2016年1月 6日

新年への問いかけ:今日の世界秩序不安定化の第一原因はソ連崩壊後のロシア政策の失敗にあるのか?

新年にあたって、ソ連崩壊後のロシア政策に我々が失敗したことが現在の世界不安定化の第一原因なのかどうかという問題提起をしてみたい。そうであるならば、その結末はどうなったのか?我々は共産主義の終焉によって歴史の終わりがもたらされ、それによって世界から紛争もなくなると信じ込んでいた。実際にはロシアは混乱に陥り、世界はその後に混乱を深めている。私の見解では、国家間の力のバランスの変化よりも西側の価値観への幻滅こそが今日の世界を語るうえで重要だと考えている。

ソ連崩壊の直後、我々は共産主義の専制政治から解放された国々には民主主義と自由市場体制が広まることに何の疑いも抱いていなかった。我ら冷戦の勝者が抱いた期待はあまりに単純素朴であり、ロシアおよび旧ソ連共和国の社会経済的な移行を支援するために充分な関与を行なわなかった。これは第二次世界大戦の勝者がとった行動とは著しい対照をなす。連合国は日本とドイツの軍備解体と民主化に邁進し、旧敵国の安定と繁栄に多大な資材とマンパワーを投入した。こうした取り組みの成果は「過剰な」成功で、復興した日本と西ドイツはアメリカとイギリスにとって経済的に手強い競争相手となった。しかし私はこれを当時のアメリカの「自然な衰退」とは見なさない。むしろ、それはロバート・ケーガン氏の最新刊の題名のように「アメリカが作り上げた素晴らしき今の世界」とみなすべきもので、実際に両国ともG7に名を連ねているように西側同盟に不可欠なステークホルダーとなった。この成功はアメリカ外交政策の金字塔である。

アメリカ、そして一部はイギリスの排外的孤立主義達は自国が経済的苦境にある時には旧敵国が再興してきたと恐怖心を煽り立てたが、そうした者は全くの間違いであったことが白日の下に晒された。アメリカの悪名高き大統領候補ドナルド・トランプ氏やイギリスのナイジェル・ファラージ英国独立党党首の例にも見られるように、そうした考え方に魅了されるような人々はその国の中でも嗜好、見識、道徳、そして知性のいずれにおいても最も貧困な部類の有権者層である。その国で最良の人材(crème de la crème)なら国際主義者であることが当然であり、自分達の国が世界の中で果たすべき役割への問題意識が高いものである。

冷戦の勝者達がロシアに対してそのように寛大な支援もしなければ、かつての敵国の軍備解体も行なわなかったことは遺憾である。勝者達はロシア国民が社会経済的変化に苦しみもがく姿を横目に、ただ資本主義についてご高説を垂れるばかりであった。ロシアの新しい資本主義はカルビン主義の精神を欠いて経済格差を拡大するだけだった。オリガルヒは享楽的に振る舞い、「稼ぐが勝ち」の資本主義を当然視していた。これではロシア人が西側の資本主義と自由に幻滅しても何ら不思議ではない。実際のところ西側の資本家は必ずしも公衆に対するロールモデルにはならず、享楽的で贅沢な生活を送ることも稀ではない。しかし彼らはビジネスとサービスにイノベーションをもたらしている。他方でロシアのオリガルヒはソ連時代からの古い産業から搾り上げた利益で自分達の富を蓄積しただけである。戦後の日本と西ドイツとは違い、ロシアの資本主義は国際舞台で競争力のある産業を生み出さなかった。石油や天然ガスといったエネルギー資源の輸出に大いに依存しているということは、ロシアがまだ「離陸期」さえむかえていないばかりか経済的には第三世界にとどまっていることを意味する。ロシアは世界的にも優れた科学者と技術者に恵まれているが、その多くはソ連時代から続く軍事産業に職を得ている。これら航空宇宙産業からは国際的に競争力のある民間機は製造されていない。

ソ連崩壊が起きたのは最悪のタイミングのようにも思われ、というのも当時はネオリベラルが何の疑いもなく信奉する自由放任の経済的グローバル化という考え方が席巻していたが、社会主義的思考を抜け出せない人々にとってそのような社会は災難以外の何物でもなかった。競争本位の資本主義を教え込むのではなく、我々はロシアを北欧型の福祉国家に変貌させて共産主義からのソフトランディングをはかれたかも知れない。ロシアを我々に友好的で民主的な巨大なスウェーデンに変えることはできなかった。ロシアでのネオリベラル資本主義の失敗によって、バンクーバーからウラジオストクにいたる欧州共通の家という夢は完全に崩壊した。ロシアは新たな日本やドイツにも巨大なスウェーデンにもなれなかった。歴史は終焉せず再び始まったのである。

こうした事態によって世界の安全保障には甚大な悪影響が及んだ。西側の資本主義と自由という理念はロシアのみならずその他の国々でも色褪せた。そうした国々は西側中心の世界秩序と価値観に異を唱えるようになった。1990年代には東南アジア諸国がアジアの価値観を掲げ、人権侵害に関する西側の批判を跳ねつけた。ソ連崩壊後のロシア政策の失敗がもたらす波及効果はこのようにして世界各地に広がっている。中国の台頭がもたらす脅威についても、我々がロシアの友好的な民主国家への変遷に成功していればもっと小さなものだったかも知れない。我々は北京共産党の支配に対して立ち上がる中国の市民を支援するうえで圧倒的に有利な立場であったろうし、地政学戦略的には、我々はこの北方の巨人と手を組んで中国の拡張主義への対抗と封じ込めをすることもできたであろう。さらに国際世論はネオコンが主張するような反西欧的な専制体制の打倒による中東の民主化にも、そうした考え方を反映してブッシュ政権が行なったイラクとアフガニスタンでの戦争にも、もっと共鳴していたかも知れない。そうなれば現地のテロリストも反乱勢力も現在ほど勢いづくこともなかったであろうが、それは彼らが本質的に弱小な軍事勢力であって国際社会を向こうに回して戦うにはプロパガンダに大きく依存しているからである。世界は今よりはるかに素晴らしきものだったであろうし、指導力の発揮を躊躇するオバマ大統領にも排外主義丸出しのトランプ氏にも振り回されることもなかったであろう。両氏ともイラク戦争による厭戦気運の副産物である。

戦後の日本とドイツでの民主化は勝者にとっても敗者にとっても素晴らしきものであった。遺憾なことに冷戦ではこうは運ばず、この戦争の勝者達は敗者の自己改革の支援に熱心とは言えなかった。我々、冷戦の勝者は「勝って兜の緒を締めよ」という日本の武士の格言には従わなかった。この失敗の影響は全世界に広まり、西側の価値観が色褪せるようになると多くの国々と非国家アクターが我々に対抗どころか敵対さえするようになった。しかしプーチン氏の時代も彼が不死ではない以上、遅かれ早かれ終わる。我々はポスト冷戦期の経験から教訓を学び、将来に向けて備えるべきである。これは共産主義による専制の崩壊を目の当たりにした時期に我々が思い描いた世界を再建してゆくための第一歩である。よって、新年に当たってこのことを問題提起したい。


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2015年3月13日

プーチン大統領は核大国の責任を果たす気があるのか?

国連安全保障理事会の常任理事国の指導者ともなれば、大西洋憲章と国連憲章に記されているように国際公益を守るために責任ある行動をとるものとされている。しかしウクライナ危機以降にロシアが新たに打ち出した核戦略ドクトリンとヨーロッパでの挑発的な行動から、プーチン政権は大国としての責務と責任を果たすよりもその地位を濫用しているのではないかと疑わざるを得ない。プーチン氏が核による威圧を行なえば国際安全保障は不安定化するのみである。そうした問題をはらみながら、ロシアはイランでのP5+1協議と北朝鮮での六ヶ国協議の両方で当事者となっている。よってウラジーミル・プーチン大統領が世界の核の脅威を低下させる責任を果たすかどうかを批判的に問いかけねばならない。

新核戦略ドクトリンよりも以前から、ロシアは核戦力を強化してきた。最近になってボレイ級潜水艦に配備されたブラバーSLBMは敵のミサイル防衛システムを通り抜けられる。さらに問題なのはイスカンダル移動式戦域弾道ミサイルで、アメリカ側はこれを1987年の中距離核戦力全廃条約に対する違反だと非難している(“Russia’s deployed nuclear capacity overtakes US for first time since 2000"; End the Lie; October 6, 2014)。核攻撃能力の拡大を背景に、ユーリー・ヤクボフ退役陸軍大将はインテルファクス通信社に対してロシアは敵への先制核攻撃ができるように軍事ドクトリンを改訂し、アメリカとNATOが最も重大な安全保障上の脅威だと明言すべきだと語った("Russian General: Bring Back Pre-emptive Nuclear Strike Option Against NATO”; Breitbart News; 3 September 2014)。新ドクトリンがヨーロッパで広く懸念されているのは、近年になってロシアの強硬姿勢が目立つからである(“Insight - Russia's nuclear strategy raises concerns in NATO”; Reuters News; February 5, 2015)。

