2023年3月16日

犯罪人ウラジーミル・プーチンとゼレンスキー大統領の違いをしっかり認識せよ!

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この度のロシアによるウクライナ侵攻に関して、日本国内にはプーチン、ゼレンスキー両者の争いに関して片方を贔屓せずに、日本の国益を慎重に判断せよとの意見が散見する。中には今回の侵攻に関して陰謀論めいた見解を述べ、ウクライナ側に対する疑念を抱かせるような誘導言論も見られる。これら一見冷静沈着なリアリストに聞こえる主張では、重要な点が見落とされている。それはプーチン政権がウクライナの戦場で数多くの犯罪を重ねているだけでなく、今回の戦争以前から欧米諸国への選挙介入など他国の民主主義への破壊行為を繰り返してきたことである。いわばプーチン氏は世界有数の犯罪人であるが、ゼレンスキー氏はこれらの悪事に全く関わっていないことを忘れてはならない。

 

まずロシアのプーチン政権がどれほどの悪質なのかを議論するために、基本的な事項を再確認しておこう。この度の戦争では、ロシア軍の侵攻が「力による一歩的な領土変更、他国の主権侵害」の禁止という国際秩序の基本原則を踏み躙るものである。国家間の関係もさることながら、ロシアが動員した正規軍および非正規戦闘部隊はウクライナ国民の個人に対しても殺人犯、レイプ犯、窃盗犯、強盗犯、誘拐犯、放火犯、公共物損壊犯、捕虜虐待などなどを繰り返している。またこの度の戦争以前にロシアが欧米諸国に対して執拗に行なった選挙介入は極右ポピュリズムの高揚による民主主義の分断を企図したもので、これはG7カービスベイの共同宣言で非難された。事もあろうにプーチン政権は西側民主主義の弱体化という目的達成のためには、白人キリスト教ナショナリストという欧米社会での反社会的集団とさえ手を組んだことを忘れてはならない。これは日本にとって対岸の火事ではない。来年には台湾で大統領選挙があるが、この国と共通の民族的、文化的背景を持つ中国はロシアよりさらに巧妙な手口で介入する恐れがある。

 

またプーチン政権は国内でも反対派の政治家や言論人などを数多く暗殺ないし投獄してきた。他方でウクライナのゼレンスキー政権は欧米からの要望で国内統治の改善途上ながら、上記のような酷い悪事にはほぼ関わっていない。それにも増して、プーチン政権にとってウクライナ侵攻は「ロシア帝国復活」という野望実現への序の口である。よって現状で直ちに停戦し、ドンバスやクリミアの所属をめぐって双方が妥協しても意味はない。そして忘れてはならないことは、プーチン氏のような犯罪人は一度でも犯罪行為によって自分が欲しいものを奪い取ると、その後はさらに犯罪行為を重ねる怖れがあるということである。

 

ウクライナとロシアの戦争で不偏不党を装うためにヴォロディミル・ゼレンスキー大統領への懐疑論を声高に叫べば、実質的にウラジーミル・プーチン擁護になりがちである。こうした主張をする者の全てがそうだとはいわないが、彼らの中にはMAGAリパブリカンのような極右が掲げる陰謀論の片棒担ぎをしようとするイデオロギー的背景を持つ者も少なからずいる。日本では幸福の科学の関係者にトランプ極右ポピュリズムに便乗し、民主主義の混乱に乗じて自分達の政治的影響力を拡大しようとする者もいる。また統一教会絡みの日本人にもウクライナを冷笑し、トランプ極右ポピュリズムに便乗を企む者もいる。彼らや欧米の極右に共通する思考は多国間協調と国際的なルールと規範に基づくリベラル世界秩序は「大きな政府」だという勝手な嫌悪感で、それが結果的には犯罪人ウラジーミル・プーチンへの肩入れとなっている。また財政的観点から対ウクライナ支援拡大への懸念も理解できないわけではないが、そうした考え方に極右のイデオロギー的問題児が便乗する事態の方が国際社会全体に甚大な害悪をもたらす。

 

またロシアによるウクライナ侵攻に関するグローバル・サウスの態度については地政学から語られがちだが、ここでもイデオロギー的な問題は無視できない。周知のようにインドのモディ政権は「田舎臭い」ヒンドゥー・ナショナリズムを掲げている。ナレンドラ・モディ首相はグジャラート州首相時代に2002年グジャラート暴動では、ヒンドゥー教徒にイスラム教徒への暴力的をけしかけている。それはプーチン氏並みの力治政治であり、またドナルド・トランプ前米大統領やブラジルのジャイール・ボルソナロ前大統領並みの暴力触発でもある。実際にヒューマンライツ・ウォッチでアジア部長のエレイン・ピアソン氏は昨年9月に、モディ政権のインドが「世界最大の民主主義国」としてクォッドに加わることに疑問を呈している(”Do we give India a free pass on human rights?; Human Rights Watch; September 9, 2022)。モディ氏はグジャラート州首相時代には、2002年の暴動に乗じたレイプや殺人などで終身刑判決を受けた犯罪者を一月ほどで釈放した。連邦首相としては自政権に批判的な言論人の逮捕を繰り返している。また2019年には市民権改正法によって、自国からのイスラム教徒の排除を目論んでいる。さらに学校教科書からムガール朝時代の記述を大幅に削減するという、歴史の書き換えまで行なっている(”School Social Science Textbook Revisions in India Kick Up Controversy”; Diplomat; July 27, 2022)。このような統治を行なう政権だから、ロシア軍がウクライナで行なっている非人道的行為に寛容にもなると見做せる。南アフリカのラマポーザ政権も、これまたブラック・アフリカの極左並みに「田舎臭い」時代遅れの反欧米植民地主義に影響された世界観に基づいてロシアの犯罪行為に甘い態度を示している。

 

当然ながら、現時点では対露忖度に走る上記の国々を無用に刺激しないことが得策ではある。度重なる国連安保理決議でも、ロシアのウクライナ侵攻への非難決議に反対票を投じるのは国際社会から孤立した国ばかりである。グローバル・サウスの主要国は棄権に留まっている。去る3月3日にニューデリーで行われたクォッド外相会議 では、インドへの配慮からロシアを名指しせず「核使用拒絶」の共同宣言となったことは致し方ない。グローバル・サウスとの国家間関係では相手を敵方に追いやらぬ注意が必要ではあるが、一方でより長期的にはそうした国々の中でも我々と「話が通じる」集団との関係構築も、政府間関係の調整と並行して行なうことを考えておくべきである。

 

まずインドについて言えば、この国の地政学的立場がイデオロギーによって大きく変わることはないかも知れない。しかしモディ政権下のヒンドゥー・ナショナリズムに批判的なグローバリストや都市部知識人階層ならば、グローバル・スタンダードに基づいた犯罪人ウラジーミル・プーチンに対する非難をより理解できるだろう。またゴアのキリスト教徒やタタ財閥を輩出したパールシー(ササン朝ペルシア滅亡時、イスラム教徒の征服より故国を逃れたゾロアスター教徒の子孫)のように、植民地時代から西欧文明と親和性が高かった宗教的マイノリティもいる。地方政治家出身のポピュリストであるモディ現首相と違い、シーク教徒でナショナリスト傾向は弱く、しかもケンブリッジ大学の最優等学士号とオックスフォード大学の博士号も取得しているマンモハン・シン前首相のような人物であれば、もっとグローバル・スタンダードに沿った思考もできるであろう。

 

南アフリカでも白人リベラル派を基盤とする民主同盟であれば、ブラック・アフリカの極左のような被害者意識のイデオロギーとは無縁である。こちらは都市部のアングロサクソン系で高学歴層という支持基盤である。同じ白人でもアパルトヘイト時代の与党であった旧国民党の支持基盤は農村保守派のアフリカーナを中核とした土着志向の強い人達で、まるでアメリカのMAGAリパブリカンさながらであった。ともかく、グローバル・サウスについては時の政権ばかりを相手にしても埒が明かない。

 

非常に興味深いことに、ロシア軍の犯罪行為を容認するイデオロギーとそうした政治家のパーソナリティにも相関関係が見られるようだ。親プーチンで力治政治の極右ポピュリスト達は、権威主義傾向が強い。プーチン氏の筋肉誇示はよく知られているが、モディ氏も自らの胸囲が127cmだと自慢している(”PM Narendra Modi’s chest now said to measure 50 inches”; Times of India;  January 21, 2016)。一時はトランプ政権の国務長官候補にも挙がった親露極右のダナ・ローラバッカー元下院議員は プーチン氏との腕相撲を自慢している(”Rohrabacher-Putin in an arms race”;  Politico;  September 13, 2013)。これに対しカナダのジャスティン・トルードー首相も非常に身体頑健ではあるが、民主的な政治家は彼らのように押しつけがましい力自慢をしないものだ。誇るべき肉体のないドナルド・トランプ前米大統領やイタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相は下品でミソジニストな言動で「男らしさ、強さ」をアピールしている。さて、そうした威圧的言動が少なくなったフランス国民連合のマリーヌ・ルペン氏は中道化のイメージを押し出しているが、トルコのレジェップ・エルドアン大統領のように穏健な姿勢の裏で再び右傾化する可能性も否定できないので依然として要注意である。

 

この度のロシア軍によるウクライナ侵攻について、自らをリアリストだと印象付けようとする者達は国際政治における道徳と倫理を軽視しがちであり、しかもそうした冷血な視点こそ最も公正で冷静沈着だと思い込んでいる。そのような「ハーベイロードの前提」では、国際安全保障においては致命的に危険である。1991年の湾岸戦争において、国際社会はほぼ一致してクウェートに侵攻して破壊と凌辱を繰り返したサダム・フセインの犯罪に懲罰を加えた。そのことを思い出せば「犯罪人ウラジーミル・プーチンとヴォロディミル・ゼレンスキー大統領のどちらにも肩入れせず」という立場では、実質的にロシアの新帝国主義者ばかりか全世界の極右、極左、それにカルト宗教絡みといった、イデオロギー的にきわめて問題のある人達の味方をしていると言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年12月31日

ANCの親露外交は欧米の黒人同胞に対する裏切りである

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トランプーチン:ロシアと欧米極右の間のレイシスト枢軸

 

ウクライナ侵攻を契機に史上かつてないほど欧米との対立が悪化しているロシアだがアフリカ諸国とは緊密な関係を維持し、その内の半数近くは度重なる国連総会の場でロシアの侵攻に対する批判や制裁の決議を棄権した。その中でも南アフリカが重大な注目に値する国である理由は、プーチン政権下のロシアが世界最悪のレイシスト国家であるにもかかわらず、与党ANCはこの国との友好関係を維持しようという致命的で自己敗北的な過ちを犯しているからである。

 

ANCの親露外交路線はイデオロギー的に間違いで自己破滅的である。我々は誰もが、この党が冷戦終結までの数十年にもわたって反アパルトヘイト抗争を続けてきたことを知っている。ヨーロッパとアメリカの黒人同胞は彼らの反レイシズム抗争に強い連帯を示した。しかし現在のANCは自らの長きにわたる抵抗の歴史を忘れ去ったかのように、ソ連崩壊後のレイシスト国家ロシアとの友好関係を維持しようとしている。これが多人種民主主義を追求する彼らの取り組みへの支援者に対する無自覚な裏切りである理由は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がリベラル民主主義弱体化を目論んで欧米の極右を支援する最も悪名高き存在だからであり、実際にロシアの選挙介入がブレグジットやトランプ政権誕生につながった。ロシアのウクライナ侵攻による全世界的なショックがあっても、そうした右翼ポピュリストにはなおもプーチン氏と共鳴し、自分達が抱いているグローバル化による社会文化的多様性への反感と白人キリスト教ナショナリズムへの妄信による世論を広めようよしている。人種平等を標榜する政党ならば、ロシアと欧米のレイシストの間のやましい関係を決して見過ごしてはならない。

