な侵略戦争に見られる通りである」ということだ。一方で中国に関しては、「その国は唯一の競合国であり、国際秩序再編の意志とともに、これまで以上に経済、外交、軍事、テクノロジーの力を強化してその目的に邁進しようとしている」と記されている。他方で現政権の安全保障戦略では、国際協力によって気候変動、エネルギー安全保障、パンデミック、金融危機、食糧危機などのグローバルに共有された問題を解決することが提唱されている。そうした挑戦相手国との競合であれ協調であれ、ジョセフ・バイデン大統領は全世界でのアメリカの同盟ネットワーク再強化に乗り出そうとしているので、そうしたものには軽蔑的だった前任者のドナルド・トランプ氏よりはましだろう。それはクォッドによる同盟深化を目指す日本にとって好都合である。

 

アングロサクソンのシー・パワーによる戦略上の重点は時の状況によって変わるだろうが、日本は他の戦闘機計画ハブの国よりも有利な立場にある。トルコは慢性的にクルド人問題を抱えている。エルドアン政権によるシリアのクルド人攻撃によって「NATOの脳死」がもたらされた。また、この国はスウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請に際してクルド人亡命者の件で異論を挟んできた。それは友好国のイギリスを困惑させかねず、統合遠征部隊(JEF)で英軍指揮下に置かれたオランダ、スカンジナビア諸国、バルト海諸国に対する指導力発揮にも良からぬ影響が出かねない。インドはヒンドゥー・ナショナリストが権力を握り、国内での彼らとイスラム教徒およびキリスト教徒の衝突は無視できない懸念材料である。極めて問題となることに、両国ともクレムリンと強い関係でつながっている。トルコはロシアよりS-400地対空ミサイルを購入した。インドも国連総会では依然としてロシアへの非難や制裁の決議に棄権票を投じている。

 

それでも日本は、トルコとインドでは酷い状況にあるような国内での民族宗派間の緊張には苛まれていない。ロシアとの関係では、岸田文雄現首相はウクライナ危機もあって安倍政権下でのプーチン政権への融和政策を大転換している。岸田氏は陸上自衛隊出身の中谷元、元防衛相を自らの国際人権問題担当補佐官に登用し、日本が人権問題を国家安全保障上の喫緊の課題と見做しているという強いメッセージを送っている。そのことは岸田氏がウラジーミル・プーチン大統領によるロシア国内とウクライナで犯した残虐な犯罪を決して許さず、安倍氏のような過ちを決して犯さないと解釈することもできる。グローバルに共有される問題では、日本はG7その他多種多様な国際的ないし地域的なチャンネルを通じ、戦後のシビリアン・パワーとしての関与には積極的であった。グローバルな安全保障の状況と環境は常に変化する。しかし何があろうとも、日本は世界での評判と信頼を守るためにもジャパン・ファーストに陥るべきではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2021年12月13日

国防費をGDP比率で決定してよいのか?

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冷戦以来、国防費はアメリカと同盟国のバードン・シェアリングにおいて重要な問題であった。同盟国はGDP比率に基づいた国防費の増額を求められることが多かった。今秋の日本の総選挙を前に、自民党の総裁候補者達は防衛費を現行のGDP1%から2%への増額について討議した。

 

しかしRAND研究所のジェフリー・ホーナン氏は産経新聞とのインタビューで、首相候補達にGDP比や敵地攻撃能力よりも、日米同盟の強化にとってもっと重要で現実的な問題を中心に議論すべきだと提言した(「岸田政権、台湾有事で何をするのか 米ランド研究所上級政治研究員 ジェフリー・ホーナン氏」;産経新聞;2021年10月21日)October 21, 2021)。ホーナン氏によるとアメリカは東アジア、特に台湾海峡の危機で日本には何ができるのか示して欲しいということだ。そうした事態が起きれば、台湾を中国から守るのは在日米軍となる。よって日本はどのような貢献、例えば東シナ海への潜水艦派遣、南西諸島に配備された自衛隊の地対艦ミサイルの使用などといったことができるのか否かを明確にする必要がある。

 

別の機会にはホーナン氏は日本は政治的安定を維持する必要があり、それは短命政権だと内政課題を優先し、政策の形成と実施で官僚機構に依存せざるを得なくなるからだと主張している。さらに首相が頻繁に変わるようでは日本が両国の合意を着実に遵守する保証が弱まり、それがひいてはアメリカの外交に厳しい制約となってくるということである (“What Instability at the Top Means for Japan's Alliance with the United States”; Nikkei Asia; September 22, 2021)。

 

ともかく同盟とは相互的なもので、一方的なものではない。現在は「自由で開かれたインド太平洋」構想へのヨーロッパ諸国の参加、そしてインドとオーストラリアも加えたクォッドの発展にも見られるように日米同盟は多国間化している。こうした観点からすれば、日本にとっては内政上のやり取りから出て来た自国満足的な手段を追求するよりも、全世界のパートナーとの役割分担を話し合う方がますます重要になっている。我々はドナルド・トランプ氏の唐突な言動で、どれほど困惑させられたかを忘れてはならない。彼のような行動をとる理由などない。