ウクライナ危機が深まるとロシアはイギリス上空に頻繁に侵入するようになった。英空軍のタイフーン戦闘機がスコットランド上空でTu95爆撃機の侵入阻止をするのは日常茶飯事となり、中にはさらに南下してイギリス海峡まで飛来して核兵器ミサイルまで搭載している機体もあった。サー・トニー・ブレトン元駐露大使は西側のウクライナ介入に関してイギリスに怒りの意を示したいのだと述べている(“Putin showing UK 'what we are taking on' with Russian bombers, former UK ambassador claims”; Independent; 7 March, 2015)。ロシアは海からも侵入してくる。英海軍のフリゲート艦「アーガイル」はイギリス海峡でロシアのフリゲート艦「ヤロスラフ・ムードルイ」と補給艦「コラ」を追跡した(“UK Navy's HMS Argyll tracks Russian warship in English Channel”; Naval Technology; 18 February 2015)。さらに危険な事件では、ロシアの軍事偵察機がデンマーク発でスウェーデン沖を飛行中のSAS旅客機とニアミスを引き起こしている。デンマークとスウェーデン両国は民間飛行の安全のためにロシア大使を呼び出して事情説明を求めた(”Scandinavians warn Russia after air near-miss”; Financial Times; December 15, 2014)。

プーチン大統領はロシアの力を誇示したいがために核の脅威を増幅しているだけで、国際安全保障での責任ある当事者として振る舞う気などないように思われる。ロシアの先制攻撃ドクトリンとヨーロッパの海空での威嚇行為は、イランと北朝鮮の非核化交渉の当事者としての資格に疑問の余地を持たせる。実際にイランと北朝鮮でのロシアの行動は核不拡散よりも地政学上のパワー・ゲームを志向しているようにさえ見える。我々はプーチン氏の優先順位が欧米との競合と核軍備管理のどちらにあるのかを批判的に検証するべきである。

イランとの核交渉の当事者でありながら、プーチン政権はP5+1の役割と矛盾するような挑発的な行動にも出ている。クリミア危機と並行して、ロシアは昨年2月よりイランと二国間経済協力に向けた交渉を開始し、民間用原子力発電所の建設を支援する見返りにルコイル社への石油および天然ガス開発の利権供与を持ちかけた。イランのメフディ・サナイ駐露大使は、16世紀以来の友人であるロシアがイランの市場で優遇されるのは当然だと述べた(“‘Friends from Russia should have advantage in the Iranian market’ - Iran’s ambassador”; RT; February 17, 2014)。実際にロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、ロシアはウクライナ危機で欧米から受けた制裁に報復措置をとると語った(“Russia May Alter its Position on Iran in Standoff With West” ;Global Security Newswire; March 20, 2014)。欧米の批判にもかかわらずロシアはイランで原子炉2つの建設を行なうと合意した。どのような原子力技術であれイランへの移転は危険だという批判も挙がっている。非常に問題なのは、現在交渉中の原子力協定ではイランのウラン濃縮能力が制限されない。しかしオバマ政権はこの協定自体への反対を引き下げた。その一方でアメリカと同盟諸国はイランにウラン濃縮の停止を要求した(“Russia Reaches Deal With Iran to Construct Nuclear Plants”; New York Times; November 11, 2014)。

濃縮ウランに関しては、2009年にイランは自己申告した医療用の低濃縮ウランをロシアとフランスに輸送し、そこで核燃料に加工することで合意した。しかしその合意では申告されない濃縮ウランまでカバーしていない(“Iran Agrees to Send Enriched Uranium to Russia”; New York Times; October 1, 2009)。しかしイランは今年の初旬にアメリカとはそのような合意はしていないと表明した(“Iran says no deal with U.S. to ship enriched uranium to Russia”; Reuters News; January 3, 2015)。核協定はそれほど脆弱なので、低濃縮ウランがロシアに輸送されてもその国の行動まで規制できないと思われる。核交渉が第一次合意にいたったその日、プーチン政権はイランに新型のアンテイ2500防空ミサイル・システムの売却を決定した。ロシアがハイテク兵器の輸出に踏み切ったことでイランに対する国際的な制裁が空洞化しかねない(“Putin Throws Wrench in Iran Nuke Talks”; Fiscal Times; February 23, 2015)。


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スホイ35スーパー・フランカー


ロシアは北朝鮮とも関係強化をはかる行動に出ているが、それもまた核拡散に手を染める国を勢いづけることになる。昨年よりモスクワや極東地域の州からロシアの政治家が北朝鮮を頻繁に訪問し、貿易と投資の促進と北朝鮮からシベリアに通じる鉄道網の整備を話し合った。北朝鮮外務省は本年初旬に経済のみならず政治面と軍事面でもロシアとの関係を拡大すると述べたが、ロシアは北朝鮮に対する国際的な制裁もあって軍事援助は再開していない。しかし北朝鮮はミグ17、ミグ21などソ連時代の旧式戦闘機に代わる兵器として、ロシア空軍最新鋭のスホイ35戦闘機の購入に強い関心を示している。現在のところロシアは国際的な制裁を遵守しているが、北朝鮮が一度スホイ35を手にすれば核兵器の運搬手段を得ることになるので我々としても注意深く見守る必要がある。北朝鮮は弾道ミサイルを開発したが、核弾頭はそれに搭載できるほど小型化していない。しかしスホイ35があれば北東アジア一帯に北朝鮮が核攻撃できるだろう。もちろん、ハドソン研究所のリチャード・ワイツ政治軍事分析センター長が主張するようにロシアが最新鋭戦闘機を輸出して制裁に違反するリスクを冒すよりも、航空機器のスペア部品を民間用と偽装して北朝鮮に供給する可能性の方が高い。いずれの場合もプーチン政権が北朝鮮に対する核不拡散のための制裁を骨抜きにするかどうか、注意深く見守らねばならない(“Moscow and Pyongyang: From Disdain to Partnership?”; Diplomat; February 19, 2015)。

新戦略ドクトリン、ヨーロッパ、イラン、そして北朝鮮でのプーチン政権の行動に鑑みて、ロシアは国際安全保障における核の脅威を増幅させているうえに、フランクリン・ローズベルトが構想した戦後の世界秩序における大国の役割を果たしていない。プーチン大統領には世界の核安全保障問題でもっと責任ある行動をとるように要求する強いメッセージを発するべきである。その一環として、国際社会はロシアを国連安全保障理事会の常任理事国から除名するというのはどうだろうか。実際にはロシアに拒否権があるので、これはきわめて難しい。より現実的に、世界各国の指導者達が第二次世界大戦終結70周年の声明で大国の責任について言及すべきだと私は提案したい。今や21世紀であり、この70年間に主要国がとった行動の方が日本やドイツが過去に犯した過ちよりもはるかに重要である。ドイツのアンゲラ・メルケル首相の場合はロシアに対する柔軟政策からすると、こうした案には関心を持たないだろう。他方で日本の安倍晋三首相にとっては70周年談話で責任を果たさない大国に言及することは有益である。

今年の2月には中国の王毅外相が中露両国で「反ファシズム・抗日戦争勝利70周年」式典を開催して日本の「右翼」を抑え込み、両国が第二次大戦の戦勝国としての地位をこれからも維持してゆくと語った(「安保理公開討論:中国外相『侵略ごまかそうとする者いる』」;毎日新聞;2015年2月24日)。安倍首相がアメリカとの共同談話で戦後の民主的で平和な日本を強調する際には、中露枢軸への対抗のためにも大国の責任に言及すべきである。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員はロシアと中国が挑発的な行動をとっているのは自国の防衛のためでなく、欧米主導の世界秩序で傷つけられた自分達のプライドを満たすためだと論評している(“The United States must resist a return to spheres of interest in the international system”; Brookings Institution blog --- Order from Chaos; February 19, 2015)。これはこの記事で述べたようなプーチン大統領の瀬戸際外交や地政学的なパワー・ゲームに顕著に表れている。よって核安全保障はロシアが責任ある大国の資格を満たしているのかを問い質すためには重要な問題なのである。


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2014年11月 7日

ロシアに空から包囲されるヨーロッパ

ウクライナ危機を契機にロシアとNATOの緊張が高まるにつれて、ロシア空軍はバルト海および黒海方面からだけでなく、ノルウェーおよびスコットランド沖の北大西洋上の空域からもヨーロッパを包囲している。このことはロシアが東西両前線からヨーロッパのサプライ・ラインを切断できることを意味する。このニュースが私の注意をひいたのは、イギリス空軍の公式フェイスブックでスコットランド上空に飛来するロシアの爆撃機に対してタイフーン戦闘機がスクランブルを行なっているとの情報を頻繁に目にするからである。特に10月29日にロシアがNATO空域で行なった挑発行為は多発的で大々的なものだった。ベルギーのモンスにあるNATO軍司令部付きのジェイ・ジャンセン報道官は「この24時間以内に行なった我々の観測を通じて、ロシア軍機の数とその一部の飛行計画はこれまでに見られなかった規模だと断言できる」と述べた(“NATO says Russian jets, bombers circle Europe in unusual incidents”; Washington Post; October 29, 2014)。それはアメリカ戦略軍が毎年行っている「グローバル・サンダー」演習の時期を見透かしたかのように行なわれた。『エービエーショニスト』誌のリチャード・クリフ校正員はロシアも演習に参加した米軍機と同様な長距離爆撃機を飛行させたと指摘する(“Spike in Russian Air Force activity in Europe may be a reaction to large US Strategic Command bombers exercise”; Aviationist; October 30, 2014)。