 

 

 

嘆かわしいことに、ANCは無意識に彼らを裏切っている。

 

 

 

そうした親露派右翼達はアメリカ国内で酷い悪評を博している。MAGAリパブリカンは「小さな政府」の理念の名の下に、アメリカはウクライナをめぐるロシアとの対決から手を引くべきだと主張している。下院ではマージョリー・テイラー・グリーン議員(MTG)、マット・ゲーツ議員、ポール・ゴーサー議員、マディソン・コーソーン議員らがそうした極右に当たる。さらにトランプ政権期の高官ではマイケル・フリン元国家安全保障担当補佐官、ピーター・ナバロ元ホワイトハウス政策局長、スティーブ・バノン元大統領上級顧問らがクレムリンを代弁するかのように、プーチン氏のウクライナ侵攻を正当化している。そうした過激派の中には、馬鹿げたことにウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が「ソロスとクリントン家に操られたグローバリストの傀儡」だと見做す者さえある。何よりもドナルド・トランプ氏自身がウクライナ侵攻に際してプーチン氏を天才だと賞賛したほどである(“Meet the pro-Putin Republicans and conservatives”; Republican Accountability Project)。彼らにはレーガン的な国家安全保障観などは全く見られない。

 

ヨーロッパでも極右政治家の中には親プーチンの態度を崩さぬ者も見られ、彼らの国々がアメリカ以上にロシアの脅威を直接受けることも顧みられていない。本年9月のイタリア総選挙でネオファシスト系「イタリアの兄弟」から選出されたジョルジャ・メローニ首相は対露政策で立場を転換したが、閣内のマッテオ・サルヴィーニ氏とシルヴィオ・ベルルスコーニ氏は親プーチンの姿勢を変えていない(“Putin’s Friends? The Complex Balance Inside Italy’s Far-Right Government Coalition”; IFRI; November 28, 2022)。ロシアは本年12月にハインリッヒ13世を首謀者とするドイツ極右クーデター未遂事件でも黒幕であった。容疑者の一人はハインリッヒとロシアの取り次ぎ役を果たした(“Germany arrests 25 accused of plotting coup”; BBC News; 7 December, 2022)。親露派のデマゴーグと扇動者は右翼メディアにもいる。FOXニュースのタッカー・カールソン氏は自分の番組の視聴者に、ウクライナでなくロシアに味方するようにと言っている。GBニュースのナイジェル・ファラージ元UKIP党首はもっと慎重な言い回しでロシア支持を間接的に訴えようと、ゼレンスキー氏の統治能力への懐疑的な見解を喧伝している。

 

 

このように大西洋の両側での欧米極右の名前を挙げてみれば、薄気味悪い恐怖感に駆られる。なぜブラック・エンパワーメントの党が、「トランプーチン」的なレイシストの枢軸と手を携えなければいけないのか?ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は昨年の4月にアメリカ国内の白人ナショナリストに対する心底からの共感の意を示そうと、「白人への逆差別」を非難した(“Russia Warns of Anti-White 'Aggression' in U.S.”; Moscow Times; April 1, 2021)。実のところクレムリンと欧米の極右に共通している思想はレイシズム、反フェミニズム、そして反LGBTの価値観だけではない。プーチン政権のロシアと欧米のレイシストが共有している価値観はもっと深く根本的なもので、それをイスラエルの右翼系歴史学者ヨラム・ハゾニー氏はナショナリスト民主主義と呼び、ロシアのウラジスラフ・スルコフ元大統領補佐官は主権民主主義と呼ぶ。それはリベラル民主主義の普遍的価値観を否定し、土着主義と反近代主義の性格が強いイデオロギーである。彼ら「トランプーチン」的なレイシストは啓蒙主義とグローバル主義という、西側エスタブリッシュメントが推し進める両思想を嫌悪している。

 

さらにプーチン氏のウクライナ侵攻によって、ロシア国内のレイシズムも曝されてしまった。モンゴル系のブリヤート人やコーカサス地方のイスラム系ダゲスタン人など少数民族出身の兵士の死傷率は、ロシア人のそれを大きく上回っている(“Young, poor and from minorities: the Russian troops killed in Ukraine”; France 24; 17 May, 2022)。より重大な点は、ルースキー・ミールという概念に対するプーチン氏の解釈と実行には彼のレイシスト的な世界観が反映されているのではないかと、私は疑念を抱いている。かの有名な『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』という論文でプーチン氏は冷戦後の国際政治における欧米の優位に対する深い怨念とともに、ウクライナの歴史と文化に対する蔑視の姿勢を顕わにして彼らの独立と主権を否定している。そうした軽蔑姿勢からすれば、ロシア軍がレイプ、強盗、拷問、殺人、その他ありとあらゆる暴力といった多くの犯罪を積み上げたことには何の不思議もない。あろうことかプーチン氏は厚顔無恥なブチャの犯罪者達を表彰した(“Putin honors brigade accused of war crimes in Bucha”; Washington Post; April 19, 2022)。

 

そうした事情はあれ、ANCが反アパルトヘイト闘争でかつてはソ連の恩恵を受けたことは否定しようがない。アメリカでもそうだったが、人種平等を目指す活動家には左翼に傾斜する以外に選択肢はなかった。彼らが共産主義の超大国を盟友としたことは当時なら自然な選択だったが、アンゴラとモザンビークでのソ連・キューバ勢力のプレゼンスを問題視するロナルド・レーガンおよびマーガレット・サッチャー両首脳にとっては非常に由々しきことであった。幸いにもネルソン・マンデラ党首は彼自身が欧米とも南アフリカの白人とも手を携えて多人種民主主義を発展させられると証明し、国際社会からも支持を得た。ともかくソ連は崩壊したのだが、ANCの指導者層は今なおロシアとの情緒的でノスタルジーに満ちた関係を感じているようだ。

 

どうやらアフリカ人にも日本人と同様なセンチメンタリズムがあるようにも思われる。典型的な例として故安倍晋三首相は、父晋太郎氏が残した北方領土返還実現によりソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領との間で平和条約の締結という見果てぬ夢の実現に尽力した。安倍氏は共産主義体制崩壊後のロシアとの経済協力発展を模索した。しかし安倍氏の希望的な夢はプーチン政権の力治政治という無慈悲な性質を踏まえていなかったので頓挫した。プーチン氏はゴルバチョフ氏ではない。現在のクレムリンから見れば、日本はアメリカの従属的な同盟国に過ぎず、ロシアは経済協力の見返りに領土を返還する必要もないのだ。問題は互恵性にとどまらない。イデオロギー的には旧ソ連と現在のロシアは正反対で、前者は世界各地の共産主義者を支援したのに対して後者は欧米の極右レイシストを支援している。よってANCがプーチン政権のロシアを友好国と見做すことは理に適っていない。安倍氏と同様に、彼らもロシアに幻想を抱いている。考えてもみて欲しい。アメリカとイスラエルは近代化路線のシャーの統治下にあったイランとは非常に友好的な関係にあったが、現在のシーア派神権体制にあるこの国とはそうした関係はとても考えられない。体制が変わってしまえば全く違う国になってしまうのだ。

 

ロシアとの友好関係を保つよりも、ANCはむしろプーチン氏の核脅迫レイシズムを非難するうえで格好の立場にある。彼のルースキー・ミール論文からはウクライナ人に対するロシア人の優越感が垣間見られ、そうした侮蔑的な思考だからこそ相手がチェチェン人、シリア人、ウクライナ人にかかわらず、敵に対してあれほど残虐になれるのだ。欧米の抑止力がなければ、彼のルースキー・ミール的価値観を否定する敵ならだれであれ大量虐殺の被害を免れないだろう。南アフリカは逆に自発的な核廃棄に踏み切った世界唯一の主権国家だが、他方でイランや北朝鮮のようなグローバル・サウスの専制国家は核拡散に手を染めている。両国ともプーチン氏の野蛮なウクライナ侵攻を支援していることを忘れてはならない。なぜ多人種民主主義の党が、レイシスト、反グローバル主義者、反啓蒙主義者の枢軸と友好関係にあらねばならないのだろうか?しかもその主要な構成者はプーチン政権のロシアと欧米の極右だというのに。

 

嘆かわしいことに大半のメディアは、世界各地の人種平等主義者に対するANCの無意識な裏切りに付随する壮大な矛盾を批判しない。彼らとソビエト・ロシアの歴史的な関係を「同情的」に報道しても意味はない。プーチン政権のロシアはもはや「万国の労働者よ、団結せよ!」という価値観など掲げていない。それどころか伝統主義の名の下に、今のロシアは欧米でのレイシストの不満爆発を扇動している。

 

アフリカ諸国の中で、南アフリカは以下の理由から私の注意を引き付けている。この国は大西洋地域とインド太平洋地域を結びつける位置にあり、それは21世紀の地政戦略で極めて重要である。またこの国の多人種民主主義の行方もグローバルな注目事項である。さらに付け加えるとこの国はアングロサクソン政治文化圏に属し、そのことは大英帝国の白人自治領としての建国の歴史に裏打ちされている。アメリカとイギリスを主要なフォーカスとしている私にとって、そうした事情から南アフリカに関心が向く。そしてだからこそ、メディアや学界にはANCの親露外交がはらむ致命的な矛盾を検証してゆくように注目を促せれば幸いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年7月 7日

イギリスはインドを西側に引き込めるか?

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ウクライナの戦争によって、世界は西側民主主義陣営と中露専制国家陣営に真っ二つに分かれてしまった。しかしジョセフ・バイデン米大統領主催の民主主義サミットに招待された民主主義国家の中には中立の立場を保ち、2月の国連安全保障理事会でも4月の国連人権理事会でもロシアのウクライナ侵攻への非難決議を棄権した国もある。そうした国々の中でもインドは冷戦期よりパキスタンへの対抗の必要もあり、ロシアとは長く深い関係にある。よってインドに西側の対露制裁参加を期待することは、現時点では非現実的である。

 

他方でインドは911同時多発テロ攻撃を機に、アメリカとの安全保障上のパートナーシップを深めてきた。現在、インドは中国の海洋進出に対抗し、FOIP推進のためにクォッドに加盟している。よって西側民主主義陣営はインドを自分達の側に引き寄せる戦略的必須性がある。この目的のためには、長期的な観点から国防および経済でのインセンティブを与える必要がある。中露枢軸と西側同盟の間で繰り広げられる21世紀の冷戦は、ロシア・ウクライナ戦争に留まらなくなるだろう。5月24日のクォッド東京首脳会談に先んじて、イギリスはインドといくつかの合意に至った。ボリス・ジョンソン英首相は4月22日のインド訪問でナレンドラ・モディ首相と会談し、経済、安全保障、気候変動などに関して両国の戦略的パートナーシップの拡大を話し合った(“PM: UK-India partnership ‘brings security and prosperity for our people’”; GOV.UK; 22 April, 2022)。多くの議題の中で最も本題と関わるものは、インドの次期戦闘機開発計画へのイギリスの支援である(“UK, India promise partnership on new fighter jet technology”; Defense News; April 22, 2022)。

 