 

国防費に関する議論は、実際の強さと関係がなければ意味がない。しかし政治における意思決定の全てが合理的なわけではない。時には1971年のスミソニアン協定で日米双方が為替相場を1ドル360円から308円に切り上げた事例に見られるように、それは確固たる根拠よりも象徴的なものに終始することもある。国防費に関して言えば、それがGDPに占める比率は容易に理解しやすい指標ではあるが、その定義は国ごとに違ってくる。よって自裁の能力を査定せずに一律の目標を押し付けても必ずしも効果的ではない。

 

目を大西洋地域に向けると、国防費とバードン・シェアリングはアメリカとNATO同盟諸国との間でも重要な問題になっていたことがわかる。アメリカの歴代政権はソ連との冷戦以来、同盟の能力と連帯の強化のためにもヨーロッパに国防費の増額を求めてきた。他方でトランプ氏は支出額に拘泥するあまり、ヨーロッパ諸国に対しては国防費の要求水準を満たさず、自らのアメリカ・ファーストの外交政策を批判し続けるなら駐留米軍を撤退させると言って圧直をかけた。実際にトランプ氏は任期終了間際に在独米軍の削減を手がけたが、それはジョー・バイデン現大統領によって覆された。

 

国防支出をめぐるトランプ氏の報復的な強請りたかりによって、アメリカとヨーロッパの長年にわたる相互信頼は損なわれただけである。それよりも地域の安全保障枠組での役割分担を模索し、この目的に必要な兵器装備について話し合うべきだった。皮肉にも彼の共和党は国内において賢明で効果的な歳出を掲げる政党だということになっているが、実際のところ同盟国とは増額されるはずの国防予算がどのように使われるかを話し合うことはなかった。むしろトランプ氏の「経営感覚」に基づく外交政策は、大西洋同盟内でのえげつない感情的な衝突に陥ってしまった。時代を違え国を違えても、指導者達は同じ間違いを繰り返している。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2021年8月 4日

国際舞台での日本の首相

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本年6月にはG7カービスベイから米露首脳会談まで、大きな外交行事が目白押しであった。しかしG7で各国首脳と非公式のやり取りの場での菅義偉首相の振る舞いは拙く自信がないように見えたので、日本の国民やメディアからは不安の声も挙がった。菅氏は外交での知識と経験が充分とは言えず、英語も流暢とは言えないので、それが国際舞台での日本の政治的存在感の高揚には支障をきたすとの懸念が抱かれている。しかし実際には英語力でも外交経験でもなく、G7で討議されたグローバルな課題一つ一つでの問題意識の共有の方が重要ではないかと私は考えている。

 

日本のメディアはG7史上で初めて、コミュニケで台湾海峡への言及があったと歓喜している。これは日本が長年にわたって西側同盟諸国に中国への警戒を怠らぬよう説得してきたことが、成果となって表れたと言える。しかしこの問題は共同宣言の第60項に数行ほど記されたのに対し、環境、デジタル・エコノミー、第三世界の開発とエンパワーメント、人権、中国の一帯一路に対抗するインフラ建設といった他のグローバル問題には、もっと多くの語数が費やされている。G7で同席する大西洋諸国の指導者達と比較して、日本の政治家はそれら議題の必ずしも全てに通常業務から馴染んでいるわけではない。例えば第三世界でもシリア、イラク、アフガニスタン、そしてエチオピア対ティグレ紛争などの中東やアフリカに関する問題となると、永田町の政治家達には相対的に馴染みが薄くなってしまう。

 

G7のすぐ後にジョー・バイデン米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談を控えていたこともあって、ロシアも重要な議題であった。しかしクリミアを除いて、菅氏が人権や選挙介入といった問題で各国首脳と問題意識を共有できたのかどうかは疑わしい。それはただ、プーチン氏が日本の選挙には介入しなかったという理由だけではない。戦後の日本は諸外国との経済関係を優先し、吉田ドクトリンの下で第三世界の独裁者を受容してきた。ロシアもまた例外ではない。人権に関してさらに顕著な問題を挙げれば、菅氏はウイグル抑圧への強硬な非難によって、日中関係が決定的な影響を及ぼす事態を懸念していた。

 

そうした紆余曲折はあるが、誰が日本の首相であれ正式な会談でのグローバルな諸課題の議論では、官僚の助力でさほどの困難もなく乗り切れるだろう。しかし首相自身が諸外国の首脳と問題意識を共有していなければ、どれほど英語ないし他の外国語に堪能であっても非公式の意見のやり取りは難しいだろう。本当に重要になるのは思考様式である。ジャパン・ファーストで視野の狭い政治家が国際会議に参加しても稚拙な振る舞いとなるばかりで、国際社会の信頼は得られないだろう。