スコットランドのアレックス・サモンド自治政府首相は上空での緊張をもっと意識する必要がある。スコットランドが連合王国の国防の傘によってロシア航空兵力の侵入に対する必要があるのは明白であり、事態はファスレーン海軍基地を母港とするトライデント戦略ミサイル原潜の問題をはるかに超越したものなのである。西方前線でのロシアの包囲網はポルトガルにまで拡大している。スコットランド空域は、そうした動きを阻止するために重要である。興味深いことに、イギリスやノルウェーのような西方前線の国がバルト海および黒海地域の「新しいヨーロッパ」の国々と同様にロシアから直接の脅威を受ける一方で、「古いヨーロッパ」の国々はそうはでない。これはドイツに代表される「古いヨーロッパ」がイギリスや「新しいヨーロッパ」よりもロシアに柔軟姿勢である理由の一つかも知れない。ヨーロッパにおけるロシアの脅威を論ずる際に、メルカトル図法のように標準的な世界地図を見慣れていると東方前線にばかり目を奪われがちである。ロシアの海軍と空軍はムルマンスク周辺からバレンツ海を通ってスコットランドの海空域に進出することができる。


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歴史的に見て、ノルウェーからスコットランドにいたる海空域は大国の係争の場である。両世界大戦ではイギリスとドイツが激しくたたかった。冷戦期にはこの海域がソ連の水上艦隊および潜水艦勢力に対するNATOの防衛線であった。今日ではこの海空域は英露衝突の場である。私はノルウェーからスコットランドの海空域がロシアの支配下に入ればアジアとヨーロッパを結ぶシーレーンが切断されかねないと主張したい。最近になって北極海航路の潜在性にアジアとヨーロッパ双方の政策形成者達が注目している。しかしカナダ沖の航路をとったとしても、大国がぶつかり合う海空域に国際的な商業船舶が入り込んでしまえばロシアの甚大な脅威に直面するだろう。

こうした観点からすれば、ロシアの海軍攻勢も注視しなければならない。アメリカのジョナサン・グリナート海軍作戦部長はウクライナ危機よりロシアの潜水艦の動きが活発化しているが、水上艦隊の方は老朽化が目立つと語っている(“CNO Greenert: Russian Navy ‘Very Busy in the Undersea Domain’”; USNI News; November 4, 2014)。海中の脅威に対抗するにはハンター・キラーとも呼ばれる攻撃型原子力潜水艦が有効な手段の一つとなる。ファスレーン海軍基地は世界最強のハンター・キラーの一つと言われるアステュート級潜水艦の母港でもある。同級艦には最も効果的なソナー・システムが装備されている(“Astute Class Submarines”; BAE Systems Products)ので、潜水艦のように隠密性が要求される兵器体系が「ファースト・ルック、ファースト・ショット、ファースト・キル」を行なううえで非常に有利になる。スコットランド周辺の空と海は、ロシアの進出を阻止するうえではそれほど戦略的に重要なのである。

ここでロシアが東アジアでも同様な行動をとっていることを銘記すべきである。日本の航空自衛隊はロシア軍機に対してこの6ヶ月以内に533回のスクランブルを行なっているが、これは昨年同時期の308回より大幅に増加している(“Russian Jets Invading Japan Airspace In Record Numbers Over Past Year, Japan Wants To Know Why”; Inquisitr; October 19, 2014)。ウラジーミル・プーチン大統領が何を言おうとも、これが日本に対してロシアが行なっていることである。我が国はNATOと同様な脅威に直面しているのである。ナショナリストや左翼は日本がウクライナ危機に関して欧米から自主独立路線をとるべきだと主張する。絶対的な事実はそうした主張をきっぱりと否定している。そうした主張をする人達はクレムリンが深層心理では日本に対して好意的だという証拠を握っているとでも言うのだろうか。

ヨーロッパとアジアはロシアという共通の脅威を抱えている。よって双方は戦略的な政策調整を深化する必要がある。ヨーロッパ諸国の中でも東アジアとの関係強化に最も積極的なのはイギリスで、それは再優先化(re-prioritisation )という語によく表れている(“Does Britain Matter in East Asia?”; Chatham House Research Paper; September 2014)。 スコットランドと北海道の安全保障情勢はそれほどまでに似通っている。

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2014年6月30日

イラクはロシア製スホイ25を有効に活用できるか?

これがスホイ25対地攻撃用戦闘機である。この戦闘機は旧式ではあるが、イラクのヌーリ・アル・マリキ首相はアメリカからのF16およびアパッチの到着の遅延を座視できなくなっている。そこでロシアからスホイ25戦闘機を受領し、イラクおよびアル・シャー無のイスラム国家との戦闘に投入する。アメリカから訓練を受けたイラク軍のパイロットが、かつてサダム体制化の空軍に配備されたソ連時代の戦闘機を操縦できるだろうか?



上記のビデオはチェチェンで戦闘任務に従事したスホイ25。

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2014年6月 4日

中国とイスラム

ツール・ポワチエ間の戦い以来、イスラムと西欧の激突こそ最も歴史を左右する文明の衝突だと一般には思われている。しかし中国が昨年9月にGDPよりも先に石油輸入量でアメリカを抜いて世界第一位になってしまったので、イスラム世界との新たな衝突相手として浮上するであろう(“China surpasses US as biggest oil importer”; New York Post; October 10, 2013)。これは中国とイスラム諸国との接触が増え、そのためにアフリカで見られるように摩擦も増えることを意味する。これによって欧米の支配からイスラムの解放者、そして途上国のリーダーを自任する中国の立場は揺らぐであろう。また中国経済は欧米以上にイスラム圏での政治的動向に対して脆弱となる。

アメリカのエネルギー情報庁による「中国カントリー・レポート2012年」によれば、中国への主要石油輸出国の中でイスラム諸国はサウジアラビア(1位)、イラン(3位)、オマーン(5位)、イラク(6位)、スーダン(7位)、カザフスタン(9位)、クウェート(10位)となっている(“Fueling a New Order? The New Geopolitical and Security Consequences of Energy”; Brookings Institution; April 15, 2014)。これほどまでイスラムの石油に依存しているとあっては、中国は中東と中央アジアで綱渡りの外交および内政政策をとって自国の経済的権益を守り、国際舞台での勢力強化をはかっている。

中東で中国が戦略的に重視している国はイラン、サウジアラビア、トルコである。イランはイスラム革命以来、中国とは緊密な関係を保ってきた。しかしペルシア湾岸ではイランとサウジアラビアと対立する大国同士であり、中国も両国の微妙なバランスをとらねばならない。イスラエルはテヘランの核の脅威を恐れているが、サウジアラビアが懸念しているのはイラクからバーレーン、シリア、レバノン、イエメン、自国の東部にいたるシーア派包囲網の確立による湾岸地域でのイランの覇権である(“Next Test for Obama: Soothing the Saudis”; Los Angels Times; March 24, 2014)。今春に行なわれた軍事演習では、サウジアラビアは中国製の東風3弾道ミサイルを誇示した。サウジアラビアはこのミサイルを1988年に輸入していたが、今回の演習までそれを極秘にしていた。CIAによればサウジアラビアは2007年にはより高度な東風21を輸入しているが、それはまだ公開されてはいない(“Saudi missile parade a signal to Iran, Israeli defense expert tells ‘Post’”; Jerusalem Post; May 1, 2014)。

サウジアラビアはオバマ政権によるイランとの対話に重大な懸念を抱いている。チャック・ヘーゲル国防長官は今年5月の湾岸協力会議でアメリカがペルシア湾岸諸国との安全保障上の関係を犠牲にすることはないと言ってアラブ同盟諸国を宥めねばならなかった (“Hagel Says Iran Deal Won’t Weaken Gulf Security”; Eurasia Review; May 15, 2014)。アメリカの安全保障の傘が信頼性を失っているように思われては、サウジアラビアが中国に接近しても不思議はなく、中国もそこから石油を輸入している。しかし中国はサウジアラビアとイランの地政学的あるいは宗教的な対立に本気で関わる気があるのか? そうした問題を抱えながらも中国は石油輸出の得意先として好感を持たれながら危険な事態の責任を全面的にアメリカに担ってもらい、そして一部をイギリスやフランスに担ってもらえるような立場にはない。中国には1960年代から80年代の日本が当然視していたようなことはできないのである。中国は自分だけでこの地域のパワー・ゲームに関わり、影響力の拡大と石油供給の確保を目指さねばならない。武器輸出はこうした目的のために重要な政策なのである。

トルコのような非石油輸出国も中国の武器輸出の潜在的な市場となる。イスラム復古主義を掲げるエルドアン政権の下ではアフメト・ダウトール外相がトルコをアフロ・ユーラシア圏の中核に据えようと、欧米よりもイスラムとアジアへの接近をはかり、ケマル主義から脱却しようとしている。中国は自国の中東およびユーラシア戦略のために要石となるような国への影響力を強めようとしている。これはトルコと欧米同盟諸国との間の中国製ミサイル論争に典型的に表れている。中国精密機械進出口総公司(CPMIEC)は自社の対空ミサイル・システムの売り込みのために、低価格および技術移転の条件緩和といった好条件を提示している。レッド・チャイナはレイセオン=ロッキード・マーチン連合やユーロサムといった欧米企業を押しのけんばかりの勢いで、大西洋同盟も崩壊させかねなかった。しかしNATO同盟諸国の圧力によって、トルコは中国とのミサイル取引を白紙に戻した (“Why Turkey May Not Buy Chinese Missile Systems After All”; Diplomat Magazine; May 7, 2014)。日本の安倍晋三首相も昨年10月にレジェップ・エルドアン首相との会談でトルコの中国製ミサイル輸入中止に一役かっている(「トルコが中国製ミサイルの購入を白紙に 米欧の圧力、安倍首相の訪問が原因か―中国メディア」;新華社ニュース;2013年10月31日)。 しかし国防大学インターンのデニース・ダー氏によると、ミサイル取引の一件は中国が新興経済諸国の防衛市場に浸透する能力が恐るべきものだということを示している。