イギリスとの合意以前に、インドはロシアのスホイ57に基づいて設計されたFGFA計画を破棄した。実のところ元になるスホイのステルス戦闘機の開発でロシアが資金と技術上の問題を抱えてしまったこともあり、この計画は遅延を重ねたばかりか経費もあまりに高くなってしまった(“$8.63-billion advanced fighter aircraft project with Russia put on ice”; Business Standard; April 20, 2018)。非常に重要なことにインドはロシアが設計した原型機に不満で、エンジン、ステルス性、、兵器搭載能力について40項目もの改善を求めた(“India and Russia Fail to Resolve Dispute Over Fifth Generation Fighter Jet”; Diplomat; January 06, 2016)。この戦闘機の運用実績も、こうした懸念を裏付けているように思われる。スホイ57は2018年にシリアで戦場にデビューした(“Russia's most advanced fighter arrives in Syria”; CNN; February 24, 2018)のだが、不思議にもウクライナのように防空網が強固な空域での航空優勢の確立にこそ必要なはずのステルス戦闘機をロシアは渋っているようである(”Russia's much-touted Su-57 stealth fighter jet doesn't appear to be showing up in Ukraine”; Business Insider; Jun 14, 2022)。

 

ロシアの軍事産業は1980年代までは西側の軍事産業にとって手強い競争相手であった。しかし彼らの技術的な強みはハードウェアにあってもソフトウェアにはない。一例を挙げると、西側は1989年パリ航空ショーでスホイ27が披露した「プガチョフのコブラ」飛行によってロシア製戦闘機の航空力学のレベルに驚愕した。しかしコンピューター・エレクトロニクスと情報テクノロジーの進歩によって運動性よりもアビオニクス(航空電子機器)の重要性が増し、それによって西側はロシアに対する優位を強めた。ソ連崩壊が間近に迫った1990年代初頭に、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授はロシアの製造業について「スターリン型経済モデルは比較的洗練度の低い技術を習得し、基本的な製品の大量生産を行なううえでは成功だった。・・・・しかし最大の問題は、ソ連の中央計画経済では変化の速い今日の情報化が進んだ経済に柔軟に対応できない。・・・・情報化が進んだ経済では広く共有され自由に流れる情報がないと、最大限の利益を得られない」(“Bound to Lead”; Chapter 4, p. 120~121; 1990)と記している。エリツィン時代からプーチン時代を経てもロシアは依然として、このソ連時代からの古い問題を解決できていない。ウラジーミル・プーチン大統領が自らを、この国の近代化と啓蒙化で成功を収めたピョートル大帝と並べようとは笑止千万である。

 

現在、イギリスはトルコのTAI社TF-Xや日本の三菱重工F-3など、主要な地域大国の国産時期ステルス戦闘機開発に技術支援を行なっている。これらの計画はイギリスのテンペスト計画と並行して進みながら、技術移入国は研究開発で自国独自の立場を維持できる。モディ政権は「メイク・イン・インディア」政策で製造業の強化を図っているので、イギリスの申し出はインドにとって好都合だろう。他の欧米諸国ではアメリカとフランスが大々的な輸出キャンペーンを行なっているが、イギリスはインドが中国のJ-20およびJ-31に対抗するためのステルス戦闘機計画を開発段階から支援しようとしている (“India bolsters arms ties with West to sever Russian dependence”; Nikkei Asia; June 17, 2022)。歴史的にイギリスは帝国の全てを直接統治したわけではなく、一部では現地有力者によるある程度の一種の自治を認めた。こうした帝国時代から根差した技は、イギリスの国防関係者達がトルコ、日本、インドのステルス戦闘機計画に関わるうえで役立つであろう。

 

テンペストの研究開発を主導するBAEシステムズはアメリカの先端兵器システムへのハイテク部品供給で上位に入るほどで、技術的に世界で最も競争の厳しい防衛市場でも成功している。このことはイギリスの防衛技術がロシアのものよりはるかに信頼性があることを意味する。ウクライナの戦争では西側の優位が印象付けられている。ロシアは多数の精密誘導ミサイルを発射したが、西側のものと違って60%は標的を外している(“Exclusive: U.S. assesses up to 60% failure rate for some Russian missiles, officials say”; Reuters; March 26, 2022)。驚くべきことに、ロシア製ミサイルの攻撃は素人のキャッチボールの投球よりもノーコンなのだ。制裁によってロシアと欧米の産業技術の差は、ますます開くだろう。中国は二次制裁を怖れて制裁対象となる技術をロシアに供給しないだろう(“Russia's economy in for a bumpy ride as sanctions bite”; BBC News; 15 June, 2022)。ロシア製兵器体系は西側のものよりも低価格で、メンテナンス作業も少なくて済む。しかし現在のインドは西側の兵器を配備できるほど豊かで強くなり、それによって究極的にはロシアへの依存は低下するであろう。

 

イギリスによるインドのステルス戦闘機計画への関与は、この国のインド太平洋戦略とも関わっている。ロシアのウクライナ侵攻を前にした昨年、イギリス首相官邸は『競争激化する時代のグローバル・ブリテン』(“Global Britain in a competitive age”)を刊行し、イギリスの外交および安全保障政策でインド太平洋地域への「傾倒」(tilt)が欧州大西洋の域内とどのように強固に結びついているか記している。そこではロシアが最大の脅威とされた一方で、中国、インド、日本が各々の特性からインド太平洋地域での戦略的な中核とされている。上記3ヶ国の内、イギリスは中国を自国の経済安全保障に対する「最大の国家的脅威」を突き付け、さらに自らの安全保障、繁栄、価値観に「体系的に反発」してくる権威主義国家だと見做している。他方でインドについては「世界最大の民主主義国家」かつ「国際社会で重要度を増すアクター」で、この地域でイギリスの重要なパートナーとなっているアメリカ、日本、オーストラリアとは安全保障、経済、環境問題での協力を推し進めてゆくべき国だと認識されている(“Understanding the UK's ‘tilt’ towards the Indo-Pacific”; IISS Analysis; 15 April, 2021)。

 

この”tilt”はブレグジット後のイギリスが、インド太平洋地域との安全保障および経済的関与の深化、中国の脅威の抑制、成長著しい当地域での市場開拓を通じて国際的地位を強化することを目的としている。それはイギリスでも政府、財界、シンクタンクといった官民挙げての様々なアクターから支持されている。また、域内のステークホルダーからも”tilt”は歓迎されている(“What is behind the UK’s new ‘Indo-Pacific tilt’?”; LSE International Relations Blog; October 6, 2021)。そうした“tilt”における英印パートナーシップに関して、ロンドン大学キングス・カレッジのティム・ウィリアジー=ウィルジー客員教授が同校の国防専門家達による共同論集で以下のように言及している(“The Integrated Review in Context: A Strategy Fit for the 2020s?”; King’s College London; July 2021)。基本的な点は、両国の戦略的パートナーシップを二国間と多国間の関係から観測すべきということだ。後者にはクォッド・プラス、AUKUS、その他域内での安全保障ないし経済での枠組が含まれる。歴史的にインドはイギリスが植民地時代から独立時にかけて国民会議派よりもパキスタンのムスリム同盟の方に好意的であったとして、親パキスタンだと見なしてきた。またパキスタンは中東におけるイギリス主導の反共軍事同盟、CENTOにも加盟していた。しかしタリバンがアフガニスタンでのNATOの作戦を妨害するにおよんで、イギリスはパキスタンよりもインドとの関係を強化するようになった。現在ではイギリスはインドにファイブ・アイズへの加盟さえ招請している。FGFA計画が頓挫した時期に、イギリスは国防装備調達と諜報の両面からインドを西側に引き込もうとしている。現在はロシアのウクライナ侵攻をめぐって両国の見解に隔たりはあるものの、そうした動きは長期的に見ればこの国をクレムリンから引き離すうえで役立つであろう。

 

そうした中で、ヒンドゥー・ナショナリズムはインドがイギリスおよび他の西側諸国との戦略的パートナーシップへの致命的な障害になりかねない。ともかく我々はインドが世界最大の民主主義国であるという前提を再検討する必要がある。2021年のフリーダム・ハウス指標によると、インドは先進民主主義諸国ほど自由でも民主的でもない。政治的な権利に関しては、インドはイギリスの政治制度を引き継いだものの、議会では民族宗派上のマイノリティーを代表する議席は充分でない。市民の自由のスコアはさらに悪い。モディ現首相は、ケンブリッジとオックスフォード両校出身でシーク教徒のマンモハン・シン前首相と比べると報道の自由への敵対度が高い。また多数派のヒンドゥー教徒がモディ氏のBJPが掲げる方針に沿って攻撃的な反イスラム運動を繰り広げるようでは、宗教の自由も保証されていない。司法の権限はポピュリストによるそのような暴挙を止められるほどの独立性はない(“FREEDOM IN THE WORLD 2022: India”; Freedom House)。仮に1月6日暴動がキャピタル・ヒルでなくニューデリーで起きていたら、インドは低劣俗悪な破壊行為を阻止できなかったかも知れない。西側には国防装備調達でロシアに取って代われるだけの技術的優位がある。しかし我々がどこまでインドと価値観を共有しているのかは問題だ。

 

非常に興味深いことに、ヒンドゥー・ナショナリストにはルースキー・ミールに熱狂するプーチン氏の支持者、そして1月6日暴動に参加したトランプ氏の支持者と相通じるところがある。彼らのいずれも非常に報復意識が強く、部族主義色が濃い。英国王立国際問題研究所のガレス・プライス上級研究フェローによると、モディ氏率いるBJPの主要な支持基盤はインド国内でも人口が多く貧困が目立つ「ヒンドゥー・ハートランド」と呼ばれる北部内陸のウッタル・プラデーシュ州、マディヤ・プラデーシュ州、ビハール州だということである。彼らは英語堪能なグローバリストのエリート達が社会経済的な格差をもたらしたと憤っている。そうしたナショナリスト色の強いポピュリスト達が特にイスラム教徒やダリットに代表される民族宗派上のマイノリティーには「特権」が付与されているとスケープゴートにして自分達のプライドを満足させている有り様は、黒人やヒスパニックに対するアファーマティブ・アクションを非難するトランプ・リパブリカン、そしてウクライナの新欧米的な独立派にネオナチのレッテルを貼り付けるプーチン氏の支持者にそっくりである。この点はモディ政権のインドがウクライナでのロシア軍の野蛮で残虐、そのうえ道徳心の欠片もない行為に寛容な理由と深く関わっていると思われるにもかかわらず、ほとんどのメディアと専門家はそれを見過ごしている。途上国なら経済の方が差し迫った優先課題となることもあろうが、インドはロシアの行為にただの非難声明さえ躊躇する有り様である。ヒンドゥー・ナショナリズムが外交政策に及ぼす影響をさらに考えるうえで、この思想は非常に排外性が強いのでインド国内に由来するシーク教やジャイナ教にはそれほどではなくとも外来宗教、特にイスラム教やキリスト教には敵対的であることも忘れてはならない(“Democracy in India”; Chatham House; 7 April, 2022)。

 

よって西側はインドを世界最大の民主主義国と呼ぶほど自己都合で相手を見てはならない。もちろん、この国は西側とは特に「自由で開かれたインド太平洋」という地政学的利益を共有している。しかしウクライナでの戦争勃発によってインドがロシアとは深く密接な関係にあることが国際社会に再認識され、そのことで我々がこの国とどこまで価値観を共有しているのかという問題が突き付けられることになった。イギリスによる防衛協力に見られるように、西側にはより高度で洗練された技術があるのでインドの防衛市場ではロシアとの競争に勝てる。地政戦略には、それは西側にとって露印関係を弱体化させるために価値ある取り組みである。インド太平洋におけるヒンドゥー・ナショナリストのモディ政権のインドは、NATOにおけるイスラム主義のエルドアン政権のトルコと似ている。偶然にもイギリスはテンペストの技術を、両国の国産戦闘機計画支援のために提供する方針である。共通の国益がある問題ではインドとの戦略的パートナーシップを深化させてこの国への中露の影響を希釈する一方で、我々はこの国が世界最大の民主主義国だという楽観視に陥ってはならない。当面の間、政府レベルでヒンドゥー・ナショナリズムに対して挑発的な反応をすることは推奨できない。我々はむしろ非政府アクターを民族宗派その他社会的なマイノリティーに関与させ、インドの統治の改善を図ってゆくべきである。.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年5月11日