 

内政において菅氏は派手でもなくカリスマ性にも欠けるかも知れないが、永田町の政治に精通した冷静沈着な仕事人ではある。これが典型的に見られたのは、安倍政権の官房長官の時であった。首相としての管氏は「自助、共助、公助」という政治理念らしきものを掲げ、どうやら「小さな政府」を信奉していると思われる。ともかく「大きな政府」であれ「小さな政府」であれ、イデオロギー論争よりも派閥力学が幅を利かす日本の政治において、こうした姿勢はきわめて異例と言っても良い。しかし菅氏の東京オリンピック運営はあまりに稚拙でグローバルな価値基準を満たすにいたらず、事務当局内では女性蔑視や反ユダヤ主義の失言でスキャンダルにみまわれるほどである。

 

日本には他にも国際社会と問題意識を共有できなかった指導者がいる。森喜朗元首相は最悪の例と言っても良い。東京オリンピック競技大会組織委員会の会長職にあった森氏は不用意にも「(委員会に)女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困る」という失言を発し、辞任に追い込まれてしまった(“Facing Backlash For Sexist Remarks, Tokyo Olympics Chief Apologizes But Won't Resign”; NPR News; February 4, 2021)。問題は女性蔑視だけではない。世界からの厳しい非難に直面した森氏は妻と娘達からその失言で叱られたと言って、自らの家庭では父権的男性優位的でもないとの言い訳に走った(「《五輪開催で恥をかく日本》「妻に怒られまして…」森喜朗会長の“恐妻家しぐさ”にみえる身内至上主義の“マフィア感”」;週刊文春; 20212月11日)。明らかに森氏は問題点を理解していなかった。国際社会は公人としての森氏のジェンダー問題への見解を問い質したのだが、意図的か非意図的かはともかく公私混同してしまった。

 

欧米の指導者にも国際的な価値基準を満たせなかった者もいる。典型的な事例として、2008年のアメリカ大統領選挙で共和党候補の相方となったサラ・ペイリン氏によるロシアについて発言に世界の聴衆が失望し、ジョン・マケイン上院議員の当選への見通しが遠のいた件が挙げられる。共和党はロシアとカナダに隣接するアラスカ州知事というペイリン氏には、余人にはない外交経験があると主張した。しかし、それは国民には懐疑的に受け止められた(“Palin not well traveled outside US”; Boston Globe; September 3, 2008)。『CBSイブニング・ニュース』のケイティー・クーリック氏はこの点を問い質した(“New Sarah Palin Clip: Keeping An Eye On Putin”; CBS News; September 25, 2008)。ペイリン氏はアラスカがロシアによる対米攻撃で最初の標的になると強調した。それは全世界にあるアメリカの同盟国やその他の国々が求めていたものではなかった。当時、アメリカとロシアは東欧へのミサイル防衛システム配備、ウクライナの選挙、ジョージアの紛争をめぐり、互いに対立していた。明らかに、ペイリン氏はアメリカと同盟諸国の外交政策形成者達との問題意識の共有ができていなかった。

 

上記の事例に鑑みて、日本の政治家とオピニオン・リーダー達は、英語コンプレックスから脱却すべきである。今や21世紀で、我々は1970年代や80年代の思考様式から進化しなくてはならない。ともかく、そのことに深刻になり過ぎなくてもよいだろう。通常業務では欧米の指導者も内政で手一杯なことは、ペイリン氏の事例にも見られる通りである。しかしG7の議題でかなりの部分が割かれたものは、開発、エンパワーメント、公衆衛生など、国家同士の関係よりも個々の市民の生活の質と強く関連する課題も多い。よって、菅氏あるいは他の誰かが日本の首相であっても、普段から接している国内(domestic)問題とグローバルな問題を関連付けられれば、もう少し自身のある振る舞いもできるのではなかろうか。最後に、森氏は自らの家庭内(domestic)の問題に上手く対処する能力を国際公益のためには活用できず、残念としか言いようがない。

 

2021年7月12日

アジア人差別と日本人の国際問題意識

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一昨年12月に中国の武漢で発生したコロナ禍を機に欧米でのアジア人差別が激化した事態を受け、アメリカではバイデン政権が去る5月20日にコロナ反憎悪法案に署名した(”Here's What The New Hate Crimes Law Aims To Do As Attacks On Asian Americans Rise”; NPR; May 20, 2021)。だが我々はそれがパンデミックに対する不安よりも根深いものであることを忘れてはならない。その背景にはブレグジットやトランプ現象に見られるような、反グローバル化や国内の政治的分断がある。何と言っても、黒人、イスラム教徒、ユダヤ人、メキシコ人、その他難民などへの差別や暴力が激化している状況下で、日本人や他の東アジア諸国民には被害が及ばないということは考え難い。

 