そうした大躍進にもかかわらず、中国は中東での影響力強化には決定的な弱点がある。最近行なわれた南インド洋でのマレーシア航空の遭難機探索の任務では、中国は水上戦闘艦艇18隻、沿岸警備隊舟艇、民間輸送船、砕氷船から成る大艦隊を派遣した。中国が真の外洋海軍となるには海外に海軍補給ネットワークが必要なことが明らかになった。中国は今回の任務ではオーストラリアの港湾を使用しているが、インド洋から太平洋にいたるシーレーンの国々のほとんどはアメリカの同盟国である(“Search for MH370 reveals a military vulnerability for China”; Reuters News; April 22, 2014)。中国の政治的および経済的プレゼンスが増大すれば現地住民との接触も増加し、そうなると中国人が過激派に攻撃される可能性も高まる。空母「遼寧」に見られるように中国の海軍力は急激に強化されてはいるが、海軍への支援能力が不充分な現状では中東での中国の戦力投射能力は向上しないだろう。

中央アジアは内陸で近隣でもあるので、中国は海軍への支援体制を気にかける必要はない。しかし中国はすでにアフリカばかりか反欧米の同志ともいうべきロシアの極東地域でも、天然資源の収奪と環境破壊という悪名を博している。イスラム圏との経済的取引が増えれば、中国と現地住民の摩擦もそれに伴って増えてくるだろう。このことは新疆にも影響を及ぼすだろう。非常に興味深いことに世界ウイグル会議のラビヤ・カーディル総裁は、中国がウイグル人には抑圧的な政策をとりながら、中央アジア近隣諸国の不興をかわぬためにも他のイスラム少数民族にはそうした政策をとらないと論評している(“Incidents of unrest in the East Turkestan reflect a Uighur Awakening”; The New Turkey; November 6, 2013)。中国はいつまで新疆でそうした分割統治を続けられるのだろうか?中央アジア諸国住民との経済摩擦および文化摩擦は中国の北西部辺境地帯に容易に飛び火する。ウイグル人の抵抗は今年になって強まっている(“Q&A: Xinjiang and tensions in China's restive far west”; CNN; May 23, 2014)。中国の石油浪費経済は彼の地の紛争を激化させかねない。

中国とイスラムの衝突は中東と中央アジアにかつてないほどの不確実性をもたらす。従来から中国はタンザン鉄道への援助に見られるように、自らを西欧帝国主義に立ち向かう途上国のリーダーと位置付けてきた。しかし今日では中国は欧米と並んで現地過激派の憎悪の標的になる可能性の方が高い。イスラム過激派にとってカフィールはカフィールであり、相手がキリスト教徒であろうと非キリスト教徒であろうと、また白人であろうと非白人であろうと同じであることは銘記すべきである。イスラムとの衝突は中国と地政戦略上の対抗相手との関係にどのような影響を与えるだろうか?特に日米両国、そしてヨーロッパとの関係がどうなるか注目すべきである。

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2014年4月30日

カルザイ政権後のアフガニスタンとアメリカの継続的関与

アフガニスタンの大統領選挙はアブドラ・アブドラ元外相とアシュラフ・ガニ元財務相の間で激戦となっているが、アフガニスタン独立選挙委員会(IEC)は両候補とも第一次投票では過半数を獲得できなかったと述べた。選挙は二次投票の決選に持ち込まれる (“Preliminary Afghan vote results released”; Khaama Press; April 26, 2014)。この選挙は以下の点からアフガニスタンの治安の行方を占ううえで重要である。ハミド・カルザイ大統領は憲法で三選が禁止されているので、今回の選挙はアフガニスタン史上初の平和的な権力移譲となる。また治安の権限も今年末までにNATO主導のISAF(国際治安支援部隊)からアフガニスタン政府に移譲される。

今回の選挙を前にした3月24日、アメリカン・エンタープライズ研究所はフレデリック・ケーガン重大危機プロジェクト部長の司会でカルザイ政権後のアメリカの対アフガニスタン政策の公開討論会を開催した。このイベントが重要な理由は、NATO軍撤退後のアフガニスタンと地域の安全保障に超党派の戦略が模索されたからである。ゲスト・スピーカーには共和党側からアダム・キンジンガー下院議員とRAND研究所のセス・ジョーンズ国際安全保障および国防部長が、民主党側からセンター・フォー・アメリカン・プログレスのキャロライン・ワダムス上級フェローが招かれた。パネリストと参加者達はBSA(二国間安全保障合意)、域内大国の動向、そして現地住民の生活といった広範囲にわたる課題を議論した。さらにアメリカ外交と世界秩序の観点から、アフガニスタンはアメリカが厭戦気運からの孤立主義を乗り越えられるかという重要な試金石でもある。以下のビデオを参照されたい。



現在、アメリカはシリアからウクライナまで次々と出てくる新しい外交案件に目を奪われがちだが、9・11テロの教訓を考慮すればアフガニスタンでの戦争を軽視することは全く間違っている。フレデリック・ケーガン氏が明言したように、アメリカに対する脅威は海外からでなく両党の孤立主義からやって来る。パネリスト達は党派やイデオロギーの違いにもかかわらず、アフガン戦略を党利党略に利用することには一致団結して反対し、国際主義者は手を携えて国民の問題意識を高めるべきだと主張した。中でもキンジンガー下院議員はイラクでのテロとの戦いに空軍パイロットとして従軍した経験から、アメリカのアフガニスタンへの関与の重要性を強調した。カルザイ氏はアメリカ軍の戦闘による一般市民への被害を理由にBSAの調印を引き伸ばしているが、キンジンガー氏はロヤ・ジルガから市民社会にいたるアフガニスタン国民はアメリカの味方だと強調した。現地を訪問してアフガニスタンの指導者達とも会見したキンジンガー氏は、アフガニスタンの治安部隊ではタリバンやアル・カイダと戦うだけのプロ意識も高まり、脱走兵の割合も急速に下がったと述べた。

しかしオバマ政権は当時のロバート・ゲーツ国防長官が2011年以降も数千人規模の兵力を駐留させるよう主張したにもかかわらず、イラクに充分な兵員を残さなかったことは周知の通りである(“Redefining the Role of the U.S. Military in Iraq”; New York Times; December 21, 2008)。バラク・オバマ大統領は明らかに厭戦気運に浸った世論に迎合したのである。それによって、アル・カイダが再び台頭したイラクからシリアにジャバト・アル・ヌシュラが入り込むという致命的な結果をもたらした。そのためにキンジンガー氏は、政治家はどれほど不人気でも必要な政策なら選挙民に語る勇気を持つべきだと主張する。そしてアメリカは自由と正義を代表すべき存在だとも主張する。シリアで見られたように、保守の国際介入反対派は「祖国から離れた地」の人々のためにアメリカ人が犠牲になることには消極的で、特に彼らが半ば敵視しているイスラム教徒のためともなればなおさらである。他方でリベラルの反対派は海外でのアメリカの軍事的プレゼンスには謝罪姿勢である。そうした中で民主党のボブ・ケーシー上院議員は2014年以降のアメリカの関与について、リベラルでは数少ない賛成派である。アフガニスタンの治安はワシントンの国際主義者が超党派で連携できるかどうかにかかっている。

アメリカ国民はなぜ継続的な関与にそれほど乗り気でないのか?ワダムス氏はオバマ政権がアフガニスタンから手を引こうとしているのではないかという、広く行き渡る誤解に反論した。オバマ政権がジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官といった重要閣僚をアフガニスタンに派遣して地域安全保障の将来を話し合っていることがその証左だという。しかし国民はブッシュ政権期から長きにわたって続く戦争に嫌気がさしている。さらにアメリカ国民が国際的な関与の正しさを信じきれなくなったのは、国際情勢への深入りに対する幻滅に加えて国内経済の立て直しの優先を願うようになったからである。ワダムス氏はさらに、アフガニスタンで人権侵害や腐敗の問題が深刻になればアメリカ国民は失望するであろうとも述べた。東京会議では支援国がカルザイ政権に160億ドルの援助と引き替えに腐敗の撲滅に取り組むように要求した(“Afghanistan aid: Donors pledge $16bn at Tokyo meeting”; BBC News; 8 July 2012 および「アフガニスタンに関する東京会合 東京宣言 権限移譲から『変革の10年』におけるアフガニスタンの自立に向けたパートナーシップ」;外務省;2012年7月8日)。厭戦気運に関しては、フレデリック・ケーガン氏がアメリカ国民のほとんどは海外の戦争とは無縁かつ無関心の生活を送っているという興味深い事実に言及した。クリントン政権期から、ブッシュ、オバマ政権期にいたるまで、戦争がアメリカの債務を増加させていないとケーガン氏は述べている。アメリカ国民は戦争の犠牲などほとんど受けていないばかりか、戦争の負担に不満を述べる資格があるのは人口の1%に過ぎないという。ケーガン氏が述べたような事態は、オバマ氏が議会にシリア爆撃を持ちかけていた時期にアメリカのメディアはマイリー・サイラスに関する報道をシリアの12倍も流していたという事実に顕著に表れている(“Americans prefer Miley to Syria stories by huge number”; USA Today; September 9, 2013)。