エマニュエル・トッド氏のロシア観に異論

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フランスの高名な歴史学者、エマニュエル・トッド氏が5月6日放映のNHK『ニュース・ウォッチ9』のインタビューで、ウクライナで現在進行中の戦争とそれがロシアに与える影響について応えた。トッド氏がインタビューで答えたいくつかの要点の内で私が聞いて違和感を覚えたことは、ロシアはもはや欧米にとって深刻な脅威でなくなったが、それはこの戦争で呆れるばかりのロシア軍の弱体ぶりが露呈したからだという見解である。

 

軍事的に弱いからといって、該当のアクターが国家であれ非国家であれ、それがもたらす脅威が無視できるとまでは必ずしも言えない。典型的な例では、イスラム・テロリストは実際の軍事力という観点からはあまりに弱小だが、彼らが欧米に対して抱く憎悪と怨念を考慮すれば、そうした脅威が国際社会に及ぼす影響は恐るべく巨大なものである。実際に、そのような憎悪と怨念が9・11同時多発テロを引き起こしたのである。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も同様に、ウクライナでの「特別軍事作戦」の開始に当たって西側に対する悪意と憎悪に満ちた情念に突き動かされている。ロシアが深刻な脅威でないなら、スウェーデンとフィンランドがNATO加盟を申請する理由がない。

 

ロシアの脅威が重大な理由には、以下の観点が挙げられる。第一にロシア軍が非戦闘員も含めた敵国に対する敵対性と残虐性は国際社会を震撼させたが、それは彼らが戦場で見せた規律に欠けてプロとは呼べない行為と相互関連がある。彼らが戦争に付随して行なった殺戮、拷問、強奪、そしてレイプは、戦闘におけるロジステック、コミュニケーション、訓練、指揮命令系統、そして戦術の不手際と表裏一体である。すなわち、ロシア軍は今世紀においてあまりに野蛮で、近代化も不充分である。メディアではしばしば、ロシアの行動と戦略は第二次世界大戦のスタイルだと語られている。しかし私の目には、彼らは中世のモンゴル軍並みに前近代的で、ウクライナには「タタールの軛」を暴虐的に押し付けているように見える。逆説的なことに、ロシアは弱いからこそ大変な脅威なのである。

 

第二に、プーチン氏は核兵器による威嚇を躊躇しないので、それではMADの基本的な前提条件が成り立たなくなる。それによってグローバルな核軍備管理体制も揺らぐ。その結果、北朝鮮のように好戦的で専制的な核拡散国が強気になりかねない。さらにロシアに脅迫で西側のウクライナ支援が抑止されるようなら、中国が核先制不使用戦略を転換しかねない。ロシアの通常戦力はあまりに弱く組織化も遅れているので、最終的には核、生物、化学兵器に依存せざるを得なくなるかも知れない。再び言わせてもらえば、ロシアは弱いからこそ大変な脅威なのである。

 

第三に、ロシアはヨーロッパとアメリカの選挙に介入し、西側民主主義の弱体化と破壊を謀った。これは西側に対するハイブリッド戦争である。クレムリンは反グローバル主義の群衆が極右の候補者や争点を通すような投票をけしかけている。特にブレグジットとトランプ現象は国際社会を驚愕させた。他方でロシアは極左の反乱もけしかけているが、それは彼らもグローバル主義をかざす西側のエスタブリッシュメントに憤慨しているからである。ヨーロッパ人として、トッド氏は西側の内政へのロシアの影響力浸透がもたらす脅威をよく理解できる立場にある。先のフランス大統領選挙ではマリーヌ・ル=ペン氏がエマニュエル・マクロン氏に敗北したものの、徐々に地盤を固めている。

 

最後に、ロシアによるウクライナ攻撃は国際的なルールと規範に対する重大な挑戦である。大西洋憲章にも謳われているように「領土の変更は、関係国の国民の意思に反して領土を変更しないこと」 となっているが、それは国連の基本的な原則となっている。ロシア軍が近代的な国際関係の行動規範となっている国家主権の尊重を遵守しない理由は、彼らが非常に前近代的だからである。我々国際社会の市民は、本稿で記された諸々の観点からロシアが平和の破壊者であることをしっかり認識すべきである。弱い敵は強い敵に劣らず重大な脅威となるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年3月27日

ロシアによるウクライナでの戦争と西側民主主義への破壊工作

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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、アフガニスタンからの米軍撤退による国際政治上の力の真空を埋めようとするかの如くウクライナに侵攻した。この戦争はロシアと欧米の地政戦略上の衝突によって勃発した。しかしプーチン氏が最近発表した『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』と題された論文とは違い、彼のKGBでの経験から育まれたNATOとEUに対する反感はロシアの文化と歴史に根差すものではない。エリツィン政権期のアンドレイ・コズイレフ元外相は、それとは全く違う見解を唱えている。コズイレフ氏はNATO拡大を阻止するのではなく、ロシアがNATOと連携してゆく将来像を描いた理由は、大西洋同盟が攻撃的な軍事組織から共通の価値観に基づく同盟に変貌しつつあると見ていたからである。実際にコズイレフ氏はロシアをヨーロッパ文明に基づくヨーロッパ民主国家であるべきだと考えているが、それはプーチン氏の新ユーラシア主義とは真っ向から対立するものだ(“Open Door: NATO and Euro-Atlantic Security After the Cold War”; p.450 ; Brookings Institution Press 2019)。

 

この戦争に関する報道と分析のほとんどは地政戦略に関するものばかりなので、私はあまり注目されていない問題、すなわちロシアによる西側民主主義への破壊工作について、彼らにとっての敵国への内政介入から敵同盟の内部崩壊まで取り上げたい。それらの工作活動は西側の連帯を弱めることでロシアの世界的な地位を強化しようという意図で行なわれている。こうした目的に沿ってプーチン氏は特定のイデオロギーに拘泥はしていないが、トランプ政権登場とブレグジットによって世界的にはロシアと欧米極右の間の闇の関係が多いに注目されている。先日、イランがロシアのウクライナ侵攻と歩調を合わせるかのようにイラクのイルビルにミサイルを撃ち込んだ際に、『エルサレム・ポスト』紙は「ロシアはウクライナを自国の“近い外国“に戻すためにも、アメリカの孤立主義者、欧米の極右、極左、そして”リアリスト“達がロシアの”安全保障上の要求“を受け容れてくれることを期待している。イランもロシアの尻馬に乗ろうとしている」と結論付けている(“Did Russia empower Iran’s attack on Erbil? – analysis”; Jerusalem Post; March 13, 2022)。すなわち、プーチン氏が数十年にもわたって西側民主主義に対して行なってきた工作活動は、最近ウクライナで勃発した戦争と緊密に関わっているのである。

 

アメリカでは2016年の大統領選挙で、ロシアがドナルド・トランプ氏を当選させようと介入してきたことはあまりによく知られている。彼の政権は大西洋同盟には非常に懐疑的で、ロシアによるクリミア併合さえ認めたほどだった。社会保守派とオルト・ライトは、ポリティカル・コレクトネス、LGBTの権利、家族の価値観などをめぐって欧米のリベラル派と対立するプーチン氏に共鳴した。今回の戦争勃発後でさえ、マージョリー・テイラー・グリーン(MTG)下院議員に率いられたトランプ・リパブリカンは、アメリカ・ファースト政治行動委員会の会合で親プーチンのスローガンを叫んだ。その団体は2017年にシャーロッツビルで行なわれたネオ・ナチの行進にも参加したニック・ファンテス氏によって設立された。共和党では他にもマット・ゲーツ下院議員とポール・ゴサール下院議員がこの団体と深く関わっている。共和党エスタブリッシュメントは極右に重大な懸念を抱き、こうしたトランプ・リパブリカンの党からの除名を主張するほどだ(“Republicans tested by congresswoman’s speech to Putin-cheering white supremacists”; Times of Israel; 2 March, 2022)。

 

なぜトランプ・リパブリカンはそれほど親露なのだろうか? ロナルド・レーガンの伝記の著者、クレイグ・シャーリー氏は今の共和党では「ロシアに対する態度は全て内政と絡んでいる」と語る。極右の連邦議員からフォックス・ニュースのタッカー・カールソン氏にいあるトランプ・リパブリカンが親プーチンである理由は、「アメリカ・ファースト」の外交英策によって自国には全世界にわたる西側民主主義諸国の同盟から手を引いて欲しいとの考えからである。それはポピュリストがエスタブリッシュメントに対して抱く反感から来ている(“How Republicans moved from Reagan’s ‘evil empire’ to Trump’s praise for Putin”; Washington Post; February 26, 2022)。

 

ロシアは左翼もリアリストも手懐けている。そのように左傾したリアリストには、オバマ政権のエレン・タウシャー軍備管理・国際安全保障担当国務次官の補佐官を務めた、RAND研究所のサムエル・チャラップ氏がいる。今回の戦争勃発前にチャラップ氏は「対決的」なアプローチでは成果を見込めない以上、欧米はロシアとの国境紛争でウクライナへの支援を停止すべきで、ミンスク合意IIに基づきクレムリンの要求を受け容れるよう主張した(“The U.S. Approach to Ukraine’s Border War Isn’t Working. Here’s What Biden Should Do Instead.”; Politico; November 19, 2021)。しかしそれは致命的な誤りで、プーチン氏の真の意志が欧米の優位に対する根深い怨念に基づいていたことが見落とされていた。チャラップ氏が掲げたオバマ流左翼思想と一見洗練されたかのようなリアリズムの混ぜ合わせは「現実的」に見えたかも知れないが、それはロシアを増長させただけだった。

 

注目すべきはミンスク合意がドイツとフランスという、米英よりもロシアには柔軟姿勢の国による仲介ということだ。ライフライン・ウクライナのポール・ナイランド氏によれば、二度にわたるその合意ではクリミアとドンバスへのロシアの侵攻が非難されていないということだ。また、ロシアが占領を続けるドネツクとルハンスクでの将来の自治については何も言及されていない(“The Trouble With Minsk? Russia”; CEPA; September 21, 2021)。すなわちこの合意によってロシアはこれら二つの地域にプラスでクリミアを、日本の北方領土と同様に不法に占拠し続けることになった。これではウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が不満を抱くのも当然だが、プーチン氏は「もう充分!」とは全く思わない。

 

それではドイツとフランスはなぜ、そこまでロシアに対してハト派なのだろうか?石油と天然ガスのためだけか?英国王立国際問題研究所が昨年5月に発行した報告書によると、両国はアメリカからの戦略的自律性を追求し、ロシアをヨーロッパないし国際機構に取り込むことを重視していた。すなわち、両国はEUとロシアの関係を運営する「モーター」の役割を担うことを自負していた。ドイツは東方政策の伝統からエネルギーと経済での相互依存に注視している一方で、フランスはゴーリストの伝統から米露両国のバランをとるために安全保障の問題を注視している。そのような観点から、両国はミンスク合意とノルマンディー・フォーマットを通じてロシアとウクライナを仲介してきたが、ロシアにはそうしたものを真剣に受け止める気はなかった。クレムリンはプーチン氏による侵攻を前にますます攻撃的になり、独仏両国の努力でも為す術はなかった(“French and German approaches to Russia”; Chatham House; 30 November, 2021)。むしろ、それら取引によってプーチン氏が両国の戦略的自律性を悪用し、大西洋同盟に楔を打ち込むことになった。