これまでに当ブログにてロシアによる欧米極右への支援について再三にわたり述べてきた私の視点からすれば、やっと日本の言論界や一般国民がコロナ禍を契機に白人キリスト教ナショナリズムの脅威に目覚めたことは遅きに失したと思われる。欧州大西洋圏での極右ポピュリズムは東欧からイタリアを席巻し、やがては西側同盟の本丸である英米に及んだ。非常に奇妙なことに、こうした極右政治家の頭目とも言うべきプーチン、トランプ、ファラージ諸氏は実際にはレイシストではないと擁護する声もある。確かに彼らにも非白人、非キリスト教徒の友人もいるかも知れない。しかしある人物が内心ではどこまでレイシストなのかという内面の問題は、心理学者でもないとわかりにくい。むしろ政治観測および分析の観点からは、彼らに代表される極右政治家達が大衆の間に残るレイシズム感情を自分達の政治目的のために利用していることの悪質性に着目すべきである。

 

極右政治家が社会的分断と不安を煽って自分達の政治的目的を最大限に達成しようとしているとこは、周知の通りである。レイシズムは大衆扇動に「好都合な道具」に過ぎない。その典型例がロシアのウラジーミル・プーチン大統領で、ロシア正教会との伝統的な関係による国家統治とイスラム過激派に対する強硬姿勢は、欧米の白人キリスト教ナショナリストと文化的な親和性が非常に高い。そしてトランプ氏が落選してもなお、本年4月にセルゲイ・ラブロフ外相はアメリカでの白人に対する逆差別に懸念を表明して揺さぶりをかけている(”Russia Warns of Anti-White 'Aggression' in U.S.”; Moscow Times; April 1, 2021)。だが欧米における極右ポピュリズムは国内政治から台頭してきたもので、プーチン氏が作り上げたものではない。何と言ってもプーチン氏が欧米のホワイト・トラッシュに共感を抱くとは考え難い。クレムリンの欧米極右支援は、地政学とイデオロギーの双方で西側民主主義の内部分裂と弱体化を謀る非対称戦争である。

 

実際にプーチン氏は人種にもイデオロギーにも拘泥はしない。欧米では極右を支援しながら対米地政学の観点からラテン・アメリカではキューバやベネズエラ、中東ではバース党政権下のシリアといった社会主義国を支援している。また、イギリスのEU離脱投票では極右支援の投票介入を行ないながら、スコットランドの独立をめぐっては左翼を支援している。ここで銘記すべきことは、旧ソ連自体が世界の共産主義の指導的役割を自任しながらリベラル民主主義の弱体化のために欧米の極右も支援していたということである。プーチン氏はそうした政治工作で重要な役割を担った旧KGB出身である。

 

これに対しドナルド・トランプ前米大統領は国内政治に於いて世論の分断を煽って自分の岩盤支持層を高揚させるために、レイシズムを利用した。2016年の大統領選挙ではメキシコ人をはじめ、移民への差別感情を顕わにした。大統領就任後もシャーロッツビル暴動で白人至上主義者による暴力行為を非難しなかった。それどころか2020年大統領選挙の討論会ではレイシスト団体プラウド・ボーイズへの暴動扇動と受け取られかねない発言をし、司会を務めた保守系FOXニュースのクリス・ウォラス氏をも驚愕させた。さらに大統領退任を前にした1・6暴動への教唆はあまりに悪質だったので、ツイッター社はトランプ氏のアカウントを停止したほどである。ナイジェル・ファラージ氏がブレグジット運動を主導したUKIP(英国独立党)は後にレイシスト化、特に反イスラム化を強め、やがてはファラージ氏自身が離党するほどになった。国民の分断を煽る反グローバル主義の右翼政党の支持層とは、このようなものだ。

 

上記のような欧米極右の動向からすれば、コロナ禍がなくてもアジア人差別の爆発は必然的であった。非常に奇妙なことに、いわゆる「和製トランプ支持者」達はアジア人への攻撃は白人よりもむしろ黒人からなされていると言い張る。だがこれは社会的分断による人種間の憎悪感情激化が原因なので、彼らの主張には全く意味がない。日本人全体の傾向として、欧州大西洋圏についてブレグジットの経済的影響などビジネスに関する事柄には敏感だが、本題のように文化や宗教に安全保障問題まで複雑に絡み合った問題にはそこまでの関心を向けていない。いずれにせよアジア人差別の問題では、目先の事象に対する不安感から被害者意識で物事を考えてはならない。それでは白人労働者階級を中心とした、極右に魅せられた人達と同等の思考様式に陥ってしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2020年11月 4日