アフガニスタンに対する国民の無関心を考慮すれば、アメリカのプレゼンスがどうして必要なのか理解させるために彼らを教育する必要がある。非常に驚くべきことに、キンジンガー氏はアメリカ国民の90%がカルザイ氏はこれから1月余りで退任することを知らないと語った。しかし幸運にも二次投票で大統領の座を争うアブドラ氏もガニ氏もBSAに対してはカルザイ氏より積極的である。ジョーンズ氏はアメリカがアフガニスタンに留まるべき戦略的な必要性を以下の理由から簡潔に述べている。アル・カイダその他のテロリスト達はアフガニスタンとパキスタンの国境地帯では依然として活発で、そこを根城にアメリカ、ヨーロッパ、インドを攻撃することができる。またジハード主義者達はアメリカの撤退を自分達の勝利だと解釈しかねない。よってアメリカとNATO同盟諸国はタリバンおよびアル・カイダの掃討とアフガニスタン軍の訓練のためにも充分な兵力を留めねばならない。しかしオバマ政権はここに来てアフガニスタンでのアメリカ軍の継続駐留規模は1万人どころか5千人にも満たないものになると示唆したが、これではISAF司令官のジョセフ・ダンフォード海兵隊大将や他のNATO軍将官の勧告よりもはるかに少ない兵力となってしまう(“Exclusive - U.S. force in Afghanistan may be cut to less than 10,000 troops”; Reuters News; April 22, 2014)。オバマ大統領が厭戦気運に浸る国民に迎合しようと望むなら、それは彼がイラクで犯したような致命的な誤りとなって跳ね返る。現在、イラクではシーア派民兵とイラク・レバントのイスラム国(ISIL)の間の宗派間の緊張は高まっているが、2011年の撤退もあってアメリカがそうした紛争を調停するだけの影響力は大きく低下している(“Historic Iraq Election Brings New Uncertainties”; Council on Foreign Relations; April 28, 2014)。

BSAとカルザイ政権後のアフガニスタンの治安について語る際に、近隣諸国の情勢も考慮する必要がある。ジョーンズ氏が当日のイベントで述べたように、アフガニスタン近隣のステークホルダーにはロシア、中国、インド、パキスタン、そしてイランといった核保有国および潜在的核保有国が並んでいる。欧米の不用意な撤退によって力の真空が生じてしまえばインドがジハード主義者との戦いのために介入しかねず、そうなるとアフガニスタンはカシミールのようにインドとパキスタンの衝突の場と化してしまうとケーガン氏は述べている。さらに警戒すべきことに、イランが2014年以降のアフガニスタンでの影響力の拡大を模索している。BSAは自国の安全保障に対する重大な脅威だとして公然と非難している国はイランだけだということを銘記すべきである。実際にカルザイ氏はアメリカとイランを天秤にかけている。イランのハッサン・ロウハニ大統領がカーブルを訪問してノウルーズを祝った際に、この「占領国」に留まる外国軍は撤退すべきだと訴えた(“Iranian President visits Kabul, describes Afghanistan an occupied nation”; Khaama Press; March 28, 2014)。アブドラ氏もガニ氏もBSAには積極的だが、カルザイ氏の影響力はカーブル政界に残るであろうし、イランは共通の文化的伝統を通じてこの国への浸透を模索している。

ロシアと中国は中央アジアでの地政学的観点からアフガニスタンでの欧米のプレゼンスを好ましく見てはいない。しかし両国ともイスラム過激派を恐れているのでアフガニスタンと近隣諸国の安定を必要としている。まずロシアについて述べたい。ブッシュ政権期よりクレムリンは中央アジアのアメリカ空軍基地の存在を自国の勢力圏への侵入と見なしてきた。ロシアは中国とともにこの地域からの米軍の撤退を求めて圧力をかけた(“Q&A: U.S. Military Bases in Central Asia”; New York Times; July 26, 2005)。ロシアはタジキスタンとの軍事基地協定を批准して中央アジアからアメリカの影響力の排除をとともに、ISAF撤退後のアフガニスタンの混乱が彼の地に及ばぬようにした(“Ratification of Russian military base deal provides Tajikistan with important security guarantees”; Jane’s Intelligence Weekly; 1 October 2013)。キルギスタンではアメリカがマナス基地をアフガニスタンでの戦争への補給支援に利用する一方で、ロシアがカント基地を保有している。エネルギー資源は豊富だが腐敗と貧困に悩まされる中央アジア諸国にとってアメリカのプレゼンスは自国の経済を救済する天与の恵みである(“The United States in Central Asia”; Economist; December 7, 2013)。現地での駐留兵力削減を視野に入れたアメリカは、アフガニスタンとパキスタンにあるテロリストの根拠地を攻撃するための無人機の基地を中央アジアで物色している。しかし問題はロシアと中国の反対だけではない。アフガニスタン北部で国境を接する3ヶ国にも問題はある。タジキスタンは親露色が濃すぎる。ウズベキスタンには深刻な人権問題があり、トルクメニスタンは永世中立国である(“Where In Central Asia Would The U.S. Put A Drone Base?”; Eurasia Net—The Bug Pit; February 17, 2014)。

中国はアメリカがアフガニスタンと中央アジアで強固なプレゼンスを築くことによる自国への包囲網だけでなく、ウイグルの自由への動きを刺激することを懸念している。高い経済成長によって、中国は昨年9月にはアメリカを抜いて世界第一位の石油輸入国となった(“China surpasses US as biggest oil importer”; New York Post; October 10, 2013)。そのためにサウジアラビア、イラン、カザフスタンなど中東および中央アジアのイスラム諸国への経済的依存度が強まっている(“Fueling a New Order? The New Geopolitical and Security Consequences of Energy”; Brookings Institution; April 15, 2014)。中国はイスラム教徒の決起による脅威とアメリカが主導する自由が突きつける挑戦に対し、どのようにバランスをとって対処するのだろうか?中国は鉱山事業や開発援助を通じてISAF撤退後のアフガニスタンでの影響力拡大を望んでいる(“China emerges as key strategic player in Afghanistan”; Khaama Press; April 14, 2014)。しかし中国のそうした諸事業もアメリカの安全保障の傘なしにはうまくゆかない。

アメリカが費用削減、現地の政治改革への近視眼的な幻滅、戦争への無関心からゼロ・オプションに走るようなことは間違ってもあってはならない。カルザイ氏の影響力は残るであろうが、アフガニスタン国民はBSAが自分達の将来にどれほど重要な意味合いを持つかよくわかっている。二国間の観点とともに近隣ステークホルダーの戦略的動向にも注意を払う必要がある。これらの国々はアフガニスタンおよび中央アジアでのアメリカのプレゼンスを必ずしも好ましくは思っていないが、地域安全保障という公共財を提供できるのはアメリカだけである。そうした複雑なゲームを象徴するように、インドは今年の2月にアフガニスタンのロシア製兵器購入の資金援助に合意した(“India to finance Russian arms supply to Afghan security forces”; Khaama Press; February 18, 2014)が、マンモハン・シン首相は昨年12月にはハミド・カルザイ大統領にBSAの調印を促している。オバマ大統領は今年4月の東アジア歴訪でアジア重視政策を再確認したが、中東からの軽率な撤退は決してそうした目的に適合しない。アメリカは超大国として、カルザイ政権後のアフガニスタンが安定した民主主義への道を歩み世界が安全になるための責務を果たさねばならない。孤立主義でマイリー・サイラスに浮かれている場合ではないのである。

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2014年3月13日

プーチン政権のプロパガンダ五輪とウクライナ危機

ソチのオリンピックとパラリンピックは政治的に問題のある行事である。これはプーチン氏のプーチン氏によるプーチン氏のためのオリンピックである。問題は同性愛者の人権にとどまらない。クレムリンが国家の誇りと威信を優先した陰で会場周辺の住民の福利厚生が犠牲にされている。欧米諸国の首脳はロシアでの人権抑圧に対する懸念の意志表明として開会式への参加を見合わせたのに対し、日本は安倍晋三首相が西側同盟から突出してロシアのウラジーミル・プーチン大統領と二国間会談に臨み、中国との地政学的競合、平和条約の締結、東シベリアの資源開発を話し合った。今回のオリンピックおよびパラリンピックの政治的意味合いについて、6月に開催予定のG8と昨年11月から続くウクライナ情勢の不安定化を考慮に入れて模索したい。そして日本がロシアに対して西側民主主義同盟から突出した行動をとってしまえば、鳩山政権の過ちを繰り返すことになるかも議論したい。どのような理由があろうとも、こうした事態に陥れば安倍政権が新たに制定した国家安全保障戦略で強調した民主主義の価値観を共有する同盟と矛盾してしまう。