 

両国の内政へのロシアの侵入についても述べたい。ドイツでのロシアの勢力浸透は石油と天然ガスよりもはるかに根深い。環大西洋社会の他の国と同様に、プーチン氏はドイツでも極右を扇動してNATOとEUの弱体化を謀り、またナショナリストと伝統主義の価値観の高揚によってリベラル民主主義を信用失墜させようとしている。親露派の声は左翼の社会民主党(SPD)にも広がっている。しかしスウェーデン国際問題研究所のアンドレアス・ウムランド氏は、SPDが軍事的脅威を前になおもモスクワに対して宥和的な東方政策をとり、ソフトパワーに頼ることは、プーチン氏によるウクライナ侵攻が迫った時点ですでに成り立たなくなっていると論評している(“Ukraine crisis spotlights German party ties to Russia”; The Citizen; January 30, 2022)。ドイツでの問題はゲアハルト・シュレーダー元首相のガスプロムおよびロズネフチと関わりに見られるように、主流派の左翼にまでロシアの影響力が及んでいることである。

 

フランスでもマリーヌ・ルペン氏とエリック・ゼムール氏からジャン=リュック・メランション氏にいたる極右と極左が、今回の戦争直前まではプーチン氏の反グローバル主義と反米的な世界観を称賛していた。本年4月10日に行なわれる大統領選挙に向けた選挙運動で、メランション氏はエマニュエル・マクロン大統領によるウクライナの主権保全の取り組みを、この国のNATO加盟を画策する陰謀だと非難した。右派の側ではルペン氏がプーチン氏のクリミア侵攻以来、ロシアとの関係正常化を主張してきた(How Putin is dividing French politics; Le Monde; 8 February, 2022)。アメリカの孤立主義者と同様に、フランスの主権主義者達は「ヨーロッパ連合、NATO、アメリカ合衆国に対する同様な嫌悪感の共有」というだけでプーチン氏を称賛している。彼らはロシアに対するウクライナの主権について軽視するという、自分達の主張の矛盾は一向に気にしない(French far-right candidates in Putin’s den”; Le Monde; 22 February, 2022)。

 

イギリスではブレグジット推進派のナイジェル・ファラージ氏が2014年にはプーチン氏のクリミア侵攻を称賛し、現在はEUがウクライナの加盟申請運動を許したとして非難している(“Nigel Farage once admitted he 'admires Putin politically'”; Daily Express; February 28, 2022)。左翼の側では、ジェレミー・コービン元労働党党首がソールズベリー毒攻撃事件でロシアを支持し、スクリパル父子への攻撃に続いてイギリス国民が毒殺されたことさえ意に介していない。さらに問題となることに、コービン氏は極左の下院議員達とともに「ストップ・ザ・ウォー」の運動に加わり、ロシアに対するイギリスとウクライナの「好戦性」を非難している(“Jeremy Corbyn sides with Russia (again)”; Spectator; 20 February 2022)。ここで注意すべきは、ストップ・ザ・ウォー(ツイッター:@STWuk)を「ノー・ウォー」というグラスルーツの無心な反戦スローガンと混同しないことだ。前者はイギリスのいかがわしい左翼団体で、ロシアのクリミア併合を支持したほどである。

 

ウクライナでの戦争によって上記のような親露派政治家への国内支持率は低下し、彼らも語調を和らげているかも知れないが、それでも彼らの言動を注視すべきである。停戦の合意が成ったとしても、ドネツク、ルハンスク、クリミアといった紛争地域の地位は明確に決定しないかも知れない。また、調停も一時的なもので、紛争の火種は残り続けるかも知れない。欧米は自国の内政へのプーチン氏の侵入行為について今回の戦争よりはるか以前から認識していたが、よりタカ派の米英でさえ自国へのロシア勢力の浸透に充分に強力な対策を講じなかった。今回の戦争で何が起ころうと、ロシアでプーチン氏と彼のシロビキ仲間達が権力の座にあり続ける限り、今後もそれら第五列マシーンを利用して西側民主主義を内部から破壊しようとし続けるだろう。今後とも警戒を怠ってはならない!

 

 

 

 

 

 

 

 

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2020年4月25日

ロシアの憲法修正と外交政策

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ロシアの下院と憲法裁判所は3月にウラジーミル・プーチン大統領による憲法修正を承認した(“Russian Lawmakers Adopt Putin’s Sweeping Constitutional Amendments”; Moscow Times; March 11, 2020および“Russia's constitutional court clears proposal to let Putin stay in power beyond term limits”; ABC News; 17 March, 2020)。多くの注意が向けられているのは、修正によってプーチン大統領の人気と地位がどうなるのかである。しかし私はそこから進んで、この修正がロシアの外交政策にどのような影響をもらすのかに言及したい。プーチン氏のナショナリスト外交は、国内政治でのロシア正教会との双頭支配という伝統主義と相互に関わり合っている。私はプーチン氏が今回の修正を通じて、世界の中でのロシアのプレゼンスをどのように高めようとしているのかを述べてみたい。

 

まず欧米の極右とのイデオロギー的な共鳴について記したい。ポスト・ソビエト時代の混乱の経験から、プーチン氏は欧米リベラリズムがロシアに突き付ける社会文化および地政学上の挑戦を強く警戒するようになった。プーチン氏がロシア正教伝統主義への回帰によってそうした政治的アノミーを克服しようとしていることは、同じようにリベラルなグローバル化を快く思わないヨーロッパと北アメリカの白人キリスト教ナショナリスト達からも喝采されている。彼らはソ連後のロシアとはキリスト教の伝統を共有していると信じている。きわめて重要なことにプーチン氏の憲法修正案ではロシア正教の価値観に基づき、神への信仰と異性間の結婚が明記されている(“Russia's Putin wants traditional marriage and God in constitution”; BBC News; 3 March,2020)。しかしそれは近代国民国家の原則、すなわち政教分離に対する完全な侵害である。基本的にそれは学校教育において進化論よりも聖書の天地創造論を教えるようにという、アメリカのキリスト教右派の主張と表裏一体である。

 

プーチン氏が掲げる帝政時代以来のキリスト教的価値観は、コロナ禍発生からほどなくして実行に移された。ロシアはイタリアに大々的なコロナ援助を行なっている。クレムリンはこの機をとらえて、この国への影響力拡大を謀っている。地政学的に、イタリアは冷戦期からNATOの「柔らかい下腹部」であった。当時のイタリア共産党は西ヨーロッパ最大で、イタリアという国も石油の輸入や現地自動車工場建設を通じてソ連とは緊密な経済関係にあった。ソ連崩壊後も、そうした強固な関係は続いている。極右であれ極左であれ、イタリアのポピュリスト達はヨーロッパでのガバナンスの透明性に対する厳しい基準に不満を抱き続けてきたため、EUの友好国や諸機関よりもロシアや中国の方を嬉々として受け容れている(“With Friends Like These: The Kremlin’s Far-Right and Populist Connections in Italy and Austria”; Carnegie Endowment for International Peace; February 27, 2020)。

 

特に北部ではロンバルディア・ロシア文化協会に対し、ロシアのキリスト教極右でWCF(世界家族会議)やNRAといったアメリカの右翼団体と深い関係にあるアレクセイ・コモフ氏が支援を行ない、ロシアの影響力が浸透している(“A major Russian financing scandal connects to America’s Christian fundamentalists”; Think Progress; July 12, 2019)。クレムリンと歩調を合わせるかのように、ハンガリーのビクトル・オルバン首相はコロナ危機を好機にとらえて議会を停止し、自らの独裁的権限をさらに強化している(“Orbán Exploits Coronavirus Pandemic to Destroy Hungary’s Democracy”; Carnegie Endowment --- Strategic Europe; March 31, 2020)。プーチン政権のロシアとヨーロッパの極右によるそうした一連の行動からすると、コロナ禍の発生によって国際政治の枠組の完全な変化よりもむしろ、事件以前のパワー・ゲームが加速している。

 

さらに目下の修正案は国際的な規範に異を唱えるものである。それには国際法に対する国内法の優位が記されている。実際にはロシアは2008年のジョージア侵攻、2014年のクリミア併合、自国内での頻繁な人権侵害など、国際法を侵害してきた。クレムリンは2012年にWTO加盟を果たしたものの、貿易の自由化には積極的でなかった。しかしこ今回の修正案はプーチン大統領の国内での支持者に対し、ロシアは欧米に対して断固と立ちはだかるという明確なメッセージとなっている(“Russian law will trump international law. So what?”; AEIdeas; January 16, 2020)。プーチン案には領土不割譲も記され、それによってロシアの近隣諸国、中でも日本とウクライナとの関係は複雑なものになるであろう(“Putin wants constitutional ban on Russia handing land to foreign powers”; Reuters; March 3, 2020)。

 

これら一連の修正項目は、プーチン氏の最も緊密な側近であるウラジスラフ・スルコフ氏が提唱する主権民主主義に基づく可能性が非常に高い。このイデオロギーの基本的な考え方は、ロシアの民主主義はこの国の主権と文化的伝統に深く根付いたものなので、西側から人権や権力分立といった国内問題での介入を受ける謂れはないというものである (“Putin's "Sovereign Democracy"; Carnegie Moscow Center; July 16, 2006)。オープン・デモクラシーは、それは知的な触発がないイデオロギーでプロパガンダに過ぎないと評している(“'Sovereign democracy', Russian-style”; OpenDemocracy; 16 November, 2006). 興味深いことにスルコフ氏の主権民主主義は、欧米の極右の間で信奉されるヨラム・ハゾニー氏のナショナリスト民主主義とも共鳴し、アメリカのトランプ政権内ではマイク・ポンペオ国務長官や駐独大使から転身のリチャード・グレネル暫定国家情報長官の思想にも相通じている。よってプーチン氏の憲法修正は、一般に理解されている以上にグローバルな意味合いが大きいのである。そうした中で4月22日に予定されていた今回の憲法修正の国民投票は、コロナ禍のために延期された (“Kremlin Mulls Date for Post-Virus Vote on Putin's Constitution Reform”; Moscow Times; April 22, 2020). それによってプーチン大統領の外交政策にどれほどの遅れが生ずるかは明らかではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2019年4月 3日

日本はロシアのヨーロッパと中東での地政学戦略を注視せよ

ウラジーミル・プーチン大統領は日本とアメリカの同盟関係は平和条約と北方領土問題の解決に向けた交渉の障害になると言って、日本国民には両国の間には大きな認識の相違があることを強烈に思い起こさせた(“Putin says 'Tempo has been lost' on Japan-Russia peace treaty”; Nikkei Asian Review; March 16, 2019)。二国間首脳会議が開催される度に日本の国民とメディアはロシアに対して、北方領土の返還にも前向きで中国に対するカウンターバランスにもなり、極東での二国間経済開発協力にも関与してくれると甘い期待を抱いてしまう。確かにプーチン氏はアジアへの転進を模索している。アジア太平洋地域はグローバルなパワー・シフトで重要性を増し、国内的には人口は少なく開発も進んでいないロシア極東地域には海外からの直接投資が必要である。しかしそのことでロシアが日本人の期待に沿うほど気前良くなってくれるわけではない。

 

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安倍首相とプーチン大統領の首脳会談

 