米大統領選挙と日本の外交方針

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毎回のように、アメリカの大統領選挙の際には日本の有識者から一般の人々の間では「日本にとって有利なのはどちらの候補か?」という議論が繰り広げられる。そして全世界に広がる同盟国の中で、ヨーロッパ諸国などの「他国を押し退けてでも」アメリカの注意を日本に引き付けたいという意見も散見する。しかし日本という国が、そうした国際政治上のゼロ・サム的な駆け引きが得意とは思えない。戦前に於いては日英同盟でパックス・ブリタニカの一翼を担っていた時期には日本の国際的な立場は安定していたが、同盟関係の解消で「自主独立」のゼロ・サム外交による国益追求には失敗している。戦後はパックス・アメリカーナによる安全保障の傘の下、吉田ドクトリンを掲げて相手国の政治体制を問わずに経済関係の発展と相互友好に務めた。こうした歴史的背景からすれば、日本には国家同士の抗争を勝ち抜くよりも普遍的な原理原則の下で自国の繁栄と安寧を求める方が合っているように思われる。

 

日本人の間では特に右派を中心に、たとえアメリカと他の同盟国との関係が悪化しようとも中国に「強硬」なトランプ政権の継続が望ましいとの意見が根強い。だが彼らの「願望」とは裏腹に、実は中国にとって現政権の方が好都合であるとの指摘も日本の識者から挙がっている。いずれもトランプ外交の根本的な問題と関わっている。筑波大学の遠藤誉名誉教授は、トランプ政権登場によってアメリカの民主主義の信頼性が損なわれたことは、内政および外交に於ける習近平政権の立場を大いに有利にしたと述べている。言うならば、マイク・ポンペオ国務長官がニクソン図書館演説で誇らしげに打ち上げた米中イデオロギー戦争で、アメリカの優位は損なわれたということだ。遠藤教授はさらに、アメリカが国際的な合意から次々に離脱してくれるお陰で、中国が世界の中での影響力を増大させる好機をもたらしたとも主張する(『中国はトランプ再選を願っている』;ニューズウィーク・ジャパン;2020年10月24日)。

 

いずれの論点も国際政治の基本的な理解があれば、誰でも納得できる。それを裏付けするかのように、ブルームバーグ・ニュースのマーク・チャンピオン氏はドナルド・トランプ大統領が落選して困るのは習近平主席の他に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、北朝鮮のキム・ジョンウン最高指導者、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、トルコのレジェップ・エルドアン大統領らの独裁者であるとの分析を述べている(”Defeat for Trump Would Mean Some Other World Leaders Also Lose Out”; Bloomberg News; October 20, 2020)。

 

それに対して民主党のバイデン政権では中国に対して弱腰になるのではないかという懸念は、アメリカ国内よりも日本の保守派の間で挙がっているように思われる。しかし斎藤彰元読売新聞アメリカ総局長は、ジョセフ・バイデン元副大統領の方が人権、気候変動の問題をめぐってより強硬になるばかりか、同盟国の動員による対中包囲網も巧みになるだろうと、中国は警戒していると述べている。さらに、バイデン政権の国防長官にはミシェル・フローノイ元国防次官やタミー・ダックワース上院議員といった対中タカ派の名が挙がっている(『中国が警戒する「バイデン政権」の外交・安全保障政策』;Wedge2020年10月26日)。少なくともバイデン政権の登場によってアメリカの対中政策が軟化するという見通しは正しくない。我々は、オバマ政権でさえG2路線から対中外交政策を修正していった事を忘れてはならない。

 

そもそも日本の右翼はドナルド・トランプ現大統領を異様に熱心に支持しているが、彼らは「反中」というだけでアメリカの保守派とは価値観の共有などほとんどない。しかも彼らは国家主義者で歴史修正主義者である。これに対してレッド・ステートの有権者達は政府の介入を忌避し、第二次世界大戦に於ける「アメリカの正義」を一点の曇りもなく信じ込んでいる。両者に共通するものは中国への嫌悪感だけと言っても過言ではない。これほど価値観に隔たりのある両者の連帯は考えられない。さらに言えば、国粋主義者の彼らは本質的に反米である。

 

日本が親トランプでゼロ・サム志向の外交を展開して失敗した顕著な例はロシアである。トランプ政権はクレムリンによる反対派の政治家やジャーナリストへの抑圧には強く抗議しないばかりか、クリミア併合も黙認してしまった。こうした米露宥和こそ北方領土返還交渉の好機だとの声が日本の政界で挙がっていた。しかしトランプ氏がどれほど「親露」であろうとも、国家間の関係は首脳間の個人的関係では動かない。日本国際フォーラムの袴田茂樹評議員が本欄の9月16、17日および10月20、21日付けの寄稿で記されているように、アメリカの同盟国である日本への領土返還ではロシアの安全保障を脅かすだけになるとのことで、プーチン政権は安倍政権の要求を拒否した。これは日本がヨーロッパ方面でのロシアと欧米の対立など自国には無関係だとばかりに、ゼロ・サム志向で良いとこ取りをはかっての失敗である。まさに戦前に「欧州情勢は複雑怪奇」との声明を出した平沼騏一郎首相さながらである。

 