ソチ・オリンピックには2つの目的がある。第一にはロシアの国力を国際舞台で誇示することであり、第二には黒海地域への治安部隊の集中によって隣接するカフカスとウクライナに政治的あるいは軍事的な圧力をかけることである。このオリンピックはクーベルタン男爵が掲げたスポーツを通じた友好の促進とはかけ離れたものである。2012年のロンドン大会のような自由なオリンピックと、北京やソチのような国家主導の権威主義的なオリンピックの際立った違いについて述べたい。2008年の北京大会と同様に、2014年のソチ大会は専制国家の力を誇示するためのもので、自国民の福利厚生にはほとんど考慮が払われていない。オリンピック会場の建設のために、両大会では多くの住民が自分達の住処を追われたことはよく知られている。以下に示したヒューマン・ライツ・ウォッチのビデオを参照されたい。



ソチのスケート会場とクラースナヤ・ポリャーナのスキー会場の間にあるアクシュティールという山村で撮られたビデオによると、両会場を結ぶ高速道路と鉄道によって沿線住民の生活圏が分断されてしまった。村人達は高速道路の反対側に行くためには遠回りを余儀なくされている。道路建設によって日常生活のための井戸も干上がり、様々な環境劣化も起きている。ヒューマン・ライツ・ウォッチのジェーン・ブキャナン、ヨーロッパ・中央アジア次長は、そうした損失に対して村人が受ける保証は不十分だと述べている。プーチン氏はナロードの福利厚生など眼中にはなく、世界の中でのロシアの力に執心している。

ソチや北京とは異なり、ロンドンでは住民の立ち退きや疎外といった問題はほとんど生じていない。何よりも大きな違いは、ソチと北京では国家権力が全面に出てきたのに対し、ロンドンではそうではなかった。これは共和党のミット・ロムニー大統領候補がロンドン大会について失言をした際に、真っ向から反論したのがエリザベス女王でもデービッド・キャメロン首相でもなく、ボリス・ジョンソン市長であったという事実に端的に表れている。市民主導のロンドン・オリンピックとは異なり、ソチも北京も馬鹿げたほどに大国症候群にかかっていた。英中露3ヶ国の国力をハード・パワーとソフト・パワーの様々な側面を比較してみると、大国の地位を盛んに喧伝するロシアと中国がそうしたことをしないイギリスより必ずしも優位ではないことがわかる。両国とも人口と面積はイギリスよりはるかに巨大である。さらにロシアはアメリカに対抗できる核戦力を備えている。しかしロシアも中国も近年の急速な軍事力増強にもかかわらず、イギリスのような地球規模の戦力投射能力はない。中国の総体としての経済規模はアメリカと競合するほど巨大かも知れないが、国民一人当たりの所得ともなるとG8諸国にはまるで及ばない。さらに言えば、一体誰が英米系のブランドを差し置いてロシアや中国のブランドを買うのだろうか?ソフト・パワーではイギリスの方が中露両国より圧倒的に優位である。中国政府が運営する英字紙グローバル・タイムズは、キャメロン首相の訪中に際してイギリスを矮小化する記事を掲載した(“‘Britain is merely a country of old Europe with a few decent football teams': Chinese newspaper criticises UK during David Cameron visit” Independent; 3 December, 2013)が、中国が第二次世界大戦をめぐる歴史認識や尖閣諸島の領有権での反日キャンペーンで頼りにしているのは英米系のメディアである。そうした観点からすれば、オリンピックおよびパラリンピックでこれ見よがしに大国の地位を誇示する両専制国家の態度は馬鹿げている。

巨額の予算をかけたソチ・オリンピックは同性愛者の権利よりも深刻な問題をはらんでいることも述べたい。安倍氏がロシアに対して西側同盟から突出した行動に出たことは、ウクライナ危機が現在ほど深刻化する以前からすでに問題であった。ソチがどれほど奇妙なオリンピックであったかは、訪問者に対するホスピタリティーからもよくわかる。海外から訪れた訪問客はソチでの自分達の宿泊施設の水道やトイレの整備について、ツイッターで不満を漏らしていた(“#BBCtrending: Does Russia think it has #SochiProblems?”; BBC News; 8 February, 2014)。ソチの施設の建設労働者達が利用客にはほとんど考慮を払わず、建設を急ぐプーチン氏を満足させることばかり考えていたことは明らかである。これはソ連時代の中央統制的な思考様式の典型であり、とても「おもてなし」など眼中にはないものである。ロンドンではこうした事態は観られなかった。このようにあらゆる観点から見て、ソチはオリンピックおよびパラリンピックを主催するにはあまりにも抑圧的な開催地なのである。

ウクライナ危機はプーチン氏のオリンピックに見られるような大国志向と緊密に関わっている。欧米との地政学的な競合を抱えるロシアにとって、旧ソ連内共和国での影響力を維持することが重要な国益となっている。他方で日本の対露突出外交はきわめて目を引くものである。ウクライナは11月より不安定化し始めていたので、プーチン氏の介入は予測できないことでもなかった。明らかに、ソチには多くの政治的な問題があった。欧米諸国の首脳が参加を見送る中、安倍氏が開会式に参列してプーチン氏に対するチアリーディングを行なったことは遺憾である。もちろん、日本がロシアへの接近を模索する理由もわからぬではない。福島原発事故によって、エネルギー供給源の多様化に迫られる日本にとって、北極海や東シベリアでの石油および天然ガス開発でロシアとの提携も視野に入れるべきものとなっている(“Japan and Russia: Arctic Friends”; Diplomat; February 1, 2014)。 地政学的観点からも、日本はロシアの力で高まる一方の中国の拡張主義を抑えようとしている。また、安倍氏は第二次世界大戦終了より長年の悲願となっている北方領土問題の解決のためにも、ロシアを宥める必要があると考えている。岸田文雄外相は3月4日の記者会見でウクライナ情勢のステークホルダーに自制を呼びかけてロシアを刺激しないように努めた(“Between a Rock and a Hard Place: Japan's Ukraine Dilemma”: Diplomat; March 8, 2014)。反安倍色の強い朝日新聞さえもロシアと欧米のバランスをとるという安倍政権の方針に同意している(「社説:日ロ領土問題 地域の安定が前提だ」;朝日新聞;2014年2月10日)。

しかし安倍氏がソチで行なったチアリーディングの見返りに日本の安全保障上の要求に応ずるほど、プーチン氏は寛大なのだろうか?確かにロシアは開発の遅れた極東地域への経済的なてこ入れのためにも、日本の資金と石油および天然ガスの輸出市場を必要としている。しかしプーチン氏の最重要戦略目的はパックス・アメリカーナを否定し、ロシアがアメリカと並ぶ核大国、そして世界の中での大国の地位にあると主張することである。中国へのカウンターバランスどころか、ロシアは中国とともに上海協力機構を設立して西側同盟に対抗している。実際に、中国外務省の秦剛報道官は3月2日の記者会見で、欧米もロシアと同様に混乱の責任を負うと間接的に述べた(“China Backs Russia on Ukraine”; Diplomat; March 4, 2013)。2012年に中国が首位に躍り出るまでロシアは日本の領空に最も頻繁に侵犯してきたことを忘れてはならない(「中国に対するスクランブル発進が前年の倍に」; J-CASTニュース;2013年4月18日)。さらに2010年の大統領在任中に国後島を訪れたドミトリー・メドベージェフ氏よりもプーチン氏が寛容だとはとても思えない。ロシアが北方領土の住民生活施設に投資したということは、クレムリンが領土紛争中の島々にこれからも長く関わってゆくという意思表示である。

独裁者へのチアリーディングではなく、安倍氏は自らが制定したNSS(国家安全保障戦略)で日本は自由な国際秩序、その価値観、民主主義諸国の同盟を守ると謳った原則に忠実に従うべきである。この点からも日本がロシアと欧米のバランスをとれという主張は馬鹿げている。イランでは欧米とのバランスをうまくとってIJPCおよびアザデガン油田での日本の商業権益を維持しようとしたが、そうした政策は失敗に終わっている。また、鳩山由紀夫元首相の東アジア共同体によって米中のバランスをとろうという夢も惨めに頓挫している。ウクライナ危機以前においてさえ、プーチン氏に対する安倍氏のチアリーディングは一種の「鳩山化」のように思えてならなかった。安倍氏はソチでプーチン氏と何らかの合意に達したのかも知れないが(「日露首脳会談 プーチン大統領今秋来日 北方領土「協議重ねる」」;産経新聞;2014年2月8日)、それは祝賀ムードの中で決められたものである。ウクライナ危機で白日の下にさらされたプーチン政権の専制的でパワー志向の性質からすれば、彼の訪日によって日米同盟が冷却化するだけで領土問題でも極東地域の安全保障環境でも進展は望めないと思われる(「【ウクライナ情勢で安倍政権】 プーチン氏批判に及び腰  領土念頭、米と温度差」; 47NEWS; 2014年3月7日)。