日露のやり取りについて語る前に、ロシアの地政学戦略でも特にヨーロッパと中東での基本的な原則を検証する必要がある。というのもクレムリンの思考と行動を見通すうえで、ロシアのフロント・ドア地域は学ぶべき教訓に満ちているからである。他方でアジア太平洋地域はクレムリンにとって戦略的なバック・ドアであり、当地でのロシアの影響力はソ連崩壊後に大幅に低下したために中国政府高官の中にはこの国は彼らにとってジュニア・パートナーだと揶揄する者もいるほどである。現在、東アジアでのロシアの戦略はヨーロッパと中東でのものほど明確ではない。よってロシアが両地域でどのように行動しているかを述べて、この国のグローバル戦略と対日政策を検証したい。

 

まずヨーロッパについて述べたい。プーチン氏が有名な発言でソ連崩壊は前世紀最大の地政学的な災難だと述べた(Putin says he wishes the Soviet Union had not collapsed. Many Russians agree.; Washington Post; March 3, 2018)ように、クレムリンの戦略的優先事項は旧ソ連およびワルシャワ条約諸国でのロシアの力の回復と西側同盟の弱体化である。だからこそロシアはウクライナでクリミアの併合とドンバスでの代理勢力蜂起の支援を行ない、コーカサス地域ではジョージア、南オセチア、ナゴルノ・カラバフなどでの民族宗派紛争に介入し、ベラルーシとの連合国家条約に調印した。さらにロシアはあらゆる手段で西側同盟を解体させようとし続けている。ロシアは冷戦後のNATOとEUの東方拡大に危機感を抱き、プーチン大統領はハンガリー、チェコ、スロバキアなどの旧ワルシャワ条約諸国での極右の台頭を支援した。さらに西ヨーロッパでも特にブレグジット国民投票をはじめ、オランダ、フランス、ドイツ、イタリアの国政選挙にも介入した。こうした工作活動によってヨーロッパ諸国の間および大西洋同盟に亀裂がもたらされた。

 

こうした観点から、私はプーチン氏が日米の同盟関係を分断すると本気で言ったものと受け止めている。ドナルド・トランプ氏の物議を醸した選挙公約と同様に、プーチン氏が日本に向けたメッセージはポーカー・ゲームではない。実際、セルゲイ・ラブロフ外相をはじめとするロシア政府高官は、日本国民に対して日米同盟とは袂を分かつようにと繰り返し要求した。実際のところクレムリンが日本にアメリカとの同盟を破棄するよう強要はしないだろうが、彼らは両国の安全保障パートナーシップに揺さぶりをかけている。プーチン政権が何年にもわたって介入し続けているヨーロッパでは親露極右政権がEUやNATOから離脱を模索するわけではないが、こうした国々は西側民主主義諸国による多国間機関を不安定化させている。北方領土と平和条約に関する二国間交渉を通じて、日本もプーチン氏による同盟破壊の標的に陥りかねない。日本の政治家は自分達の間で北方領土の二島返還か四島返還かという議論をしているが、そうした議論もヨーロッパとアジアでリベラル民主主義諸国の連帯を断ち切ろうとするプーチン氏の固い意志の前には意味をなさない。

 

また日本はロシアの中東での地政学戦略からも教訓を得られる。クレムリンはテロとの戦いにも地域秩序にも全く関心はない。プーチン大統領にとっての優先事項は熾烈なパワー・ゲームの中でロシアの力と影響力を最大化することである。だからこそシリアのアサド政権を支援してソ連時代からの海軍基地を確保しようとしている。またロシアは敢えて矛盾する政策も採っている。イランは中東で最も緊密なパートナーと言えるが、ロシアはイランの戦略的競合国であるサウジアラビア、そして域内主要国のトルコとカタールにもS-400地対空ミサイルを輸出している(“RUSSIA MAY SELL MISSILE SYSTEM TO QATAR, SAUDI ARABIA, SYRIA AND TURKEY, FUELING ALL SIDES OF MIDDLE EAST CONFLICTS”; News Week; January 25, 2018)。実のところクレムリンはイランとサウジアラビアの勢力均衡に気を配っている。両地域大国は自国の影響力を競い合っている。シリアではロシアはイランとともにアサド政権を支援しているがレバノン、イラク、イエメンでは状況は変わり、クレムリンはこれらの国ではサウジアラビア寄りの民族および宗派集団の支援さえ行なっている(“Balancing Act: Russia between Iran and Saudi Arabia”; LSE Middle East Centre Blog; 7 May, 2018)。日本はそのように冷徹な地政学を念頭に置くべきである。東アジアでは親米の日本をサウジアラビアに、反米の中国をイランに見立てることができる。プーチン政権下のロシアが日本のために中国の抑えになると期待するなど、あまりにも甘い考え方である。

 

ロシアが国際政治の熾烈な現実に基づいて行動する一方で、少なからぬ日本人が「文化的ロマンティシズム」に囚われている。彼らが言うには日本はアジアの一国としてロシアとの誇りある自主独立の外交を目指すべきで、欧米諸国とは一線を画すべきだということだ。何とも勇ましい限りだがロシアがグローバルな規模ではどのような行動原則に従っているかをほとんど考慮していないようでは、彼らのナショナリズムには中味も何もない。彼らが言うように日本の地理的な位置、民族および文化の上でのアジア性、欧米とは独自の政治文化的風土は見過ごせないが、そのように単純な感情論は欧米の極右と同様の思考様式である。大西洋諸国の過激派ナショナリストは白人でキリスト教徒というアイデンティティと社会的に伝統主義の価値観を共有しているというだけでプーチン大統領との自然な絆があると思い込んでいるが、常識をわきまえたものなら誰であれそれがいかに馬鹿げたことかはよくわかる。こうした観点から、日本国民を間違った認識から解放する必要がある。ヨシフ・スターリンは第二次世界大戦の最後に日本との中立条約を一方的に破棄したが、それはヨーロッパと中東でやってきたことと同じことをしたに過ぎない。ロシア人にとって日本は何ら特別な国でもないので、「文化的ロマンチシスト」達は同じ過ちを繰り返してはならない。

 

最後に日本の政策形成者達はロシア人が頻繁に口にする、日本の専門家に会うといつでも北方領土問題について聞かされるのでうんざりしてくるという不満の真の意味を再考する必要がある。私の理解では、それは文面よりもさらに深い意味があると思われる。ロシア人は日本人にはもっと「成長」して他の問題も議論できるようになって欲しいと言いたいのかも知れない。彼らが日本人を見る目線は、日本人が今もなお歴史認識に拘る韓国のナショナリストを見る目線と同じなのかも知れない。領土問題が日本にとって重要なことは当然だが、我々としてもそれと並行してロシア人の印象に残るような世界と地域の将来像を示さねばならない。さらに日本の専門家が逆に、日本人以外の諸国民がロシア人と会う時には何を話すのかと問い返してみればという興味もある。アメリカ人は何を話すのか?ヨーロッパ人ならどうか?中国人ならどうか?インド人、アラブ人、イラン人となるとどうなるのか? ここに挙げた諸国民はロシアのグローバルな地政学および地形学の戦略で重要な相手ばかりである。ロシア人がこの疑問に答えることがあれば、それは将来に向けた二国間外交に役立つかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2018年12月12日

ロシアの軍事力を支える資金源と物品調達体制の謎

ロシアが大国としては衰退してゆく一方で、中国がアメリカの覇権を脅かしているという専門家が増えてきている。GDPと国防費から見れば、ロシアはアメリカどころか中国とさえ競争相手にならない。IMFによる2018年の推計では、ロシアのGDPはカナダに次ぐ11位である。カナダは費用効果を優先した国防政策を採っているので、ロシアは過剰な軍事支出をしているようにも見えてしまう。ともかく楽観的な専門家でも特に中国に対する地政学的なカウンターバランスを求める日本人が考えるように、ロシアの脅威がそれほど容易かつ急速に低下する運命にあるという見解には疑問を抱かざるを得ない。中国がますます大きな脅威になることは間違いないが、だからと言ってロシアを軽く見て良いわけではない。プーチン政権は大々的な軍事力の増強を次々に打ち出し、そうした例には高度なアビオニクスを備えたスホイ35およびミグ35戦闘機、スホイ57やPAK-DAといったステルス戦闘機および爆撃機、高度なセンサーを備えたT-14戦車などが並ぶ。これら通常兵器に加えてプーチン政権下のロシアは核兵器についても、RSM‐56ブラバー潜水艦発射弾道ミサイル、9K720イスカンダル短距離弾道ミサイル、そしてプーチン大統領によるINF条約のディール・ブレーカーとして最近公表された悪名高き9M729巡航ミサイルといった新世代に向けた増強に乗り出している。実際にこれら兵器の多くはすでに配備されている。さらに、ロシアはシリアとウクライナでの戦争および紛争を抱えている。プーチン氏は充分な資金源もなく、これだけ大々的な軍事力増強を行なえるのだろうか?どうやらウラジーミル・プーチン大統領は不可能を可能にしているようだ。


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プーチン大統領のINF条約ディール・ブレーカー、9M729すなわちSSC-8巡航ミサイル


私はここ数年この問題に疑問を抱き続けてきたが、アトランチック・カウンシルのアンダース・アスランド氏の論説に問題の鍵を見言い出した(“It’s time to go after Vladimir Putin’s money in the West”; Washington Post; March 29, 2018)。同氏は元スウェーデン外交官で、1990年代にロシア、ウクライナ、キルギスタンへの経済顧問であった。アスランド氏によれば西側の財務秘密保持がロシア人による匿名の投資を可能にし、プーチン氏の取り巻きが資産運用を通じてロシア国内での自分達の権力維持をはかるばかりか、非対称戦争も含めた国防計画への支援も行われているのではないかと私は言いたい。それを簡単に述べたい。プーチン氏の仲間でも特にシロビキは、秘密警察と巨大国営企業の支配を通じて膨大な富を蓄積している。彼らは民間企業からの強奪、物価や株価の不正操作などによって資金を得ている。これらの資産は西側に移されるが、それは法の支配と投資機密性によって自分達の資産が守られるからである。西側からの度重なる制裁とマグニツキー法にもかかわらず、プーチン氏と彼の仲間は自分達のマネー・ロンダリングのためなら規制の抜け穴を見つけ出す。彼らの投資のほとんどはアメリカとイギリスに向かう。アメリカ財務省によれば2015年で3千億ドルものマネー・ロンダリングが行なわれたが、財務上の秘密保持によってそうした資金への詳細にわたる捜査は妨げられている。イギリスではキャメロン内閣がこうした投資の情報公開に踏み切ろうとした矢先に、EU帰属国民投票によって総辞職となってしまった。メイ内閣はソールズベリ毒薬事件にもかかわらず、この問題への意識は高くない。

しかし今年の3月にはロシア人投資家によるロンドンの高級物件買い占め、メイ首相がロシア・マネーに対して無警戒であると、労働党と自由民主党から厳しく批判された。その中にはイーゴリ・シュワロフ第一副首相(当時)が購入した国防省の近くの物件もある (“Russian elite must reveal how they paid for UK property, say MPs”; Guardian; 17 March, 2018)。さらに今年の11月にはヘンリー・ジャクソン・ソサエティーが、ロンドン在住ロシア人のおよそ半分がクレムリンのスパイだと記した報告書を出した(“Half of the Russians in London are spies, claims new report”; Daily Telegraph; 5 November, 2018)。アメリカとヨーロッパでの匿名投資の脅威に鑑みれば、安倍政権はロシアとの経済協力には慎重なアプローチを採る必要がある。さもなければ日本は西側の対露制裁の抜け穴に陥ってプーチン氏の取り巻きの資産運用に手を貸してしまい、彼らの国内権力基盤の強化、非対称および通常戦争能力の向上、そしてクレムリンの海外スパイ・ネットワークの構築の資金調達につながりかねない。すなわち東京がニューヨークとロンドンに代わる投資先になりかねない。ともかく資金の流れを追わなければ、西側の対露制裁は充分に効果を発揮しない。