これまで述べたようにゼロ・サム外交を不得手とする日本にとって、トランプ政権の継続となってしまうと防衛負担の交渉で不利な立場に立たされかねない。何と言っても、ドイツからの米軍撤退を国防総省、EUCOM、NATO諸国にも相談せずに一方的にやってしまうのがトランプ政権である。そして今回の米大統領選挙に限ったことではないが、日本人の間で日米関係や諸外国との関係を議論する際には相手国での「日本と関係の深い政治家」に過大な期待が持たれがちに思える。そのような期待が裏切られた典型例はアメリカ現政権のウィルバー・ロス商務長官だが、彼はトランプ大統領のイエスマンに過ぎない。そのような人物からゼロ・サム的に日本の国益を掠め取ろうというさもしい考え方はよろしくない。それよりも相手の国や政治家の理念や体制の性質を吟味し、それを普遍的な国際公益に照合して日本の行動方針を決めた方が良いだろう。先に述べた対露外交では、欧米諸国はプーチン政権の性質を念頭に政策を作成しているが、安倍政権は相手政権の性質をほとんど顧みずに失敗した。忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2019年9月28日

米欧亀裂は日米同盟を弱体化する

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日米同盟は太平洋地域での安全保障上のパートナーシップだとの想定が一般的だが、本稿ではこの戦略的な要石を大西洋側から眺めてみたい。そのために、マイク・ポンペオ国務長官が昨年12月のNATO外相会議出席の際に、ドイツ・マーシャル基金のブリュッセル事務所で行なった演説に言及したい。トランプ的世界観そのもの彼の演説はヨーロッパ諸国に不快感を抱かせた。ポンペオ氏がきっぱりと否定した多国間主義と地域協力による世界平和こそ、ヨーロッパを第二次世界大戦前の敵対的な大国間の競合から解放した。あにEUは多国籍の官僚機構が支配する政治形態で、主権国家と市民は犠牲にされているとまで述べた(“Secretary of State Michael R. Pompeo at the German Marshall Fund, Brussels, Belgium”; US Missions to International Organizations in Vienna; December 4, 2018)。ポンペオ氏の発言によって米欧間の亀裂はきわめて大きく広がりつつあり、今やリベラル世界秩序の基盤は以前にもまして脅かされている。

 

ブリュッセル演説はアメリカの外交政策専門家の間でも否定的に評価されている。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は、ポンペオ氏の演説ではイスラエルの学者で極右のヨラム・ハゾニー氏が主張するように民主主義が自由主義でなくナショナリズムに基づくと述べられたと指摘する(“The strongmen strike back”; Brookings Institution; March 2019)。外交問題評議会のスチュアート・パトリック氏はポンペオ氏の「原則あるリアリズム」をさらに厳しく批判している。ポンペオ氏はEU、国連、世界銀行、IMFといったアメリカが支援あるいは創設してきた多国間機関を批判する一方で、トランプ政権が同盟国の間でのアメリカの評価をどれほど悪くしているかについては言及していない。多国間主義は官僚機構を通じた手続きの過剰な負担を増大させ、アメリカの外交での主権に基づいた行動を制限してきたというポンペオ氏の見解とは逆に、パトリック氏は多国間協調は互恵的で、国際舞台でのアメリカの優位にもつながったと主張する。EUに関しても国家主権についてのポンペオ氏の根拠薄弱な見解に反論し、加盟国は全体の意思決定に最も強い影響力がある。同様に、ポンペオ氏は他の国際機関についても間違っている。より重要なことにポンペオ氏の擁護とは異なり、トランプ氏には世界秩序もアメリカの指導力も守る気はなく、長年にわたるアメリカの同盟国を邪魔者扱いしている(“Tilting at Straw Men: Secretary Pompeo’s Ridiculous Brussels Speech”; CFR Blog; December 4, 2018)。これはG7ビアリッツ出席を前にトランプ氏が発した「同盟国は敵国よりもはるかに我が国を利用している」という侮辱的な一言に典型的に表れている(“Trump heading to G-7 summit after insulting allied world leaders”; CBS News; August 23, 2019)。

 

EUは「平和と和解、民主主義と人権に対する取り組みでの成果」によって2012年にノーベル平和賞を受賞した。それは西ヨーロッパでの多国間協調を進化させただけでなく、ポスト共産主義時代の東ヨーロッパでは自由の価値観を広めた。ヨーロッパは大西洋社会での共通の価値観を守護しているのに対し、アメリカはそうした価値観を捨て去ろうとしている。大西洋側から見れば日米同盟は脆弱になるばかりである。こうした事情から、日本国際フォーラムがアメリカ国防大学とアトランチック・カウンシルとともに発行した日米共同レポート『かつてない強さ、かつてない難題:安倍・トランプ時代の日米同盟』を見直すには良い時期だと思われる。このレポートが昨年4月に発行されてから、アメリカの外交政策スタッフはトランプ化が進んだ。ジェームズ・マティス氏やH・R・マクマスター氏をはじめとする「政権内の大人」達は、ナショナリストかつ大統領忠誠派の傾向が強いマイク・ポンペオ氏とジョン・ボルトン氏に取って代わられた。今やそのボルトン氏さえ更迭され、アメリカ外交はトランプ氏の気まぐれな気質の影響をこれまで以上に受けやすくなっている。