NSSの原則に基づけば、日本は人道的な観点から親露派民兵の脅威にさらされているクリミア・タタール人に救いの手を差し伸べる立場にある。プーチン政権による侵攻はヨシフ・スターリンが彼らに強制立ち退きを迫ったという悲劇的な歴史を思い起こさせている (“Russian occupation opens old wounds for Ukraine's Crimean Tatars”; Sydney Morning Herald; March 11, 2014)。安倍氏の靖国神社参拝によって日米間には不必要な緊張が生じてしまったので、これ以上の緊張は避けねばならない。最後に、IOCに代表される国際的なスポーツ機関は開催都市の選定に当たって政治情勢を考慮すべきである。ソチも北京もオリンピックとパラリンピックを開催するには問題が多すぎた。現実世界においてスポーツと政治は切り離せない。独裁体制へのチアリーディングなどあってはならない。ソチとウクライナの問題は深く相互関連しているのである。

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2013年10月31日

ウイグルの地にアル・カイダの拠点はない

中国当局は天安門爆破事件で5人のウイグル人を逮捕した。しかし彼らが真犯人なのだろうか?歴史的に、新疆すなわち東トルキスタンは中国からアフガニスタンおよびパキスタンに向かう通路である。しかしアル・カイダの拠点を示す以下の地図を参照されたい。


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2008年のイラクでの兵員増派の成功によって、アル・カイダは撃破されたと思われた。しかしオバマ政権によるイラクからの米軍撤退と、それに続くアラブの春によってアル・カイダは息を吹き返し、サヘル地域からケニアやソマリアといったアフリカ、そしてアラブ諸国一帯に広まった。彼らにはアフガニスタンとパキスタンにも強固な根拠地がある。ボストン爆破事件はチェチェンのアル・カイダ関連組織に触発された。しかしアル・カイダは中央アジアと中国領新疆には浸透していない(“The al Qaeda Franchise Threat”; Wall Street Journal; April 30, 2013)。

中国当局はウイグルの「テロリスト」はシリアで訓練を受けたとしている。容疑者とシリア反乱軍との間に関係があるのだろうか?そうした情報は提供されていない。ウイグル人権プロジェクトのアリム・セイトフ世話人は、ウイグル市民がこれほど厳重に警備された場所を攻撃するとは考えにくいと言う(“Rights Groups Doubt Uyghur Involvement in Tiananmen Attack”; Diplomat Magazine; October 30, 2013)。さらに世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長は、中国はウイグルの「テロ」を捏造して東トルキスタンの独立運動を抑圧するためなら何でもやりかねないと主張する。他方で中国在住のウイグル人経済学者のイルハム・トフティ氏は北京政府に表現の手段を取り上げられたウイグル人には暴力に訴える以外の手段がないという(“China suspects Tiananmen crash a suicide attack, sources say”; Reuters News; October 30, 2013)。

中国はテロを捏造しているのか、それともアル・カイダが新疆に入り込み始めているのか?現段階では共産党がテロ攻撃を捏造した疑いが強い。

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2013年10月22日

トルコの中国製ミサイル導入は由々しき事態である

トルコが中国からミサイル防衛システムの導入を決定したというニュースはNATO同盟諸国に重大な懸念を呼び起こした。中国が数多くの競争相手を退けたのはなぜだろうか?何はともあれトルコがNATOに留まりEUとの関係も維持したいのなら、この取り決めがもたらす政治的意味合いは深刻である。問題は中国によるNATO防空システムへの浸透にとどまらない。トルコが商談を進めている相手はCPMIEC(中国精密機械進出口総公司)という国営企業で、今年の2月にはイラン、北朝鮮、シリアに対する核不拡散の規定に違反したとしてアメリカ政府より制裁を受けている。CPMIECは2003年にもイランへの兵器輸出でアメリカの制裁を受けている(“US-sanctioned Chinese firm wins Turkey missile defense system tender”; September 26, 2013; Hurriyet Daily News)。言い換えればトルコはそのような無法企業に利潤を挙げさせて国際的な核不拡散体制の行動規範に従わないことになる。

なぜ レセップ・タイイプ・エルドアン首相はそのような悪名高い企業と問題のある商取引を進めるのか?エルドアン政権は欧米からの自主独立外交政策を追求している。しかしこれだけがアメリカとヨーロッパの企業を差し置いて中国のミサイル・システムを選択した理由ではない。中国はトルコが求める技術移転に欧米よりも積極的である(“Why Turkey’s Buying Chinese Missile Systems”; Diplomat Magazine; September 30, 2013)。中国の著作権保護が放漫で、欧米、ロシア、イスラエルから盗用した技術を活用していることにも注意を喚起したい。よって技術移転の規範が緩やかということは、テロリストが最先端技術を入手しかねないという懸念がある。ヒズボラのように主権国家以上に武装されたテロ組織があることは銘記されるべきで、エルドアン政権はそうした危険な企業に利潤を挙げさせているのである。

技術移転の他にもトルコはSCO(上海協力機構)との関係深化を通じて新シルクロード地域での経済的な機会を模索している。それを象徴するのが2010年にトルコのレセップ・タイイプ・エルドアン首相と中国の温家宝首相(当時)との間で交わされた二国間貿易促進の合意である。習近平国家主席は就任前の2012年にこの合意を再確認した。非常に警戒すべきことに、アン・ベス・カイム氏とタフツ大学フレッチャー外交法律学院のスルマーン・カーン助教授は、トルコと中国がアメリカの優位への懸念を共有していることは、トルコ国民のかなり多くがアメリカを抑圧的な超大国だと見なしていることからもわかると指摘する。

しかしユーラシアでのトルコの立場は複雑である。NATO加盟国というトルコの立場はSCOへの正加盟とは相容れない。またウイグル問題もトルコが中国と真のパートナーとなるうえで障害となる(“Can China and Turkey forge a new Silk Road?”; New Turkey; February 6, 2013)。ある日本在住のウイグル活動家はミサイル取引が中国の圧政体制を利するとして関して失望の意を漏らした。欧米諸国と同様にトルコも世界有ウイグル会議の指導者数名を受け入れている。欧米からの自主独立だけのために親中外交政策をとれば、テュルク系の民族的なつながりと緊密な関係があるトルコのアフロ・ユーラシア政策は頓挫してしまう。

トルコと中国のミサイル取引は中国の大々的な武器輸出攻勢を象徴している。2012年には中国はイギリスを抜いて世界第5位の武器輸出国になった("For China, Turkey missile deal a victory even if it doesn't happen"; Reuters News: October 2, 2013)。偶然にも韓国が中国と同様な取引を行なっているのも、パク・クネ大統領が従来以上にアジア志向の外交政策をとっているためだが、それが日米両国のとって不満の種となっている。事態は中国の武器輸出の「大躍進」にとどまらない。中国は大西洋と太平洋でアメリカの同盟関係に楔を打ち込み、両地域の同盟諸国の中でもウィーケスト・リンクを標的にしている。

戦後の日本における鳩山由紀夫氏と同様に、エルドアン氏はトルコ近代史では例外的な首相である。両氏とも自らの国のナショナル・ファンダメンタルとも言える「脱亜入欧」すなわち西欧諸国の仲間入りによって国力を増強して第一級の文明国になるという思想に異を唱えている。しかし鳩山氏の東アジア共同体という夢は惨めな失敗に終わり、エルドアン氏の中東善隣外交も同様な運命を辿った。トルコは過ちを繰り返すのか?それはNATO同盟諸国と彼らのウイグル人同胞を苛立たせるだけである。エルドアン氏は中国を強大で頼れるパートナーと思っているのかも知れないが、その国にトルコ近隣への戦力投射能力はない。シリア危機でトルコを支援できるのはアメリカおよびヨーロッパ同盟諸国だけである。エルドアン氏は第二次世界大戦でヒトラーのドイツと同盟したという日本の過ちから教訓を得るべきである。ナチス・ドイツには太平洋地域への戦力投射能力などなかったので、日本は事実上孤立無援で戦争を戦った。

トルコにとって第一のパートナーは欧米であり、いかなる勢力もこれにとって代わるものではない。AKPは自らの政治理念をヨーロッパのキリスト教民主党と同列に位置付けてイスラム主義に恐怖感を抱くEU世論を宥めようとしている。またトルコは人権と少数民族の権利、特にクルド人問題ではコペンハーゲン基準に従う他はない。最後に、日本はNATO同盟諸国とともに、韓国の政策とも表裏一体とも言えるトルコと中国のミサイル取引の中止に向けて行動すべきだと訴えたい。安倍政権は積極平和主義と地球儀を俯瞰する外交を訴えているので、日本は欧米とアジアの同盟諸国と共に行動し、中国がウィーケスト・リンクを狙いすますといった事態を許してはならない。

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2013年6月25日

トルコ人はトルコをどう見ているのか

現在、トルコはエルドアン政権によるイスラム主義の内外政策に対する厳しい反発の真っただ中にある。トルコはシリアのアサド政権に対するNATOの最前線でもある。さらに重要なことに、トルコは環大西洋圏、中東、ユーラシアを結ぶ要の位置にある。よってアメリカ、ヨーロッパ、日本の政策経営者にとっては世界と国内でのトルコの立場を理解することが肝要である。

そこでトルコの外交政策と現在の混乱を理解するために『ザ・ニュー・ターキー』誌の論文をいくつか取り上げてみたい。『ザ・ニュー・ターキー』誌はアンカラを本拠にトルコの視点を英語で全世界に発信している。我々はトルコを見る際に外国、特に欧米の視点から見がちである。しかしイスラムと西欧の間にあるというトルコのユニークな立場をトルコ人の視点から理解する必要がある。『ザ・ニュー・ターキー』誌はトルコの外交政策、中東問題全般、そして中央アジアおよび世界全体の安全保障についてトルコの視点を発信している。また海外からもコロンビア大学のジェフリー・サックス教授のような論客が投稿している(“Why Turkey is thriving?”; New Turkey; May 30, 2013)。

まず、今世紀の世界の中でトルコがどのような立場にあるかを述べたい。イスタンブールにあるマルマラ大学タリプ・キュシュッカン教授とトルコのシンクタンクである政治経済社会研究財団(SETA)のミュジェ・キュシュッケレス助手は、ケマル革命からエルドアン政権下でのイスラム主義外交に至るトルコの対外政策の基本的な動向を概括している (“Understanding Turkish Foreign Policy”; New Turkey; May 17, 2013)。イスタンブール暴動以前に書かれたこの論文では、トルコはもっと自らを主張する外交政策をとるように主張している。タイップ・エルドアン首相がイスラム主義外交に走るにはこれが理由の一つなのだろうか?