匿名の対外投資の他に、プーチン氏が西側よりも国防優先の経済を追求できるロシア資本主義の性質を検討する必要がある。ここで再びアスランド氏による別の論説に言及したい (“Russia’s Neo-Feudal Capitalism”; Project Syndicate; April27, 2017)。プーチン政権下ではロシアの起業は再国有化され、縁故資本主義も蔓延している。ロシアのGDPに占める国営企業の割合は2005年の30%から2015年には70%に上昇している。国営化された企業は公益を優先するものと思われている。しかし現実にはそれら企業はプーチン氏の仲間が経営し、材料の調達と資産の売却は市場とは相容れない価格で行なわれる。問題は縁故資本主義にとどまらない。額面ではロシアの国防費はアメリカ、中国、サウジアラビアに次ぐ第4位で、アメリカのおよそ1/9である(“TRENDS IN WORLD MILITARY EXPENDITURE, 2017”; SIPRI Fact Sheet; May, 2018)。しかしプーチン大統領のシロビキ仲間による縁故資本主義では、軍事産業は自分達の事業のために多大な特権を享受できる。非常に興味深いことにロシア製の兵器はそれに対応する欧米製の兵器どころか、中国製のものよりも安価である。そうした各国兵器のユニット・コストの例を挙げれば、アメリカ製のF-22は1億5000万ドル、F-35は8920万~1億1150万ドル、イギリス主導のユーロファイター・タイフーンでは1億240万ドル、フランス製のラファールで7830万~8990万ドルとなるのに対し、ロシア製のスホイ57では5000万ドル、スホイ35でも4000万~6500万ドルにしかならない。他方で中国製のJ-20は1億~1億2000万ドル、J-31で7000万ドルである。ロシア製兵器の研究開発費も西側諸国以上に低く抑えられているかも知れない。

当然ながら我々がロシアの兵器を過大評価してきたことは1976年のベレンコ中尉亡命事件に見られる通りで、当時の西側の専門家達は恐るべきミグ25がスピードこそ速いもののそれまで思っていたほどの性能はないことを知った。ともかく公正な市場経済ではアメリカの最新鋭兵器と競合しようという兵器を、たとえ技術水準が若干低くてもそれほど低価格で製造することは不可能である。この観点から、ロシアの軍事力は額面の国防費より強力だと見なすべきだろう。また、この国と中国との力のバランスについても再考がひつようである。極東では中国が人口とGDPでロシアを圧倒しているが、一帯一路のようなユーラシア規模の戦略では中国がロシアのシニア・パートナーとはとても言えないことは、ウイグル問題への稚拙な対応を見ての通りである。また、プーチン大統領は自らの国防計画が経済的に持続可能と考えているようだ。忘れてはならぬことはプーチン氏が西側の専門家がユーラシアの超大国が崩壊するなど夢想だにしなかった時期に、早くからソ連に見切りをつけていたことである。このことはプーチン氏が軍事力競争と経済的持続性のバランスを強く意識していることを示唆している。ともかくロシアの力について適正な評価を下すことが肝要である。さもなければ対露制裁を含めたいかなる政策も充分に効果的にはならない。ロシアの資金調達と国防物品調達体制に関しては、知られていない事柄はあまりにも多い。

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2018年8月 8日

ヘルシンキでのトランプ大統領によるプーチン大統領への危険な宥和

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自信に満ちたプーチン大統領と不安そうなトランプ大統領


ドナルド・トランプ大統領の選挙チームが2016年の大統領選挙でクレムリンとの共謀が疑われていることもあって、ヘルシンキ首脳会談についてアメリカの外交政策の論客達と情報関係者が重大な懸念を抱いていたが、それは正しかったことが明らかになった。当初の予想通り、トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領との共同記者会見においてメディアと安全保障の専門家達からの批判の渦を巻き起こした。この共同声明の全文書き下しを見ての通り、両首脳はクリミアやシリアといった重要な問題について詳細には語らずにこれらの問題をめぐる相互の見解の相違を述べただけだった(“Read the full transcript of the Helsinki press conference”; Vox; July 17, 2018)。そのためトランプ氏がプーチン政権によるクリミア併合を認めたのか、またシリアをロシアに委ねるのかは不明である。ともかくトランプ氏にはクリミア併合の合法性、およびシリア難民の人道的処遇についてプーチン氏に強く要求を押し出す意図などなかったものと理解されている(“Putin didn’t have to push the Kremlin’s narrative. Trump did it for him.”; Brookings Institution; July 20, 2018)。そうした中でトランプ氏はロシアは選挙に介入しなかったとプーチン氏が言うのでそれを信じると発言したので、あまりに安易に相手の言い分を受け入れる態度に批判が紛糾した。トランプ氏はアメリカの情報機関よりもプーチン氏を信頼すると言ったばかりか、ミュラー捜査で12人のロシア人スパイへの取り調べをさせる見返りにクレムリンが不都合と見なすアメリカ人および同盟国民に対する尋問をロシアの情報機関に認めるとまで言明した(“Trump Says He Lay Down the Law in His Latest Account of His Meeting With Putin”; New York Times; July 18, 2018)。

プーチン氏がトランプ氏にロシア当局による尋問を要求した人物には、クレムリンが反プーチン的な外交活動をしていたとするマイケル・マクフォール元駐露大使、元MI6工作員でトランプ文書でトランプ氏のロシアとの緊密な関係と不名誉な行状について記したクリストファー・スティール氏、ロンドン在住のビジネスマンでロシアから15億ドルを違法に持ち出してヒラリー・クリントン氏の選挙運動に4億ドルの献金を行なったとしてプーチン政権から指名手配を受けているビル・ブラウダー氏らの名が挙がっている。非常に重要なことに、ブラウダー氏はロシアの人権侵害に対する制裁を科す目的のマグニツキー法の成立のためのロビー活動を行なっていた(“White House says Trump to discuss allowing Russia to question US citizens”; Hill; July 18, 2018)。プーチン氏の要求に応じてアメリカおよび同盟国の国民の身柄を引き渡すなら、トランプ氏が固執する国家主権とは明らかに矛盾する。特にマクフォール元大使への取り調べというプーチン大統領の要求は言語道断で、しかもアメリカが国際刑事裁判所から距離を置いているのは自国の外交官を敵国から守るためである(Twitter; Richard Haass; July 19, 2018)。さらに重要なことにトランプ氏がプーチン氏との間で成した無分別なディールは、ウィーン外交関係条約の外交特権の侵害になる。トランプ氏はマクフォール氏のようなオバマ政権の高官、そしてスティール氏やブウラダー氏のように彼に不利な行動をとった者への個人的な復讐のためには、アメリカの主権などプーチン氏に切り渡してしまうように見受けられる。トランプ氏はロシアとの和解によって有権者の間で自身の人気が高まると思っていたが、逆に議会から超党派の激しい批判を浴び、政権内からもマイク・ペンス副大統領、ジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官、ジョン・ケリー大統領首席補佐官らホワイトハウスの陣営の加えてジェームズ・マティス国防長官とマイク・ポンペオ国務長官がトランプ氏とプーチン氏の間のディールに危機感を唱えた(“Pence, Bolton, Kelly confronted Trump in Oval Office about Russia comments”; Chicago Tribune; July 21, 2018)。

実際に外交政策の識者達はリベラルだろうが保守だろうか、トランプ氏とプーチン氏の和解には失望している。アメリカ政治へのロシアの介入にこだわっているのはリベラルの人達で、それはトランプ氏を貶めるためだという見方は全くの間違いである。現在の共和党はもはやレーガンやリンカーンではなく「プーチンの党」とまで言われるほどナショナリストで孤立主義になってしまったが、責任ある識者達はグラスルーツ保守の間で広まるそのように視野の狭い党派主義には染まっていない。アトランテック・ジャーナル誌のジェームズ・ファローズ氏は大統領がロシアの国益を優先する有り様に衝撃を受け、共和党支持者は党に忠誠を誓うのか国家に忠誠を誓うのかと問いかけている(“This Is the Moment of Truth for Republicans”; Atlantic; July 18, 2018)。ブッシュ政権のスピーチライターを務めたデービッド・フラム氏は、アメリカ政府はプーチン大統領とのディールについて何か聞いているのか、そのようなディールが存在するならトランプ氏はその意味が本当に分かっているのかという深刻な懸念を表明している(“The Worst Security Risk in U.S. History”; Atlantic; July 19, 2018)。マックス・ブート氏はさらに辛辣で、トランプ氏がプーチン氏と成したディールはアメリカ国民に対する敵対行為であり、彼の許し難い国家反逆をとりあげたことはメディアの大きな手柄だとまで述べている(“We just watched a U.S. president acting on behalf of a hostile power”; Washington Post; July 16, 2018)。自らを保守と見なす有権者の多くがトランプ氏を夢中で支持する有り様は非常に嘆かわしい。フォックス・ニュースによると共和党支持層の88%がトランプ大統領の職績を肯定的に評価している(Twitter; Fox News; July 24)。プーチン大統領がトランプ氏にロシア政府による捜査を認めるようにと要請したマクフォール氏とブラウダー氏はインタビューで、そうした過剰な要求はクレムリンがマグニツキー法にどれだけ戦慄しているかを示すものだと答えている(“Deeply disappointed”: Michael McFaul opens up about threat of being turned over to Putin by Trump”; Salon; July 20, 2018)。トランプ氏がそうした背景と外交的なやり取りの基本を理解しているか否かはともかく、彼はオバマ政権期の成果の破棄とミュラー捜査への直接的あるいは間接的な協力者への報復しか考えていないように思われる。

何よりも、トランプ氏が通訳以外に誰も同伴させずにプーチン氏と会談したことは非常に奇妙である。太ってたるんだ肉体の不動産屋上がりなど、筋肉質で引き締まった肉体の旧KGBエリートにはとても敵わぬことはホモ・サピエンスの常識である。チーム・アメリカになってはじめてチーム・ロシアと同等あるいはそれ以上に渡り合うことができるのである。それではトランプ氏がプーチン氏と一対一の会談を望んだのはなぜだろうか?外交問題評議会のリチャード・ハース会長は、こうした交渉スタイルはトランプ氏のビジネスマンとしての経験に由来すると述べている。トランプ氏は外交においても個人的な関係を重視している。官僚が準備した会談よりもトランプ氏が臨機応変の会談を好む理由は、相手方とより自由に議題を設定できるからである。しかし合意について公式の文書のない会談では何をすべきという義務も定義されないので、最終的にはディールの実施をめぐって相互不信になりかねない。双方が何かで見解の相違にいたった時にはディールの内容を読み直す手段がない。トランプ氏はそうした危険を軽視しているので、プーチン氏やキム氏など奸智に長けた独裁者のカモになりかねない(“Summing up the Trump Summits”; Project Syndicate; July 25, 2018)。またトランプ氏はロシアとの共謀が疑われていることから、さらなる考察が必要である。ワシントン・ポスト紙およびロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのアン・アップルボーム氏はロシアと英米の右翼がケンブリッジ・アナリティカを通じて情報を共有していたと指摘しているが、この会社がクレムリンによる選挙干渉でトランプ氏を支援したことはメディアの注目を集めた。ロシアおよび東ヨーロッパを専門とするアップルボーム氏は、オルタナ右翼のブライトバート・ニュースと緊密な関係にあったこのコンサルティング会社を通じて先に挙げた「悪の枢軸」がどのように形成されたかを説明している。ケンブリッジ・アナリティカはケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン氏を通じて8700万人のフェイスブック利用者の個人データを違法に入手し、トランプ氏、ブレグジット運動そしてテッド・クルーズ上院議員の選挙運動まで支援した。ロシアのインターネット・リサーチ・エージェンシーはケンブリッジ・アナリティカと共同でトランプ選挙チームと選挙情報を共有し、特定の有権者を標的にしたと疑われている。例を挙げると、トランプ氏の支持者には反移民のメッセージを送って立ち上がるように促し、黒人の有権者には歪曲された情報を送りつけて投票意欲を削いだ。ケンブリッジ社のデータが彼らの違法工作に一役買ったと考えるのは当然である(“Did Putin share stolen election data with Trump?”; Washington Post; July 20, 2018)。