 

トランプ氏による突然のTPP離脱にもかかわらず、日米間では米欧間ほどのイデオロギー上の相違は見られない。日本国際フォーラムの政策レポートにも記されたように、両国は中国や北朝鮮をはじめとするインド太平洋地域で増大する脅威に対処し、この地域での民主的な価値観を守るためのビルトイン・スタビライザーの構築に乗り出している。これによって両国の同盟がアメリカ国内政治の予測不能なポピュリズムから守られるとことになっていた。しかし実際はそのレポートにも記されたように、アメリカがリベラル世界秩序とアジアでの多国間協調に引き続き関与してゆくことを確約したのはレックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官であった。しかしポンペオ氏が彼らほど地域の安定に関与するか疑わしい。ポンペオ氏は香港、ウイグルなどの自由と民主主義を訴えてはいるが、その意味と長官の意図はウィルソン的理念主義よりも「原則あるリアリズム」どころかハゾニー的なナショナリズムのように思われる。ポンペオ氏が多国間外交について抱く侮蔑的な見解は、戦場から国連外交の場にいたるまで同盟国との緊密な政策協調を説くマティス氏のものとは著しく対照的である(Jim Mattis: Duty, Democracy and the Threat of Tribalism”; Wall Street Journal; August 28, 2019)。マティス氏とは異なり、ポンペオ氏は元陸軍大尉ながら軍部のエリートではなく福音派とティー・パーティーを権力基盤としている。よって、「政権内の大人」達がいなくなった現状では日米同盟は再び弱体化に向かっている。

 

G7シャルルボワおよびビアリッツでは、日本がヨーロッパとトランプのアメリカとの間で難しい立場にあることが明らかになった。ヨーロッパとアメリカがパリ協定とロシアのG7再加入をめぐって激しく対立するあまり、中国や北朝鮮といったアジアの安全保障での重要課題が脇に追いやられている(“Japan’s Disappointing G7 Summit”; Diplomat; August 28, 2019)。安倍晋三首相にはトランプ氏と比較的良好な個人的関係を通じてヨーロッパとアメリカの仲介役となり、日本の国際的地位を向上させようという野心があった。しかし米欧間の亀裂はあまりにも広く深い。現在、アメリカと民主主義同盟諸国の間ではイランが火急の問題である。ポンペオ氏は同盟国にホルムズ海峡防衛の有志連合に加わるよう要請しているが、ヨーロッパ諸国は当地に差し迫った脅威があるとは見ていないばかりか、トランプ氏のイランに対する意図も不透明である(”Trump’s coalition of one”; Politico; August 2, 2019)。サウジアラビアの油田への攻撃に関しては、IISSのフランソワ・エイスブール上級顧問はイランが攻撃を行なったというトランプ氏の主張を受け入れることには慎重で、アメリカの専門家にもそうした見方に同調する向きがある。日本もトランプ氏が提唱する対イラン有志連合への参加には消極的である。トランプ時代の米欧亀裂は、日本の「地球儀を俯瞰する外交」にも好ましからざる影響を与えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2017年10月30日

トランプ大統領の東アジア歴訪を迎えるリスク

ドナルド・トランプ大統領が11月初旬に東アジアを歴訪する。今回の訪日では北朝鮮と通商問題が安倍晋三首相との二国間会談での主要議題となる。有識者達はトランプ氏の大統領職への資質と適性に疑問を呈しているが、日本の指導者達は彼の言動がどれほど不快であっても鼻をつまむような思いで耐え忍ばねばならない。ヨーロッパと違って東アジアでは多国間安全保障の枠組みがないので、合衆国大統領が誰であっても日本の国家的生存には強固な日米同盟が絶対に必要である。しかし今回の訪日に当たってはトランプ・リスクには要注意である。トランプ氏は余人には考えられないような行動で悪名高く、アメリカの戦略的パートナーとの閣僚および事務レベルでの合意からかけ離れた行ないも頻繁である。サウジアラビアとカタールの抗争はその典型例である。メディアも専門家もこの政権の外交政策過程をどうにかして理解しようとしているが、アメリカの外交政策を予測不能にしているのはトランプ氏自身であり、そうしたリスクが日中韓3ヶ国を訪問しようとしているのである。