そのためにはケマル・アタチュルク以降のトルコの外交史を理解する必要がある。1923年の革命を経た戦間期と第二次世界大戦時には、トルコは中立の立場を守った。戦後になるとトルコはトルーマン・ドクトリンによって西側陣営に入った。これは冷戦の地政学のみならず、トルコがケマル主義による西欧化で国家建設を行なってきたという背景もある。1955年にバンドンで開催された第1回アジア・アフリカ会議ではトルコは欧米を弁護した。さらにスエズ戦争では英仏による侵攻を支持したばかりか、それ以外にも欧米諸国が中東で行なった介入政策を支持した。その結果、中東地域の近隣諸国はトルコを欧米のトロイの木馬だと見なすようになった。しかし1960年にはアメリカがキプロス民族紛争へのトルコの介入を批判し、またデタントによってソ連との関係も緩和したために西側同盟との関係は弱まった。それが1980年にはイラン革命によるイスラム主義の脅威に加えてソ連のアフガニスタン侵攻やイラン・イラク戦争による情勢の不安定化によって、トルコ外交の振子の針は西側に揺れ戻すのである。

冷戦が終結すると当時のトゥルグト・オザル大統領はトルコ外交の刷新を打ち出し、従来以上に自国の主張を出して多次元的な外交を模索するようになった。湾岸戦争によって中東でのトルコの戦略的重要性は高まった。またソ連崩壊によってトルコ、カフカス諸国、中央アジア諸国の間にある歴史的なつながりに対する意識も高まった。オザル氏は「アドリア海から中国万里の長城まで」というビジョンを打ち上げたが、ポスト・モダンで非軍事指向のヨーロッパは権威主義的なトルコの台頭に警戒心を抱いた。そうした中でイスラム主義者とクルド人は主流派のケマル主義者の欧米志向には反対であった。冷戦後の自国肯定主義と2002年の選挙でのAKP(公正発展党)の勝利によって、トルコはヨーロッパの中での自国のアイデンティティを再考し、自らをアフロ・ユーラシア地域の要だと位置づけた。他方でAKPはヨーロッパ連合との共存のためにリベラルで市場志向の政党に変貌していった。キュシュッカン氏とキュシュッケレス氏は、ヨーロッパ人はAKPのイスラム主義的な側面に対して神経質になり過ぎていると主張する。少なくともそれがトルコ社会の視点である。

アフロ・ユーラシア外交の概念はアフメト・ダウトール外相がエルドアン首相の首席外交顧問であった時に作られた。この概念が典型的に表れているのは、トルコがNATOの加盟国にとどまりながら上海条約機構(SCO)のパートナーになるために署名したことである。中東工科大学で博士課程に在籍するガリプ・ダレイ氏はこの重要かつ無視できない問題を論じている(“Turkey between Shanghai and Brussels”; New Turkey; May 14, 2013)。トルコがSCOに接近しているのはEUが長年にわたるトルコの加盟申請に消極的なことに対する埋め合わせだと一般には信じられている。トルコのAKP政権はSCOへの加盟はEU加盟国の人権と法の支配について定めたコペンハーゲン基準とは矛盾しないと強調する。他方でダレイ氏はトルコがEUの準加盟国であることが民主化に一役かっていると認めている。

注目すべき点は、トルコの外交政策においてEU加盟が他の地域協力よりも魅力があるかどうかである。長年にわたってEU加盟申請が受け入れられないこともあり、トルコはそれに代わるべきシステムによって世界の中での自国の存在感を高めようとしている。しかしアメリカはトルコによるSCOへの接近はNATO加盟とは相容れないと見ている。ダレイ氏はこの件に関してトルコとイギリスを比較している。イギリスがEUを脱退したとしてもNATO加盟国の地位に異議を挟む者はいない。エルドアン氏によるSCO加盟申請によってトルコとEUの関係は悪化し、NATO加盟国としての地位も危うくなる。ダレイ氏はむしろトルコが将来のEU正式加盟の可能性も排除せずに現実的な手順を踏むべきだと提言している。

アフロ・ユーラシア地域での存在感と多次元外交を強化しようとトルコの目標とともに、AKPによるイスラム主義的な内政政策も絡んできている。これらの要因が自国の主張を強める外交とイスタンブールへのオリンピック誘致につながっている。しかしエルドアン氏のAKP政権は現在、国内の混乱に直面している。何が騒乱を引き起こし、それが外交政策にどのような影響を与えるのだろうか?街頭での政府への厳しい批判にもかかわらず、トルコのアナリスト達はAKPは欧米のメディアや論客達が思っているよりも国民から強固な支持を得ているDと言う。そこでトルコの視点をいくつか取り上げたい。

市民の抵抗はあるもののAKPは2011年に行なわれた先の総選挙では約50%を得票している。SETAのタハ・オザン所長はAKPは軍事政権下の1982年に制定された憲法の改正やクルド労働党(PKK)との和平交渉の推進といった野党が積極的に取り組まない諸課題に取り組んでいると評している。そして「恐怖、閉塞感、抑圧感」だけでは市民の抵抗を説明できず、トルコの政治社会的な変動にもっと注目する必要があると指摘する(“The meaning of the protests”; New Turkey; June 7, 2013)。 非常に興味深いことに、ハムザ・タスデレン氏はAKPが野党の支持基盤の気持ちをつかんでいると主張する。民族主義者行動党(MHP)は憲法改正を拒否しているが、グラスルーツで彼らの支持基盤となっている中央アナトリアの保守派ナショナリストは改憲支持である。また、AKPは社会民主主義的なアプローチによって社会経済的な不平等に取り組む姿勢を見せ、共和人民党(CHP)の支持基盤にも浸透しいている(“Being the opposition while in power”; New Turkey; May 28, 2013)。富裕層はAKPに投票しないかも知れないが「経済のためには選挙でエルドアンに勝たせておけ。しかし他の件についてエルドアンに政治的な決断をさせるな」と言うほどだ。タハ・オザン氏はそうした政治情勢で政教分離の野党が有権者を惹きつけられなくなっていると評している(“What really happened in Turkey?”; New Turkey; June 7, 2013)。

当然のことながら、上記の識者たちがAKPに対して好意的であり過ぎることには留意すべきである。彼らの分析には我々が傾聴すべき点もあるだろうが、エルドアン政権が大衆の不満に直面していることを忘れてはならない。それは否定しようがない。エルドアン首相はオリンピック開催ができるほどトルコを安定に導いていない。他方で先進民主主義諸国イスラム教自体に対する恐怖感にとらわれるべきではない。ヨーロッパはトルコのイスラム的な政治社会文化を極度に警戒してしまい、それがトルコを西欧民主国家の代わりに中露主導のSCOに立場を求めるように追いやってしまった。トルコの専門家達は一般国民が欧米諸国、政教分離主義政党、そして現行憲法の番人を自負する軍部指導者層に失望していると明言する。アメリカはヨーロッパとトルコの立場の違いを橋渡しできなかった。.

他方で日本はトルコの「親日」ぶりを無邪気に喜ぶだけである。だが日本がこの国のために何かしただろうか?殆どの日本人はトルコに関心もなく何も知らない。猪瀬直樹東京都知事がオリンピック誘致競争でイスタンブールに対する東京の優位を強調するために不適切な発言をしたが、この一件を批判できるような日本のオピニオン・リーダーは殆どいない。トルコ国民は日本に好印象を抱いているかも知れないが、自国に真の危機が迫った時には日本ではなくアメリカとヨーロッパに支援を求めることは、シリア危機を見れば明白である。日本の政策形成者達はこのことを銘記し、トルコ政策を再考すべきである。

近隣アラブ諸国での自由を求める動きを考慮すれば、政教分離の民主主義を推進すること自体は間違っていない。国際社会は現在進行中のトルコの政治変動の性質を理解する必要がある。現在、ブラジルでもリオ・デ・ジャネイロで開催されるワールド・カップ・サッカーをめぐって似たような形で市民のエネルギーが爆発している。新興諸国には何か共通の問題があるのか?トルコの識者達とは異なり、アメリカ人、ヨーロッパ人、そして日本人としてはAKPを礼賛する立場にはないが、トルコ人の視点というものを注意深く検証する必要がある。野党には国民の支持を得られるだけの魅力がないという事実は見落とせない。『ザ・ニュー・ターキー』誌はトルコの政治変動を見据えるうえで何らかの鍵を与えてくれるだろう。

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