ヘルシンキ首脳会議は、トランプ氏の国家に対する忠誠と外交上のやり取りへの理解不足以上に深刻な問題を露呈している。トランプ政権の発足時にはワシントン政治の観測者達は「政権内の大人」によって大統領の気質や不可測性には対処できると言ってきた。その後、レックス・ティラーソン国務長官とH・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官は更迭され、後任にはトランプ氏への忠誠とナショナリスト色の強いマイク・ポンペオ氏とジョン・ボルトン氏がそれぞれ就任した。しかし両人はトランプ大統領との関係が近くとも、プーチン氏とキム氏を相手に彼が行なおうとした準備不足でしかも危険な一対一外交を阻止できなかった。さらにトランプ氏はジェームズ・マティス国防長官をも遠ざけるようになり、軍事問題に関しても自分が主導権を握ろうとしている(“Trump is reportedly turning on Mattis and taking US military matters into his own hands”; Business Insider; July 25, 2018)。またジョン・ケリー首席補佐官自身がトランプ氏の任期終了まで現職に留まるとメディアに語っても、首席補佐官の大統領との緊張関係の噂は絶えない(“John Kelly, Trump’s chief of staff, says he will stay in role through 2020”; PBS; July 31. 2018)。閣僚達が大統領の歯止めとならないなら、プーチン氏との間には公開されていない合意もあるのだろうか?それはきわめて危険である。ドナルド・トランプ氏のコアな支持層はヘルシンキ首脳会談で露呈したきわめて憂慮すべき欠陥など気にもかけないだろうが、こうした問題を追及することは見識ある人々の責務であり、我々も俗悪なポピュリズムに迎合すべきではない。


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2018年7月16日

トランプ・プーチン首脳会談で世界秩序は破壊されるか?

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米露両国の首脳会議では、大国間の競合をめぐる世界の戦略的な光景が特にヨーロッパと中東で変わるとも考えられる。ヘルシンキで7月16日に開催される太った男と筋肉男の首脳会談は、北朝鮮という特定の核の脅威についての交渉に過ぎなかったシンガポールでの太った男と太った男の首脳会談よりもはるかに重要である。さらに、この首脳会談が開催される時期に合わせて12人のロシア人スパイが2016年アメリカ大統領選挙への介入で起訴された("U.S. accuses Russian spies of 2016 election hacking as summit looms" Reuters; July 14, 2018)。ヘルシンキ首脳会談と事前のNATO首脳会議を前に、ドナルド・トランプ大統領はドイツからの米軍撤退ばかりかロシアのクリミア併合承認まで口走って、批判を招いた。これは西側同盟と国際政治での法の支配の完全な否定である。さらにスティーブン・ウォルト氏はNATOとEUがなければヨーロッパは戦前のような国家中心の競合の場となるので、どちらの多国間安全保障機関もアメリカの国防費削減に一役買っていることをトランプ氏は理解していないと指摘する(“The EU and NATO and Trump — Oh My!”; Foreign Policy—Voice; July 2, 2018)。アメリカの安全保障関係筋ではヨーロッパ同盟諸国の不安を鎮めようとあらゆる手を尽くしている(“Withdrawal of U.S. troops from Germany is not being discussed, U.S. ambassador to NATO says”; Washington Post; July 5, 2018 および “Pentagon: White House did not request plan to withdraw Germany troops”; Washington Examiner; June 29, 2018)。クリミアに関してはジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官が7月1日放映のCBSニュース「フェイス・ザ・ネーション」に出演した際に, トランプ氏がプーチン政権による非合法的な強奪を承認しないと確約することができなかった (Twitter; Richard N. Haass; July 2, 2018)。さらに問題となるのは、トランプ氏がスタッフの同伴なしにロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談することである(Twitter; Richard N. Haass; July 4, 2018)。

トランプ氏とプーチン氏は強権的なリーダーシップを好み、同盟を尊重しないという思考様式で共通している(“Trump hopes he and Putin will get along. Russia Experts worry they will”; Washington Post; July 29, 2018)。よって専門家達はトランプ氏が選挙介入とシリアでプーチン氏に宥和姿勢をとるのではという危機感を抱いている。そうした中でトランプ政権はシリア南西部でヨルダンとロシアに支援されたアサド政権の間での停戦を模索している。そうした事情からトランプ氏はロシアとの妥協に余念がないが、アメリカの政府高官はアサド政権が再び化学兵器を使用しないか警戒している(“Trump is kowtowing to the Kremlin again. Why?”; Washington Post; June28, 2018)。アメリカの同盟国の間でもイギリスとウクライナはそれぞれが、ソールズベリ毒攻撃とクリミアおよびドンバスでのクレムリン代理勢力の活動によってロシアと厳しい対立を抱えている。そのため両国ともヘルシンキで致命的なディールが結ばれないかという重大な懸念を抱いている(“First Trump-Putin summit has Cold War backdrop, U.S. allies nervous”; Reuters: June 28, 2018)。最も危険な問題点は、トランプ氏がアメリカ外交にとっての同盟の重要性を評価できないままにプーチン氏と会談することである。ビクトリア・ヌーランド元駐NATO大使は、戦後を通じてアメリカの歴代大統領はヨーロッパ同盟諸国の支持を固めてソ連およびロシアの指導者との会談に臨んだが、トランプ氏はNATOがアメリカの対露外交に多大な力を及ぼしていることを理解していないがためにこうした立場を弱体化させていると論評する。さらにロシア国民はシリアやクリミアでの軍事的な成功によって自分達の愛国心を満足させるよりも、西側の制裁解除による経済の好転を望んでいる。言わばアメリカはロシアとの外交上のやり取りで相手よりも強い立場にある。しかしヌーランド氏はトランプ氏がクリミアや選挙介入の件でロシアとの妥協に傾き過ぎることで、最終的にプーチン大統領の立場を再び強くしてしまうのではないかと深刻な懸念を述べている(“In Two Summits, a Moment of Truth for Trump”; New York Times; July 6, 2018)。

しかし問題がトランプ氏自身より根深いのは、共和党がプーチン大統領が仕かける工作の簡単な餌食に陥ってしまったからである。以前の共和党はクレムリンに対してはより強硬であり、ビル・クリントン政権がボリス・エリツィン政権のロシアをG8に加盟させる決定を下した際には警戒の念をあらわにしていた。しかし現在の共和党が国家安全保障よりも党利党略を優先していることは、ヒラリー・クリントン氏のeメールへのロシアのハッキングの一件に典型的に表れている。このような雰囲気の中で、トランプ氏は外交政策のエスタブリッシュメントが長期的な同盟関係の構築に向けてきた取り組みを無下にあしらい、自分のビジネスの利益のための外交を追求している。それがかれの個人的な勝利のために行なわれるディール志向の外交である(“The Trump-Putin summit in Helsinki”; Economist; July 5, 2018)。そうした共和党の劣化に関してブルッキングス研究所のジェイミー・カーチック氏はさらに分析を進めているが、ここで注目すべきはジェブ・ブッシュ氏やマルコ・ルビオ氏の下であれば彼が共和党の外交政策の一翼を担っていた可能性のある人物だということである。よって「トランプの共和党」についてこれから述べる批判は、間違っても民主党革新派の観点からではない。クリントン氏のeメールの件で最も致命的な問題は、選挙期間中に大多数の共和党政治家はロシアが盗み取ったeメールを入手してクリントン氏への誹謗中傷を行なったことである。見過ごしてならぬことは、マイク・ポンペオ現国務長官もプーチン大統領とウィキリークスが仕掛けたこの誹謗中傷に積極的、しかも事情を承知のうえで関与したということである。共和党の中でもジョン・マケイン氏やマルコ・ルビオ氏などごく一部がプーチン政権の工作への支援を拒絶した。実のところアメリカの保守派の間で親露的な考え方が見られるようになったのはトランプ氏の台頭以前のことで、特に反LGBT運動など社会問題において顕著になっていた。またプーチン氏とトランプ氏の支持層は世界的に広まるミー・トゥー運動を馬鹿にしきっている。ポリティカル・コレクトネスやグローバル化に困惑した今の共和党支持層は、プーチン氏がKGBでの経験を通じて抱くようになった非自由主義的で反西欧的な価値観に惹かれるようになっている。彼らのアメリカ第一主義がプーチン氏の世界観と共鳴するのは、リベラルな世界秩序を下支えするNATOやEUのような多国間安全保障機関に対して彼らが懐疑的だからである。これぞ共和党の政治家や支持層が今や国家よりも党利党略を優先するようになった重要な理由である。「レーガンの党」はこのようにして「プーチンの党」に堕落してしまったのである("How the GOP Became the Party of Putin"; Politico: July 18, 2017)。

最後にヘルシンキ首脳会談がヨーロッパと中東を超えて及ぼすであろう影響について述べたい。中国外務省はこの首脳会談がグローバルな課題を解決するうえで一役買うことを望むと表明した("Trump-Putin Summit: China says meeting should help solve global problems"; CGTN; June 29, 2018)。そうした中でインドはトランプ政権がユーラシアから手を引くようになれば、この大陸全土で自国の影響力を強める新たな好機が訪れると見ているが、ヨーロッパはその結果もたらされる巨大な力の真空を憂慮している("Raja Mandala: Trump, Putin and future of the West"; Indian Express; July 3, 2018)。中国と北朝鮮の脅威増大に直面する日米同盟は、トランプ氏の問題発言はあっても表面上は上手く機能しているように見える。しかし彼の法外な選挙公約が本気であってハッタリでないことは、全世界を相手にした貿易戦争や先のNATO首脳会議での罵詈雑言にも見られる通りである。重要な問題は世界の中でのアメリカの役割と同盟ネットワークについて、トランプ氏が基本的にどのように考えているかである。ヨーロッパでも見られたように、トランプ氏は在韓米軍の撤退を口にして、日本を含む東アジア諸国の間に不安が広がった。それらの失言からは、彼の経営センスに基づく視点からはアメリカの同盟国など負債としか見ていないことがわかる。さらにウクライナでのクリミアおよびドンバスへの侵入、ソールズベリでのロシアの元スパイとイギリス人一般市民に対する毒攻撃、ヨーロッパとアメリカでの選挙介入といったクレムリンの所業に対するトランプ氏の宥和的なアプローチでは、国際政治における法の支配を侵害するプーチン氏の行動に青信号を発したのも同然である。それでは南シナ海での航行の自由作戦へのアメリカの関与にも疑念が生じる。また、ヨシフ・スターリンによる非合法的な北方領土の強奪に対する日本の訴えも土台から揺らいでしまう。トランプ・プーチン首脳会談にはあまりにも多くの懸念材料がある。


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