そうしたリスクもあるが、合衆国大統領の訪問を受けることには象徴的なメリットもある。特に安倍政権はトランプ政権との緊密な関係を誇示することで中国と北朝鮮の脅威に対処しようとしている。しかしトランプ氏がしばしば独走し、政権内での外交政策の齟齬がアメリカ外交の妨げとなってきたことを忘れてはならない。ロシアに関してはトランプ氏と閣僚の見解の相違は依然として大きい。トランプ氏には自らがロシアのセルゲイ・ラブロフ外相に高度機密情報を漏らしたとのたまって世界を仰天させ、アメリカの外交政策に携わる政府関係者を驚愕させた(“Trump revealed highly classified information to Russian foreign minister and ambassador”; Washington Post; May 15, 2017)。ロシアによる選挙介入との関連もあり、トランプ氏と閣僚の間に見られるそうした行き違いはアメリカの外交政策の信頼性を低下させている(“On Russia, Trump and his top national security aides seem to be at odds”; Washington Post; April18, 2017)。

そうした中でトランプ大統領とレックス・ティラーソン国務長官の間で致命的な齟齬が起きたのは北朝鮮をめぐってであるが、それは当然ながら今回の東アジア歴訪の最重要課題である。トランプ氏はティラーソン長官が極秘チャンネルを通じて北朝鮮と接触した外交努力を嘲笑した。それは背信行為である。そうした行為には超党派の外交政策の専門家達から厳しい非難が寄せられた。ブッシュ政権期のリチャード・ハース元国務省政策企画部長は、トランプ氏の発言は外交の一体性を侵害すると非難し、ティラーソン氏には辞任まで勧告している。オバマ政権期のサマンサ・パワー元国連大使はさらに辛辣で、トランプ氏の言動は受け入れられるものでなく、アメリカ外交の信頼性を損なったと語った (“Trump undercuts Tillerson's efforts on North Korea”; Politico; October 1, 2017)。たとえティラーソン氏が辞任したとしても、トランプ政権の外交政策の方向には統一性がない。諸外国政府は経歴が優れたマティス国防長官に耳を傾けているが、政権内にはタカ派のニッキ・ヘイリー国連大使、企業志向のウィルバー・ロス商務長官、大統領家族の一員であるジャレド・クシュナー上級顧問などもいる。さらにトランプ氏は組織再構築や歳出削減によって国務省の弱体化をはかっている(“Should Tillerson Resign?”; Politico; October 1, 2017)。そうした状況ではトランプ氏の独走を抑えられそうではない。

トランプ大統領の統治で根本的な問題は、個人に対する忠誠と国家に対する忠誠の区別がついていないことである。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際大学院のエリオット・コーエン教授によれば、ジョージ・W・ブッシュ元大統領なら政権スタッフが国家のために行なう批判を受け入れていたが、トランプ政権ではマティス長官とティラーソン長官が大統領への忠誠を優先するホワイトハウスのスタッフに不満を抱え続けているということである(“How Trump Is Ending the American Era”; Atlantic; October, 2017)。側近達がそのように従順である限り、政権内部でのトランプ氏の言動へのチェックはほとんど効果がない。よってサウジアラビア・カタール危機で見られたようなトランプ氏独走のリスクはまずます大きくなっている。日本政府はそうした危険性を充分に意識せねばならず、トランプ氏が日本を発って韓国そして中国を訪問する時にも何が起こるか目が離せない。また安倍政権はトランプ氏が海外公式訪問の際に行なったこれまでの失言と失敗を見直し、予期せぬ危機が起きた場合にはどのように対処するか検討する必要がある。

そうした事情はあるが日本人は非常に忍耐強く寛容で、どれほど評判が悪い外国の首脳でも受け入れられる。それはトランプ氏による西欧啓蒙思想への反逆を受け入れようとはしないヨーロッパ人の思考様式とは著しく対照的である。イギリスのテリーザ・メイ首相は国民の間に広まる反トランプ感情の高まりを受けて、トランプ氏の訪英招待を延期せざるを得なくなった。フランスではトランプ氏の革命記念式典への出席が、エマニュエル・マクロン大統領の支持率急落の一因にもなった。安倍首相はこうした国内世論を気にしなくても良いという小さな幸運に恵まれている。しかし安倍氏はトランプ氏に対して過剰に宥和的に思える。安倍内閣は天皇とトランプ氏の会見を設定しようとしている("Trump to meet emperor on his visit to Japan"; Nikkei Asian Review; October 24, 2017)が、それではヨーロッパ諸国の王室に対して悪名高きアメリカ大統領を受け入れよと圧力をかけるようなものだ。また、アメリカ国内ではネポティズムとクレプトクラシーの象徴として痛烈な批判を浴びているイバンカ・トランプ氏を国際女性会議東京大会に招待する("Ivanka Trump to speak at Tokyo women’s empowerment symposium"; Japan Times; October 25, 2017)ことは不適切である。好むと好まざるとに関わらず、東京での二国間首脳会議は日米連帯を見せつける機会ではあるが、日本政府はトランプ・リスクを充分に意識するべきで、ともかく危険は最小限に抑える必要がある。舞台裏での閣僚および事務レベルでの調整は、両国にとってこれまで以上に重要である。日本はトランプ氏に対して注意深くあるべきで、サウジアラビア・カタール紛争のような事態は極東ではあってはならない。

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